JIS X 4155:1999

ハイパメディア及び時間依存情報の構造化言語(HyTime)
解説



  この解説は,本体及び附属書に規定した事柄,並びにこれらに関連した事柄を説明する ものであって,規格の一部ではない。

1. 改正の趣旨

ハイパメディア及び時間依存情報の構造化言語(HyTime)の制定の趣旨は, JIS X 4155-1994の解説に示されている。すなわち, 人間の知覚動作に自然な形で情報提供を行なうマルチメディアシステムの普及によって, 多様なシステム間での広範囲に及ぶマルチメディア/ハイパメディア情報交換が必要となり, マルチメディア/ハイパメディア情報の論理構造を国際規格として厳密に定義することが望まれた。JIS X 4155-1994の原規格であるHyTime 第1版のISO/IEC 10744:1992は, この利用者要求に応えてISO/IEC JTC1/SC18/WG8によって開発された。

このHyTimeは, ISO 8879:1986を拡張した一般性の高い規格であって, そのコンセプトは多くの文書関連規格の開発者によって参照されることになり, 規格発行直後からSC18/WG8に多くの詳細に及ぶコメント及び修正要求が提出された。これに応えるため, SC18/WG8は, 1995年に技術訂正(Technical Corrigendum: TC)案1)を作成して, それに対する投票が行なわれることになった。

投票に際して提出されたコメント2)を反映した技術訂正の結果, HyTimeは, 当時完成間近であったISO/IEC 10179[文書スタイル意味指定言語(DSSSL), JIS X 4153]との整合を重視したものになり, JTC1の文書関連規格群の中での位置付けが明確になった。

2. 改正の経緯

1995年の技術訂正案1)に対する投票コメント2)への対処3)は, なるべく多くの要求を採用するという方針で時間をかけて行われた。その結果, 極めて多くの箇所に修正が入り, 修正結果のHyTimeをレビューすることが容易でなかった。そこで, 第1版のISO/IEC 10744:1992はまだ5年毎の見直しの時期には達していなかったが, それを改訂して, 投票によって承認された技術訂正を盛り込んだ第2版のHyTimeを作成し発行することが提案され, 1996年5月のSC18/WG8会議において承認された。

第2版のHyTimeの原案4)は, W. Eliot Kimberによって編集され, 1996年11月のSC18/WG8会議でレビューされ承認されて, ISOの出版に回されることになった。

国内では, 工業技術院の委託を受けた"標準記述言語分野の国際整合化調査研究委員会"(DDFD)がJISとしてのHyTime技術訂正への対処を検討5)していたが, ISOの出版計画の変更を受け, 第2版のHyTime(ISO/IEC 10744:1997)の出版を待ってから, それを翻訳し要約したものをJIS X 4155-1994に対する改正原案(JIS X 4155:1999原案)とすることにした。この改正原案は, 1999年3月に工業技術院に提出された。

3. 機能概要

第2版のハイパメディアの構造記述方法は, 基本的には第1版のそれと同じである。しかしマーク付け方法の細部は, 第2版で大きく変更されているので, 第1版に従ったHyTime文書はそのままでは第2版には適合しない。

第2版における主要変更項目は, SGML拡張機能の独立及びDSSSLとの整合である。その概要を次に示す。

3.1 SGML拡張機能の独立

ハイパメディア記述以外のSGMLアプリケーションでも利用価値のある機能をまとめてSGML拡張機能としている。それだけを他のHyTime機能とは無関係に, 任意のSGMLアプリケーションで使用できる。SGML拡張機能には, 次の機能が含まれる。

この中で, 体系形式定義及び公式システム識別子は第2版で初めて導入された。

DTDそのものではなく, DTDが従わなければならない高次DTDを定義するために必要な機能が, 体系形式定義である。ある体系から別の体系を導出したり, DTDを導出することが可能であり, 導出の基本となる一般体系をも定義している。HyTimeの高次DTDも, この体系形式定義機能を使って一般体系から導出される。第1版の基本モジュールに含まれていた幾つかの機能も, 一般体系の中に移されている。

ISO 8879(SGML)は, システム識別子の内容には何の規定も設けていない。公式システム識別子定義は, この問題を補うために導入された。ファイルシステム, データベースなどの記憶装置から実体の内容を取出すための情報を記述できる。

