日本工業規格(案)

JIS X 4155:1999
(ISO/IEC 10744:1997)

ハイパメディア及び時間依存情報の構造化言語(HyTime)

Information technology ― Hypermedia/Time-based Structuring Language (HyTime)



序文

この規格は,1997年に第2版として発行されたISO/IEC 10744 [Information technology - Hypermedia/Time-based Structuring Language (HyTime)]について,技術的内容を変更することなく日本工業規格として採用す るために作成されたものである。 0.及び1.については,原国際規格の同項目を全文翻訳し, 2.以降については,それぞれ原国際規格の同項目の内容を引用するもの とした。

0. 導入

この規格,すなわち“ハイパメディア及び時間依存情報の構造化言語 (HyTime)”は,ハイパテキスト応用及びマルチメディア応用が処理し交換する 静的情報及び動的情報を表現するための機能を規定する。 HyTimeは,ISO 8879:1986, 標準一般化マーク付け言語(SGML) (JIS X 4151-1992は,ISO 8879:1986及びISO 8879/ Amendment 1:1988の内容に, 技術的追加及び編集上の変更を加えている。) の応用とする。

HyTimeは,いつでも,どこでも,何にでもリンクを付けることを可能にする, 情報参照の古典的書誌モデル(classic bibliographic model)をサポートする。 計算機による情報化時代へのこのモデルの拡張は,“統合開放形ハイパメディア” (Integrated Open Hypermedia, IOH)として知られ,HyTimeの応用分野になる。

HyTimeは,ハイパリンクという文書内及び文書間の相互結合,並びに他の情 報オブジェクトとの相互結合を指定し,時間的及び空間的マルチメディア情報の 配置を指定するための,標準化した機構を提供する。

HyTimeがなければ,リンク情報及びマルチメディア配置情報は,ハイパメディ ア文書の描出を管理するハイパメディア“操作記述言語”の処理命令の中に組み 込まれることが多い。したがって,それらのリンク情報及びマルチメディア配 置情報は,別の処理形式には利用できない。HyTimeを用いれば,これらの情報の, 特定な処理に依存しない特性(property)は,その情報を生成した環境とは異なる 応用及び実行環境による処理に関して利用可能になる。

どの情報特性を,特定な処理に依存しないものとして操作記述言語から分離 できるかは,応用の設計者及び利用者が決める。理想的には,情報が どのように処理されようとも,情報にとって特性が本質的であるかどうかを 考慮するだけでよい。例えば,この節の題名は本質的な情報であるが, それを表示するフォントは本質的ではない。

ところが現実には,特性をどう表現するかは状況によって異なり,情報の利 用形態,操作記述言語の柔軟性,性能要件などの,理想的状況下とは別の要件に 依存することになる。そのため,HyTimeは高度にモジュール化され,応用設計者は, 標準化された方法で記述する必要のある特性についての機能だけを用いればよい。

ハイパメディア構造化の標準化した表現のためのHyTimeの規則は, “機能付与体系”として表わされ, 多くの“体系形式”及びそれらの 関連セマンティクスから構成される。体系としてのHyTime規格の形式的定義は, この規格の附属書Aに規定する体系形式定義要件に適合する。

0.1 HyTimeモジュール

HyTime言語の体系形式及び属性は, 五つのモジュールにまとめられる。 どのモジュールも,必要機能及びオプション機能の両方をもつ。 “HyTimeサポート宣言”は,サポートするモジュール及びそのオプション機能を 指示する。

a) 基本モジュール

独立した共用機能が, 基本モジュールを構成する。 共用機能の幾つかは, オプションとする。 必要機能は,(SGMLを用いた)ハイパ文書管理及びオブジェクト特性の特定を サポートする。 オプション機能は,共通利用要素に関する参照表,利用及びアクセスの方式を オブジェクトに関連付ける機構,並びに要素の属性及び内容を参照によってその セマンティック値に関連付ける機構を提供する。 基本モジュールは,他のHyTimeモジュールすべてで用いられる基本的な座標 番地付け記法も定義する。

b) 所在番地モジュール

所在番地モジュールは,SGMLの一意な識別子では番地付けできない オブジェクトの特定及び外部文書中のオブジェクトの特定を可能にする。

番地付けの三つの基本種別,すなわち名前所在,セマンティック所在 及び座標所在がサポートでき,集約所在も番地付けできる。 これらの番地付け機構の構文及びセマンティクスは,番地付けされるデータの データ内容記法から独立している。

