ISO/IEC 9541-1のAnnex Aの書体デザイン分類はデザインだけを分類基準としているわけではなく,分類基準に歴史的経緯を含む。純粋なデザインの上位概念としての"印象"に基づく分類もあり得る。分類ノードの名前は書体名ではない。しかし書体名も書体分類のノード名も固有名詞であり得る。これらの状況把握に基づき,書体分類と分類ノードを検討して,図4に書体分類を示し,図5に対応書体を示す。
a) この書体分類は,ベースとして日本事務機械工業会・実装規約小委員会が開発した日本語フォント実装規約の分類を用い,ISO/IEC 9541の分類との整合性も考慮している。
b) 日本語フォント実装規約の分類に倣って,分類は3階層としている。そのため,とくにディスプレイタイプの分類ではデザインの特徴を分類上で細分化していないが,今後は階層を増やす必要があると思われる。
c) 用途が明確な書体,たとえば新聞用書体,映画字幕書体は,分類上区分している。しかし,OCR書体,ステンシル書体については,単に同種のものであればよいという判定はできず,個々の書体特性に依存するものと考え,分類を分けていない。
フォントベンダによっては学参書体を別分類とし,書体名称に用いているが,"学参用"を特化する弊害を避けて,ここでは無視している。
d) 明朝体,角ゴシック体,丸ゴシック体に関して,クラシックとモダンとの区別を新設している。スタンダードは規定しない。何がスタンダードなのかという基準を決められないからである。オールド,ニューという呼称も採用しない。オールドという表現は多用されていて違和感は少ないが,ニューはこの区分表現に馴染まない。
ここでは,アナログ時代の様式を踏襲しているものをクラシックとし,デジタル時代に入ってから出現した様式をモダンに区分しているが,その中間的特徴を備えたものもあり,明確な基準は設定できていない。
ディスプレイタイプの分類においては,アナログ時代から存在するデザインと,デジタルフォント全盛になってから生まれたデザインとがあるが,これらはクラシックとモダンとに区別しない。それは,ユーザ要求がないことによる。
e) アナログ時代の書体を覆刻した明朝体(漢字)は,クラシックである。原則として背勢処理がなされている明朝体は,クラシックに分類する。
明朝体の定義はさまざまであるが,ここでは三角形のウロコをもつことを必す(須)としている。カタオカデザインワークスの丸明オールドは三角形のウロコをもたず,モトヤのアポロもウロコをもたないという特徴によって,ユービックのユニスクェアは角ウロコをもたないという特徴によって,それぞれ明朝体には分類しない。一方,リョービイマジクスのナウ-Mは明朝体に分類している。
モトヤ明朝はごくわずかな背勢処理がなされているストロークもあるが,実用文字サイズでの視認性を配慮し,モダンに分類している。
f) 明朝体(かな)については,アナログ時代の書体を覆刻したもの,および古い書家の作品をアレンジしたものをクラシックに分類する。デジタル時代になってから誕生した書体であっても,縦組適性重視の思想をもつものはクラシックとする。横組適性重視の書体はすべてモダンとしている。
リョービイマジクスの良寛,小町,行成などは,明朝体およびゴシック体と混植される前提で設計された字形デザインであるが,あくまでも形状特徴から筆字体クラシックに分類している。
g) 角ゴシック体(漢字)についても,背勢処理がなされ,原則として墨溜りをもつゴシック体はクラシックに分類する。ふところの設計など,全体のイメージを活字時代のゴシック体に近似させる手法は,現代には馴染まないため,背勢処理以外の要素によってクラシックとモダンとを峻別することはしていない。
大日本スクリーンのヒラギノ角ゴシックは,背勢処理はなされているが墨溜りをもたないため,モダンに分類する。
h) 丸ゴシック体(漢字)については,アナログ時代のふところの狭い書体はほとんど見向きがされず,ふところの広いデザインが主流になっているため,アナログ時代のもの以外をすべてモダンとした。したがって,分類例では写研の丸ゴシック体だけがクラシックである。
カタオカデザインワークスの丸丸ゴシックは,コーナ円の径が極めて大きく,特異な印象をもつ書体になっているため,丸ゴシック体には分類していない。
i) ゴシック体のバリエーションとも看做せる書体の中に,右ハライが"先細り"にデザインされているものがある。モリサワのフォーク,フォントワークスのぶどうがその例である。同様に明朝体のバリエーションとも看做せるダイナコムウェアの麗雅宋などである。これらはゴシック系,明朝系とはいえないため,ディスプレイ系書体に分類する。
