画像電子学会 The Institute of Image Electronics Engineers of Japan | 年次大会予稿 Proceedings of the Meida Computing Conference |
大阪工業大学 | Osaka Institute of Technology |
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大型ディスプレイの価格低下により,ディジタルサイネージ等のさまざまな展示に大型ディスプレイが利用されはじめている[1].通常のテレビ,コンピュータディスプレイ等での表示内容は,多くの場合,一人またはごく少人数によって,画面の正面から画面に近い距離でレビューされるが,大型ディスプレイでの表示内容は,複数人によって,画面から離れた位置で必ずしも正面ではない位置においてレビューされることが多い.
このようなレビュー環境での文字列の見易さについては,必ずしも充分な検討が行われていない.そこでここでは,大型ディスプレイで表示される複数行テキストの文字列を,正面ではなく画面から離れた位置から見るときに問題となる,テキストを構成する文字列の見易さの低下について,実験的に調査し[2][3],それへの対処案を検討する.
大型ディスプレイに表示してさまざまな位置からの見易さを調査するための試験用テキストとして,昨年度年次大会のポスターに採用されている図1のテキストを用い,表1の試験環境で調査を行った.
![]() 図1 試験用テキスト |
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図2に示すとおり,ディスプレイの画面中心からの法線方向に1.2 mおよび2.4 m離れた点A(0), B(0)を画面のレビュー位置とする.さらに法線方向から水平に15°ずつ移動したレビュー位置を,A(15), A(30), A(45), A(60), A(75),B(15), B(30), B(45), B(60), B(75)として,それらのレビュー位置から,4名の被験者P1, P2, P3, P4に画面上の試験用テキストを見てもらい,もっと前に回り込んで読みたいと感じるほど見づらいレビュー位置を"×"で評価してもらう.その結果を表2に示す.
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法線方向からの角度が45°以上では,多くの被験者が見づらさを指摘しており,その傾向は画面中心からの距離が小さい方が顕著である.これは法線方向からの角度が大きくなるほど,レビュー位置から行頭までの距離と行末までの距離との差が大きくなることによる.これに伴って,
この見づらさを緩和するために,画像処理による対処を考え易い1)に着目する.1)による見づらさを確認するため,図1のテキストに対して,透視図法を用いてレビュー位置からのテキストビューを生成し,レビュー位置でのテキストの写真と比較して図3に示す.
![]() a1) 透視図法によるA(15)でのテキストビュー |
![]() a2) A(15)で撮影したテキスト
| ![]() b1) 透視図法によるA(30)でのテキストビュー
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| ![]() b2) A(30)で撮影したテキスト
| ![]() c1) 透視図法によるA(45)でのテキストビュー
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| ![]() c2) A(45)で撮影したテキスト
| ![]() d1) 透視図法によるA(60)でのテキストビュー
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| ![]() d2) A(60)で撮影したテキスト |
焦点のずれを除き,透視図法を用いたレビュー位置からのテキストビューは,レビュー位置で撮影したディスプレイ上のテキストの文字および文書スタイル(行および行間)の見え方と一致している.そこで,レビュー位置からのテキストビューを正面からのテキストビューに近似させるように,オリジナルテキストを変形させた補正テキストをディスプレイに表示させることによって,レビュー位置での見易さの向上を試みる.
レビュー位置でのテキストビューを,正面からのテキストビューに近似させる方法として,オリジナルテキストを透視図法の逆変形(ただし水平方向に関しては,ディスプレイ上の表示域を越えるため,変形しない.)を施した補正テキストを表示させ,レビュー位置からの文字列の見易さを調べる.
![]() a) A(15)で撮影した補正テキスト |
![]() b) A(30)で撮影した補正テキスト
| ![]() c) A(45)で撮影した補正テキスト
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| ![]() d) A(60)で撮影した補正テキスト |
図3のa2), b2), c2), d2)と,それらに対応する図4のa), b), c), d)とを比較すると,明らかに後者の方が見易さは向上している.しかしこれは特定のレビュー位置への対応に限定される.
広がった位置に分布する閲覧者への対処として,各レビュー位置に対応する補正テキストを時間的に走査して,どのレビュー位置でも正面からのテキストビューに近似したテキストを見ることができる時間があるようにする.
適切な走査時間は表示内容も文字数,行数に依存するため,図5に示す8行, 5行, 3行から成る試験用テキストを用い,A(0)〜A(60)の各レビュー位置に対応する補正テキストを,t秒(t = 0, 1, ...)ずつ順次表示して,どの位置においても見易い時間を用意した.走査時間(t)による見易さの結果を表3に示す.
![]() 8行テキスト |
![]() 5行テキスト |
![]() 3行テキスト |
行数 | 走査時間 t(s)
1
| 2
| 3
| 4
| 5
| 6
| 7
| 8
| 9
| 10
| 11
| 12
| 13
| 14
| 15
| 3
| × | × | △ | ○ | ○ | △ | △ | × | × |
| 5
| × | × | △ | △ | ○ | ○ | △ | △ | × | × |
| 8
| × | × | △ | △ | ○ | ○ | △ | △ | × | ×
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大型ディスプレイに表示された複数行のテキストを,正面ではなく画面から離れた位置でレビューする際のテキストの見易さの低下を実験的に調査し,法線方向からの角度が45°以上になると見づらくなることを確認した.
特定位置の閲覧者に対しては,オリジナルテキストを透視図法の逆変形を施した補正テキストをディスプレイに表示させることによって,見易さを向上させ得ることを確認し,さらに補正対象角度を時間的に変化させることによって,どの位置においても見易い時間があるようにして,広がった位置に分布する閲覧者に対するサービスの均一化を図れることを提案した.
単一行に多くの文字列を表示させる際にしばしば用いられる走行文字列[4]に関しても,正面ではなく画面から離れた位置でレビューする際のテキストの見易さの低下について,同様の実験的検討[3]が行われている.