画像電子学会
The Institute of Image Electronics Engineers of Japan
  年次大会予稿
Proceedings of the Meida Computing Conference

IEC/TC 100における新規課題の標準化組織作り
Discussion group establishment for new standardization topics in IEC/TC 100

小町 祐史
Yushi KOMACHI

大阪工業大学    Osaka Institute of Technology

E-mail: komachi@y-adagio.com

1. はじめに

IEC/TC 100(Audio, video and multimedia systems and equipment)は,マルチメディア関連技術の標準化を担当する技術委員会として1995年に設立され,次のスコープのもとに分科会TA1〜TA14 が国際規格の開発を行っている[1].

IEC/TC 100 Scope:
To prepare international publications in the field of audio, video and multimedia systems and equipment.
These publications mainly include specification of the performance, methods of measurement for consumer and professional equipment and their application in systems and its interoperability with other systems or equipment.

新規分野の技術を多く扱うことを考慮して,設立当初からTC 100は他のTCとは幾分異なる次のような運営を行ってきた.

AGSのスコープは,設立当初から次の主要3項目を含む.

AGSは,北米,アジア,ヨーロッパ,オセアニアの4地域からの代表(地域ごとに数名)で構成される.4地域の代表は,それぞれの地域のマルチメディア技術を扱う業界団体から選ばれるが,各メンバが次々と現れる新規分野をすべてカバーすることは容易でない.

TC 100は,さまざまな試みによって新規分野の標準化への対応を行ってきた.それはあくまでも国際標準化組織としての新規分野の標準化への対応であるが,そ の幾つかは,国内若しくは業界の標準化組織,または企業での標準化活動の新規分野への対応にも適用可能と思われる.

そこで本稿では,2012年度企画セションのテーマ"新分野標準化の組織作りと人材育成"に関連するトピックとして,TC 100またはAGSにおけるこれまでの新規分野の標準化への対応を紹介する.

2. Model and framework for standardization in multimedia equipment and systems

TC 100の設立と共に,TC 100の標準化対象を明確化する必要性が指摘され,日本から"model and framework for standardization in multimedia equipment and systems"のNPが提案されて,プロジェクトがTC 100直下に作られた.この成果はIEC TR 61998:1999[3]として発行され,その後の新規課題がTC 100のスコープに入るか否かの判断のレファレンスとして利用された.

IEC TR 61998が規定する主要な項目を次に示す.

3. Response to the PACT Report

IEC/TC 100の設立に先立ち,IECシドニー総会において未来技術会長諮問委員会(PACT: president's advisory committee on future technology)が設立され,IECで扱うマルチメディアの分野が議論された.そこでの議論は,その後PACT peport[4]としてまとめられ,2000年10月にIEC中央事務局経由でAGSに届けられた.

TC 100としてPACT reportにどう応えるかの議論がAGS主要メンバによって行われ,その結果がresponse to the PACT report[5]として公表された.その主要項目を次に示す.

(1) 利用者マニュアル(文書構造, 用語, ナビゲーション, ウィザード)に関する共通指針
多くの文化圏で使えるヒューマンインタフェースを標準化することは複雑であるので, この指針は, サイバー世界のマルチメディアに対するヒューマンインタフェースの地域規格, 国内規格または国際規格を作るためのTS(technical specification)であることが望ましい.既に多くの記述的な解決, 規定およびアプローチがあり, このTSは, それらを指示したり参照するものになる.
(2) 局所的所在検出の規格
局所的所在を検出(受動的または能動的)するための個人データ集合を含むハンドヘルド個人デバイスを対象とする規格を開発することが望ましい.
(3) プライバシ保護とデータセキュリティに関するTS
バイオメトリクデータおよび個人履歴データと組合わせたセキュアトークンを用いた認可によってセキュリティ, プライバシ, 個人データ保護を扱う.TR(technical report)またはTSは, 国内法規による固有の要件に配慮する必要がある.
(4) オントロジの語彙およびセマンティクスに関する規格
オントロジの語彙およびセマンティクスに関する規格は, 利用者マニュアルなどを作るためのオントロジライブラリを作成するのに利用できる.
既存の国際的な語彙およびセマンティクスの規格が利用可能であれば, それを基礎とする.用語が技術固有であれば, 国ごとの違いと技術応用とに配慮が必要である.
(5) 資源の識別と分類に関するTR
TC 100が扱う機器に関連する資源の識別と分類についての概要を作成する.それは, 多くの値をもつデータ要素のデータ集合を含む.特徴的な資源の部品, 資源の応用およびサービス特性, 並びに利用種別を扱う.
(6) 多くのホームネットワークに対する共通ヒューマンインタフェースの規格
Hyperlan, WiFi, ZigBee, Bluetooth, PLCなどの多くの異種ネットワークに依存しない共通ヒューマンインタフェースを標準化する.それに際しては, OSGi(open services gateway initiative)が規定するような, 局所的なネットワークとデバイスへの管理サービスの開放形ネットワーク配送を考慮する.
(7) 対話的受信資源への対応付け応用シナリオ
受信資源に対する応用シナリオの対応付けについては, 必要なヒューマンインタフェースを識別するために, 応用とその内容とを記述し分類する方法を標準化する必要がある.