3.2 DSSSLとの整合

第1版のHyTime(ISO/IEC 10744:1992)を開発した当時は, ISO/IEC 10179(DSSSL)はまだ発行されていなかった。その後のDSSSL開発の過程で, HyTimeとDSSSLとに共通する機能があることが明らかになった。そこで第2版ではDSSSLが定義するグローブ(GROVE)を導入して, 第1版にあったさまざまな操作を再定義している。

第1版では, HyTimeが独自にHyOp及びHyFunkというマーカ関数記法を定義していた。第2版ではこれを改め, DSSSLの式言語をそのまま使っている。第1版では, 照会記法のHyQを独自に定義していたが, 第2版ではDSSSLのSDQLを用いる変更がなされている。

3.3 その他

第2版では, HyTimeのモジュール構成が見直された。第1版にあった計測モジュールがなくなり, その内容が分割されて, 基本モジュール及び配置モジュールの一部となっている。

4. 引用規格及び対応JIS

この表は, JIS本体附属書にある原国際規格の引用規格(Normative references)に対応するJISがある場合, これを表したものである。

なお, 国際規格の名称は, 原国際規格に記述されているため省略している。

国際規格番号JIS番号JIS名称備考
ISO 8879:1986JIS X 4151-1992文書 記述言語SGML全訳規格
ISO 9069:1988JIS X 4171-1996 SGML文書交換様式(SDIF)全訳規格
ISO/IEC 9070:1991JIS X 4172:1998SGML公開テキスト所有者識別子全訳規格
ISO/IEC 10179:1996JIS X 4153:1998文書スタイル意味指定言語(DSSSL)全訳規格
備考 JIS X 4151-1992は, ISO 8879:1986及びISO 8879/Amendment 1:1988の内容に, 技術的追加及び編集上の変更を加えたものである。

