JIS X 4175:2003
(ISO/IEC 13240:2001)

マルチメディア対話型文書のための交換規格(ISMID)
解説



この解説は,本体及び附属書に規定した事柄,並びにこれらに関連した事柄を説明する ものであって,規格の一部ではない。


1. 制定の趣旨

ISMIDの課題は, 1997年12月のISO/IEC JTC1/WG4会議(Alexandria, US)においてUSによって提案され, JTC1/WG4(JTC1/SC34の暫定委員会)としての対応を審議した。その審議には日本も参加し, それまでの文書関連規格の応用規定として適切であり, それを用いた環境は今後さらに必要性が高まると判断して, 新作業課題提案(NP)[1]をJTC1に提出することに賛成した。

ISMIDの主要部分は既に米国空軍のマニュアル記述に利用されており, それをJTC1に提案するために, HyTime Conferenceで議論[2]を行ってきた。対話型技術マニュアルの交換に対する要求は, 当時国内でも関連業界で議論され, この規格の完成によってその要求が満たされることが強く期待されていた。そこでHyTime Conferenceでは, 日本からの参加者も議論に加わっていた。

その後, この課題はJTC1/SC34に引き継がれ, 2001年9月にFDIS投票で承認された。以前からISMIDの動向を調査研究してきた, (財)日本規格協会の情報技術標準化研究センター(INSTAC)に設けられた"文書処理及びフォントの標準化調査研究委員会"(DDFD)は, FDIS投票の後, 経済産業省からの要求に応じて, JIS化への検討を開始した。DDFDは, ISO/IEC 13240:2001を翻訳(要約)してJIS原案を作成し, 2002年9月に経済産業省に提出している。


2. 制定の経緯

1998年のNP提案[1]に対して, 日本は利用者要求があるとの判断で参加を表明し, 以降のJTC1/SC34での議論に加わった。 FCDテキスト[3]については, 国内での詳細レビューの結果, 次のコメントを提出している。

FCD投票は1999年9月に締め切られ, 承認されて, FDISテキストの作成が開始された。その作業に多くの時間が費やされたが, 2001年7月にJTC1からFDISテキスト[4]が配布された。SC34には, 既に2月に配布されている。これに対して日本は, FCD投票時のコメントが充分に反映されているとして, 賛成した。ISO/IEC 13240は, 2001年12月に発行されている。


3. 規定概要

この規格は, 利用者を含む環境との対話によって動的に内容表示を変化させるマルチメディア対話型文書の交換体系を, HyTimeを使って規定する。

マルチメディア対話型文書は, ハイパ文書であるSGML及びHTMLの機能に加えて, 文書に対するその読者の動作(刺激)に対応して, 動的に文書内容の表示の仕方(例えば,体裁,表示順序,リンクのたどり)を変える。この変化を生成するためには, 刺激に対する応答の動作を記述する必要がある。これにはDSSSL,既存のスクリプト言語などが使用できる。対話的な,電子マニュアル,電子カタログ,電子教材などへの幅広い応用が見込まれている。


4. 引用規格及び対応JIS

解説表1は, JIS本体の附属書にある原国際規格の引用規格(Normative references)に対応するJISがある場合, これを表したものである。

なお, 国際規格の名称は, 原国際規格に記述されているため省略している。

解説表1 引用規格及び対応JIS

国際規格番号JIS番号JIS名称備考
ISO 8879:1986JIS X 4151-1992文書 記述言語SGML全訳規格
ISO/IEC 10179:1996JIS X 4153:1998文書スタイル意味指定言語(DSSSL)全訳規格
ISO/IEC 10744:1997JIS X 4155:2000 ハイパメディア及び時間依存情報の構造化言語(HyTime)要約規格

備考 JIS X 4151-1992は, ISO 8879:1986及びISO 8879/Amendment 1:1988の内容に, 技術的追加及び編集上の変更を加えたものである。

5. 用語

用語に関しては, この規格が要約規格であることから, JIS本体においては, 訳の対象から省略されている。原国際規格における用語と対応する日本語訳を解説表2に示す。

