画像電子学会
The Institute of Image Electronics Engineers of Japan
  年次大会予稿
Proceedings of the Meida Computing Conference

OSにおける個人化情報交換の可能性とその問題点
Feasibility study of personalization information interchange between operating systems

前岡 遼               小町 祐史
Ryo MAEOKA    and     Yushi KOMACHI

大阪工業大学情報科学部    Faculty of Information Science and Technology, Osaka Institute of Technology

E-mail: †e1n09073@info.oit.ac.jp, ‡komachi@y-adagio.com

1. はじめに

多くの情報機器・情報システムは,さまざまな利用者要求を充足した結果,頻繁な利用に備えて利用・操作の効率を高められるような設定ができる機能,利用者の知覚能力・知的個人差に合わせた設定ができる機能,利用者の好み・習慣に合わせた設定ができる機能などが備えられるようになっている.これらの機器・システムが利用者に提供された初期状態では,これらの多くの機能はデフォルト設定値のまま利用されるが,各機能の利用実績を重ねるにつれて,利用者はこれらの設定値を利用者固有の設定にしていく.このようにして設定された情報を個人化情報と呼ぶ[1],[2].

個人使用の機器・システムについては,その台数を増やす時,またはそれを取り換えるとき,この設定は繰り返される.複数の利用者が利用する機器,システムについては,利用者が変わる時,利用者に合わせてこの設定の変更が望まれる.機器・システムの多機能化によって,設定可能な項目が増加すると,設定に多くの作業時間を要することになる.そこで,個人化情報を交換可能な情報とし,その情報を用いて利用者固有の設定を可能にすることが望まれるようになった.

機種が異なれば機能も設定可能範囲も異なり,機能,設定値範囲の表記も異なり得る.そこで個人化情報交換を行うためには,多くの利用者が必要とする個人化情報を洗い出し,その機能について多くの利用者を満足させることができる設定値範囲を調べて,それらの標準的な記述方法を取り決める必要がある[3][4].

ここでは既に情報家電機器と同様に広く普及しているパーソナルコンピュータ(PC)に着目し,PCに実装されているオペレーティングシステム(OS)のグラフィックインタフェースなどにおいて,異なるOS間での個人化情報の交換について調査・検討を行う.

2. これまでの検討

日本規格協会のINSTACはいち早くこの課題を取り上げ,2008年度から"個人化情報交換のための標準化調査研究委員会"を設立して標準化を視野に入れた情報交換の対象としての個人化情報の調査・研究を行っている[1].2008年度においては,個人化情報の利用事例が調査され[1],2009年度にはこれまでに,幾つかの個人化情報のプロパティの分類[3]が行われた.

PCに関しては,異なるマシン間での個人化情報を含む環境移行が以前からある程度行われている[5]. 同一PC上での同系列のOSアップグレードに際しては,多くの場合,過去バージョンから環境移行がサポートされている.同系列のOSをもつ異なるPCの間での環境移行については,次の例に示すように,ファイルと設定を転送する機能(転送ウィザードなど)が用意されている.

例1: Windows XP
http://support.microsoft.com/kb/293118/ja
http://support.microsoft.com/kb/321197/ja
例2: Windows Vista
http://support.microsoft.com/kb/928635/ja

これらにおいては,レジストリ情報,関連ファイルなどをバックアップしリストアするので,同一系列のシステム間移行に限定され,明示的に個人化情報として独立した交換対象データがあるわけではない.仮想化の技術を用いた環境移行(デスクトップ仮想化,アプリケーション仮想化)ともなれば,その傾向はさらに顕著である.

3. 異なるOS間での個人化情報

仮想化のような大規模なシステム構成をとらずに,同系列でないOS間の個人化情報の環境移行を行うには,システム間に共通する設定項目とその設定可能な値の範囲とを取り出して,それらを標準的な記法で記述した標準個人化情報を用意し,各システムにおいてそのシステムの個人化情報と標準個人化情報との対応を把握しておけばよい.

そこで異なるOS間での個人化情報の交換についての調査・検討の第一歩として,Windows XPとUbuntu9.10とについて共通する設定項目とその設定可能な値を調査した.その結果の一部を図1に示す.

破線で結ばれた共通する設定項目(または設定値)は,それぞれのシステムにおける設定項目配列体系の木構造のある階層に位置付けられ,それを示す10進数のノード番号を前置した.

図1 Windows XPとUbuntuにおける対応する個人化情報の設定項目および設定可能な値

4. 標準個人化情報への検討

今回は系列の異なる2種類のOSについて,個人化情報の対象となり得る設定項目とその設定値範囲を調査した.両OS間だけでの個人化情報の交換であれば,対応する設定項目とその項目での設定値の対応とを規定する対応表を用意すれば充分であるが,さらに多くの種類のOSについて,個人化情報の交換を行う場合には,標準個人化情報を決めておくことが望まれる.

OSの個人化情報は,その環境で動作するアプリケーションにも適用されることがあり,標準個人化情報の利用が望まれる.

設定項目の配列体系はシステムごとに異なるので,標準個人化情報の設定項目についても標準的な体系に配列されることが望ましい.

5. むすび

異なるOS間での個人化情報の交換の対象情報を調べるため,Windows XPとUbuntu9.10とについて共通する設定項目とその設定可能な値を調査し,標準個人化情報の必要性を検討した.

今回のfeasibility studyに続いて,比較的簡単な個人化情報交換を行える実装を用意して,個人化情報交換の利便性の確認を行うことが望まれる.

OSの個人化情報についても,携帯電話の着信音楽,フォントなどのように多次元の物理量の組み合わせで設定値が指定される設定項目については,代替設定値の特定を可能にするためには,設定値参照情報(特徴情報集合)の導入[6]が必要であり,今後の検討課題である.

文献