5. 用語

用語に関しては, この規格が要約規格であることから, JIS本体においては, 訳の対象から省略されている。原国際規格における用語と対応する日本語訳を次 に示す。

原国際規格箇条番号原国際規格における用語対応日 本語
3.1anchor端点
3.2anchlocanchloc
3.3application BOS応用BOS
3.4architectural forms体系形式
3.5attribute form属性形式
3.6auxiliary grove補助グローブ
3.7bit combinationビット組み
3.8bounded object set, BOS 境界内オブジェクト集合, BOS
3.9bounding region境界域
3.10children property子供特性
3.11client architecture クライアント体系
3.12client document クライアント文書
3.13client DTDクライアントDTD
3.14clinkclink
3.15content property内容特性
3.16content tree内容木
3.17contextual hyperlink 文脈依存ハイパリンク
3.18contextual link element form 文脈依存リンク要素形式
3.19data attribute form データ属性形式
3.20data location address データ所在番地
3.21datalocdataloc
3.22dimension区間
3.23document文書
3.24document (type) definition, DTD 文書(型)定義, DTD
3.25effective BOS実効BOS
3.26element form要素形式
3.27entity descriptor実体記述子
3.28entity tree実体木
3.29event事象
3.30event projection事象投影
3.31(scheduled) extent (配置済み)存在範囲
3.32external identifier外部識別子
3.33fcslocfcsloc
3.34finite coordinate space location address有限座標空間所在番地
3.35graph representation of property values.特性値のグラフ表現
3.36groveグローブ
3.37grove construction processグ ローブ構築処理
3.38grove definitionグローブ定義
3.39grove planグローブ設計
3.40grove rootグローブ根
3.41grove sourceグローブソース
3.42hub document中核文書
3.43hyperdocumentハイパ文書
3.44hyperlinkハイパリンク
3.45hyperlink anchor location addressハイパリンク端点所在番地
3.46hyperlink location address ハイパリンク所在番地
3.47hypermedia application ハイパメディア応用
3.48hypermedia document ハイパメディア文書
3.49Hypermedia/Time-based Structuring Language, HyTime ハイパメディア及び時間依存情報の構造化言語, HyTime
3.50HyTime attributeHyTime属性
3.51HyTime BOSHyTime BOS
3.52HyTime documentHyTime文書
3.53HyTime elementHyTime要素
3.54HyTime element type HyTime要素型
3.55HyTime engineHyTime基本処理系
3.56HyTime hyperdocument HyTimeハイパ文書
3.57HyTime systemHyTimeシステム
3.58hypertextハイパテキスト
3.59initial referrer (to a location path)(所在経路への)初期参照元
3.60integrated open hypermedia, IOH統合開放型ハイパメディア, IOH
3.61linkリンク
3.62link endリンク端
3.63link process definition, LPD リンク処理定義, LPD
3.64link typeリンク型
3.65linkloclinkloc
3.66listloclistloc
3.67list location address リスト所在番地
3.68location ladder所在梯子
3.69location address所在番地
3.70location path所在経路
3.71location source所在ソース
3.72mixedloc, mixed location addressmixedloc, 混合所在番地
3.73multimediaマルチメディア
3.74(object) modification (オブジェクト)修飾
3.75namelocnameloc
3.76named location address 名前付き所在番地
3.77named node list 名前付きノードリスト
3.78name-space location address 名前空間所在番地
3.79nmsplocnmsploc
3.80nodeノード
3.81notation form記法形式
3.82origin起点
3.83patchつなぎ
3.84pathlocpathloc
3.85path location address 経路所在番地
3.86pelementpelement
3.87presentation表示
3.88previous specified element 直前指定要素
3.89primary grove1次グローブ
3.90principal tree主要木
3.91principal tree root主要木根
3.92projection投影
3.93property location address 特性所在番地
3.94property set特性集合
3.95proplocproploc
3.96pseudo-element疑似要素
3.97quantum量子
3.98querylocqueryloc
3.99query location address 問合せ所在番地
3.100real time実時間
3.101referent (of an ID reference)(ID参照の)参照先
3.102referential attribute 参照する属性
3.103referrer (to a referent element)(参照先要素への)参照元
3.104relative location address 相対所在番地
3.105rellocrelloc
3.106rendition描出
3.107reportable HyTime error, RHE 報告可能HyTime誤り, RHE
3.108(location) rung(所在)段
3.109SDIF packerSDIF封入器
3.110SDIF unpackerSDIF開封器
3.111self anchor自己端点
3.112semantic grove意味グローブ
3.113SGML Document Interchange Format, SDIF SGML文書交換様式, SDIF
3.114SGML processing link SGML処理リンク
3.115SGML subdocument entity, SUBDOC SGML副文書実体, SUBDOC
3.116subhub副中核
3.117SMU nameSMU名
3.118(location) step (所在)ステップ
3.119subnode副ノード
3.120subnode property副ノード特性
3.121subnode tree副ノード木
3.122target (of an ID reference)(ID参照の)ターゲット
3.123treeloctreeloc
3.124tree location address 木所在番地
3.125validating HyTime engine 検証HyTime基本処理系
3.126view連結網表示
3.127web連結網

6. 国際規格の動向

第2版のHyTime(ISO/IEC 10744:1997)が出版された後, 1997年12月には, SC18/WG8の暫定組織であるJTC1/WG4の会議において, XML(Extensible Markup Languagde)6)への整合を考慮した修正(Amendment)の原案(PDAM1)7)が提案された。

HyTimeは, 体系サポート宣言を定義(A.3.4)し, SGML文書がどの体系を使用しているかを宣言することを可能にする。体系は記法として宣言し, その体系に関する特性はその記法のデータ属性によって表現する。 しかし, データ属性をサポートせず, DTDをもたないSGML文書(例えば, XML文書)においては, 記法宣言を書けず, 体系を使用できない。そこで, このPDAM1は, 体系使用宣言処理命令(architecture use declaration processing instruction)という処理命令を用いて, 体系サポート宣言と等価な宣言を書くことを可能にする。

これは, JTC1/WG4 N1957として配布され, 1998年3月を期限とする投票を受けた。1998年5月のJTC1/WG4会議では, 投票結果のコメント対処を行ない, DAM1テキスト8)を作成した。このDAM1に対する投票はまだ行なわれていない。

1998年5月のJTC1/WG4会議では, 第2版のHyTime(ISO/IEC 10744:1997)に対する技術訂正案9)も検討されている。これは, 3., 6., 7., 8., 9., A., C.の記述の一部を訂正する内容になっている。