解説表2 訳語一覧

原国際規格箇条番号原国際規格における用語対応日本語
4.1application応用
4.2behavior component振る舞い構成部品
4.3continer objectコンテナオブジェクト
4.4control object制御オブジェクト
4.5document文書
4.6external objects外部オブジェクト
4.7hyperdocumentハイパ文書
4.8hyperlinkハイパリンク
4.9interface objectsインタフェースオブジェクト
4.10interactive document対話型文書
4.11interactive document delivery system対話型文書配布システム
4.12interactive document development system対話型文書開発システム
4.13interactive presentation対話型表示
4.14content object内容オブジェクト
4.15response応答
4.16response chain応答連鎖
4.17static document静的文書
4.18static presentation静的表示
4.19stimulus刺激
4.20stimulus-driven刺激駆動


6. 国際規格の動向

このJISの作成に際して, 原規格の3箇所の誤りが明らかになった。このJISが要約規格であるため, その誤りはJISの記述内容には影響がなかったが, 日本は, 原規格の開発を行ったISO/IEC JTC1/SC34に対してDefect Reportを提出し, 原規格の修正を求めた。

Defect Reportは, ISO/IEC JTC1/SC34からSC34 N0337[5]として2002年10月に配布され, 各国の反対が全くなかった[6]ため, 2002年12月のSC34総会において, Technical Corrigendum 1としての出版が確認された。


7. 審議中に問題となった事項

JIS本体の1.2では, ISMIDの応用分野として各種のシステムが示されている。そのシステム名の日本語表記には, 短縮形だけでなく, フルスペルを併記して誤解を避けるようにした。


8. 参考文献

[1] ISO/IEC JTC1 N5122 (WG4 N1947), Proposal for a new work item on Interchange Standard for Modifiable Interactive Documents, 1998-01

[2] B. K. Caporlette, Interactive Electronic Technical Manuals (IETMs), HyTime Conference, 1994-07

[3] ISO/IEC FCD 13240, Information Technology - Interchange Standard for Multimedia Interactive Documents (ISMID), 1999-05

[4] ISO/IEC FDIS 13240, Interchange Standard for Multimedia Interactive Documents (ISMID), 2001-07

[5] ISO/IEC JTC 1/SC34 N0337, Defect report on ISO/IEC 13240:2001, Interchange Standard for Multimedia Interactive Documents (ISMID), 2002-10

[6] ISO/IEC JTC 1/SC34 N0357, Summary of Comments on Defect report on ISO/IEC 13240:2001, Interchange Standard for Multimedia Interactive Documents (ISMID) - SC34 N0337, 2002-12


9. 原案作成委員会

原案作成委員会である(財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の"文書処理及びフォントの標準化調査研究委員会"(DDFD)は, 学識経験者, メーカ及び利用者で構成され, その委員会の中に実際の翻訳作業を行う作業グループ1(DDFD-WG1)が設置されている。それらの構成員を解説表3及び解説表4に示す。

解説表3 文書処理及びフォントの標準化調査研究委員会 構成表
氏名 所属
(委員長) 池田 克夫 大阪工業大学
(幹事) 鯵坂 恒夫 和歌山大学
(幹事) 小町 祐史 松下電送システム株式会社 (SC34専門委員会委員長)
安達 淳 株式会社沖データ
内山 光一 株式会社東芝
小笠原 治 社団法人日本印刷技術協会
高沢 通 大日本スクリーン株式会社
高橋 亨 株式会社日立製作所
岩田 悟志 経済産業省商務情報政策局
木戸 達雄 経済産業省産業技術環境局
大久保 彰徳 株式会社リコー
宮本 義昭 日本ユニシス株式会社
(オブザーバ) 高橋 昌行 経済産業省産業技術環境局
(事務局) 内藤 昌幸 財団法人日本規格協会

解説表4 作業グループ1(DDFD-WG1) 構成表
氏名 所属
(主査) 小町 祐史 松下電送システム株式会社 (SC34専門委員会委員長)
(幹事) 内山 光一 株式会社東芝
(幹事) 高橋 亨 株式会社日立製作所
安達 淳 株式会社沖データ
今郷 詔 株式会社リコー
小笠原 治 社団法人日本印刷技術協会
奥井 康弘 株式会社日本ユニテック
内藤 求 株式会社シナジーインキュベート
内藤 広志 大阪工業大学
野口 高成 ネクストソリューション株式会社
渡部 賢一 財団法人日本規格協会
(オブザーバ) 浅利 千鶴 浅利会計事務所
大久保 彰徳 株式会社リコー
高橋 昌行 経済産業省産業技術環境局
(事務局) 内藤 昌幸 財団法人日本規格協会