j) ディスプレイ書体において,特にサンセリフPOPは,きわめて多様なデザインの書体が割り当てられる。商用キャッチコピー用書体は,目立つこと,新規性が高いことなどが求められるために,分類は大規模にならざるを得ない。
したがって,本来であれば固有分類対象になるアウトライン,シャドーなども,すべてこの分類の中に入ることになる。これらを組み合せたアウトライン・シャドーなどの書体も出現するからである。若干異なるが,モリサワのカクミンは明朝体と角ゴシック体の中間書体と位置づけられるが,この分類ではセリフPOPに分類している。
k) 独立かなにおいて,分類上はサンセリフを設けたが,現時点では該当書体はない。
1.0.0 | 伝統書体(漢字のあるもの)漢字のあるもの) | 4.0.0 Serifs | ||
1.1.0 | 明朝体 | 4.12.0 Mincho | ||
1.1.1 | クラシック | 4.12.1 Old Style | ||
1.1.2 | モダン | 4.12.2 New Style | ||
1.1.3 | 新聞明朝 | |||
1.2.0 | 角ゴシック体 | 5.0.0 San Serifs | ||
1.2.1 | クラシック | |||
1.2.2 | モダン | |||
1.2.3 | 新聞ゴシック | |||
1.3.0 | 丸ゴシック体 | 5.5.0 Geomesric | ||
1.3.1 | クラシック | |||
1.3.2 | モダン | |||
1.4.0 | 筆書体 | 6.3.0 Soft Brush | ||
1.4.1 | 楷書体 | 6.3.1 Kaisho | ||
1.4.2 | 教科書体 | 6.3.2 Kyokasho | ||
1.4.3 | 行書体 | 6.3.3 Gyosho | ||
1.4.4 | 草書体 | 6.3.4 Sosho | ||
1.4.5 | 隷書体 | 6.3.5 Miscellaneous | ||
1.4.6 | 篆書体 | 6.3.5 Miscellaneous | ||
1.4.7 | 硬筆・手書き風 | |||
1.5.0 | 宋朝体 | 6.5.0 Soucho | ||
1.6.0 | 古印体 | |||
2.0.0 | ディスプレイ書体(漢字のあるもの)イ書体(漢字のあるもの) | 7.0.0 Ornamentals | ||
2.1.0 | 江戸文字 | |||
2.2.0 | 等線 | |||
2.2.1 | セリフPOP | |||
2.2.2 | ゴシック体系 | |||
2.2.3 | サンセリフPOP | |||
2.2.4 | 硬筆 | |||
2.3.0 | 非等線 | |||
2.3.1 | 明朝体系 | |||
2.3.2 | 硬筆・手書き風 | |||
2.4.0 | 字幕書体 | |||
3.0.0 | かな書体(独立)独立) | 6.4.0 Kana | ||
3.1.0 | 伝統書体 | |||
3.1.1 | 筆字体クラシック | 6.4.1 Old Style | ||
3.1.2 | 筆字体モダン | 6.4.2 New Style | ||
3.1.3 | 明朝体クラシック | |||
3.1.4 | 明朝体モダン | |||
3.1.5 | ゴシック体クラシック | 6.4.1 Old Style | ||
3.1.6 | ゴシック体モダン | 6.4.2 New Style | ||
3.2.0 | 等線 | |||
3.2.1 | セリフ | |||
3.2.2 | サンセリフ | |||
3.2.3 | 硬筆 | |||
3.3.0 | 非等線 | |||
図4 書体分類
1.0.0 | 伝統書体(漢字のあるもの)漢字のあるもの) | |||
1.1.0 | 明朝体 | |||
1.1.1 | クラシック | 秀英明朝(大日本印刷) | ||
凸版明朝(凸版印刷) | ||||
精興社書体(精興社) | ||||
石井中明朝(写研) | ||||
本蘭明朝(写研) | ||||
リュウミン(モリサワ) | ||||
A1明朝(モリサワ) | ||||
徐明(モリサワ) | ||||
TBクラシック明朝(タイプバンク) | ||||
イワタ明朝体オールド(イワタ) | ||||
