画像電子学会
The Institute of Image Electronics Engineers of Japan
  年次大会予稿
Proceedings of the Meida Computing Conference

スマートフォンにおける個人化情報とその交換
Personalization information of smartphones and its interchange

後藤 竜也           溝端 恵実           小町 祐史
  Tatsuya GOTOH       Megumi MIZOBATA   and   Yushi KOMACHI

大阪工業大学情報科学部    Faculty of Information Science and Technology, Osaka Institute of Technology

E-mail: e1n08032@info.oit.ac.jp, †e1b09093@info.oit.ac.jp, ‡komachi@y-adagio.com

1. はじめに

多くの情報機器,特に情報家電機器は,さまざまな利用者要求の充足によって市場での優位性の獲得を図り,情報技術と製造技術の進歩がそれを支援し可能にしてきた.その結果,情報機器が利用者に提供されるとき,一人の利用者にとってその情報機器にはさまざまな設定可能な機能が提供される.利用者が頻繁に利用する機能は,次のように分類される.

情報機器の提供を受けた初期状態では,これらの多くの機能は工場出荷時の設定のまま利用されるが,各機能の利用実績を重ねるにつれて,利用者は1)〜3)の機能を利用者固有の設定にしていく.この設定情報を個人化情報と呼ぶ.個人使用の機器については,機器の台数を増やす時,または機器を取り換えるとき,この設定は繰り返される.複数の利用者が利用する機器については,利用者が変わる時,この設定の変更が望まれる.

情報機器の多機能化に伴い,1)〜3)の機能も増加している.その結果,これらの機能の設定に多くの作業時間を要することになり,個人化情報を交換可能な情報とし,その情報を用いて機器の機能設定を可能にする機能が望まれるようになった.

機種が異なれば機能も設定可能範囲も異なり,機能,設定値範囲の表記も異なり得る.そこで上記要望を満たすためには,多くの利用者にとって1)〜3)に分類される機能を洗い出し,その機能について多くの利用者を満足させることができる設定値範囲を求めて,それらの記述方法を取り決める必要がある.

日本規格協会(JSA)はいち早くこの課題を取り上げ,2008年度から"個人化情報交換のための標準化調査研究委員会"を設立して,標準化を視野に入れた情報交換の対象としての個人化情報の調査・研究を行っている[1].2008年度においては, 個人化情報の利用事例が調査され,2009年度には幾つかの個人化情報のプロパティの分類が行われている.

JSAでの調査研究に続いて,これまでに従来型の携帯電話(いわゆるガラケー)については,既存機種の機能の調査が行われて[2][3],交換可能な個人化情報の案(TS素案)が示されている[4].しかしスマートフォンについては,報告されていない.そこでここでは,スマートフォンに着目して,既存の主要な機種について,1)〜3)に分類される機能を洗い出し,個人化情報としての扱いを検討する.

2. 個人化情報の抽出

これまでの個人化情報は,交換対象データとして必ずしも独立した機器非依存データにはなっていないが,既に多くの情報機器において多くの利用者がその設定を行っている.既に多くの機器利用実績のある分野については,幾つもの機器に設定されたそれらの情報を調べることによって,その機器分野の個人化情報を洗い出すことができる.

ここではスマートフォン(iPhone 3GS,Galaxy S(SC-02B),IS03)をとりあげ,以前に行ったガラケーに関する調査[2][4]と同様に,スマートフォンの利用者が設定した利用中の設定項目と設定内容とを調査し,異機種間で対応する設定項目を,設定木における位置と共に整理した.

スマートフォンについては,ガラケーと共通する設定項目に加えて,スマートフォン固有(ガラケーに必ずしも無いわけではない)の設定項目がある.それぞれについて,代表的な設定項目を次に例示する.

2.1 ガラケーと共通する設定項目

表1 機種間で対応する設定項目(一部)
機種Galaxy SiPhone 3GSIS03
設定項目(1)/
設定木内位置/
設定値例
3. サウンド設定
3.1 一般
3.1.3 音量
3.1.3.1 着信音
設定: レベル7(スライド設定)
4. サウンド
4.2 着信音と通知音
4.2.1 音量
設定: level 15(スライド設定)
4. サウンド&画面設定
着信音量
設定: 7段階(サイドボタン設定)
設定項目(2)/
設定木内位置/
設定値例
3. サウンド設定
3.3 通知
3.3.1 通知着信音
設定: Sherbet(初期設定)
4. サウンド
4.2 着信音と通知音
4.2.4 着信音
設定: マリンバ(初期設定)
メール
共通設定
受信表示設定
音・バイブ・ランプ
メロディ
設定: メールメロディ1(初期設定)

