画像電子学会 第4回視覚・聴覚支援システム研究会
VHIS4-5, 2014-01-10
小町 祐史† | 平山 亮‡ | |||
Yushi KOMACHI | Makoto J. HIRAYAMA |
†国士舘大学 | †Kokushikan University | |
‡大阪工業大学 | ‡Osaka Institute of Technology |
情報アクセシビリティフォーラムは,アクセシビリティの理念と現在の聴覚障害者を取り巻く情報アクセシビリティの動向とを市民に広め,情報アクセシビリティが確保された社会の広がりを促すことを目的として,一般財団法人全日本ろうあ連盟の主催によって,2013年11月22〜24日に秋葉原UDXにおいて開催された[1]。
このフォーラムでは,情報アクセシビリティに関わるさまざまなトピックが講演等で紹介され,最新の技術を活用したシステム,機器,サービスが展示されていて,国際福祉機器展[4]と並ぶ国内最大規模のアクセシビリティ関連イベントである。
情報アクセシビリティフォーラムが扱う内容は,画像電子学会の視覚・聴覚支援システム(VHIS)研究会の活動内容と密接関連すると考えられるため,小町および平山がそのフォーラムの幾つかの活動に参加した。ここにその概要を紹介し,今後のVHIS研究会との関連を検討する。
概要の紹介にあたり,フォーラムの参加者に配布された資料[2],[3]の一部及び映像エリア資料[8]の一部を引用させていただいた。
図1 情報アクセシビリティフォーラムの会場 |
情報アクセシビリティフォーラムは次の3エリアで構成され,会場となった秋葉原UDXの2フロア(6階のUDXカンファレンス,4階のUDXネクスト,UDXギャラリー,およびUDXシアター。図1を参照。)を使って,エリアごとに2日または3日にわたるイベントが実施された。
情報アクセシビリティ・ワークショップとして,政策,緊急通報,通訳,共用品,交通機関,放送等における情報アクセシビリティに関する様々な取組みが報告され,国際ワークショップでは,電話リレーサービスの普及と定着についての国際動向が紹介され,国内への展開が議論された。情報アクセシビリティ・カンファレンスにおいては,アクセシビリティを考えるさまざまな講演とパネルディスカッションが行われた。
体験・啓発ゾーンでは,情報アクセシビリティの必要性を体験できるような設備が用意され,関連展示・販売ゾーンにおいて,関連団体による書籍等の展示が行われていた。
放送映像ゾーンと情報通信ゾーンには,幾つものブースが設けられ,放送関連組織および情報通信関連組織による最新のシステム,機器,サービスの展示が行われた。
講義プログラムと映画プログラムとに分かれて,本フォーラムのテーマに沿った国内外の映像コンテンツの紹介,解説,上映が行われた。
会場: UDXネクスト1(4F)
このワークショップでは,次のアクセシビリティ対応が用意されていた。日本語(音声),手話通訳,文字通訳(PC筆記),磁気ループ,盲ろう者用スペース(触手話,接近手話,指点字,拡大文字対応)。
日時: 11/23, 10:00-17:00 [小町参加 11/23, 11:30-12:00]
図2を参照。
図2 "緊急通報アクセシビリティへの 取り組み"の講演 |
日時: 11/24, 10:00-15:00
会場: UDXカンファレンス(6F)
このワークショップでは,次のアクセシビリティ対応が用意されていた。日本語(音声),日英通訳(音声),日本手話通訳,日本語文字通訳(PC筆記),磁気ループ,盲ろう者用スペース(触手話,接近手話,指点字,拡大文字対応)。
日時: 11/23, 13:00-14:40 [小町参加 11/23, 13:00-14:00]
図3を参照。
図3 "TRS in the USA"の講演 | 図4 "An overview of video relay services in Europe"の講演 |
図4を参照。
日時: 11/23, 15:00-17:00
会場: UDXカンファレンス(6F),日時: 11/24, 10:00-15:40
このカンファレンスでは,次のアクセシビリティ対応が用意されていた。日本語(音声),手話通訳,文字通訳(PC筆記),日英通訳(音声,Saks氏およびパシュパティ氏の講演),磁気ループ,盲ろう者用スペース(触手話,接近手話,指点字,拡大文字対応)。