ヒラギノ明朝(大日本スクリーン) | ||||
游明朝体(字游工房) | ||||
筑紫明朝(フォントワークス) | ||||
マティス(フォントワークス) | ||||
S明朝体(ニィス) | ||||
1.1.2 | モダン | モトヤ明朝 | ||
イワタ明朝体(イワタ) | ||||
見出しミンMA31(モリサワ) | ||||
光朝(モリサワ) | ||||
ファイン(リョービイマジクス) | ||||
ナウ-M(リョービイマジクス) | ||||
TB明朝(タイプバンク) | ||||
JTCウィンM(ニィス) | ||||
小塚明朝(アドビシステムズ) | ||||
平成明朝体 | ||||
1.1.3 | 新聞明朝 | イワタ新聞明朝体Pro(イワタ) | ||
1.2.0 | 角ゴシック体 | |||
1.2.1 | クラシック | 凸版ゴシック(凸版印刷) | ||
石井ゴシック(写研) | ||||
ゴシックBBB(モリサワ) | ||||
太ゴB-101(モリサワ) | ||||
モトヤゴシック(モトヤ) | ||||
ゴシック体オールド(イワタ) | ||||
リョービゴシック(リョービイマジクス) | ||||
1.2.2 | モダン | ゴナ(写研) | ||
新ゴ(モリサワ) | ||||
ネオツデイ(モリサワ) | ||||
ゴシックMB101(モリサワ) | ||||
新ゴシック体B(イワタ) | ||||
シーダ(モトヤ) | ||||
ナウ-G(リョービイマジクス) | ||||
ヒラギノ角ゴシック(大日本スクリーン) | ||||
ニューロダン(フォントワークス) | ||||
ロダンPro(フォントワークス) | ||||
筑紫ゴシック(フォントワークス) | ||||
JTCウィンS(ニィス) | ||||
小塚ゴシックPro(アドビシステムズ) | ||||
平成角ゴシック体 | ||||
1.2.3 | 新聞ゴシック | イワタ新聞ゴシック体Pro(イワタ) | ||
毎日新聞ゴシック(モリサワ) | ||||
1.3.0 | 丸ゴシック体 | |||
1.3.1 | クラシック | 石井中丸ゴシック体(写研) | ||
1.3.2 | モダン | ナール(写研) | ||
新丸ゴ(モリサワ) | ||||
じゅん(モリサワ) | ||||
モトヤマルベリ(モトヤ) | ||||
シリウス(リョービイマジクス) | ||||
ヒラギノ丸ゴシック(大日本スクリーン) | ||||
JTCウィンR1(ニィス) | ||||
細丸ゴシック体(ダイナコムウェア) | ||||
TB丸ゴシック(タイプバンク) | ||||
平成丸ゴシック | ||||
1.4.0 | 筆書体 | |||
1.4.1 | 楷書体 | 紅蘭細楷書(写研) | ||
正楷書CB1(モリサワ) | ||||
正楷書(モトヤ) | ||||
正楷書体(イワタ) | ||||
弘道軒清朝体(イワタ) | ||||
グレコStd(フォントワークス) | ||||
DF顔楷書(ダイナコムウェア) | ||||
DF文徽明体(ダイナコムウェア) | ||||
DF徽宗宮(ダイナコムウェア) | ||||
DF痩金体(ダイナコムウェア) | ||||
DF北魏楷書(ダイナコムウェア) | ||||
1.4.2 | 教科書体 | 石井中教科書体(写研) | ||
イワタ教科書体(イワタ) | ||||
モトヤ教科書(モトヤ) | ||||
ユトリロPro(フォントワークス) | ||||
1.4.3 | 行書体 | 岩蔭行書(写研) | ||
ヒラギノ行書(大日本スクリーン) | ||||
江川活版三号行書(大日本スクリーン) | ||||
祥南行書体(ダイナコムウェア) | ||||
JTC曲水MYU(ニィス) | ||||
1.4.4 | 草書体 | DF草書霜月(ダイナコムウェア) | ||
JTC淡斎草書「濃」(ニィス) | ||||
1.4.5 | 隷書体 | 曾蘭隷書体(写研) | ||
イワタ隷書体Std(イワタ) | ||||
花牡丹-DB(リョービイマジクス) | ||||
DF郭泰碑(ダイナコムウェア) | ||||
1.4.6 | 篆書体 | DF新篆体(ダイナコムウェア) | ||
JTC淡斎篆書(ニィス) | ||||
1.4.7 | 硬筆・手書き風 | 日立つれづれぐさStd R(タイプバンク) | ||
DF金文体(ダイナコムウェア) | ||||
