画像電子学会研究会講演予稿原稿用紙
(様式 1r)
 

ケータイの個人化情報交換における複雑な設定値の表現

有吉 勇二     小町 祐史

大阪工業大学情報科学部    〒573-0196 枚方市北山 1-79-1
E-mail: †e1n07003@info.oit.ac.jp     ‡komachi@y-adagio.com

あらまし  個人化情報交換における設定項目には,フォント,着信メロディなどのように,多次元の物理量で設定値が指定される設定項目かあり,代替設定値の特定も可能にするためには設定値参照情報(特徴情報集合)の導入が必要である。そこでケータイの個人化情報交換におけるイルミネーションパターンと着信メロディに関する設定値参照情報を検討する。

キーワード  個人化情報,携帯電話,設定項目,イルミネーションパターン,着信メロディ


Complex values representation in personalization information interchange of mobile phones

Yuji ARIYOSHI     Yushi KOMACHI

Faculty of Information Science and Technology, Osaka Institute of Technology
1-79-1 Kitayama, Hirakata, Osaka 573-0196 Japan
E-mail: †e1n07003@info.oit.ac.jp     ‡komachi@y-adagio.com

Abstract  In personalization information interchange, some functional properties, e.g., font and ringtone require to be represented using multi-dimensional property values. In order to realize an alternative representation of those property values, property value reference information (a set of characteristic information) should be indispensable. This paper proposes property value reference information to interchange an illumination pattern and ringtone of mobile phones.

Keyword  personalization information, mobile phone, functional property, llumination pattern, ringtone


1. はじめに

多くの情報機器,特に情報家電機器は,さまざまな利用者要求の充足によって,市場での優位性の獲得を図り,情報技術と製造技術の進歩がそれを支援し可能にしてきた.その結果,情報機器が利用者に提供されるとき,一人の利用者にとってその情報機器にはさまざまな設定可能な機能が提供され,利用者が頻繁に利用する機能は次のように分類される.

情報機器の提供を受けた初期状態では,これらの多くの機能は工場出荷時の設定のまま利用されるが,各機能の利用実績を重ねるにつれて,利用者は1)〜3)の機能を利用者固有の設定にしていく.この設定情報を個人化情報と呼ぶ[1][2].

個人使用の機器については,機器の台数を増やす時,または機器を取り換えるとき,この設定は繰り返される.複数の利用者が利用する機器については,利用者が変わる時,この設定の変更が望まれる.

情報機器の多機能化に伴い,1)〜3)の機能も増加している.その結果,これらの機能の設定に多くの作業時間を要することになり,個人化情報を交換可能な情報とし,その情報を用いて機器の機能設定を可能にする情報機器が望まれるようになった.

機種が異なれば機能も設定可能範囲も異なり,機能,設定値範囲の表記も異なり得る.そこで上記要望を満たすためには,多くの利用者にとって1)〜3)に分類される機能を洗い出し,その機能について多くの利用者を満足させることができる設定値範囲を求めて,それらの記述方法を取り決める必要がある[3][4].

2. 交換対象としての個人化情報

多くの機種にほぼ共通して用意されている設定項目(プロパティ)については,標準的な設定項目と設定値(プロパティ値)範囲を設け,各機種においてその機種の設定項目・設定値範囲と標準的な設定項目・設定値範囲との対応関係を決めておけば,標準的な設定項目と設定値を介することによって,同機種ではもちろんのこと,異機種についても機器間での個人化情報の交換が可能になる.なお,異機種間では必ずしもすべての項目に適切な対応関係が成立するとは限らないため,個人化情報の欠落があり得る.

標準的な設定項目と設定値範囲については適切な標準的表現・表記が望まれる.設定項目の配列体系は機種ごとに異なるので,標準的な設定項目については標準的な体系に配列し,機種ごとの設定項目の配列の対応の参照とすることが望ましい.

個人化情報を標準的な設定項目と設定値範囲の集合として既定し,その各要素を標準的な体系に配列したデータが,交換対象としての個人化情報であり,規定として提案する内容である.

