3. WG2活動報告

3.1 はじめに

次世代コンテンツにとって,XMLがますます重要になってきている。WG2では,XML関連技術のうち次の五つを取り上げ,国内でのJIS及びTR原案作成並びに国際(ISO/IEC)への提案を行った。

  1. XML(TR X 0008:1998)のJIS化
  2. 日本語プロファイル(TR X 0015:1999)の改正
  3. RELAX Core(TR X 0029:2000)のISO/IEC JTC1における国際投票とコメント処理
  4. RELAX Namespace(TR X 0044:2001)のISO/IEC JTC1への提案
  5. XMLによる画像参照交換方式(TR X 0047:2001)のW3C提案準備

3.2 活動経過

WG2は次の日程で委員会を開催し, 3.2.1〜3.2.5に示す標準化活動を行った。

2001/4/10, 5/29, 6/27, 8/6, 9/3, 10/4, 11/13, 12/21, 2002/1/11,2002/2/13

3.2.1 XML 1.0

XML 1.0はWorld Wide Web Consortium(W3C)によって1998年に発行され,国内ではほぼ同時に標準情報TR X 0008:1998となった。その後,国内外でXMLはひろく普及し,電子商取引などのWebアプリケーションには欠かすことができない技術であると認識されるに至った。そこで,電子政府などの官公庁プロジェクトでXMLを採用しやすくするため,XML 1.0のJIS化原案をWG2で作成することになった。

TR X 0008:1998は,XML 1.0のfirst editionに基づいていた。しかし,XML 1.0の成立後にW3Cから多くの正誤表が発行され,それらをまとめたsecond edition が2000年に発行された。その後も,いくつかの正誤表が発行されている。今回の作業では,TR X 0008の内容をもとに,これらの正誤表を取り入れたJIS原案を作成した。

なお,JIS原案作成の過程で,XML 1.0の誤りが数多く発見された。これらは,W3C に報告済みである。

なお,JIS原案はXML文書として作成し,XSLTスタイルシートによってHTML 文書に変換した。今後も,本WGではJISやTRの原案をXML文書として準備することが多くなるだろう。

3.2.2 XML日本語プロファイル

JIS X 0208に含まれる文字を主に含むXML文書を,国内で従来から用いられてきた文字符号化スキーム(日本語EUC, シフトJIS, ISO-2022-JPなど)によって表現する場合の注意点についてまとめたのがXML日本語プロファイル(TR X 0015:1999)である。2002年に標準情報(TR)としての有効期限が切れることを機会に,さまざまの軽微な修正を行って改正原案を作成した。

XML日本語プロファイルは,すでにW3CからもTechnical Note(http://www.w3.org/TR/japanese-xml/)として発行されている。今回の改定を機に,W3CのTechnical Noteも改版を予定している。

3.2.3 RELAX Core

RELAX Coreは,XMLのためのスキーマ言語である。言語仕様は簡潔で強力であり,実装や利用が容易である。また,木オートマトン理論という数学的な理論をもとにして設計されたスキーマ言語として,XML関係者に大きなインパクトを与えた。

RELAX Coreは,2000年に国内でTR X 0029として成立した。その後,日本からISO/IEC JTC1に国際提案し,国際投票では賛成多数であった。2001年8月に,新潟で投票コメント審議を行い,2002年2月にISO/IEC JTCのTechnical Report として発行された。

3.2.4 RELAX Namespace

RELAX Namespaceは,複数スキーマ言語及び名前空間を扱う機能を提供することによって,スキーマ言語RELAX Coreを補なう。RELAX Namespaceは,2001 年に国内で標準情報(TR)となった。これをISO/IEC JTC1にISO/IEC Draft Technical Reportとして提案した。ISO/IEC JTC1での国際投票は,2002年5月に締め切られる。

3.2.5 XMLによる画像参照交換方式

XMLは,ISO/IEC 10646とUnicodeにある文字だけを扱う。逆に言えば,国際の場でISO/IEC 10646とUnicodeに文字として登録されたもの以外は,XMLで文字として利用することはできない。

いっぽう,文字とは異なる概念としてグリフがある。これは,ISO/IEC JTC1 SC18(現在はSC34) で開発されたで開発された国際規格によって定められている。グリフは文字と直接には対応しない。たとえば,筆順を教えるために書きかけの漢字を教科書に記述するには,書きかけの漢字を表すグリフを利用する。一つの文字であるとしてISO/IEC 10646及びUnicodeに登録されている文字に,複数のグリフを使い分けることもある。

