JIS X 4173:2001

標準一般化マーク付け言語(SGML)システムの適合性試験
解説



この解説は,本体及び附属書に規定した事柄,並びにこれらに関連した事柄を説明する ものであって,規格の一部ではない。


1. 制定の趣旨

規格が普及し始め, 多くのベンダがそれに基づく製品の提供を開始すると, 製品の規格への適合性が問題になり, 適合性試験に関する規格への利用者要求が高まり, 国際標準化機関でそのためのプロジェクトが設立されることが多い。SGMLに関しては, 1986年に国際規格ISO 8879が発行されると, 米国におけるSGMLシステムの普及に伴って,その適合性試験に対する関心が集まり,まず1987年2月にSGML validation suiteのワークショップが開催されて,報告書がまとめられた。

その後, 時間をかけてSGMLの国際的な普及が進み, 国内においてもSGMLが多様な分野で利用され始め, "SGMLシステム"と称するシステムが, SGMLを規定する規格に適合するかどうかを検証することは, システムの開発者及び利用者にとって必須事項となって, 適合性試験の標準化によってSGMLデータの交換性を向上させる必要性が強く指摘され始めた。

ISOにおいては, JTC1/SC18がSGMLシステムの適合性試験を担当し, その後SC34に引継がれて, 2000年4月にISO/IEC 13673として制定された。

これらの国際及び国内の技術動向を踏まえ, 通商産業省(当時)の工業技術院は, (財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)に対して2000年度の活動として, ISO/IEC 13673のJIS化作業を委託した。INSTACでは"文書処理及びフォントの標準化調査研究委員会"(DDFD)がこの作業を担当し, 2001年8月に原案を提出している。


2. 制定の経緯

SGML validation suiteのワークショップの報告書を受けて, 1987年にはこの作業課題がISOに提案されたが,まだ当時は国際的な参加表明が 5ヶ国に満たなかったため,否決された。

その後,SGMLの国際的な浸透を確認したISO/IEC JTC1/SC18は, 充分な参加が得られると判断して,この作業課題を再提出した。SC18/WG8の国際会議における本件の準備Adhocには,日本も参加している。

SGMLシステムの適合性試験の国際標準化は,1990年7月に ISO/IEC JTC1の新作業課題の投票(JTC1 N725[1])を受け,開始された。しかし米国においては, SGMLシステムの適合性試験の標準化作業が既に進んでいて,1992年にANSI X3.190-1992[2]が制定された。そこで, 米国はこれをFast-Track手続きによってISO/IEC JTC1に提案し,1994年2月を期限とするDIS投票が行われた。

投票の結果,このDISは承認され,1994年4月のSC18/WG8会議において投票コメントに対する対処審議を受け,それを反映した最終テキストが1994年8月のSC18/WG8会議で配布された。しかしエディタの都合などによってISO/IEC 13673のその後の作業の進捗はなく, SC18/WG8の活動がSC34に引き継がれてから, DIS投票で承認されているにもかかわらず, 諸般の事情によって出版が遅れていて早急に対応をとる必要がある案件として, SC34議長から作業推進の勧告を受けた。 この勧告に基づき, 直ちにISO/IEC 13673の最終テキストの出版手続きが開始された。


3. 引用規格及び対応JIS

原規格の2. Normative referencesの規定内容を次に示す。

JIS X 0201-1997 7ビット及び8ビットの情報交換用符号化文字集合
  備考 ISO/IEC 646:1991 Information technology — ISO 7-bit coded character set for information interchangeが, この規格に対応している。
  参考 原規格のISO/IEC 13673:2000は, 旧版のISO 646:1983, Information processing — ISO 7-bit coded character set for information interchangeを 引用している。

ISO 8879:1986, Information processing — Text and office systems — Standard Generalized Markup Language (SGML)
  備考 JIS X 4151-1992 文書記述言語 SGMLは,このISO 8879:1986及び ISO 8879/Amd.1:1988の内容に,技術的追加及び編集上の変更を加えている。

ISO 8879:1986/Amd.1:1988, Information processing - Standard Generalized Markup Language (SGML) Amendment 1

JIS X 4171-1996 SGML文書交換様式
  備考 ISO 9069:1988, Information processing — SGML support facilities — SGML Document Interchange Format (SDIF)がこの規格に一致している。


4. 用語

原規格の4. Definition の規定内容を次に示す。

  備考 次に定義する用語は,ISO 8879で使われたり,定義されたりしていない。 ISO 8879の今後の版にこれらの定義が追加されれば,ISO 8879が優先する。

4.1 変則試験項目 (anomalous test case)

通常試験の要求から逸脱した試験項目。 これは,試験対象のSGML構成子がその要求に一致しないことによる。

4.2 アプリケーションモジュール (application module)

パーサでも実体マネージャでもない,SGMLシステムの構成要素。

4.3 最新版 (effective edition)

修正,補遺及びその他の訂正を含む規格の現在の版。

4.4 要素構造情報集合 (Element Structure Information Set)

SGMLマーク付けによって記述される要素構造を構成する情報(附属書Aが定義す る。)。

4.5 ESIS

要素構造情報集合(Element Structure Information Set)の短縮形。

4.6 等価SGML文書 (equivalent SGML document)

同一のDTD[文書型定義(document type definition)]及びLPD[連結処理定義(link process definition)]を用いて解析される際に,同一のESISをもつSGML文書。

4.7 内部実体 (internal entity)

実体宣言に置換テキストが現れる実体。

4.8 辞書順 (lexicographic order)

