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A.2 博物館情報の知的横断検索のためのフレームワーク

IIEEJ 2002年度年次大会テクニカルセション7



2. 横断検索に向けた分析

近年, 博物館・美術館情報の電子化が進み, 一部の館で はインターネットを通じて館蔵品に関する情報の提供や 検索サービスを行っている。現状ではこれらのサービス はそれぞれの館が独自に行っているため, 利用者側から見 た場合,

のもつ情報と関連付けて見ることが難しい といった問題点がある。利用者にとっては, 各館の差異に とらわれることなく, シームレスに検索ができることが望 ましい。これを横断検索と呼ぶことにすると, これを可能 ならしむるためには, 現状のような各館の自己努力だけで は不十分であり, 全体を統合する何らかの仕組みが必要と なるが, ここで, その統合の方法が問題となる。
: ディジタルミュージアムといった場合には館蔵品そのもののデ ィジタル化という方向も見逃せないが, 本稿では館蔵品そのもの ではなく, これに関する情報の取り扱いに限定する。また, 館側 の立場に立った館蔵品の管理情報の取り扱いについても本稿の範 囲外とする(Cf.CIMI [3])。

もっとも単純には, すべての館の館蔵品に関する情報を 記述するための共通のフォーマットを定義し, 各館がそれ に従い情報を提供することができれば, それを集中管理す るか分散処理するかは純粋に技術的な問題であり, 横断検 索の基盤は形成されることになる。実際に文化財情報につ いては文化財情報システムフォーラム[1]において共通索引 という試みが行われている。また, 国際的には, 非常に大 掛かりになる可能性はあるが, CIDOC [2]と呼ばれる取り組 みがある。

ところで, 世の中に実際に存在する博物館は多種多様で ある。その扱っている対象や規模も様々であれば, それを 扱う態度も様々である。そもそも命名や分類という行為は 私が世界をどのように分節化して考えるかという認知を 伴う思惟の表明であり, アプリオリに客観的ではありえな い。そういう意味で, 館による違いは各館の独自性を表し ているとも考えられる。

たとえば, ある館では美術品を主な対象としているた め, 館蔵品のことを作品と呼んでいるのに対し, 別の館で は史料と呼んでいる。そもそも美術品と史料を同じく扱お うとするところに問題があるのであって, 特定の分野, た とえば美術品ならば美術品のみに限定していけばよいと いうアプローチもあろうが, たとえば古書を対象にして も, 実際には, その言語的な内容に興味を持つ者もいれば, 文字そのものや紙面への割り付け情報に興味をもつもの, 紙質などの材質, 綴じ方や体裁に興味を持つもの等様々で ある。このように, 同一の対象に対してもその興味専門に よって違った見方をすることが普通である。この場合, heterogeneousであることが重要なのであって, 所蔵者の 観点と他者の観点が常に一致するとは限らない。さらに, ある観点で認識した結果をどのように表現するかという レベルでも多様性は生ずる。たとえば, 年代を時代名で表 すのか, 世紀で表記するのか, それとも西暦を用いるのか といった点にも表現者の判断が含まれている。

これは館の多様性のみならず, 利用者層の多様性にもつ ながる問題である。ある検索の仕組みを作るときに, 一般 にはターゲッティングが重要であると考えられているが, では博物館において, 専門家向け, 一般向け, さらには大 人向け, 子供向けといったように, それぞれ情報をカスタ マイズしていかねばならないのだろうか。

このように考えてくると, これは「多様な情報をいかに 共有するか」という一般的な問題であることがわかる。 我々はインターネット上で現在実際に公開されている情 報を分析し, シンタクスレベルでの共通化は可能だが, セマンティクスレベルでは今後相当の努力が必要となる と考えている。



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