 備考  与えられた記法でのHyTime番地付けを確定する機能は, HyTimeがすべての番地付けに用いる抽象化手段によってその記法を解釈できる ソフトウェアに依存する(6.1.1参照)。

ハイパメディアオブジェクトの番地を表現する,システム独立及び記法独立 なHyTimeの方式は,HyTimeのハイパリンク付け機能及び配置付け機能の 基礎にもなっている。

c) ハイパリンクモジュール

このモジュールは,単一文書の中,又はハイパ文書を構成する文書及び 情報オブジェクトの間に,オブジェクト間の関係(“ハイパリンク”) を付けることを可能にする。

d) 配置モジュール

このモジュールは,事象,つまりオブジェクトの出現を, その位置を互いの関係を用いて表現可能にするために, “有限座標空間”の座標軸上に配置する。 座標軸上の計測は,空間的単位又は時間的単位で行える。

e) 描出モジュール

配置モジュールを用いる際には,次に示すオブジェクト修飾及び/又は事象 投影を用いて,描出処理を規定するパラメタを表現できる。

描出情報は,ハイパ文書の本質的な部分として応用に含めてもよく, 処理プログラムの“スタイルシート”に組込んでもよい。 その選択は,描出を受ける情報の性質に依存する。 例えばマルチメディア文書では,描出スタイルが,従来の文書の場合より文書にとっ てもっと本質的なものになることが多い。

0.2 HyTime応用

HyTimeは,特定の応用のためのセマンティクスを規定するのではなく, 各種の応用のための共通レベルのサポートを提供する。 つまりHyTimeは, 情報の担い手又は基幹構造(infrastructure)に類似している。

応用とHyTimeとの境界は,可変であって,応用設計者が定義する。 どれだけの情報をHyTimeを用いて標準的な方法で表現し, どれだけの情報を応用固有にするか(例えば, データ内容記法においては 応用固有にする。)は,応用設計者が自由に決定する。

HyTimeは,体系形式及び属性のセマンティクスを標準化しているので,各種 の応用に利用可能なサポートソフトウェア及びサポートハードウェアを実装できる。 応用は,ある体系形式に基づく要素型を定義する際に,追加の属性を定義できる。 応用定義の要素型及び属性のセマンティクスを,応用以外が定義することはないが, 業界団体が標準化したり,国内標準化組織又は国際標準化組織が公式に標準化し てもよい。

HyTime属性は,この規格の中で指定した意味以外の固有の意味(meaning)をもつ ことはない。 しかし,応用は,追加のセマンティクスをHyTime属性に付与してもよい。 それは,暗黙的に行うか,又は適当な要素型及び属性を定義することによって行う。 例えば,体系形式“区間参照”は,HyTimeに対しては, ある要素の区間が別の要素の区間から計算されることを意味するだけである。 しかし,もし必要なら応用は,区間参照の利用が要素間の同期関係を意味するこ とを指定でき,区間参照要素型の共通識別子としての“sync”を用いること によって同期関係を強調できる。

HyTime要素は,応用のDTD及びHyTime高次DTDが許容するところなら,どこに でも置いてよい。 例えば,メモの文脈中で予定表又はプロジェクト計画を表現するために,ある有限 座標空間をメモの段落の中に置いてよい。 反対に,幾つもの段落を,時間決めされた事象の内容として置くこともできる。

応用及び応用体系を含むHyTimeのクライアントは,非HyTimeの体系形式及び 要素を定義できる。 応用は,体系形式をHyTimeに追加しなくてもよく,互いにHyTime体系形式を組み合 わせなくてもよいが,応用そのものの体系(例えば“MyArch”)を決めて, 独自の体系形式の集合を定義できる。 これらの体系は,HyTime体系の完全な派生でもよく,部分的な派生でもよい。 体系を定義する機能及び利用する機能は, A.3で規定する。

例として,HyTime体系及びMyArch体系の派生である文書を考えよう。 まず各要素の内容及び属性が, SGML構文解析系によってSGMLに関して処理され 検証される。 次に,HyTime属性をもつ要素が, HyTime基本処理系によって処理され検証される。 MyArch属性をもつ要素は, MyArch基本処理系の支援の下で,応用によって 適切な処理及び検証がなされることになる。

