画像電子学会 第2回安全な暮らしのための情報技術研究会
SSC2-1, 2008-11-04
小町 祐史Yushi KOMACHI大阪工業大学Osaka Institute of Technology |
本年5月の連休に,マスコミは公務員,学生などによる盗撮事件を立て続けに報道した。この例を挙げるまでもなく,盗撮事件は増加し[1],その手口は巧妙になっている[2]。 その背景として,撮影機材(デジタルカメラ,ビデオレコーダなど)の技術的な発達がある。つまり誰もがいつでもどこでも簡便に高画質の撮影を行える環境が提供されるようになった結果,盗撮に対する技術的歯止めがなくなった。
盗撮事件件数の増加が社会的に問題となり,法的には条令等によって厳しく規制されることになったが,それでも盗撮事件の報道は後を絶たない。それだけでなく,二次的な事件
・盗撮犯に対する強請り,脅し事件
・カメラをもっていただけで,盗撮と間違われる事件
なども報告されている。
その結果,小型カメラは携帯しない,購入しない,カメラ機能付き携帯電話(ケータイ)は購入しない,などの傾向が利用者に現れて,カメラ市場やケータイ市場への影響も出はじめている[6]。こうなると,盗撮は単なる変質的傾向のある人の問題として片付けることはできず,業界として,または技術者として何らかの対応策が必要である。
Wikipedia[7]では,盗撮の定義が曖昧なまま犯罪としての盗撮への取り締まりが強化されることへの危惧が示され,米国の盗撮防止法に対しても反論[8]が提起されている。盗撮については,さらに社会的,法的[3][4],行政的,技術的な議論が必要であり,しかもそれらの分野を跨った検討によって有効な対応策を講じることが必要であろう。そのような議論の場として,この画像電子学会・安全な暮らしのための情報技術研究会が利用されることを期待したい。
そこで第2回の安全な暮らしのための情報技術研究会では,"高機能化するデジタルカメラに対する制約要件 — 増加する盗撮への対応"というテーマを設け,技術だけでなく,関連する諸分野の講演をいただくことになった。技術的な対応は高機能化して便利になったカメラやケータイに対する機能的制約を課するものになりがちであるが,今回の講演にも含まれる二次元コードをカメラで読み取るようなサービスが既に提供されていることを考慮すると,盗撮への対応が機能的制約を課することへの制約もあることを忘れてはならない。
"安全カメラ","安全ケータイ"に望まれる機能を次に整理する。
盗撮行為に対する歯止めとして,撮影が行われた(ている)ことを周囲に知らせる告知情報付与があり,その具体例がシャッター音,フラッシュ等の点滅である。動画像撮影に関しては,撮影期間の前後にそれらの告知情報を出すなどの機能が考えられる。
告知情報については,それが撮影が行われたことを知らせるものであることを多くの人が認知する必要があり,その大きさと情報内容についての検討が必要であろう。
被写体に対して事前に対応を用意させ得るという点で(1)よりも積極的な対応であるが,継続的な告知情報提供となるため,電力消費,シャッターチャンスを逃がす可能性の高さなどの問題がある。
盗撮行為に対する歯止めに過ぎないが,撮影した情報またはそのメタデータを一定期間撮影機器の中に保持・記録させて,撮影行動のトレースを可能にする。
ある程度の明るさのある環境で人が通常の撮影姿勢でカメラを保持している場合に撮影を可能にするなどの撮影動作環境の制約を与える。
上記の機能要件は,大阪工大情報科学部の2008年度基礎ゼミナールの課題として学生に課したブレーンストーミング議論のまとめを参考にしている。その議論では課題を
メガネ(素通しでもよい)にCCDセンサなどを装備して,見たものはすべて記録の対象としてしまう。つまり画像記憶機能付きメガネによって,誰もが眼に映ったものを克明に記憶し,いつでも再生できる能力をもつことになる。
これはヒトの能力のエンハンスと等価であり,このようなヒトの増加(記録機能付きメガネの普及)は,ある照度以上での現象は常に記録されていることを多くの人に認知させることになって,結果として盗撮という現象をなくすことになろう。犯罪の目撃の不確実さの低下にも繋がる。
このような装置の実現には,大容量記憶の低価格化,より一層の情報圧縮技術の開発,画像情報の高速検索などが前提となるが,現状の技術でもフィージビリティは高いと思われる。