3 ブロードバンドとモバイル
3-1 インタネットメディア

小町 祐史 (松下電送システム(株))

1. まえがき

インタネットメディアに関する最近の2年間の動向について概観する。インタネットの動向調査研究として, 筆者を含む数名の委員による活動がある。本稿は, その活動の報告書[1],[2]に示された要点を中心にまとめた。

2. 常時接続

常時接続によるインタネットアクセスの普及が進んでいる。アナログ電話回線を利用することによって,特に大きな設備工事が不要であるという導入の容易さから,DSLサービス契約数の増加は著しい。総務省が発表した資料[3]によれば,2001年1月のDSLサービス契約数は16,194 件であったが,10月には921,867件になっている。これだけ多くのインタネット利用者が,ブロードバンドによってインタネットに接続された結果,その特徴を活かしたコンテンツの開発, およびコンテンツの提供・配信方法が次の課題としてクローズアップされる。

常時接続(または,定額料金接続)を活用したコンテンツとして,ネットワーク利用の対戦型または共同参加型のゲーム,およびインスタントメッセージが期待されている。

DSL以外にも,CATV,光ファイバ,無線によってブロードバンド常時接続サービスを提供する事業者の活動も活性化している。事業者間の競争によって, 接続のための機器の価格, サービス料金が低下した。しかし郊外や過疎地では, ブロードバンドサービスが提供されないとか,提供されても十分な通信品質を維持できないという問題が起きている。

常時接続の普及に伴うもう一つの問題にセキュリティがある。利用する短時間だけに限定したネットワーク接続においては,セキュリティに無防備であっても,被害を受ける危険は少なかった。常時接続においては,悪意ある侵入者がデータを盗用・改ざんをする危険が常にある。したがって,ホームパソコンにもファイアウォールを設置するなどの対策が必要になっている。

3. ブロードバンドコンテンツ配信

ブロードバンドを利用したコンテンツの中心的課題は,動画配信, 音楽配信などのメディアコンテンツ配信である。メディアコンテンツ配信によって収益を上げるには,次の課題の解決が必要である。
a) コンテンツの調達と管理
b) コンテンツの配信
c) 対価徴収と顧客管理
そこで, コンテンツのアグリゲータの立上げが進められている。アグリゲータは, ネットワークの運営から切り分けられたa)〜c)の機能を代行する。

ネットワーク基盤を維持・管理するインフラ事業者,インフラを借り受けて利用者にインタネットサービスを提供するアクセス事業者,およびそのアクセスを経由して利用者にコンテンツを提供するコンテンツ事業者という三つのサービス区分が明確になり,それぞれの事業の分離が促進されている。

アグリゲータ業界としての動きとして, 統合メディア・コンテンツ・コンソシアム(IMCC)[4]の設立がある。それは, JENS,ソニー,日本ヒューレット・パッカードなどが中心となって,ブロードバンドコンテンツのプラットフォーム化とビジネス化とを推進している。

4. モバイルコンテンツ関連規定の主要トピック

モバイル機器の普及に伴い, モバイル環境に適合したコンテンツ関連規定が検討されている。

4.1 Compact-HTML

携帯電話, モバイルPDAなどの表示用に機能を限定したHTML3.2をベースにしたマーク付け言語である[5]。HTMLのサブセットに位置付けられ,既存のHTMLリソースやツール類を活用できる。

4.2 i-mode対応HTML

Compact-HTMLの機能をi-mode用に強化したマーク付け言語である[6]。基本のi-mode対応HTML1.0,当初の機種向けのi-mode対応HTML2.0,最新の機種向けのi-mode対応HTML3.0に分類される。

4.3 WML1.x

カード&デックモデルによる携帯電話のコンテンツ記述および転送プロトコル記述のためのXMLベースのマーク付け言語[7]である。

4.4 WAP2.0

WAP2.0[8]は, XHTMLモバイルプロファイル,WAP CSS,WML1.xモジュールから構成される。XHTMLモバイルプロファイルは,XHTML Basicをコアとして, XHTML拡張モジュールを追加している。XHTML拡張モジュールは,i-mode対応HTMLとの互換性を確保するためのタグとスタイルシート拡張用のタグとから構成される。WAP CSSは,W3CのCSS2モバイルプロファイルを基本とし,それにi-mode対応HTMLとの互換性を確保するための機能を追加している。WML1.xモジュールは,WML1.xとの後方互換性を確保するために使用する。

5. XML関連技術の標準化

その後もXML関連技術の規定は着実に整備されている。W3Cでは,XMLの文書型定義(DTD)の不備を補うXML正規言語記述として,XML Schemaが公表された。XML関連規定として強く要求されていたXlinkとXSLも勧告となり,XML利用環境が整い始めている。

5.1 W3Cにおける活動

(1) XML Schema

DTDは構文解析が容易でなく, DTDを処理するツールが作り難い上, 基本的なデータ型がないという問題がある。そこで, この問題を解決できる正規言語記述が望まれていた。W3C勧告XML Schema[9]は, これらの市場要求に応えるものである。