3. 複雑な設定値の表現

設定値が,音量レベル(level 1, 2, ... 8),設定(on, off)などのように,1次元の物理量で表現される設定項目については,設定値の指定は容易である.しかし携帯電話の着信音楽,フォントなどのように,多次元の物理量の組み合わせで設定値が指定される設定項目については,設定値の指定には多くの設定値が並ぶことになる.

そのような設定項目の多くの設定値の組合わせを代表して表わす一つの識別子である代表識別子(音楽のタイトル,フォントリソース名など)の利用も可能であるが,代表識別子は多くの設定値の組合わせの特徴を示すわけではなく,その代表識別子が表わす多くの設定値の組合わせが受領システムにない場合には,代表識別子だけでは代替処理を行うことができない.

その設定項目の設定値が示す情報そのものを交換対象にエンベッドできれば,代替を行わなくてもよいが,その設定項目の設定値が示す情報の量が大きくなると(例えば音楽,フォントなどの場合),情報交換に支障をきたす.代替設定値の特定を可能にするためには,設定値参照情報(特徴情報集合)の導入が必要である[3].

4. 複雑な設定値の表現例
4.1 フォント参照

例えばフォントについては,フォントリソース名は一意にフォントを特定するものではない.フォント代替をも可能にするフォント参照(フォント特徴情報集合)データについては,それ自体,独立した規格として制定され[5][6][7],さらに機能の追加も検討されている[8].しかし携帯電話への実装例はまだない.フォントデータそのものを転送するフォントエンベッドは,交換情報量が増えるとともに,送り手と受け手の処理系の共通性が必要になる.

4.2 その他

携帯電話の音楽系着信メロディ等についても同様である.音楽のタイトルは一意に音楽を特定するものではない.音楽代替を可能にする音楽特徴情報集合の定義が必要であるが,音楽特徴情報はフォント特徴情報よりさらに複雑である.

それでここでは携帯電話のイルミネーションパターンおよび非音楽系着信メロディに着目し,現状の携帯電話に実装されている代表識別子と,それに対応する多くの設定値の組合わせの特徴を調べて,特徴情報集合の記述方法を検討する.

5. イルミネーションパターン
5.1 現状の携帯電話での設定例

(1) 三洋電機 W54SA

設定項目 ランプ
 設定値 / 設定内容
  パターン1 / 10秒間に20回点滅, 明:暗=1:1
  パターン2 / 10秒間に10回点滅, 明:暗=1:1
  パターン3 / 10秒間に15〜16回点滅, 明:暗=3:4 
              (3の倍数回目の点滅が他の点滅より長い.) 
  パターン4 / 10秒間に5〜6回点滅, 明:暗=1:1 
              (グラデーション)
  パターン5 / 10秒間に3回点滅, 明:暗=3:2 
              (グラデーション)
設定項目 カラー選択
 設定値 / 設定内容
  カラー1 / 紫
  カラー2 / 青
  カラー3 / 黄
  カラー4 / 水
  カラー5 / 緑
  カラー6 / 白
  カラー7 / 赤
  ALL / 赤→黄→緑→水→青→紫→赤→ (繰返し)
(2) 東芝 W52T

設定項目 色設定
 設定値 / 設定内容
  カラー1 / 緑
  カラー2 / 水
  カラー3 / 青
  カラー4 / 紫
  カラー5 / 赤
  カラー6 / 黄
  カラー7 / 白
  イルミネーション1 / 緑→紫→白
  イルミネーション2 / 赤→黄→白
  イルミネーション3 / 白→黄→赤→紫
                      →青→水→緑
設定項目 パターン
 設定値 / 設定内容
  パターン1 / 10秒間に10回点滅, 明:暗=1:1
  パターン2 / 10秒間に10回点滅, 明:暗=1:1
  パターン3 / 10秒間に20回点滅, 明:暗=1:1
  パターン4 / 10秒間に34〜36回点滅, 明:暗=3:1 
              (3回点滅の後に暗くなることの繰返し)
  パターン5 / ずっと点灯, 明:暗=1:0
(3) カシオ W41CA

