2009年度専門委員会関係活動報告
SC34専門委員会(文書の処理と記述の言語: Document Processing and Description Languages)

小町 祐史 (大阪工業大学)

1. 概要

1.1 担当範囲と組織構成

SC34は, 広義の文書情報の交換に用いられる文書データの構造記述, ハイパリンク記述, スタイル指定, フォーマット済み文書記述およびそれらに必要なフォント情報に関する標準化を行う.2007年12月より日本が幹事国となり,幹事国代表を木村敏子,議長を,Sam G. Oh(韓国)が務める.2009年度末には,37ヶ国のPメンバと19ヶ国のOメンバが参加して, 次のWGが組織されている.

WG1(マーク付け言語) -- コンビナ: Alex Brown(英国).
SGML, XMLに代表される情報記述言語およびそれに関連するサブセット, API, 試験, 登録などの規格を担当する.

WG2(文書情報表現) -- コンビナ: 小町祐史(日本).
文書のフォーマティング, フォント情報交換, フォーマット済み文書記述およびそれらのAPIを規定する規格を担当する.

WG3(情報関連付け) -- コンビナ: P. Durusau(US).
文書情報のリンク付け, 番地付け, 時間依存情報表現, 知識処理および対話処理を規定する規格を担当する.

WG4(Office Open XML) -- コンビナ: 村田真(日本).
ISO/IEC 29500(OOXML)のメンテナンスを行い,OOXMLに関連するプロジェクトを傘下に置く.

WG5(文書の相互運用性) -- コンビナ: J. Lee(韓国).
異なるISO/IEC文書ファイルフォーマットで表された文書の相互運用性の原則と指針を開発する.

WG6(開放形文書フォーマット) -- コンビナ: F. Cave(英国).
ISO/IEC 26300 開放形文書フォーマットのメンテナンスに関係する活動を行う.ISO/IEC 26300のメンテナンスおよびISO/IEC 26300に関連する他の作業におけるOASIS ODF TCとの共同作業をも含む.

国内では, SC34専門委員会が, 関連する国内意見のとりまとめと国際への対応とを行っている.SC34専門委員会には,2009年度にはジャストシステムが情報規格調査会を退会してそのSC34委員が退任,CIJのエキスパートが新たに参加,東芝のエキスパートが退任して,年度末には23名(エキスパート7名,オブザーバ1名を含む)がメンバ登録されている.その傘下に,6名のメンバからなるSC34/WG2小委員会と,8名のメンバで構成されるSC34/WG3小委員会とがあり, それぞれフォント関連技術とトピックマップ関連技術に関する国際標準化の検討を行っている.

1.2 国際会議と参加状況

SC34/WG2会議(2009年6月19日,大阪, 日本):
2ヶ国から3名(日本から2名)が参加した.
SC34/WG4, WG5会議(2009年6月22日〜25日,コペンハーゲン, デンマーク):
8ヶ国から15名(日本から1名)が参加した.
SC34総会およびWG1, WG2, WG3, WG4, WG5会議(2009年9月13日〜17日,ベルビュー, US):
15ヶ国から36名(日本から4名)が参加した.
SC34/WG3会議(2009年11月07日〜10日,ライプチヒ, ドイツ):
日本からは参加者を出していない.
SC34/WG1, WG4, WG5, WG6会議(2009年11月30〜12月4日,パリ, フランス):
8ヶ国から20名(日本から1名)が参加した.
SC34総会およびWG1, WG2, WG3, WG4, WG5, WG6会議(2010年3月22日〜26日,ストックホルム, スウェーデン):
15ヶ国から37名(日本から4名)が参加した.

1.3 投票等

DIS投票 1件
(DIS 14297)
FDIS投票 1件
(FDIS 19757-7)
FCD投票 1件
(FCD 19757-5)
FPDAM投票 2件
(29500-1/FPDAM1, 29500-4/FPDAM1)
NP投票 2件
(NP: Diff. bet ECMA-376 and 29500, NP: SDShare)
DCOR投票 6件
(9541-4/DCor.1, 29500-1/DCor.1, 29500-2/DCor.1, 29500-3/DCor.1, 29500-4/DCor.1, 26300/DCor.1)
規格出版 6件
(19757-7, 9541-4/Cor.1, 29500-1/Cor.1, 29500-2/Cor.1, 29500-3/Cor.1, 29500-4/Cor.1)

1.4 国際委員会の主な変更点および変更理由

ODFのメンテナンスの推進とOASIS ODF TCとの共同作業のために,WG6を新設した.

