画像電子学会 The Institute of Image Electronics Engineers of Japan | 画像関連学会連合会大会予稿 Proceedings of the Meeting of Federation of Imaging Societies |
国士舘大学 総合知的財産法学研究科 | Graduate School, Interdisciplinary Intellectual Property Laws, Kokushikan University |
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画像電子学会は,視覚・聴覚支援システム(VHIS)研究会を設立して,2012年から視覚・聴覚障害者に対する情報・通信支援技術に関する議論を行っている。マルチメディア関連技術の標準化を担当するIEC(国際電気標準会議)/TC 100[1]におけるアクセシビリティおよびAAL(Ambient Assisted Living)の活動がVHIS研究会の議論に関連が深いため,まず2012年末までのTC 100の取組みについて第2回VHIS研究会[2]にて報告し,次いで2013年6月までのTC 100のAALの活動を,VHIS研究会が担当する2013年度年次大会企画セションの講演[3]にて報告すると共に,さらに2013年末までのTC 100を中心とする関連活動を第4回VHIS研究会[25]にて報告した。本稿は,2014年のIECの関連活動をそれに加える。
TC 100は2013年9月に総会および関連する会議を開催し,そこでAALに関する多くの議論が行われて,AALをscopeに含む新しいTA(Technical Area,ISOのTCにおけるSCに相当)の設立に向けて進展があった。国内では,それへの対応が開始されている。TC 100の活動と並行して,IECのSMB(Standardization Management Board, 標準管理評議会)の直下に設けられたSG(Strategic Group)5では,IECとしてのAALの取組みについて議論を進めている。これらのAALの技術の標準化動向について,TC 100の活動を中心に概観する。
アクセシビリティを含んでさらに広い範囲をカバーするAAL(国内では,2013年頃から"自立生活支援"という訳語が使われ始めた。)は,ヨーロッパにおいて2011年から検討が開始され[9],その標準化の活動も開始されている。IEC/TC 100では,AGS(Advisory Group on Strategy,戦略諮問委員会)[5]が早くからこの課題を取り上げ,文献[2]で紹介したように,2011年4月にAGSの中にSS(Study Session)2を設けて,AALの国際標準化の検討を開始した。
アクセシビリティについては国内でも既に業界が成立しつつあり,国際福祉機器展[6],情報アクセシビリティフォーラム[7]などでアクセシビリティ技術の実装,製品が展示されている。AALはこれらの活動範囲を広げるとともに,関連業界を活性化することが期待される。AALは情報技術の重要な応用分野に位置付けられるため,AAL specificな研究も必要であり,学会等における今後の取組みが期待される。
[1],[2]の報告に続いて,ここでは主としてIEC/TC 100におけるAAL関連の活動を,次の内容について報告する。
AGSに設けられたSS2は,2011年10月にSS2 reportを出し,2012年5月にTR(Technical Report)の開発を行うためのStage 0 projectの提案を行って,AGSからその推進を勧告されている(100AGS/495)[19]。Stage 0 projectは2012年10月に最初のf2f会議をもち,その結果が2013年6月のAGS会議で報告された。
2013年6月のAGS会議におけるAAL関連の議論と決定事項[8]を次に示す。
J. Laurilaが100/AGS533[20]を用いて,SMB/SG5(AAL)の活動を報告した。主なキーワードは次のとおり。
U. Haltrichが100/AGS530[21]を用いて,stage 0 project PT 100-7 AALの進捗を報告した。主な報告内容は次のとおり。
M. Tazariによって"The universAAL Framework for User Interaction in AAL Spaces"の概要の説明があった。AGSはPAS提案を要望を受理して,ドイツNCに対してPAS手続きによる原案(100/AGS526)[22]の提出を勧告した。universAAL Frameworkは,次の規定から成る。
備考1 このPAS提案は,2013年8月にTC 100メンバに配布され[16],2013年9月を期限とする投票で承認された[17]。
2013年6月のAGS会議の同時期に開催されたAAL project会議では,次の文書が配布され,AGSでは言及されなかった詳細についてもレビューが行われた。その際,これらの文書を国内の学会で引用・掲載することの承認も受けている。
図1 AALの開発計画[9]
図2 AALの定義[10]
2013年9月のTC 100の総会と同時期に開催されたAGS会議におけるAAL関連の議論と決定事項[11]を次に示す。
U. Haltrichが100/AGS544[23]を用いて,SMB SG5(AAL)の活動を報告した。主なキーワードは次のとおり。
U. Haltrichが100/AGS545[24]を用いて,stage 0 project PT 100-7 AALの進捗を報告した。主な報告内容は次のとおり。
2013年9月のTC 100の総会と同時期に開催されたAAL project会議では,次の議論が行われた。
WDに対するUS, UK, JPからのコメントをレビューして,2013年10月にDTR投票を行う。この議論において,TC 100のAALのscopeに関する日本提案[12]が行われ,承認された。
備考2 コメントを反映したDTRテキスト[18]は2013年11月にTC 100メンバに配布され,2014年1月31日を期限とするDTR投票にかけられている。
EBU(European Blind Union)からDigital TV accessibilityに関する標準化の提案[13],[14]があり,UKからNPを提出することにした。
備考3 このNPは,2013年12月末においてまだ提出されていない。
TC 100におけるAAL関連の活動が新TA設立の条件を満たしていることを確認して,新TA設立の勧告を行った。2014年5月のAGM(Advisory Group on Management)での承認に向けて,Scope等の明確化を行うことにした。