これに関する検討は, JTC1の方針に従ってSC18/WG8がJTC1/WG4となり, さらにSC34へと組織変更する時期に重なったため, まだ進展していない。

7. 審議中に問題となった事項

第2版のHyTime(ISO/IEC 10744:1997)を翻訳して, JIS X 4155:1999の原案を作成するに際しては, 原則として, 第1版のHyTime(ISO/IEC 10744:1992)の要約JISであるJIS X 4155-1994に対して用語及び表記を整合させることとした。

第1版のJISを原案作成した当時は, 要約JISの制度ができた直後であって, 要約方法に関するガイドラインがなく, 定義の節までを全文翻訳しその他のすべての節・項の内容を要約した。この第2版では, その後整備された要約方法に関するガイドラインに従った要約が施されている。その結果, 第2版のJIS X 4155:1999は, 第1版のJIS X 4155-1994に比べてかなり簡素化された体裁になっている。

8. 参考文献

1) ISO/IEC JTC1 N3441 (SC18 N5027), First Proposed Technical Corrigendum to ISO/IEC 10744:1992, 1995-03.

2) SC18 N5107, Summary of Voting on Document SC18 N5027, 1995-07.

3) SC18/WG8 N1797, Disposition of Comments on SC18 N5027, Ballot on HyTime TC, 1995-07.

4) SC18/WG8 N1887, Corrected HyTime Standard ISO/IEC 10744:1992, 1996-11.

5) 日本事務機械工業会, 平成8年度 標準記述言語分野の国際整合化調査研究(DDFD)成果報告書, 1997-03.

6) TR X 0008:1999 拡張可能なマーク付け言語(XML) 1.0, 1999-05.
 備考 W3C(World Wide Web Consortium)/REC, Extensible Markup Language (XML) 1.0, 1998-02 がこの標準情報(TR)に一致している。

7) JTC1/WG4 N1957, PDAM1 to ISO/IEC 10744:1997, 1997-12.

8) JTC1/WG4 N1985, DAM1 to ISO/IEC 10744:1997, 1998-05.

9) JTC1/WG4 N1988, Proposed text for a Technical Corrigendum to ISO/IEC 10744:1997, 1998-05.

9. 原案作成委員会

原案作成委員会である(財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の "標準記述言語分野の国際整合化調査研究委員会"(DDFD)は, 学識経験者, メーカ 及び利用者で構成され, その委員会の中に実際の翻訳作業を行う作業グループ (DDFD-WG)が設置されている。それらの構成員を次に示す。

標準記述言語分野の国際整合化調査研究委員会 構成表
氏名 所属
(委員長) 池田 克夫 京都大学 (JTC1/SC18専門委員会委員長)
(幹事) 小町 祐史 松下電送システム株式会社 (SC18/WG8小委員会注)主査)
安達 淳 株式会社沖データ
石井 裕 大日本印刷株式会社
内山 光一 株式会社東芝
小笠原 治 社団法人日本印刷技術協会
高沢 通 大日本スクリーン株式会社
高橋 亨 株式会社日立製作所
田中 洋一 凸版印刷株式会社
窪田 明 通商産業省機械情報産業局
橋爪 邦隆 工業技術院標準部情報電気規格課
大久保 彰徳 株式会社リコー
宮本 義昭 日本ユニシス株式会社
(事務局) 小笠原 康直 財団法人日本規格協会
(事務局) 大川 和司 財団法人日本規格協会 (1998年12月以降)

注) その後, SC34準備委員会

作業グループ(DDFD-WG) 構成表
氏名 所属
(主査) 小町 祐史 松下電送システム株式会社 (SC18/WG8小委員会注)主査)
(幹事) 高橋 亨 株式会社日立製作所
安達 淳 株式会社沖データ
今郷 詔 株式会社リコー
内山 光一 株式会社東芝
小笠原 治 社団法人日本印刷技術協会
奥井 康弘 株式会社日本ユニテック
堀越 裕太郎 工業技術院標準部情報電気規格課
田中 洋一 凸版印刷株式会社
内藤 広志 大阪工業大学
(事務局) 小笠原 康直 財団法人日本規格協会
(事務局) 大川 和司 財団法人日本規格協会 (1998年12月以降)

注) その後, JTC1/SC34準備委員会