JIS X 4156:2000
ハイパテキストマーク付け言語(HTML)
解説
この解説は,本体及び附属書に規定した事柄,並びにこれらに関連した事柄を説明するものであって,規格の一部ではない。
WWW(World Wide Web)は, スイスのCERN(欧州素粒子物理研究所)において, 所内の研究者間の研究成果の共有を支援することを目的として, 1990年に分散形広域ハイパテキストシステムの構築のためのプロジェクトによって設立された。このハイパテキストでは, テキスト又はテキストの集合を分割してノードという単位に分け, ノード内にアンカ(端点)を定義して, アンカ間の関係としてハイパリンクを規定している。
WWWのプロジェクトができた当初は, CERNにおいて特定マシン上のラインモードブラウザが用意されただけであったが, 1991年にはCERN以外でもWWWの利用が可能になり, Xウィンドウシステム用のブラウザが開発された。1993年になると, イリノイ大学でMOSAICが発表されて文書中の画像表示が可能になり, Windows版に加えてMAC版も発表された。1994年のNetscape Navigatorのリリースは, WWWの爆発的普及のきっかけをつくり, それがさらにインタネット利用者を増やすことになった。
CERNでのハイパテキストの構造記述及びその交換手続きは, 開発当初は研究所内の仕様にとどまっていたが, WWWの普及と共にそれらの標準化への意識が高まり, IETF(Internet Engineering Task Force)において, HTML及びHTTP(Hypertext Transfer Protocol)の作業グループが設立されて本格的な標準化作業が開始された。HTML 2.0は, IETF RFC1866[1]として公表され, その後, HTMLの標準化作業は, W3C(World Wide Web Consortium)に移された。
W3Cでの初期のHTML改版作業は, ブラウザメーカの独自の拡張を吸収してスタイル指定を含む多くの機能を盛り込む方針で行われた。しかしその後, HTMLを本来の文書論理構造記述の言語に引き戻して, スタイル指定については別の交換様式で対応するという方針が主流となり, HTML 3.2[2], HTML 4.0[3]へと改版されてきた。
この間のHTMLの大量普及の結果, ISO(国際標準化機構)は, 次の利用者要求[4]に応えるため, W3CのHTML勧告を追認して国際規格にするための活動を開始[5]した。
a) | 文書配布に関するJTC1内部の要求に適合する。 |
b) | SGML応用のための最小の表示体系を規定する。 |
c) | SGMLの詳細規定(SGML宣言,最小化など)との関係を明確にする。 |
d) | 国際規格になっていることが求められる環境においてHTMLを利用可能にする。 |
e) | 他のSGML応用のための基本体系としてHTMLを利用可能にする。 |
f) | W3CのHTMLに適合するブラウザによって, 適合文書の閲覧を可能にする。 |
g) | W3CのHTMLの有効なサブセットを規定する。 |
W3Cにおける改版作業との同期・整合を図りつつ, 各国の要求に応えて原案の修正を重ねた結果, かなりの時間を要したが, ISO/IEC JTC1は2000年5月にISO/IEC 15445を発行した。
国内におけるHTMLの普及の過程も同様であり, HTML処理系は多くの計算機システムに実装されてWWW利用者の数は増大の一途をたどり, それが国内のインタネットの普及を大きく促進した。そこで通商産業省の工業技術院は, (財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の"文書処理及びフォントの標準化調査研究委員会(DDFD)"に対してISO/IEC 15445のJIS化作業を委託した。
ISO/IEC JTC1におけるHTMLの作業は, 1996年5月のSC18/WG8会議で国際規格化への要求が提出され, 1996年10月を期限とするNP(新作業課題提案)投票が行われたことから開始された。このNP投票では, 日本はコメント付き賛成を投じた。投票結果への対処は1996年11月のSC18/WG8会議で審議され, そこでプロジェクトエディタが指名された。
1997年2月にエディタは,SC18議長を介して各国とリエゾン組織とからHTMLエキスパートを招集し(日本からは3名が参加), オンライン会議を行って, CD(委員会原案)を用意した。1997年7月を期限とするCD投票では, 日本は, W3CのHTMLと異なる部分があることを理由に反対した。1997年12月のJTC1/WG4(JTC1の再構築に際してSC18/WG8の作業を引き継いだ暫定組織)会議では, この日本の姿勢が歓迎され, CDテキストを大きく修正してW3CのHTML勧告をそのまま参照する体裁にすることがエディタに指示された。このときCDテキストから削除された記述の多くの部分は, User's Guide to ISO/IEC 15445という出版物[6]として公表されることになった。
1998年7月には修正案がプロジェクト内でのレビューを受け, そのコメントを反映したFCD(最終委員会原案)テキストが各国に配布されて,1999年2月を期限とするFCD投票が行われた。日本は, CD投票時の要求が受け入れられたので, 編集上のコメントを付して, 賛成を投じている。FDIS(最終国際規格案)投票は1999年11月を期限として行われた。日本はそれまでのコメントがすべて受け入れられており,技術的にも問題はないと判断して,賛成投票を行っている。
FDISは賛成多数で承認され, 1999年12月のSC34(JTC1の再構築後のSC18/WG8後継委員会)総会で投票結果が確認され, 国際規格出版のためのISO/IEC 15445の最終テキストの編集が行われた。ISO/IEC 15445は, 2000年5月に発行[7]された。
国内でのFDISの審議に際して, その審議メンバは, 既にこの規格のもとになったW3CのHTML 4.0に基づく製品が生産,使用されているために, 整合のとれたJISを制定することを工業技術院に提示し, 規定内容が基本的事項であってしかも利用者が不特定多数であることにより, 完全翻訳によるJISを推奨した。これに基づき, 前述の"文書処理及びフォントの標準化調査研究委員会(DDFD)"は, ISO/IEC 15445の翻訳作業を行い, 2000年5月にJIS原案を工業技術院に提出している。
訳語選定に際しては,HTML 4.0を規定している標準情報 TR X 0033:2000 ハイパテキストマーク付け言語(HTML) 4.0及びSGML関連規格において使用している訳語との整合を配慮した。
この規格で採用した主な訳語を次に示し, 今後の関連規定の作成等に際しての参考とする。
原語 | 訳語 |
---|---|