本WGで開発した,XMLによる画像参照交換方式は,XML文書からグリフを参照するための機構である。とくに,SC18で定めたグリフ登録機構にあるグリフを参照することができる。この仕様は,2001年にTR X 0047となった。現在は,W3C会員企業からW3Cに提案する作業を行っている。

3.3 成果

JIS原案とTR原案の作成,ISO/IEC JTC1での加速手続きにもとづくDTRとTRの作成が具体的な成果である。

3.3.1 XML 1.0

JIS原案を附属書に示す。

3.3.2 XML日本語プロファイル

TR原案を附属書に示す。

3.3.3 RELAX Core

ISO/IEC JTC1 TRを附属書に示す。

3.3.4 RELAX Namespace

ISO/IEC JTC1 DTRを附属書に示す。

3.3.5 XMLによる画像参照交換方式

TR原案を附属書に示す。

3.4 国際的な仕様制定と国内での仕様制定について

XMLを含むWorld-Wide Web技術は,その名のとおり国際的な技術である。これは,国際的な委員会が制定する仕様が,そのまま日本でも利用可能でなければならないことを意味する。国際的な仕様制定活動に貢献しつつ,仕様を日本語に移し変えることは,国内委員会の重要な活動である。XML 1.0のJIS 原案作成は,このような活動の一つである。単なる翻訳にとどまらず,多くの誤りをこれまでW3Cに指摘してきた。

一方,国際的な仕様をそのまま日本語に移し変えるだけでは済まない場合がある。

RELAX CoreとRELAX Namespaceの制定は,場合1に該当すると本WGでは考える。W3Cが制定したスキーマ言語であるW3C XML Schemaは,国際的にみて賛成派と反対派の両方が存在する。RELAX CoreとRELAX Namespaceが日本から ISO/IEC JTC1 に提出されたことをきっかけに,W3C XML Schema以外のスキーマ言語を作ろうという動きが盛んになった。ISO/IEC JTC1で,Document Schema Definition Language という国際規格を作ることになったのは,その結果である。

日本語プロファイルは,場合2に該当すると本WGでは考える。日本国内で従来から用いられてきた文字符号化スキーム(日本語EUC, シフトJIS, ISO-2022-JPなど)についての考慮は,XML 1.0や多くの関連仕様に散らばって漠然とした形で示されている。一つの仕様として国内でまとめ,W3Cに提出したことは国内/国外の両方にとって有益な活動であると報告者(村田主査)は考える。

XMLによる画像参照交換方式は,場合3に該当すると本WGでは考える。W3C への提案を経て,国際的な仕様に成長していくことを期待している。

3.5 RELAX CoreのISO/IEC JTC1 Technical Report成立の経緯

RELAX Coerは,国際投票では賛成多数で可決されたにも関わらず, Technical Reportとしてが成立する過程ではイギリスとアメリカからさまざまの抵抗を受けた。ここでは,それらの抵抗がどんなものであったかを説明する。

1) RELAX Coreのコメント審議ミーティングの開催時期についての異議申し立て

RELAX Coreのコメント審議ミーティングを当初に日本が予定した2001年5月ではなく,二ヶ月半延期して開催せよという主張がイギリスからあった。理由は,加速手続きに関するdirective(コメントが締め切られてから二ヶ月後でなければコメント審議はできない)によるもの。この件については,directive に従って二ヶ月半遅らせて,2001年8月に開催することに決まった。

2) WGとproject editorの割り当て

日本から提案した時点ではRELAX CoreはSC 34/WG2に属するとしていた。しかし,WG 1の議長のCharles GoldfarbからRELAX CoreはWG1に属するべきであるという主張,project editorは彼が指名する権利があるという主張があった。

日本としては,投票はJTC1のレベルのものであり,WG1の会議で議論するのではなく,JTC1レベルでのコメント審議会議とすべきことを主張した。また,加速手続きの場合は提案国がproject editorを指名するとdirectiveで決まっていると主張した。この件については,日本の主張が通った。

注: SC34ではCharles Goldfarbがきわめて強 い力を持っており,SGML に関する決定権は実質的に彼が握っている。 従来も,日本や諸外国からのもっともな提案を彼一人の反対で葬り去っ てきた。