1.5 日本担当のエディタの変更

規格発行の後,活動が終了した4名(海田 茂,野口 高成,大久保 彰徳,高沢 通)の退任を確認した.


2. 主なプロジェクトの進捗状況

2.1 WG1(マーク付け言語)

(1) DSDL(文書スキーマ定義言語, ISO/IEC 19757)

XML等で表現されるデータの構造, データ型, データ制約の定義を行うDSDLに関して, 2009年度に議論された主なパートの動向を次に示す.各パートの規定概要については,以前の報告を参照されたい.

a) パート2(正規文法に基づく妥当性検証−RELAX NG)のAmd.1

昨年度にプロジェクトを立ち上げたAmd.1については進捗が遅れているが,次のW3Cとの協力関係が推進されている.

"19757-2を使用するXForms 1.1スキーマについてW3Cからコメントを求められたため,RELAX NGを含むDSDLで書かれたスキーマをレビューする"ことをリエゾンステートメントによってW3Cに通知した.

b) パート3(規則に基づく妥当性検証 - Schematron)

ISO/IEC 19757-3の改訂のためにプロジェクトの細分割が行われ,CDテキストの作成が行われている.

c) パート5(拡張可能なデータ型)

データ型を定義するための言語であり,XML文書中の文字列をテストする.長大な正規表現を用いて不正確に記述しているデータ型が,この規定によって正確で簡素に記述できる.FCD投票の結果を反映して,FDISの処理のための改訂テキストの作成が行われている.

d) パート7(文字レパートリ記述言語

文字レパートリ(教育漢字,常用漢字など)を機械処理可能な形で記述するための言語である. FDISテキストが承認されて,国際規格が発行された.この作業は,対応するJISの原案作成と並行して行われ,国際規格の発行と共に,JIS原案が提出された.

e) パート11(スキーマ関連)

W3Cとの協力関係を結んで,CDテキストの作成が行われている.

(2) 規格文書交換のための構造記述およびスタイル指定(ISO/IEC TR 9573-11 第2版)のAmd.1

ISO/ITSIGが開発するXML templateとの関連が深いため,協調を求めるリエゾンステートメントがITSIGに送付された.

(3) NP(文書のパッケージ化)

2010年3月の総会で,文書のパッケージ化(ZIP)を国際規格にするため,NP提出することにした.ZIP自体を規定するだけでなく,ZIPファイルをXML文書によって表現する変換も規定する.

2.2 WG2(文書情報表現)

(1) フォント情報交換(ISO/IEC 9541)

a) ISO/IEC 9541の第2版

これまでに発行された多くのAmd.とCor.とを含めたISO/IEC 9541の第2版の作成のため,エディタ会議を開催して作業の分担と方針を明らかにすると共に,WG2の会議の中でFCDテキストの進捗を確認している.

b) ISO/IEC 9541-4(開放形フォントフォーマットとの整合)のCor.1

昨年度に発行されたISO/IEC 9541-4におけるvertTypoAscender要素,vertTypoDesender要素,およびVertical metric属性に関する記述を訂正するCor.が承認され,発行された.

(2) 文書レンダリングシステムを指定する最小要件(ISO/IEC 24754)

レンダリング結果において必要となる文書スタイルを保存したまま文書を交換し合うために,レンダリングシステムが共有しなければならない最小要件をネゴシェーションするための枠組みを規定する.

a) パート2(文書レンダリングシステムのためのフォーマット指定)

ISO/IEC 24754の規定内容に従って,文書レンダリングシステムに対してどのようにフォーマット指定を行うかの指針を規定する必要があるとの要求を受けて,プロジェクトの細分割によって24754-2のプロジェクトを立ち上げ,年次末にはCDテキストを完成した.エディタのKen Holmanは,2010年4月にはSC34の活動から離れるが,24754-2の作業だけについては継続することを確認した.

