書評

村田 真(編著)
XML入門: HTMLの限界を打ち破るインターネットの新技術

日本経済新聞社, 1998, 216p, 2800円
ISBN4-532-14610-0


小町 祐史
松下電送システム(株)


文書の構造を記述する言語として, SGML(Standard Generalized Markup Language, 標準一般化マーク付け言語)が国際規格になったのは, 1986年であった。この言語は, さまざまな組織の出版物の記述に採用され, 多くのツール類が開発されてきたが, その圧倒的な普及は, HTML(HyperText Markup Language)と呼ばれるSGMLのDTD(Document Type Definition, 文書型定義)がウェブ環境における文書記述に用いられてからであった。

HTMLは, その単純さが文書記述を極めて容易にし, しかも関連ツールの開発も容易にして, 大量のハイパテキストがネットワーク上に蓄積され, また逆にこれがインターネットの普及を促進することにもなった。しかしこの大量普及の当然の結果として, HTMLでは記述できない, または記述しにくい文書がクローブアップされることとなり, HTMLと同様の手軽さでSGMLと同様の文書記述を行いたいというユーザ要求が強まってきた。

この要求に応えることを目的としてW3C(World Wide Web Consortium)が開発した記述言語がXML(Extensible Markup Language, 拡張可能なマーク付け言語)であり, SGMLのサブセットに位置付けられる。つまりXMLは, HTMLでは扱えない文書構造をDTDを定義することによってサポートし, これまでのHTML処理系と同様に, DTDが与えられなくても処理を可能としている。W3Cは1996年末に最初のXMLドラフトを発表すると共にその更新を続け, 1998年2月にその勧告を制定した。

本書は, このXMLを解説するだけでなく, その周辺技術をバランスよく紹介したものであり, 8つの章と3つの付録とによってXMLの全体像を明確にしている。編著者は, W3CのXML開発グループの主要メンバとして, その開発作業に参加してきた。従って, 本書の記述には, XMLの開発に参加した者ならではの内容が含まれ, 単なる言語解説書を越えた書物となっている。

第1章は具体的な例によってHTMLの限界を示し, それを解決するためのXMLの基本方針“独自にタグを設けられるような体系的な枠組みを作る”を明らかにしている。さらに, 従来の文書のコンセプトを拡大した機械可読文書に関する新たなアプリケーションに言及している。

XMLの言語規定の制定を待たずに, CDF(Channel Definition Format)に基づくウェブキャスティング, OSD(Open Software Description)という形式を用いたソフトウェアの自動更新などのXMLアプリケーションが既に実用化されている。第2章は, これらのアプリケーションの動作を, 図を用いて平易に解説している。

第3章において, 始めて記述言語としてのXMLの内容が示される。多くの言語の解説書は, 言語規定を利用するプログラマを対象として書かれるため, 非常に読み進み難いが, 本書の編著者はその辺りの事情を熟知しており, 具体的な記述例を用いて記述言語の非専門家にも理解できる工夫が施されている。章末では, XMLの開発を行っているW3Cの組織と活動についても, 触れられている。

第4章では, XML文書のためのリンク記述言語として開発されつつあるXLL(Extensible Linking Language)と, XML文書にスタイル指定を行うためのXSL(Extensible Stylesheet Language)の現状とを報告している。XMLがSGMLのサブセットであるのと同様に, XLLは機能的にHyTime(Hypermedia/Time-based Structuring Language)のサブセットであり, XSLはDSSSL(Document Style Semantics and Specification Language)のサブセットを目指している。

既存のSGMLツールの多くは, XMLにも利用可能であるが, 既にXML専用のツールも市場に現れている。第5章は, エディタ, ブラウザ, サーバ, パーサ, コンバータ, ビュア, フォーマタ, DTD作成ツールなどのXMLツールを体系的に整理し, 機能概要を示す。それらのツールを使ってXMLアプリケーションを実際に作成する方法は, 第6章に示される。そこでは, 具体的なアプリケーションの2例によって, 理解を深めることができる。

第7章では, 構造化文書に関するこれまでの研究概要が紹介され, そこでの問題点がXMLによってどう解決されるかが示されると共に, 従来の構造化文書にはなかったXMLの可能性に言及している。長年, 構造化文書の研究と国際標準化に従事してきた編著者の知見が, この章で縦横無尽に発揮されている感がある。

第8章は, XMLと関係の深い, W3Cで検討中の2つの規定RDF(Resource Description Format)とDOM(Document Object Model)の概要を示す。RDFは従来のメタデータの規定の上に, より汎用的な枠組みを提供するものであり, 既に始まっている応用例も紹介される。DOMは, XML文書, HTML文書, CSS(Cascading Style Sheets)を操作するためのプログラムインタフェースである。

付録1は, HTML環境でしばしば経験する文字化けの問題を扱い, 日本語文字を扱うためのXML宣言を示して, 日本語プロファイルの必要性を示す。付録2はXML関連用語の解説であり, XML関連のWWWサイトと書籍を付録3にまとめてある。

本書の中でも触れられているとおり, W3Cでの標準化活動はISOやIECでのそれに比べて極めて進捗が早く, ドラフトの更新も頻繁に行われきた。本書にもこの活動方針が受け継がれている。本書に示すXMLの規定は, 1997年12月版のXMLドラフトに基づいているが, その内容を書籍として1998年1月に出版した編著者並びに出版社の努力に敬意を表したい。書籍といえど, 最新情報を取り込むという今後の書籍出版のあり方を示していると言えよう。

日本工業標準調査会は, 通常のJISの制定に加えて, JIS化に至る前段階のコンセンサスの形成を推進するため, 標準情報(TR)の公表を行っている。XMLはこの対象となっており, 編著者は, そのためのXMLの翻訳作業にも積極参加をしてきた。この翻訳原案は, TR X 0008として公表することが既に承認されていて, 日本規格協会から近日中に出版される。本書では書き尽くせなかったXML規定の詳細については, この標準情報によって日本語で参照可能である。標準情報は, JISと同様に, 日本規格協会または主要な書店で購入できる。