その後のAGSでの新規課題の議論は,このresponse to the PACT reportの主要項目に対応するagenda itemが用意され,それに従って行われた.

4. FT-TG

PACT解散後のAGSおよびTC 100の進路を見定めるため,マルチメディア技術の標準化に対する利用者要求を検討するグループ(task group to discuss and report user requirements for future TC 100 standardization)をAGSの中に設立することを,2009年10月のAGS会議で決めた.その後,このグループはFT- TG(future technology task group)となり,2011年4月にreport of FT-TG[6]をまとめている.

report of FT-TGにおいては,TC 100の標準化課題が,直近の課題(near term),中期的課題(middle term),長期的課題(longer term)に次のように整理されている.

The FT-TG recommends to the IEC TC100 AGS to take care of the following standardization issues which including priorities (a. near term - as fast as possible, b. middle term, and c. longer term).

(a.) Near term

(b.) Middle term

(c.) Longer term

5. Study Session

2011年4月には,AGSは直近の課題をどのようにして国際規格として具体化するかを議論するため,study session(SS)を組織してそのリーダを指名し,AGSメンバでない者をも含む各国のエキスパートがstudy sesseionに参加することを可能にし,標準化への議論を深めることを勧告した[7].その時,表1のSS1〜SS4が組織され,SS5は2011年 10月に組織された[8].

表1 Study sessions
Study session Leader Issues
SS1 J. Fairhurst 3D technology
SS2 U. Haltrich AAL (ambient assisted living)
SS3 M. Hayes (to be contacted) Contactless power transmission
SS4 T. Inokuchi Smart grid, LVDC and the EE related issues
SS5 J. Yoshio Multimedia equipment for electric vehicle

SS3は,2011年10月にそのaction itemを明らかにすと共に,TRの開発を行うためのstage 0 projectの提案を行い,SS2も同様の提案を2012年5月に行って,AGSからその推進を勧告されている.

2012年5月のAGS会議におけるAgendaの関連部分を次に示す.

    5.1 Follow-up of issues of 30th (or former) meeting
(1) Reports of the Study Session 1 (3D technology)
  • Report of Session 1  ---  (J. Fairhurst)   100/AGS493

(2) Reports of the Study Session 2 (Ambient assisted living)
  • US Accessibility Update  ---  (S. McGeehan, B. Belt)    100/AGS494
  • Report of SMB SG5(AAL)  ---  (U. Haltrich)    100/AGS488
  • Report of Study Session 5(AAL)  ---  (U. Haltrich)    100/AGS489

(3) Reports of the Study Session 4 (Smart grid, LVDC and the EE related issues)
  • Reports of SMB SG3(Smart grid) and SG4(LVDC)  ---  (T. Inokuchi)    100/AGS492
  • Report of Study Session 4 (SG/LVDC/EE)  ---  (T. Inokuchi)    100/AGS492

(4) Reports of the Study Session 5 (Multimedia equipment for electric vehicle)
  • Report of WSC discussion on EV (fully networked car)  ---  (J. Yoshio)    100/AGS478
  • Report of Study Session 5 (multimedia equipment for EV)  ---  (J. Yoshio)    100/AGS479
  • Establishment of task group for SMB SG6  ---  (T. Ezaki and J. Yoshio)    100/AGS4xx

(5) Smart TV
  • The reference model for smart TV  ---  (K. Fan)    100/AGS482

(6) Wireless power transmission

6. むすび

国際規格が国際マーケット獲得のための戦略として注目され,関連する製品・技術が開発される前に標準化を開始する先行的標準化が行われるようになると,新規課題のエキスパートを集めて標準化組織を構成することもまた戦略となる.

国際標準化組織としての新規課題のエキスパート集めと標準化組織構成の具体例として,TC 100,TC 100/AGSでの活動に着目して,そこで行われてきた標準化組織構成の概要を示した.

文献