base architecture | 基本体系 |
refinement | 洗練化 |
validating system | 検証システム |
identification text | 識別テキスト |
transformation format | 転送様式 |
fragment identifier | 素片識別子 |
Internet Assigned Numbers Authority | インタネット割当て番号主体 |
uniform resource identifier | 統一資源識別子 |
uniform resource locator | 統一資源ロケータ |
element type name | 要素型名 |
invocation | 呼出し |
architectural support declaration | 体系サポート宣言 |
deprecation | 非推奨 |
style sheet language | スタイルシート言語 |
原規格(Web版)[7]はHTMLの1ファイルで構成されている。JIS化に際しては, まえがき, 目次, 規格本体, 及び附属書の先頭においてページ境界を付ける必要があるため, それぞれを独立したファイルとして再構成し, さらに附属書の後にこの解説を配置している。
規格本体においては, 原規格のIntroductionを0. 導入とし, 以降の節番号に関してISO/IEC 15445とJIS X 4156との一致を保っている。
この規格は, 原則として, 原規格のHTMLタグを保存することにしたが, 次の点に留意しタグの修正等を行った。
a) | 箇条内容は, a), b), ...を前置した順序付きリストとし, TableタグによってJISの様式に合わせる。 |
b) | 備考は, TableタグによってJISの様式に合わせる。 |
c) | word間スペースは, 翻訳においては除去する。 |
d) | 日本語表現上意味のない括弧は, 翻訳に際して削除する。 |
この規格は, 標準情報TR X 0033:2000を参照している。これは, 原規格がW3Cの勧告REC-html40を参照していることに対応する。この関係を, 次に図示する。
[国際] | ISO/IEC 15445:2000 HyperText Markup Language (HTML) | ------> 参照 | W3C REC-html40 HyperText Matrkup Language (HTML) 4.0 Spec. |
↑ | ↑ | ||
等価 | 等価 | ||
↓ | ↓ | ||
[国内] | JIS X 4156:2000 ハイパテキストマーク付け言語 (HTML) | ------> 参照 | TR X 0033:2000 ハイパテキストマーク付け言語 (HTML) 4.0 |
[1] IETF RFC1866, HyperText Markup Language HTML 2.0, http://www.ietf.org/rfc/rfc1866.txt?number=1866, 1995-11
[2] W3C REC-html32, HyperText Markup Language HTML 3.2, http://www.w3.org/TR/REC-html32.html, 1997-01-14
[3] W3C REC-html40, HyperText Markup Language HTML 4.0, http://www.w3.org/TR/1998/REC-html40-19980424, 1998-04-24
[4] ISO/IEC JTC1/SC18/WG8 N1852, User requirements for Standard HTML, 1996-05-21
[5] ISO/IEC JTC1/SC18/WG8 N1853, New project proposal for Standard HTML, 1996-05-21
[6] User's Guide to ISO/IEC 15445:2000 HyperText Markup Language (HTML), http://purl.org/NET/ISO+IEC.15445/Users-Guide.html, 2000-06
[7] ISO/IEC 15445:2000, Information technology - Document description and processing languages - HyperText Markup Language (HTML), http://purl.org/NET/ISO+IEC.15445/15445.html, 2000-05-15
原案作成委員会である(財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の"文書処理及びフォントの標準化調査研究委員会"(DDFD)は, 学識経験者, メーカ及び利用者で構成され, その委員会の中に実際の翻訳作業を行う作業グループ(DDFD-WG)が設置されている。それらの構成員を次に示す。
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
(委員長) | 池田 克夫 | 京都大学 |
(幹事) | 小町 祐史 | 松下電送システム株式会社 (SC34専門委員会委員長) |
安達 淳 | 株式会社沖データ | |
内山 光一 | 株式会社東芝 | |
小笠原 治 | 社団法人日本印刷技術協会 | |
高沢 通 | 大日本スクリーン株式会社 | |
高橋 亨 | 株式会社日立製作所 | |
田中 洋一 | 凸版印刷株式会社 | |
窪田 明 | 通商産業省機械情報産業局 | |
八田 勲 | 通商産業省工業技術院標準部 | |
大久保 彰徳 | 株式会社リコー | |
宮本 義昭 | 日本ユニシス株式会社 | |
(工技院) | 永井 裕司 | 通商産業省工業技術院標準部 |
(事務局) | 大川 和司 | 財団法人日本規格協会 |
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
(主査) | 小町 祐史 | 松下電送システム株式会社 (SC34専門委員会委員長) |
(幹事) | 内山 光一 | 株式会社東芝 |
(幹事) | 高橋 亨 | 株式会社日立製作所 |
安達 淳 | 株式会社沖データ | |
今郷 詔 | 株式会社リコー | |
小笠原 治 | 社団法人日本印刷技術協会 | |
奥井 康弘 | 株式会社日本ユニテック | |
海田 茂 | ネクストソリューション株式会社 | |
田中 洋一 | 凸版印刷株式会社 | |
内藤 広志 | 大阪工業大学 | |
(オブザーバ) | 浅利 千鶴 | 浅利会計事務所 |
(工技院) | 永井 裕司 | 通商産業省工業技術院標準部 |
(事務局) | 大川 和司 | 財団法人日本規格協会 |