2013年9月のTC 100の総会では,AAL projectの勧告を受けて,AAL, アクセシビリティおよびユーザインタフェースを扱う新TAの設立提案を受理して,2014年5月のAGMにおいて設立の最終決定を行うことを決議(Resolution 33)した[15]。それまでにAGMとAAL projectは,ToR(Terms of Reference)およびその他の要件の準備を行う。
2012年にSMBにおいてAAL検討のために設けられたSG5は,前述のAGSで報告された4th meeting(2013年3月)に続き,5th meetingを2013年10月に東京で開催した。そこでの主な議論を次に示す。
SG5をSEG(System Evaluation Group)に移行する提案を,2013年10月のSMB(ニューデリー)に提出することが確認された。
備考4 ニューデリーでのSMB審議の結果この提案は継続審議となり,SEG移行は2014年2月のSMBで再審議されることになった。SEGは,最大2年間の期間を経て,実際に規格を作成するSyC(Systems Committee)の設立となる。
SG5からSEGへの変更に関連する事項として,AALが対象とする範囲について議論し,特にJEITA提出のscope案を検討した。SG5で作成したAAL personはニーズ側,JEITAの図はソリューション側であるとの事務局見解が示された。SG5で作成していた案に統合できないかを事務局が持ち帰って検討する。
2013年12月に行われたAGS対応の国内委員会(AGS対応G)で,AALに関する新TA(TA16)の設立に関して,次の確認を行った。
2013年でのAALに関するTA16の設立勧告を受け,2014年には次の積極展開が行われた。
2014年5月21日に開催されたAGS会議では,AALに関して次の議論が行われた。
U. Haltrichが100/AGS572[26]を用いて,SS2の活動を報告した。主な活動は次のとおり。
TA16の設立により,SS2を終了することを確認した。J. Laurilaが欠席したため,U. Haltrichが代理で100/AGS573[27]を用いてIEC SEG5 (System Evaluation Group 5): AALに関する報告を行った。主な活動は次のとおり。
TC100からSEG5への情報提供は,引き続きJ. LaurilaとU. Haltrichにお願いする。
2014年5月23日には一連のTC 100会議と同じ会場で,AAL Workshop開催された。TC100 Chair.の David Fellandによるキーノートの後,次の3件のパネルが用意された。
どの国も,高齢者人口と障碍者人口の増加への対応に直面している。コミュニティの中で自立して生活し続けることを望むさまざまな年齢層のさまざまな能力レベルの個人を支援するために,政策が作られている。解決策を調査し,毎日の生活支援,自立生活および健康管理の分野の試験的な研究に着手するための研究を開始した政府,地域体もある。そこで,EU,ITU-T,米国,中国,日本を代表するパネリスト達から講演をいただいた。
AAL(Active Assisted Living, 積極的支援生活)システムは,自立,安全,福祉,権利が肉体的,精神的に満たされるように人々をサポートするためのサービス,環境および設備によって構成される。AALシステムは,さまざまな要素から成るため,関係者が多い。医学,技術,社会,事業の各分野の協力が必要になる。消費者製品は,利用者が自分たちの健康と福祉をモニターできるように開発され,その結果はAALシステムに反映される。
このような背景のもとに,パネル2は,影響が大きいと思われる最先端の技術と解決策の例が,Continua Health Alliance,Bluetooth SIGおよびMicrosoftのパネリスト達から紹介され,AALとアクセシビリティの必要性を示すユースケースが明らかにされた。
高齢な利用者および障害ある利用者がデジタルTVとそのコンテンツを見ることを阻害するアクセシビリティとユーザビリティの障壁がある。
音声記述のようなアクセスサービスはあるが,字幕等が今なお主流であって,クリーンオーディオ,音声記述,テキストツースピーチなどのユーザインタフェースの追加サービスはまだ誰にでも利用可能であるわけではない。これらは,高齢の利用者および障害をもつ人にとっての障壁であり,彼らをデジタルTV市場から疎外している。
そこでパネル3では,能力が異なる多様な利用者を支援する挑戦が紹介された。HLAA(Hearing Loss Association of America, 全米聴覚障害者協会),AFB(American Foundation for the Blind, 全米盲人基金),WID(World Institute on Disability, 国際障害学会),および北米のPanasonicのパネリストによるプレゼンがあり,IP接続,ジェスチャおよび音声コントロール,その他の革新的な解決策などの製品およびサービスが出現することが期待された。
IEC中央事務局の事務処理の遅れによってTA16の設立が遅れていたが,2014年6月13日を期限とする投票で,TA16 (AAL, accessibility and user interfaces)の設立が承認された[28]。
新規トピックを扱う新規標準化グループの設立に際しては,少数の先進企業だけによる提案,業界内・国内の思惑,一方的な利用者要求,さらには標準化グループ間の先陣争い等により,充分な学術的検討がないままに先読み標準化が先行して,必ずしも適切でないプロファイリング,数値決定等が行われて,結果として不充分なパフォーマンスしか得られない実装しかできないような規格が開発されるという懸念がある。
そのような懸念を解消するために,学会の研究会等で新規課題の内容等をレビューできる環境を整えることが望まれよう。TA16におけるAALの国際標準化に関しては,画像電子学会の視覚・聴覚支援システム(VHIS)研究会がそのようなレビューの場を提供できる位置付けになることを期待する。
SMB/SG5会議の議論,国内対応等に関してAGS対応Gの中で情報提供をいただいたソニーの江崎正委員,富士通の松村秀一委員に感謝する。
[1] IEC/TC 100, AUDIO, VIDEO and MULTIMEDIA systems and equipment, http://tc100.iec.ch/index_tc100.html