図5 会場 UDXネクスト1, 2, 3 |
会場: UDXネクスト2(4F),日時: 11/23, 11:00-18:00, および11/24, 10:00-15:00 [小町参加 11/23, 11:00-11:30][平山参加 11/23, 11:45-11:50]
図5に示すUDXネクスト2では,防災手話教室・字幕作成・筆談体験コーナーが設けられ,図6に示すとおり時間を分けて,防災手話教室,筆談体験,字幕作成体験を参加者に提供していた。筆談体験者に対する説明用のパネル・画面を図7に示す。
電話リレーサービス体験コーナーでは,図8に示すように手話によるインスタラクタが付いて,電話リレーサービスを体験ができるようになっていた。
盲ろう体験コーナーでは,図9に示すように視力を落とした環境での拡大読書器の利用などの体験により,情報アクセシビリティへの理解を深める試みが行われていた。
このコーナーの背後では,図10〜13に示す日常生活用具の展示も行われていた。
図6 時間割り | 図7 筆談体験 | 図8 電話リレーサービス体験 | 図9 盲ろう体験 |
図10 点字タイプライタ | 図11 点字ディスプレイ | 図12 拡大読書器 | 図13 触読式時計 |
図14 会場 UDXギャラリー |
会場: UDXネクスト2(4F),日時: 11/23, 11:00-18:00, および11/24, 10:00-15:00 [小町参加 11/23, 11:00-11:30][平山参加 11/23, 11:50-11:55]
図5に示すUDXネクスト2のブース1〜4では,表1に示す団体による展示があった。
ブース | 団体 |
---|---|
1 | 全日本ろうあ連盟(連盟の紹介,聴覚障害者災害救援中央本部) |
2 | 全日本ろうあ連盟(福祉機器の紹介,地域の取組み) |
3, 4 | 聴覚障害者制度改革推進中央本部 |
会場: UDXネクスト3(4F),日時: 11/23, 10:00-18:00, および11/24, 10:00-15:00 [小町参加 11/23, 10:00-11:00][平山参加 11/23, 11:55-12:00]
図5に示すUDXネクスト3のブース5〜12では,表2に示す団体による書籍等の展示があった。
ブース | 団体 |
---|---|
5〜9 | 全日本ろうあ連盟 |
10 | 日本手話通訳士協会 |
11, 12 | 全国手話通訳問題研究会 |
会場: UDXギャラリー(4F),日時: 11/23, 12:00-18:00, および11/24, 10:00-15:00 [小町参加 11/23, 12:00-13:00]
会場となったUDXギャラリーの各ブースとそこで展示を行った団体とを図14に示す。注目を集めていた4ブースの展示を図15〜18に示す。
図15 NHK放送技術研究所 | 図16 KDDI |
図17 ベターコミュニケーション研究会 | 図18 シュアール |
会場: UDXシアター(4F)
この映像エリアの内容については,次のような手話による案内が用意されている[1]。
映像エリアのテーマは次の通りである。
聞こえない人にとって,視覚的表現は,情報伝達ばかりではく,芸術的な表現や娯楽の形態としても重要なものであり,各回すべて有料なのにもかかわらず,どれもほぼ満席の状態で,活気があった。
[平山参加 11/23, 10:00-11:45]
映像エリアの講義プログラムは上記(1)〜(4)の4講義があり,(2)を聴講した。講師のBraam Jordaan氏は南アフリカで活躍するCGアニメーション作家で,プロダクションに所属しており,CM映像制作などを手がけるかたわら,手話アニメーション作品も多い。自身がろう者であり,南アフリカの手話で話す。南アフリカのこと,自身がCG作家になるまでの道のり,数々の作品の紹介と,メイキングシーンの説明などの講義であった。手話CGの作成についても紹介があった。彼の手話CG作品はノンリアリスティックなキャラクタアニメーションであるが,世界ろう者会議のマスコットキャラクタ(手話をするライオン)(図19)を制作するなどの実績があり,品質の高いものである。