表2 ガラケーにおける表1の設定項目(一部) [4]
機種N701iECOF-08AKK-B01
設定項目(1)/
設定木内位置/
設定値例
1. 着信
1.1 着信音量
1.1.1 電話
設定:レベル6(初期設定:レベル4)
1. 音/バイブ
1.2 音量設定
1.2.1 電話着信・受話音量
1.2.1.1 電話着信音量
音量:Level6(初期設定:Level4)
5. サウンド設定
5.3 受話音量
設定:レベル3(初期設定)
設定項目(2)/
設定木内位置/
設定値例
1. 着信
1.2 着信音選択
1.2.3 メール
1.2.3.1 着信音
設定:ランダムメロディ(初期設定)
1. 音/バイブ
1.1 音設定
1.1.2 メール・メッセージ着信音
1.1.2.1 メール着信音
設定: 着信音2,鳴動時間: 10秒(初期設定)
3. 着信パターン
3.3 メール
メロディ:鳴ってるよ(初期設定)

2.2 スマートフォン固有の設定項目

表3 機種間で対応する設定項目(一部)
機種Galaxy SiPhone 3GSIS03
設定項目(21)/
設定木内位置/
設定値例
11. 音声入出力
11.1 音声入力
11.1.1 音声認識設定
11.1.1.1 言語
設定: 日本語
9. 言語環境
9.2 音声コントロール
設定: 日本語(初期設定)
14. 音声入出力
14.1 音声認識装置の設定
設定:
設定項目(22)/
設定木内位置/
設定値例
3. サウンド設定
3.4 フィードバック
3.4.3 スクリーンロック音
設定: オフ/オン
4. サウンド
4.2 着信音と通知音
4.2.9 ロック時の音
設定: オフ/オン
4. サウンド設定
4.13 画面ロックの音
設定: オフ/オン

3. 交換対象としての個人化情報

多くの機種にほぼ共通して用意されている設定項目については,標準的な設定項目と設定値範囲を設け,各機種においてその機種の設定項目・設定値範囲と標準的な設定項目・設定値範囲との対応関係を決めておけば,標準的な設定項目と設定値を介することによって,同機種ではもちろんのこと,異機種についても機器間での個人化情報の交換が可能になる.なお,異機種間では必ずしもすべての項目に適切な対応関係が成立するとは限らないため,個人化情報の欠落があり得る.

標準的な設定項目と設定値範囲については適切な標準的表現・表記が望まれる.表1,表2,表3に示された項目に関する標準的な記述例を表4に示す.設定項目の配列体系は機種ごとに異なるので,標準的な設定項目についても標準的な体系に配列されることが望ましい.個人化情報を標準的な設定項目と設定値範囲の集合として既定し,必要に応じてその各要素を標準的な体系に配列したデータが,交換対象としての個人化情報である.

表4 標準的な記述例
表1, 2, 3に対応する項目 標準的な記述例(設定項目名/設定値範囲)
設定項目(1) 電話着信音量
lebel, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8
設定項目(2) メール着信音
sound1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8 (注1)
  注1 このような複雑な設定値を高い交換性をもって指定するには,
      文献[3]に示される参照属性が必要となる.
...
...
設定項目(21) 音声認識対象言語
日本語,英語,中国語,ドイツ語,フランス語
設定項目(22) 画面ロック指示音
OFF, ON

4. むすび

携帯電話,特にスマートフォンに着目してそこに設定されている個人化情報の抽出を試み,機種に依存しない交換可能な情報としての個人化情報について検討した.スマートフォン固有の設定項目の数は多くはないが,市場での競争によって今後増加することになろう.

個人化情報設定を容易に行いたいという利用者要求は,機器の多機能化が進むほど強まる.そこでこの標準的な交換可能個人化情報をサポートしていることは,今後の機器にとって大きな利点として優位性を主張できる.同系列の機種間では,すべての項目に適切な対応関係が成立するため,個人化情報の欠落の心配がなく,他社機種への買い替えをなるべく少なくしたいメーカにとって好都合な機能にもなり得る.

この標準的な個人化情報の交換の範囲を広げるためには,公的な標準化機関による個人化情報の標準化が望まれる.IEC/TC100(Audio, video and multimedia equipment and systems)においては,今後の標準化課題の議論[5]の中でその検討が開始されている.

文献