画像電子学会
The Institute of Image Electronics Engineers of Japan
  年次大会予稿
Proceedings of the Meida Computing Conference

携帯電話における個人化情報とその交換
Personalization information of mobile phones and its interchange

− 標準仕様書(TS)素案の検討
− Preliminary draft for TS (Technical Specification)

小町 祐史               溝端 恵実
Yushi KOMACHI    and     Megumi MIZOBATA

大阪工業大学情報科学部    Faculty of Information Science and Technology, Osaka Institute of Technology

E-mail: †komachi@y-adagio.com, ‡e1b09093@info.oit.ac.jp

1. はじめに

日本規格協会(JSA)の情報技術標準化研究センター(INSTAC)は,2008年度のはじめから"個人化情報交換のための標準化調査研究委員会"を立ち上げ,情報機器が多機能化・高度化してさらに広く普及した結果要求されることになると思われる個人化情報の交換に着目して,関連技術の調査研究に着手した.この委員会は2年間の活動の結果,2回の年次報告[1][2]を提出して2009年度末に活動を終了しているが,調査研究が完了したわけではなく,2009年度末の委員会では,委員参加していた経済産業省の担当者からTS(標準仕様書)等の公表によって,今後の標準化への合意形成を行うことが提案され[3],さらにINSTACでは今後の対応を考える非公式打合せが行われた[4].

個人化情報交換のための標準化調査研究委員会のメンバであった著者の一人は,このトピックを大学(大阪工大, OIT)に持ち帰り,研究室に集まった関心のある学生(必ずしも卒研の学生ではない)とともに,INSTACの2009年度報告書の成果に基づいて今後の活動につなげるための調査を開始した.調査結果の幾つかは,画像電子学会の2010年の年次大会等に報告されている[5][6][7][8][9][10].ここでは,INSTACの2009年度報告書の成果の延長線上に,それらの報告を位置付け,今後の活動を明確にする.(それに関する記述を青いフォントを用いて示す.) 特に2009年度報告書の中で,完成できなかった携帯電話に関する個人化情報交換のTSに関する調査結果を示す.

2. INSTACの2009年度報告書の概要とその後の調査

INSTACの2009年度報告書から要点を抜粋し,OITにおけるその後の調査を追記する.

2.1 個人化情報交換の必要性

多くの情報機器,特に情報家電機器は,さまざまな利用者要求の充足によって,市場での優位性の獲得を図り,情報技術と製造技術の進歩がそれを支援し可能にしてきた.その結果,情報機器が利用者に提供されるとき,一人の利用者にとってその情報機器にはさまざまな設定可能な機能が提供されてきた.それらは次のように分類される.

提供を受けた初期状態では,これらの多くの機能は工場出荷時の設定のまま利用されるが,各機能の利用実績を重ねるにつれて,利用者はa)の1)〜3)の機能を利用者固有の設定にしていく.この設定情報を個人化情報と呼ぶ.

個人使用の機器については,機器の台数を増やす時,または機器を取り換えるとき,この設定は繰り返される.複数の利用者が利用する機器については,利用者が変わる時,この設定の変更が望まれる.

情報機器の多機能化に伴い,a)の1)〜3)の機能も増加している.その結果,これらの機能の設定に多くの作業時間を要することになり,個人化情報を交換可能な情報とし,その情報を用いて機器の機能設定を可能にする情報機器が望まれるようになった.そこでINSTACでは,主として情報家電機器を取り上げて,a)の1)〜3)の機能の検討を行い,その結果得られる個人化情報の記述と交換に関する標準化の必要性を指摘した.

機種が異なれば機能も設定可能範囲も異なり,機能,設定範囲の表記も異なり得る.そこで上記要望を満たすためには,多くの利用者にとってa)の1)〜3)となり得る機能を洗い出し,その機能について多くの利用者を満足させ得る設定範囲を求めて,それらの記述方法を取り決める必要がある.

個人化情報には

等の機能の一部も含まれ得るが,これらについては既に幾つかの標準化グループが検討を行っていて,幾つかの実装例もあるため,INSTACでの検討対象からは除外されている.

OITでのその後の検討で,高齢者を配慮した文書スタイルオブジェクト[10]を取り上げ,それは必ずしもアクセシビリティではない(代替メディアを提供するわけではない)が,個人化情報交換の対象となることを示している.

2.2 PCにおける個人化情報交換

パーソナルコンピュータ(PC)に関しては異なるマシン間での個人化情報を含む環境移行が以前からある程度行われている.同一PC上での同系列のOSアップグレードに際しては,多くの場合,過去バージョンから環境移行がサポートされている.同系列のOSをもつ異なるPCの間での環境移行については,次の例に示すように,ファイルと設定を転送する機能(転送ウィザードなど)が用意されている.