UDXシアターでの映像エリアは視聴環境は,映画上映のためのスクリーンがあり,舞台上でスクリーン横,上手に演台を置き,そこでパソコンを操作しながら講演する形式であった。講演者の左横には日本の手話通訳者が立っている。講演中は,スクリーンのバックグラウンドには講演者の映像,パワーポイント及び映像ファイル画面は,ピクチャインピクチャで画面上部にフォアグラウンドに投影,さらに日本語要約筆記が画面下部に表示される画面構成となっていた。日本語音声同時通訳もスピーカーから流されている。つまり,会場全体への情報保障は,日本語音声,日本(の)手話,日本語要約筆記であった。講演自体は,南アフリカ手話で行われ,映像やパワーポイントは,英語などが使われていた。おそらく南アフリカ手話から日本手話,日本語音声,日本語要約筆記に通訳する際,英語,仏語,アメリカ手話などを介して再通訳することをしていたと考えられるので,時間的な遅れはあった。同時通訳ではなく逐次通訳といえるが,講演者も通訳の時間を考慮し,間を空けて講演していた。画像合成はパソコンのソフトで行っていて,はじめ,映像ファイルがうまく表示されず,再起動や設定変更を行っていたようだ。複数系統からの画像の合成が必要なので全てを円滑に行うには,いくらかの知識と慣れが必要である。
図19 第16回世界ろう連盟(WFD)世界大会の公式マスコット(ライオン) [8] |
情報アクセシビリティは情報技術の重要な応用分野であり,これまで画像電子学会が取り組んできた画像技術,通信技術を基礎として構築される。そこで画像電子学会は,2012年に視覚・聴覚支援システム(VHIS)研究会を設立して,この分野の研究を積極的に推進してきた。情報アクセシビリティフォーラムの主要トピックの一つである電話リレーサービスについては,既に2010年の第5回安全な暮らしのための情報技術(SSC)研究会においても,議論されている[5]。
各国とも国民の年齢構成の高齢化が進み,アクセシビリティ技術,AAL(Ambient Assisted Living)技術への要求は国際的な高まりを見せ,この分野の国際標準化の議論も進められている[6],[7]。
このような状況を鑑みるに,画像電子学会としては,研究会・講演会の中での議論,論文の発表だけに止まらす,情報アクセシビリティフォーラムのようなアクセシビリティ技術,AAL技術のエンドユーザとの接点にも積極参加して,より使いやすい応用,サービスの提供に寄与することが望まれよう。
情報アクセシビリティフォーラムの事前に公表されている情報には,エリアと会場の関係が不明確であり(つまり図1の表示がない。),さらに会場間の移動が不便(特に4階から6階への直接のパスがない。)であった。各会場の入り口付近には,待ち行列を作るスペースがなく,UDXネクスト2, 3の入り口付近,UDXギャラリーの入り口付近では,開始時間前に大混雑が見られた。
最後に,案内書に情報アクセシビリティに関連する取り組みの方向性について,わかりやすく図解されていたので,図20に示す。
図20 情報アクセシビリティとは [2] |
[1] 情報アクセシビリティフォーラム,全日本ろうあ連盟,http://www.jfd.or.jp/iaf/
[2] 情報アクセシビリティフォーラム案内書, 全日本ろうあ連盟,2013-11-22
[3] 電話リレーサービスの普及と定着,情報アクセシビリティフォーラム国際ワークショップ,2013-11-23
[4] 第40回国際福祉機器展 H.C.R.2013,JETRO,http://www.jetro.go.jp/j-messe/tradefair/HCR2013_37533
[5] 松本充司,通信リレーサービスにおける個人情報管理の課題,画像電子学会 第5回安全な暮らしのための情報技術(SSC)研究会,SSC5-1,2010-03-05
[6] 小町祐史,深見拓史,IEC/TC 100におけるAAL(Ambient Assisted Living)技術の標準化,画像電子学会 第2回視覚・聴覚支援システム(VHIS)研究会,VHIS2-5,2013-01-11
[7] 松本充司,小町祐史,平山 亮,ITU-Tにおけるアクセシビリティの標準化動向,画像電子学会 第2回視覚・聴覚支援システム(VHIS)研究会,VHIS2-6,2013-01-11
[8] 全日本ろうあ連盟,筑波技術大学,情報アクセシビリティフォーラム 映像エリア資料,2013-11