規格文書のXML化

小町 祐史
パナソニック コミュニケーションズ(株)

はじめに

ISO中央事務局(ISO/CS)に対して, 最近, XML(Extensible Markup Language: 拡張可能なマーク付け言語)での規格原案提出の要望がエディタから出され, 既に何件かのXMLで記述された原案が提出されている.その原案記述に使われたDTD(文書型定義)は, その原案固有であり, しかも規格文書として必ずしも適切な構造記述がなされていない.しかもスタイル指定が添付されていないため, ISO/CSではレンダリングを行うことができない.今後さらにこのような要望が強まると思われ, エディタに対するXML導入の指針が望まれている.

2003年の始めにISO/CSの上層部からスタッフに対して, 規格原案の開発期間等の短縮化に対する検討要求が出され, その回答には, 規格および原案のXML化が盛り込まれている.

XML導入に関するこれらのISO/CSの一部からの要求に先んじて, 規格文書のXML化の検討はISO/ITSIG(Information Technology Strategies Implementation Group)で行われており, その成果としての規格文書のためのXML DTDおよびISO/IEC Directivesに整合したレンダリング結果を生成するためのスタイル指定言語記述が, JTC1のDTR投票で承認されている.

1. ITSIGのXMLプロジェクト

1.1 プロジェクト

規格文書をSGML(Standard Generalized Markup Language: 標準一般化マーク付け言語)で記述するためのDTDは, 当時のISO/CSのスタッフによって開発され, ISO/IEC TR 9573-11 第1版として1992年9月に発行された.その内容は, ISO/ITSIGのSGMLグループによってISO/CSでの作業環境に合わせて修正され, "ITSIG exchange DTD"として多くの規格の記述に使われてきた.

ISO/ITSIGはXMLの普及の速さに着目し, 規格文書の記述にそれが広く利用されることを見越して, XMLプロジェクトを立ち上げ, このSGML DTDに基づいたXML DTDの開発をXMLプロジェクトに指示した.実際の開発作業は, ITSIGの会議に参加していた日本規格協会のメンバによって, INSTACの委員会にアサインされた.

1.2 XML DTD

SGML DTDのXML化に際しては, まず次の変更が行われた.

さらにSGML DTDの構造に基づいて, XML DTDのモジュール化を施し, 図1に示す参照関係のモジュールを構成した.これらの詳細について, ITSIGに対するレポート[1],[2],[3]を参照されたい.

図1  XML DTDを構成するモジュールファイルの参照関係
stdex.dtd [DTD Driver]
   +--- stdex-model.mod [Model Module]
   +--- stdex-ent.mod [Entity Module]
   +--- stdex-profile.mod [Profile Module]
   |      +--- isonet10.dtd [Isonet Module]
   |      |       +--- se9573.dtd [Entity]
   |      +--- stdex-docprof.mod [Document oriented Profile Module]
   +--- stdex-base.mod [Base Element Module]
   |      +--- stdex-notation.mod [Notation]
   |      +--- stdex-tpage.mod [Title Page]
   |      +--- stdex-lpage.mod [Last Cover Page]
   |      +--- stdex-toc.mod [Table of Contents]
   |      +--- stdex-index.mod [Index]
   |      +--- stdex-foreword.mod [Foreword]
   |      +--- stdex-intro.mod [Introduction]
   |      +--- stdex-body.mod [Body]
   |      +--- stdex-annex.mod [Annex]
   |      +--- stdex-nest.mod [Nested Subdivisions]
   |      +--- stdex-disp.mod [Displayed Components]
   |      +--- stdex-tl.mod [Terminology List]
   |      +--- stdex-inline.mod [Inline Components]
   |      |      +--- stdex-artwork.mod [Artwork]
   |      +--- stdex-ref.mod [Referential Components]
   |      +--- stdex-float.mod [Float Components]
   |      |      +--- stdex-figure.dtd [Figure]
   |      |      +--- stdex-table.dtd [Table]
   |      |             +--- calstab.dtd [Cals Table]
   |      +--- stdex-specific.mod [Very Specific Components]
   |      |      +--- stdex-math.mod [Math]
   |      |             +--- stdex-math-extension.mod [Math Extension Module]
   |      |      +--- stdex-tol.mod [Tolerance]
   |      |      +--- stdex-chem.mod [Chemistry]
   |      +--- se9573.dtd [Entity]
   +--- stdex-listing.mod [Listing Module]

2. ISO/IEC TR 9573-11 第2版

2.1 構成

このDTDをITSIGの内部文書にとどめず, 公開資料とするため, JTC1/SC34はそれをISO/IEC TR 9573-11 第2版に含める作業を開始した.エディタには, ISO/CSのスタッフを含む2名が指名された.