HyTimeは,描出を実行するために応用が必要とするパラメタを幾つか規定し, 描出機能を幾つか規定する。 その他のパラメタ及び描出機能は, 応用が提供するか,応用が適合する 文書体系が提供する。

多様な要求を満たし,多様な利用者層に役立つために,多くの異なる HyTime適合応用及びHyTime適合体系が存在してもよい。 それらの体系は,HyTime以外の面での互換性はないが,単一のHyTime基本処理 系でサポートできる。

 備考  例えば,応用は, その投影関数が極端に複雑で応用固有であっても,有限座標 空間を表現するための固有のシステムを作り出す必要はない。 HyTimeは,応用が選択又は定義した関数言語を用いて,投影元及び投影先の 有限座標空間の標準化された表現とともに,応用固有の投影関数を表現することを 可能にする。

HyTimeの設計は,通常のハイパメディア応用で直面する順序付けの問題及び 整置の問題に関して最適化されている。それは,複合文書のページ割付けに対する 一般の体系的な解を意図したものではない。 複合文書のページ割付けに対しては,もっと適切な解が存在する。

 備考 1  しかしHyTimeは,極めて多様なその解と互換性をもつ。 例えば,HyTimeの有限座標空間は,ページ記述言語のオブジェクトを可視化する メディアの記述に利用できる。

 備考 2  HyTimeは,解析済みSGML文書(及びグローブを構築できる他のデータオブジェ クト)上での表現及び操作のために, 基本的なSGML特性集合及びグローブ抽象を, DSSSL規格(JIS X 4153:1998, 文書スタイル意味指定言語)と共有する。

0.3 規格の構成

この規格は,HyTimeのモジュール構造を反映して,次の構成をとる。

この規格の文書は,次の附属書をも含む。


1. 適用範囲

1.1 適用範囲の定義

この規格は,“ハイパ文書(hyperdocuments)”の表現のための言語 及び基本的なモデルを規定する。 ハイパ文書は,多くの従来文書,マルチメディア文書及び情報オブジェクト が含む静的情報及び動的(時間依存の)情報に対してリンクを張り,同期を与 える。 この規格で定義する言語を“ハイパメディア及び時間依存情報の構造化言語”又 は“HyTime”と呼ぶ。

HyTimeは, 時間を抽象的又は“音楽的”に表現でき, 利用者が定義する実時間単位でも表現できる。 HyTimeはまた,抽象時間と実時間とを関連付ける方法を提供して,時間依存文書 中の要素の同期を可能にする。

 備考  本質的情報内容をスタイルの課題から区別する機能は, 従来文書に 限定されていたが, HyTimeの時間表現機能は,その機能をマルチメディア情報の表現に 拡張する。

HyTimeの時間モデル表現技術は,空間領域などの領域に対しても 同様に適用できる。 HyTimeは,どの領域をも座標空間の異った軸上での計測系として扱う。 外部との相互動作(“ハイパメディアリンク”)に基づく任意の相互参照 及びアクセス径路もまたサポートされる。

HyTimeの時間表現は,制御(“所作指示”)データ及び視覚データの両方の 継続時間を管理するのに充分な情報を含む。 制御データは, オーディオ機器, ビデオ機器の制御情報をその例とし, 視覚データは, 楽譜,表示ストーリーボード, テレビの脚本をその例とする。

HyTimeハイパ文書中のオブジェクトのメディア様式及びデータ記法は, フォーマット済み文書,未フォーマット文書,オーディオ素片,ビデオ素片, 静止画,オブジェクト指向の図形などを含む。 空間及び時間の中でのオブジェクトの出現の位置及び範囲は,さまざまな 計測単位及び粒度を用いて,利用者が指定する。 アニメーションからプロジェクト管理に及ぶ各種応用の時間的要求には,適切な 計測粒子を選ぶことによってサポートできる。

 備考  この規格は,オーディオ内容データ又はビデオ内容データの表現には言及せず, それらのデータの開始時間及び継続時間を他の量子化情報と同期させる手段だけを 規定する。 未フォーマット文書及び他の情報オブジェクトの出現を,指定された位置 及び範囲に適合させ得る割付け処理について,この規格が規定することはない。