3) 加速手続きに基づく投票について

Fast-track DTRについては,決まったカバーシートが存在しないので,ジュネーブの事務局がfast-track DISのカバーシートを用いて各国に配布した。この結果,TRではなくISであると誤解して投票した国があるので,この投票は無効であるとアメリカとイギリスがSC34の会議で主張した。日本(小町委員)としては,ISのほうがTRより審議は厳格なので,このような誤解があっても問題ないと主張した。この件については,日本の主張が通った。

つぎに,アメリカ・イギリスはType-3のTechnical Reportであることに異議を唱えた。RELAX Core は,本来Type-2のtechnical reportになるべきものであり,必ずType-3になってしまう加速手続きを適用するのは変ではないかという主張である(International Standardでさえ加速手続きがあるのだから,この主張には無理がある)。この件については,SC34からJTC1に確認することが決まった。その後,JTC1からそのままType-3 Technical Reportとして発行せよという指示があった。

4) コメント審議ミーティングをさらに遅らせようという指示

先に述べたように二ヶ月延期したコメント審議ミーティング(2001年8月)を,さらに遅らせてSC34の年二回の会議のときに行えという指示が,ミーティングの前の週にSC 34のsecretariatからあった。Directiveに定められた本来の手続きに反して延期すべきだという理由は,JTC1とSC34の間での協議(前項を参照)があったためである。

これについては,すでに手配した会場・旅行・宿泊をキャンセルする費用を誰かが負担しない限り,キャンセルはできないと村田主査が主張した。また,加速手続きに関するdirectiveに違反していると主張した。この件については,予定どおりにミーティングを開くことになった。日本から以外の参加者がないまま審議を終え,コメントの処理を決めた。処理結果は, http://www.y12.doe.gov/sgml/sc34/document/0246.docにある。

注: SC34 のsecretariatがイギリスに送ったメールからすると,延期を申しいれた国の一つはイギリスらしい。

5) Document Schema Definition LanguageのNew Work Item提案

国際投票を通過したRELAX CoreがISO/IEC JTC1 Technical Reportとして成立することを阻止できないと悟ったイギリスとアメリカは,Document Schema Definition Language(DSDL)というNew Work Item Proposalを共同で提案した。これは,新たなスキーマ言語をSC34で国際規格として制定しようというものである。

注: DSDLについては,その後は日本にとって好ましい形(RELAX NGの規格化)で進んでいる。

6) アメリカ/イギリスはなぜ抵抗したか

アメリカのCharles Goldfarbが抵抗した一つの理由は,彼の提案を受け入れなかったことにある。データ型をDTDに取り入れようというCharles Goldfarbの提案(W3Cに提出済み)をRELAXの一部に取り入れてほしいと,彼が村田主査に個人的に依頼した。村田主査が検討した結果,彼の提案で用いている構文(属性のデフォルト値を使うもの)に問題があるとして拒絶した。この件によって確かにCharles Goldfarbは抵抗を強めた。しかし,それ以前からもRELAX Core に好意的ではなかったので,この件だけが反対理由なのではない。

イギリスからのコメントの多くは編集上のものであり,RELAX Coreの本質的な価値についてのコメントはなかった。RELAX Coreの仕様書にまだ改善すべき点があったのは事実だが,強く反対する理由はイギリスのコメントには見当たらない。

それでは,アメリカ/イギリスが反対した理由はなんだろうか。技術的な理由ではなく,日本が加速手続きを用いてRELAX CoreをISO/IEC JTC1に持ち込んだことへの反発であったかもしれない。しかし,正規ルート以外に加速手続きがあるのはISOおよびISO/IEC JTC1で決めたことであって,加速手続きを日本が行使するのは当然の権利である。今回はTechnical Reportだが,日本で作ったJIS規格を加速手続きによってISO/IEC JTC1に持ち込んでも,なんら非難されるべき筋合いのものではない。

規格制定も人間対人間の駆け引きである以上,協調関係も敵対関係も存在する。規格制定に積極的に関われば,今回のような事態が起こることは当然かも知れない。反発を恐れて消極的に振舞うより,積極的な提案をすべきだと報告者(村田主査)は考えるが,読者はどう考えるだろうか。

3.6 今後の課題

RELAX Coreを参考にして,OASISという業界団体においてRELAX NGというスキーマ言語が制定された。RELAX NGは,RELAX Coreの二つの特徴(木オートマトンに基づく点とパーサの出力を変更しないという点)を引き継ぎ,さらに改善された仕様である。現在,ISO/IEC JTC1 SC34において,DSDLの一部として RELAX NGを国際規格化することが検討されている。今後は,RELAX NGのJIS化を本WGで行っていく予定である。