ISO/IEC TR 9573-11 第2版は, SGML DTD(ITSIG exchange DTD)とXMLプロジェクトが開発したXML DTDとの両方を規定している.どちらのDTDも, 書誌情報をISONETから採るdatabase-oriented profileと文書中から採るdocument-oriented profileとに対応している.

2.2 スタイル指定

ISO/IEC TR 9573-11の第1版の時代には, ISO/CSでは専用のSGML処理系によってレンダリングを行い, 印刷に対応していた.広く普及したXMLによって広範囲に及ぶ規格文書の交換を行う環境では, レンダリングに必要なスタイル指定情報も標準化してどこでも利用可能であることが望まれる.

そこで, ISO/IEC TR 9573-11 第2版では, 標準的なスタイル指定言語を用いた次のスタイル指定記述を附属書として添付し, 本体で規定するDTDに基づいて書かれた文書データをISO/IEC Directivesに従った文書スタイルでレンダリングできるように配慮されている.

さらに, XMLで記述された規格文書をウェブブラウザで簡便にレビューできるように, XSLT(W3C XSL Transformations)によるHTMLへの変換指定記述も, 附属書として添付されている.

2.3 投票コメント対処

ISO/IEC TR 9573-11 第2版は, 2002年11月を期限とするDTR投票で承認され, コメント対処を含めた最終テキスト[4]が2003年3月にISOに送られている.このDTR投票では, 次の課題が要求された.

これらの要求については, ISO/CSの準備がまだ不十分であるため, 第2版には含めずに今後のAmendmentで対応することになっている[5]

3. ISO中央事務局への説明

ISO/IEC TR 9573-11 第2版の内容を説明し, さらにXML, DSSSLおよびXSLの処理系が既に利用可能であることを明らかにするため, 2003年4月にISO/CSにおいてITSIG/XML Project Adhocが催され, 第2版のエディタと処理系の開発者とが講演を行った.その結果, このDTDが国際的に承認されたDTDであり, 幾つもの処理系が既に利用可能であることの理解が深まった.そこでの議論は, 文献[6]にまとめられている.

4. 国内への影響

現在JISの原案作成に際しては, MS-WordのTemplateを利用することが強く求められている.これに関して, 情報技術専門家から疑問が提示されているだけでなく, ここに示したような国際的なXML化への動向がある.近い将来, JISおよび関連の規定の原案作成および出版においても, XMLの利用は必須となるであろう.その場合にも, このTRの参照は有効である.

文献

[1] ITSIG/XML Report (Act.rep3, detailed ver.), 2000-10-10, http://www.y-adagio.com/public/confs/itsig/rep_itsgxml3/actrep3dr.htm

[2] ITSIG/XML Report (Act.rep5) Annex to ITSIG06, 2001-10-25/26, http://www.y-adagio.com/public/confs/itsig/rep_itsgxml5/actrep5.htm

[3] ITSIG/XML Report (Act.rep6), 2002-11-17, http://www.y-adagio.com/public/confs/itsig/rep_itsgxml6/actrep6.htm

[4] ISO/IEC TR 9573-11:2003 2nd edition, Information technology -- Document Description and Processing Languages -- Structure Descriptions and Style Specifications for Standards Document Interchange

[5] ISO/IEC JTC1/SC34 N426, Disposition of Comments on JTC1 N6818(SC34 N0305rev): ISO/IEC TR 9573-11 2nd edition, 2002-12-09

[6] ISO/IEC JTC1/SC34 N426, Liaison from ISO/ITSIG/XML-Project, Minutes of ISO/ITSIG/XML-Project Adhoc: XML Processing for ISO Documents, 2003-05-03