HyTimeは機能を提供する規格であって,範囲を限定する規格ではない。 そのため,HyTimeハイパ文書を構成するオブジェクトは,どのような応用体系に 適合してもよく,規格が定める文書体系に適合してもよい。 さらに,それらの体系が許容するどのような記法で表現してもよい。 ハイパ文書への帰属を決める“中核文書”だけは,HyTimeに適合しなければならず, HyTime以外の体系に適合してもよい。

HyTimeは, 柔軟性及び拡張性を考慮して設計されている。 オプション機能の部分集合は, 単独で実装してもよく, 利用者定義の拡張機能と組み合わせて実装してもよい。

HyTimeは,国際規格ISO 8879, Standard Generalized Markup Language(JIS X 4151-1992は,ISO 8879:1986及びISO 8879/ Amendment 1:1988の内容に, 技術的追加及び編集上の変更を加えている。) に適合するSGML応用とする。

この規格は,ハイパ文書交換様式としてJIS X 4171, SGML文書交換様 式(SDIF)を用いることを推奨する。 SDIFは, 抽象構文記法1(JIS X 5603)で規定され,開放形システム間相互接 続(OSI)モデルに適合するプロトコルを用いた交換のために,JIS X 5604の 基本符号化規則に従って符号化される。 他の交換様式を利用してもよい。

1.2 応用分野

HyTimeの応用分野は,“統合開放形ハイパメディア”(IOH),すなわち,著者 が適切な参照によって,いつでも,どこでも,何にでもリンクを付けることがで きる,ハイパリンク付けの“書誌モデル”とする。

HyTimeはモジュール設計されて柔軟な適合性規則をもつので,HyTimeの 実装は, 提供できる機能だけをサポートすればよい。 しかし,上位互換性を保ちながら完全なハイパメディアの実現に到達するために, ハイパ文書の作成準備段階において,利用者が十分に検討することを推奨する。

HyTimeは, ハイパメディア応用,非同期マルチメディア応用 及び同期マルチメディア応用のために,実行環境独立な情報交換の基幹構造として, 用いられることを意図している。 応用開発者が,HyTimeの構成子を使って応用情報の構造及びオブジェクトを設計 し,HyTime言語を使って応用情報の構造及びオブジェクトの交換用表現を行う。

 備考  HyTime言語は,応用プログラムの実行時の情報の内部表現を符号化することを 意図していない。

あらゆる描出段階にある情報を含んだハイパ文書を表現するために,応用が HyTimeを利用することもできる。 つまり,“編集可能”の段階から“対話アクセスに最適”の段階までの描出に 対応できる。 応用は,HyTimeハイパ文書の描出を変換して,伝送又は対話形表示に最適な形式 にしてもよい。

 備考  ハイパ文書のHyTime表現が,プログラムによる直接アクセスのための内部ファ イルシステムにおいて利用可能であるかどうかは,ハイパ文書中での情報の型, 実行環境の速度及びハイパ文書をアクセスする応用が実行する機能に依存する。


2. 引用規格

ISO/IEC 10744:1997の 2. Normative referencesによる。


3. 定義

ISO/IEC 10744:1997の 3. Definitionsによる。


4. 記号

ISO/IEC 10744:1997の 4. Symbols and Abbreviationsによる。


5. 記法

ISO/IEC 10744:1997の 5. Notationによる。


6. 基本モジュール

ISO/IEC 10744:1997の 6. Base moduleによる。


7. 所在番地モジュール

ISO/IEC 10744:1997の 7. Location address moduleによる。


8. ハイパリンクモジュール

ISO/IEC 10744:1997の 8. Hyperlinks moduleによる。


9. 配置モジュール

ISO/IEC 10744:1997の 9. Scheduling moduleによる。


10. 描出モジュール

ISO/IEC 10744:1997の 10. Rendition moduleによる。


11. 適合性

ISO/IEC 10744:1997の 11. Conformanceによる。


附属書A(規定) SGML拡張機能

ISO/IEC 10744:1997の Annex A - SGML Extended Facilitiesによる。


附属書B(規定) HyTime特性集合

ISO/IEC 10744:1997の Annex B - HyTime Property Setによる。


附属書C(規定) 体系高次宣言

ISO/IEC 10744:1997の Annex C - Architectural Meta-Declarationsによる。


附属書D(参考) 補足資料

ISO/IEC 10744:1997の Annex D - Supplementary materialsによる。


附属書1(参考) ISO/IEC 10744:1997

[Information technology - Hypermedia/Time-based Structuring Language (HyTime)]