[2] 小町祐史,深見拓史,IEC/TC 100におけるAAL(Ambient Assisted Living)技術の標準化,画像電子学会 第2回視覚・聴覚支援システム研究会,VHIS2-5, 2013-01, http://www.y-adagio.com/public/committees/vhis/confs/vhis2/vhis2-5rev4.htm
[3] 小町祐史,AALの国際標準化最新動向−2013年6月のIEC/TC 100での議論,画像電子学会 2013年度年次大会企画セション,T1-4, 2013-06, http://www.y-adagio.com/public/committees/vhis/ann_confs/mcc2013/T1-4/presen/s0_0.htm
[4] AGS/450rev1, M. Mukai, Meeting minutes of the third meeting of the Future Technology Task Group (FT-TG) meeting at AENOR in Madrid, Spain, 2011-04
[5] 小町祐史,IEC/TC 100標準化活動への新規分野の導入,標準化と品質管理,Vol.63, No.4, 2010-03
[6] 第40回国際福祉機器展 H.C.R.2013,JETRO,http://www.jetro.go.jp/j-messe/tradefair/HCR2013_37533
[7] 情報アクセシビリティフォーラム,全日本ろうあ連盟,http://www.jfd.or.jp/iaf/
[8] 100/AGS540,Recommendations and agreed action items, the 33rd meeting of the TC100/AGS on Wednesday, 05 June 2013, 2013-06
[9] AAL project doc.(2013-06), Ambient Assisted Living AAL is growing up
[10] AAL project doc.(2013-06), Ambient Assisted Living (AAL) - a Definition, DKE
[11] 100/AGS559, Recommendations and agreed action items, the 34th meeting of the TC100/AGS on Monday, 23 Sept. 2013, 2013-09
[12] AAL project doc.(2013-09), Considerations for AAL Scope and Definition, JEITA AV&IT Standardization Committee, Multimedia Accessibility Group, 2013-08
[13] AAL project doc.(2013-09), Digital Television Accessibility, Guido Gybels (ICT Expert - EBU Liaison), 2013-09
[14] AAL project doc.(2013-09), DIGITAL TELEVISION ACCESSIBILITY - Functional Specifications, 2013-09
[15] 100(Shenzhen/Secretariat)36, Resolution list of the nineteenth TC 100 meeting held on 27th September 2013 in Shenzhen, China, 2013-09
[16] 100/2189A/PAS, The universAAL Framework for User Interaction in Multimedia Ambient Assisted Living (AAL) Spaces, 2013-08
[17] 100/2228/RVD, Voting result on 100/2189A/PAS, 2013-10
[18] 100/2263/DTR, IEC/TR 62907/Ed.1:Use cases related to Ambient Assisted Living (AAL) in the field of audio, video and multimedia systems and equipment, 2013-11
[19] 100/AGS495, Recommendations and agreed action items, the 31st meeting of the TC100/AGS on Tuesday, 15 May 2012, 2012-05
[20] 100/AGS533, Report of SMB SG5(AAL) - Roadmap of IEC SG5, 2013-06
[21] 100/AGS530, Report of stage 0 project PT 100-7 AAL, 2013-06
[22] 100/AGS526, Proposed PAS: The universAAL Framework for User Interaction in AAL Spaces, 2013-05
[23] 100/AGS544, Report of SMB SG5 (AAL), 2013-09
[24] 100/AGS545, Report of AAL stage 0 project PT100-7, 2013-09
[25] 小町祐史,荒浜英夫,IEC/TC 100の新TA設立に向けてのAAL(Ambient Assisted Living)技術の標準化動向,画像電子学会 第4回視覚・聴覚支援システム研究会,VHIS4-4, 2014-01, http://www.y-adagio.com/public/committees/vhis/confs/vhis4/vhis4-4/vhis4-4_rev2.htm
[26] 100/AGS572, Update of PT 100-7 and Update of European AAL Workshop of IEC SEG AAL and CLC TC 100 X (10 March 2014, Brussels), 2014-05
[27] 100/AGS573, First SEG AAL Meeting, Brussels 11th to 12th, 2014-05
[28] Report of Comments on 100/2336A/AC, 2014-06