これらにおいては,レジストリ情報,関連ファイルなどをバックアップしリストアするので同一系列のシステム間移行に限定され,明示的に個人化情報として独立した交換対象データがあるわけではない.仮想化の技術を用いた環境移行(デスクトップ仮想化,アプリケーション仮想化)ともなれば,その傾向はさらに顕著である.

仮想化のような大規模なシステム構成をとらずに,同系列でないOS間の個人化情報の環境移行を行うには,システム間に共通する設定項目とその設定可能な値の範囲とを取り出して,それらを標準的な記法で記述した標準個人化情報を用意し,各システムにおいてそのシステムの個人化情報と標準個人化情報との対応を把握しておけばよい.

そこでOITでは異なるOS間での個人化情報の交換についての調査・検討の第一歩として,Windows XPとUbuntu9.10とについて共通する設定項目とその設定可能な値を調査した[8].

2.3 情報家電機器における個人化情報交換

これまでの個人化情報は,交換対象データとして必ずしも独立した機器非依存データにはなっていなものの,既に多くの情報機器において多くの利用者が設定を行っている.既に多くの機器利用実績のある分野については,幾つもの機器に設定されたそれらの情報を調べることによって,その機器分野の個人化情報を洗い出すことができる.

INSTACでは多くの利用実績があり,しかも市場が成熟段階に入っていると考えられる情報家電機器(システム)から,

を取り上げ,それぞれ複数台の主要機種について,利用者設定可能な設定項目と設定値範囲とを調査した.携帯電話に関しては,2009年におけるOITでの調査結果[5][6]をINSTACに提供した.

その後,OITではディジタルテレビにおける個人化情報を調査し,その結果の一部を文献[7]にまとめた.

2.4 交換対象としての個人化情報

多くの機種にほぼ共通して用意されている設定項目(プロパティ)については,標準的な設定項目と設定値(プロパティ値)範囲を設け,各機種においてその機種の設定項目・設定値範囲と標準的な設定項目・設定値範囲との対応関係を決めておけば,標準的な設定項目と設定値を介することによって,同機種ではもちろんのこと,異機種についても機器間での個人化情報の交換が可能になる.なお,異機種間では必ずしもすべての項目に適切な対応関係が成立するとは限らないため,個人化情報の欠落があり得る.

標準的な設定項目と設定値範囲については適切な標準的表現・表記が望まれる.設定項目の配列体系は機種ごとに異なるので,標準的な設定項目については標準的な体系に配列し,機種ごとの設定項目の配列の対応の参照とすることが望ましい.

個人化情報を標準的な設定項目と設定値範囲の集合として既定し,その各要素を標準的な体系に配列したデータが,交換対象としての個人化情報であり,規格として制定されることが望まれる対象である.

交換対象としての個人化情報を規定する際には,次の課題にも配慮する必要がある.

3. 携帯電話における個人化情報のTS素案

INSTACの2009年度報告書では,情報機器に関する交換対象としての個人化情報を規定する規格の構成案が示され,さらに携帯電話における個人化情報のTS素案の一部が次のように与えられた.

以降の項番はTSとしての項番であり,この予稿の節番号と区別するため,Tを前置する.TSを作成するための準備として必要な議論については,赤色のフォントを用いて示す.この赤の記述は,TSの最終原案には含まれない.

T1. 適用範囲

この標準仕様書(TS)は,携帯電話端末(以降,携帯電話又は機器)の個人化情報を交換するための個人化情報の標準的な設定項目及び設定値指定可能範囲(以降,設定値範囲)を規定する.

各携帯電話においては,その機種の設定項目・設定値範囲とこのTSが規定する標準的な設定項目・設定値範囲との対応関係を決めておけば,この標準的な設定項目およびその設定値を介することによって,同機種ではもちろんのこと,異機種についても機器間での個人化情報の交換が可能になる.

注記 異機種間では必ずしもすべての設定項目に関して,両機種間での適切な対応関係が成立するとは限らないため,個人化情報の交換に際して個人化情報が欠落することはあり得る.

T2. 引用規格

次に掲げる規格等は,この標準仕様書(TS)に引用されることによって,このTSの規定の一部を構成する.これらの引用規格のうちで発効年又は発行年を付記してあるものは,記載の年の版だけがこのTSの規定を構成するものであって,その後の改正版・追補には適用しない.発効年を付記していない引用規格は,その最新版(追補を含む.)を適用する.

JIS X 4162 フォント情報交換 第2部 交換様式

注記 ISO/IEC 9541-2 がこの規格に一致している.

他の規格も追加予定.

T3. 定義

この標準仕様書(TS)で用いる主な用語の定義は,次による.