クレーPro(フォントワークス) | ||||
1.5.0 | 宋朝体 | イワタ宋朝体(イワタ) | ||
花胡蝶(リョービイマジクス) | ||||
DF新宋朝体(ダイナコムウェア) | ||||
1.6.0 | 古印体 | 淡古印(写研) | ||
モトヤ古印体(モトヤ) | ||||
康印体(ダイナコムウェア) | ||||
JTC古印体「歌」(ニィス) | ||||
2.0.0 | ディスプレイ書体(漢字のあるもの)イ書体(漢字のあるもの) | 鈴江戸(写研) | ||
2.1.0 | 江戸文字 | 織田勘亭流(写研) | ||
勘亭流(モリサワ) | ||||
勘亭流(字游工房) | ||||
DF寄席文字(ダイナコムウェア) | ||||
いなひげ(写研) | ||||
古今髭Std EB(ダイナコムウェア) | ||||
DF籠文字(ダイナコムウェア) | ||||
2.2.0 | 等線 | |||
2.2.1 | セリフPOP | カクミン(モリサワ) | ||
DF優雅宋(ダイナコムウェア) | ||||
DF麗雅宋(ダイナコムウェア) | ||||
2.2.2 | ゴシック体系 | ゴナO(写研) | ||
ナールSH(写研) | ||||
スーボ(写研) | ||||
DFひびゴシック体(ダイナコムウェア) | ||||
丸丸ゴシック(カタオカデザインワークス) | ||||
2.2.3 | サンセリフPOP | 石井ファンテール(写研) | ||
ナミン(写研) | ||||
ミンカール(写研) | ||||
フォーク(モリサワ) | ||||
DFブラッシュRD(ダイナコムウェア) | ||||
DFブラッシュSQ(ダイナコムウェア) | ||||
DF POP 2 体(ダイナコムウェア) | ||||
DF綜藝体(ダイナコムウェア) | ||||
キアロ(フォントワークス) | ||||
ロゴJr(視覚デザイン研究所) | ||||
メガ丸(視覚デザイン研究所) | ||||
2.2.4 | 硬筆・手書き風 | ナカフリー(写研) | ||
DFクラフト遊(ダイナコムウェア) | ||||
DFてがき誠(ダイナコムウェア) | ||||
DFペン字体(ダイナコムウェア) | ||||
2.3.0 | 非等線 | |||
2.3.1 | 明朝体系 | アポロ(モトヤ) | ||
アドミーン(視覚デザイン研究所) | ||||
丸明オールド(カタオカデザインワークス) | ||||
2.3.2 | 硬筆・手書き風 | ナカフリー(写研) | ||
はるひ学園(モリサワ) | ||||
2.4.0 | 字幕書体 | 映画字幕書体(キネマ・フォント・ラボ) | ||
3.0.0 | かな書体(独立)独立) | |||
3.1.0 | 伝統書体 | |||
3.1.1 | 筆字体クラシック | 良寛(リョービイマジクス) | ||
小町(リョービイマジクス) | ||||
行成(リョービイマジクス) | ||||
弘道軒(リョービイマジクス) | ||||
3.1.2 | 筆字体モダン | iroha-31 nire(カタオカデザインワークス) | ||
3.1.3 | 明朝体クラシック | 秀英(モリサワ) | ||
リュウミンオールドがな(モリサワ) | ||||
アンチックAN(モリサワ) | ||||
築地(リョービイマジクス) | ||||
築地体仮名(大日本スクリーン) | ||||
游明朝体かな(字游工房) | ||||
3.1.4 | 明朝体モダン | りょうDisplay(アドビシステムズ) | ||
コミクス(ニィス) | ||||
丸明Yoshino(カタオカデザインワークス) | ||||
ことのは(朗文堂) | ||||
3.1.5 | ゴシック体クラシック | TB築地(タイプバンク) | ||
3.1.6 | ゴシック体モダン | ネオツデイ小がな(モリサワ) | ||
りょうゴシック(アドビシステムズ) | ||||
3.2.0 | 等線 | |||
3.2.1 | セリフ | |||
3.2.2 | サンセリフ | サンクスR(ニィス) | ||
ロゴアール(アドビシステムズ) | ||||
3.2.3 | 手書き風 | ゼンゴN(モリサワ) | ||
ひまわり(フォントワークス) | ||||
丸明Fuji(カタオカデザインワークス) | ||||
3.3.0 | 非等線 | DFクラフト童(ダイナコムウェア) |
図5 対応書体