(3) UOML(非構造化マーク付け言語,DIS 14297)

OASISからのPAS手続きを用いてDIS 14297が提出され,2010年4月を期限とするDIS投票が行われた.日本は,内容が不明確であり,ODFに関してSC34で問題となったOASIS提出のexplanatory reportが全く改善されていないとして,反対投票を投じた.

2010年3月の総会では,OASISから推薦されたNingsheng Kiuをエディタとして指名し,必要に応じて,2010年9月に開催されるSC34会議に合わせて投票結果対処会議を開催することにした.

2.3 WG3(情報関連付け)

(1) TM(トピックマップ, ISO/IEC 13250)マルチパート

TMの規格を再構成してマルチパート化を図る作業が2003年度から継続されているが,2009年度に進捗があったパートの動向を示す.各パートの概要については,以前の報告を参照されたい.

a) パート1(概要及び基本概念)

パート1の内容が規定でないため,ISO/IEC 13250-1をTR Type3に変更し,プロジェクトエディタに対してPDTRテキストの作成が指示された.

b) パート3(トピックマップ,XML構文)の改訂

プロジェクト細分割によって,ISO/IEC 13250-3の改訂のためのプロジェクトが設立され,CDテキストの作成が行われている.

(2) TMCL(TM制約言語, ISO/IEC 19756)

昨年度のFCD投票結果を受けて,2010年3月の総会でFDISテキストを作成することが指示された.

(3) NP(トピックマップ - 意味記述の配信用プロトコルの新作業課題)

Atom配信フォーマットおよびトピックマップデータモデル(TMDM)に適合し,XTM1.0,XTM2.0およびRDF/XMLで表現される意味記述を交換する配信用プロトコルを規定し,適合アプリケーションが提供しなければならない配信データ(フィード)の階層に位置付けられる.

このNP投票は2010年4月に締め切られる.

2.4 WG4(Office Open XML)

これまでに報告された多くの欠陥報告に応えるため,WG4はCor.とAmd.とを区別するための評価基準を作成して,OOXMLの各パートに対して,次に示すCor.とAmd.の開発を行っている.

(1) OOXML(オフィス開放形XMLファイルフォーマット,ISO/IEC 29500)

a) パート1, 2, 3, 4のCor.1

OOXMLの全パートに対する訂正案が承認されて,各パートのCor.1として出版された.

b) パート1, 4のAmd.1

パート1, 4のFPDAMテキストが承認されて,FDAMテキストが作成された.

c) パート4のAmd.2

2010年3月の総会で,ISO/IEC 29500-4のAmd.2ためにプロジェクト細分割を行って,Amd.2の開発を行うことを決めた.

d) NP(ECMA-376:2006とISO/IEC 29500:2008との技術的差異)

このNPに対する投票は充分な賛同を得てプロジェクトが成立したが,開発対象が規定でないことが分り,各国コメントへの対処に基づいて,この作業課題をTR Type3の開発に変更した.

フランスおよび韓国がプロジェクトエディタを提供することを取消したことにより,直ちにTRの開発作業に着手できず,各国に対してプロジェクトエディタの提供および寄書の提出が求められた.

2.5 WG5(文書の相互運用性)

(1) ODF-OOXML間の変換(ISO/IEC TR 29166)

2010年11月までにPDTRテキストを完成させることを目標として,ドラフト作業が継続されている.

2.6 WG6(開放形文書フォーマット)

ODFのメンテナンスのために設立されたWG6は,2010年3月にはじめての対面会議を行った.これまでのOASIS ODF TCには,SC34に対する消極的姿勢が目立ったが,このWG6会議にはOASIS ODF TCから3名の参加者があり,SC34からの要請に積極的に応じる姿勢が見られた.

ODF 1.0はISO/IEC 26300として制定されているが,広く使われている状態ではなく,アクセシビリティの機構も提供していない.ODF 1.1は広く使われていて,アクセシビリティの機構を提供しているが,まだ国際規格にはなっていなかった.そこで,ODF 1.1をISO/IEC 26300のAmd.1とすることにした.

(1) ODF(開放形文書フォーマット)のAmd.1

ODFプロジェクトの細分割を行って,ISO/IEC 26300のAmd.1の開発を行うことを決めた.このAmd.は,OASISによるODF1.1の公式な提出(SC34 N1374)に基づいて用意され,エディタが準備した文書(SC34 N1375)によって支援される.