設定項目 色設定(項目名なし)
 設定値 / 設定内容
  LED1:黄
  LED2:青
  LED3:緑
  LED4:桃
  LED5:水
  3色:赤→緑→青
  全色:黄→青→緑→桃→水
設定項目 パターン設定(項目名なし)
 設定値 / 設定内容
  フラッシュ1 / 10秒間に50回点滅, 明:暗=1:1
  フラッシュ2 / 10秒間に20回点滅, 明:暗=1:1
  フラッシュ3 / 10秒間に10回点滅, 明:暗=1:1
  フェード1 / 10秒間に10回点滅, 明:暗=1:1
              (光り方がグラデーション)
  フェード2 / 10秒間に5回点滅, 明:暗=1:1 
              (光り方がグラデーション)
  フェード3 / 10秒間に3回点滅, 明:暗=3:2 
              (光り方がグラデーション)
  グラデーション1 / 暗なし (違いを識別し難い.)
  グラデーション2 / 暗なし (違いを識別し難い.)
  グラデーション3 / 暗なし (違いを識別し難い.)
  レインボー / 暗なし (光り方の違いを識別し難い.)
(4) SONY W21S

設定項目 着信ランプ
 設定値 / 設定内容
  スタンダード / 緑, 10秒間に4回点滅, 明:暗=1:1
  ハッピー / 黄→橙→赤, 緑 (繰返し), 
             10秒間に10回点滅, 明:暗=1:1
  ヒーリング / 桃→紫→赤, 
               10秒間に3回点滅, 明:暗=3:2
  リラックス / 緑→黄 (繰返し), 
               10秒間に10回点滅, 明:暗=1:1
  トランス / 桃→紫→青→水→緑→黄→赤 (繰返し), 
             暗なし
  クール / 水→緑→青 (繰返し), 
           10秒間に2回点滅, 明:暗=2:1
  オリジナル1 / 赤, 10秒間に4回点滅, 明:暗=1:1
  オリジナル2 / 緑, 10秒間に4回点滅, 明:暗=1:1
  オリジナル3 / 青, 10秒間に4回点滅, 明:暗=1:1
  オリジナル4 / 黄, 10秒間に4回点滅, 明:暗=1:1
  オリジナル5 / 紫, 10秒間に4回点滅, 明:暗=1:1

5.2 特徴情報集合の記述案

基本色LEDのON/OFF信号波形に関する次のパラメータを指定する[9].


図1 基本色LEDのON/OFF信号波形

6. 着信メロディ

機器に内蔵されている着信メロディを指定する設定値は,イルミネーションパターンの場合と同様に代表識別子であって,ほとんど着信メロディの特徴を表わすものではない。例えばパターン1, パターン5,チャイム3,着信音2などである。限られた数の設定値を順次指定して,各メロディを実際に聞いて,希望する着信メロディを指定する場合には,このような代表識別子で充分であるが,個人化情報の交換のための設定値としては利用できない。

しかし着信メロディを構成する要素は,イルミネーションパターンの場合よりはるかに多く,着信メロディの分析によって要素を求めることは適切ではない。そこで個人化情報の交換におけるかなりの揺れを認めた上で,着信メロディの分類によってメロディの絞り込みを試みた。

非音楽系着信メロディの分類案を次に示す。

(1) 固定電話系
電子音で構成された高低のない音。
電子音で構成された呼出し音。
黒電話のような金属音。
(2) アラーム
(3) 時報
(4) 効果音
音階がない単調な音
(5) 動物の鳴き声
昆虫

音楽系着信メロディについては,調査した機種に関しては,J-POP,ロック,HIPHOP・R&B,テクノ・トランス,クラシック・吹奏楽,演歌・和風,洋楽などに分類できそうであるが,さまざまな配信業者が多様な着信メロディを用意しており[10],さらに検討を必要とする。

7. むすび

個人化情報交換における複雑な設定値の表現において,設定値参照情報(特徴情報集合)の導入の必要性を示し,携帯電話のイルミネーションパターンおよび非音楽系着信メロディを取り上げて,現状の携帯電話に実装されている代表識別子と,それに対応する多くの設定値の組合わせの特徴を調べ,それらの特徴情報集合の記述案を提示した.

携帯電話の音楽系着信メロディなどのさらに複雑な設定値についての特徴情報集合の記述は今後の課題である.

文献