XML Schemaは, XML文書の構造を記述し, 制約とデータ型を規定する。Part 0は, この言語の機能の導入を行い, 具体例によってその機能内容を示す。Part 1は, XML 1.0文書の内容を制約する機能を提供するXML Schema定義言語, 名前空間機能を規定する。Part 2は, XML Schemaにおいて用いられるデータ型について, 型システム, 組込みデータ型, データ型の構成要素を規定する。

国内では, Part 0〜Part 2に対応する次の標準情報が公表されている。
- TR X 0054:2002, XMLスキーマ 第0部 基本
- TR X 0063:2002, XMLスキーマ 第1部 構造
- TR X 0064:2002, XMLスキーマ 第2部 データ型

(2) XLink 1.0

ウェブ環境の普及に伴って, ウェブ文書に対するリンク付け機能の高度化が利用者から強く望まれている。W3C勧告XLink 1.0[10]はこれらの要求に対して標準的な方法での充足を与えるものであり, ほとんどのXMLアプリケーションの一層の普及を可能にする。

Xlinkは, リソース間のリンクを生成し記述するためのXML文書中の要素を規定し, XML文書に次の機能を与える。
- 三つ以上のリソース間のリンク関係の記述
- メタデータとの関連付け
- リンク付けされたリソースから分離した位置にあるリンク

国内では, 標準情報TR X 0076:2002, XMLリンク付け言語(XLink) 1.0として公表される予定である。

(3) XSL 1.0

構造化文書のスタイル指定の標準化は, レンダリング結果を保存した編集可能文書の交換に際して必要になる。これまで, SGML文書に対するスタイル指定を行う言語としてDSSSL(Document Style Semantics and Specification Language)があり, 既に幾つかの処理系で利用されてきた。同様のスタイル指定をウェブ環境で行うための言語への要求が強く, W3CでXSLの開発が行われた。構造変換に関する部分は,すでにXSLTとして勧告が公表されている。

W3C勧告XSL[11]は, XML文書に対するスタイルシートを記述する。このスタイルシートを使って, フォーマタはXML文書に指定されたレンダリングを実行できる。フォーマット化セマンティクスは,フォーマット化オブジェクトのクラスのカタログにより表現される。

国内では, XSLTに対応する標準情報TR X 0048:2001, XSL変換(XSLT) 1.0が既に公表され, XSLに対応する標準情報(TR)の原案作成が日本規格協会のINSTACで進められている。

(4) Semantic Web

次世代ウェブを概観するSemantic Web[12]のプロジェクトが活動を開始した。RDF(Resource Description Framework), DAML(DARPA Agent Markup Language), OIL(Ontology Inference Layer)などの規定との整合が検討されていて,今後の展開が期待される。W3Cの中では, Web Ontology Working Groupが具体的な活動を開始している。

5.2 OASISにおける活動

(1) ebXML

ebXML[13]は,OASIS(Organization for the Advancement of Structured Information Standards)とUN/CEFACTが推進する次世代のEコマース(B2B)規定である。インタネットを用いて世界中のあらゆる規模の企業が使用できる規定となることを狙う。これまでの成果をオーストリアのウィーンで開催された会議で承認し,今後の基本規定として位置付けた。技術的な検討を担当するグループとして技術委員会(Technical Committee)が発足している[14]。

旅行業界のコンソシアムであるOTA(Open Travel Alliance)は, ebXMLを採用することを表明し,ebXMLの実用化を推進している[15]。

(2) RELAX NG

RELAX NG[16]は, 村田らによるRELAX(ISO/IEC TR 22250-1)とJames ClarkによるTREXとを整合させたXML正規言語記述の規定である。DTD,XML Schemaの問題点の解消が図られている。

5. むすび

ブロードバンド常時接続によってインタネットは一層多くの利用者を獲得し, 新しいサービスとコンテントとを生み出している。それに伴ってそれらを円滑に運用するための各種規定の検討が進められ, その充実はさらに新たなサービスへの期待に繋がっている。

冒頭に示した日本規格協会 INSTACの委員会のメンバの方々に感謝する。

文献

[1] 平成12年度 次世代ネットワークの標準化に関する調査研究委員会 報告書, 日本規格協会 INSTAC, 2001-03.
[2] 平成13年度 次世代コンテンツの標準化に関する調査研究委員会 報告書, 日本規格協会 INSTAC, 2002-03.
[3] http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/whatsnew/dsl/
[4] http://www.rbbtoday.com/news/20011207/5726.html
[5] http://www.w3.org/TR/1998/NOTE-compactHTML-19980209/
[6] http://www.nttdocomo.co.jp/mc-user/i/tag/
[7] http://www.wapforum.org/what/technical_1_2_1.htm
[8] http://www.wapforum.org/what/WAPWhite_Paper1.pdf
[9] http://www.w3.org/XML/Schema
[10] http://www.w3.org/TR/2001/REC-xlink-20010627/
[11] http://www.w3.org/TR/2001/REC-xsl-20011015/
[12] http://www.w3.org/2001/sw/WebOnt/
[13] http://www.ebxml.org/news/pr_20010514.htm
[14] http://www.oasis-open.org/news/oasis_news_06_21_01.shtml
[15] http://www.ebxml.org/news/pr_20010801.htm
[16] http://www.oasis-open.org/committees/relax-ng/