このTSは,携帯電話の機能の名称(呼称)を標準化するものではなく,機能項目の交換様式を規定するだけである.従って機能の名称にすでに業界で合意した用語があれば,それを利用するが,標準的な用語がなければ,ここで用語定義としてそれを規定するものではない.

T3.1 個人化情報
personalized information

機器には,頻繁な利用に備えて,利用,操作の効率を高められるような設定ができる機能,利用者の知覚能力,知的個人差に合わせた設定ができる機能,利用者の好み,習慣に合わせた設定ができる機能が備えられることが多く,これらの機器が利用者に提供された初期状態では,これらの多くの機能は工場出荷時の設定のまま利用されるが,各機能の利用実績を重ねるにつれて,利用者はこれらの機能を利用者固有の設定にしていく.この設定情報を個人化情報という.

T3.2 携帯電話
mobile phone

電話機能及びその他の関連機能を備えた電池駆動の携帯端末機器.

他の用語も追加予定.

T4. 記法

TBD

T5. 設定項目および設定値範囲

標準的な設定項目及び設定値範囲を表1に示す.(この表は未完成である.)

表1 標準的な設定項目及び設定値範囲
設定項目分類設定項目設定値範囲
TBD電話着信音量 lebel,2,3,4,5,6,7,8
メール着信音 sound1,2,3,4,5,6,7,8
電話着信イルミネーション pattern1,2,3,4,5,6,7,8
通話保留音 sound1,2,3,4,5,6,7,8
テレビ電話受信画質 low, normal, high
ディスプレイ通常時照明 on, p-save, off

T6. 拡張のための利用者設定項目

TBD (3.4 a)を参照.)

T7. 設定値参照情報

TBD (3.4 b)を参照.)

T7.1 フォント

フォントの指定には,フォントリソース名が使用されることが多いが,フォントリソース名は一意にフォントを特定するものではない.フォント代替をも可能にするフォント参照(フォント特徴情報集合)データは,JIS X 4162に規定されているが,日本語フォントの参照には不十分である.

情報処理学会の試行標準が,日本語フォントの参照を可能にする規定[1],[2],[3]を開発中であり,このTSにはその規定の一部を導入することが望まれる.

注記 フォントデータそのものを交換情報と共に転送するフォントエンベッドを用いれは,フォント代替を考慮する必要はない.しかし交換情報量が増えるとともに,送り手と受け手の処理系の共通性が必要であり,個人化情報交換には不適切である.

T7.2 TBD

TBD

附属書A 既存の機器における設定項目および設定値範囲

既存の6機種について調査した設定項目および設定値範囲を次に示す.項目数が多いので,このページに表としては示さず,次の各項目にハイパリンクしたファイル(拡張子txt)として示す.

この附属書Aは,T5.の内容を決めるための調査データであり,TSの最終原案では削除される.このデータをもとにして,機種間で対応する設定項目および設定値範囲を調査し,そこから表1の標準的な設定項目及び設定値範囲を決定する.例えば表1に示される設定項目は,表2に例示される機種間での対応から求められる.この内容も,表2のキャプションにハイパリンクしたファイル(拡張子xlsx)として示す.

表2 機種間で対応する設定項目の例

附属書B 既存の機器の間で対応する設定項目

表2は例示にすぎないが,附属書Aに示された各機種について設定項目の対応関係を,N701iECOの設定項目を基準として求めた結果を次の各項目にハイパリンクしたファイル(拡張子xlsx)として示す.この附属書Bも,TSの最終原案では削除される.

4. むすび

INSTACにおける2年間にわたる個人化情報交換のための標準化調査研究の後を受けて,関連する幾つかの調査を行った.その概要を示すと共に,携帯電話における個人化情報のTSを作成するためのその後の調査結果を示した.これらが,今後の個人化情報交換の検討の一つのステップになることを期待する.

個人化情報設定を容易に行いたいという利用者要求は,機器の多機能化が進むほど強いものになろう.そこでこの標準的な交換可能個人化情報をサポートしていることは,今後の機器にとって大きな利点として優位性を主張できる.同系列の機種間では,すべての項目に適切な対応関係が成立するため,個人化情報の欠落の心配がなく,他社機種への買い替えをなるべく少なくしたいメーカにとって好都合な機能にもなり得る.

この標準的な個人化情報の交換の範囲を広げるためには,公的な標準化機関による個人化情報の標準化が望まれる.当然,国内だけの問題ではなく,国際標準化も視野に入れる必要があり,IEC/TC100等において近い将来,個人化情報交換を課題とすることが望まれる.

個人化情報交換は,これまで行ってきたような携帯電話,メーラ,テレビ等の機器分野に依存した交換だけでなく,機器分野をまたがる情報交換もあり得る.その場合の設定項目と設定付帯範囲とは,今後の検討課題である.

文献