当該文字列は,次のa)又はb)の場合に,第二の文字列の前に置く。

a) 当該文字列が,第二の文字列の接頭辞である場合。
b) 当該文字列と第二の文字列とが相違する最初の位置で,次の規則に従って, 当該文字列の相違文字が,第二の文字列の相違文字に先行する場合。
 1) 印刷可能文字の先行 印刷可能文字は印刷不能文字に先行する。
 2) 印刷可能文字間の先行 ISO 646の文字番号が小さい方の印刷可能文字 は,それが大きい方の印刷可能文字に先行する。つまり,スペース文字は,それ以外のす べての印刷可能文字に先行し,4.14に示す印刷可能文字のリスト中で,前にある スペース文字以外の文字は,後にある文字に先行する。
 3) 印刷不能文字間の先行 文書文字集合中における文字番号が小さい方の印刷不 能文字は,それが大きい方の印刷不能文字に先行する。

  備考 印刷可能文字だけから成る文字列に関しては,この順序は具象構文に無関係とする。

4.9 主SOO (major SOO)

試験文書集合中の関連する複数の試験に関する目的記述。

4.10 マーク依存形SGMLアプリケーション (markup-sensitive SGML application)

SGMLマーク付け及び要素構造の両方を操作することのできるSGMLアプリケーション。

4.11 副SOO (minor SOO)

関連する試験グループの個々のメンバを区別するSGMLの特定規則を記述する目的記述。

4.12 印刷不能文字 (nonprintable character)

印刷可能文字(4.14を参照)でない文字。

4.13 通常試験 (ordinary test)

この規格において項目立てられ,通常の試験に関する要求として識別される,命名規則, 構成規則及びフォーマット規則に従った試験項目(変則試験を参照。)。

4.14 印刷可能文字 (printable character)

32から126までのISO 646の文字番号をもつ文字。これらの文字は,スペース文字 及び次の文字とする。

    ! " # $ % & ' ( ) * + , - . / 0 1 2
    3 4 5 6 7 8 9 : ; < = > ? @ A B C D
    E F G H I J K L M N O P Q R S T U V
    W X Y Z [ \ ] ~ _ ` a b c d e f g h
    i j k l m n o p q r s t u v w x y z
    { | } 〜

4.15 RACT

容量試験用基準アプリケーション(Reference Application for Capacity Testing)の短縮形。

4.16 RAST

SGML試験用基準アプリケーション(Reference Application for SGML Testing)の短縮形。

4.17 容量試験用基準アプリケーション (Reference Application for Capacity Testing)

容量計算を報告するSGMLアプリケーション(15.に定義する。)。

4.18 SGML試験用基準アプリケーション (Reference Application for SGML Testing)

ESIS情報を報告するSGMLアプリケーション(14.に定義する。)。

4.19 SOO

目的記述(statement of objective)の短縮形。

4.20 目的記述 (statement of objective)

個々の試験項目又は関連する試験のグループによって調べられるSGML言語の機能の簡単な 記述。

4.21 構造制御形SGMLアプリケーション (structure-controlled SGML application)

ESIS情報及びSGML宣言のAPPINFOパラメタだけを操作するSGMLアプリケーション。構造制 御形アプリケーションは,SGMLマーク付けによって記述される要素構造を操作するが, マーク付け自体は操作しない。

4.22 試験項目(又は試験) [test case(or test)]

試験文書集合に含まれるSGML文書。

4.23 試験対象システム (tested system)

試験文書集合の試験項目に関して生成される結果の検査によって評価されるSGMLシステム。

4.24 試験文書集合 (test suite)

システムがISO 8879の規定に適合するかどうかを表すために,SGMLシステムを実 行することを意図したSGML文書の集合で,この規格に従って文書化した集合。


5. 機能概要

SGMLシステムがSGMLを規定する規格に適合するかどうかを検証する試験文書集合を開発するための方法として,
a) 試験項目
b) 各試験項目で用いる構成子の命名規則
c) 試験項目の分類規則
d) 試験文書集合の文書化規則
を規定することによって, 検証結果の一貫性を保証する。


6. 国際規格の動向

原規格のISO/IEC 13673については, その発行の後は, 技術訂正(technical corrigendum), 修正(amendment)などの要求はなく, 安定した規定内容を維持している。


7. 審議中に問題となった事項

7.1 JIS X 4151の節番号

この規格では, 試験項目の指定にSGMLの原規格であるISO 8879の節番号で表記する。SGMLを規定するJIS X 4151の節番号は, 対応するISO 8879の規定内容の節番号とは一致していないため, JIS X 4151に従ってそのまま適合性試験の表記を行うと, 国際との整合性がとれなくなることに注意する必要がある。

7.2 訳語

"test suites"に対する訳語として他のJISでは“試験項目群”を使うことが多い。しかしこの規格では, 用語の意味を考慮して, "test case"の訳語として"試験項目"を用い, "test case"を与えるSGML文書の集合を示す"test suites"の訳語に"試験文書集合"を用いている。


8. 参考文献

[1] ISO/IEC JTC1 N725, Proposal for a New Work Item: Conformance Testing for SGML, 1990-03-19

[2] ANSI X3.190-1992 (R1997), Information Technology — Text and Office Systems — Conformance Testing for Standard Generalized Markup Language (SGML) Systems


9. 原案作成委員会

原案作成委員会である(財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の"文書処理及びフォントの標準化調査研究委員会"(DDFD)は, 学識経験者, 生産者及び利用者で構成され, その委員会の中に設置された作業グループ1(DDFD-WG1)が翻訳作業を行った。それらの構成員を次に示す。

解説表2 文書処理及びフォントの標準化調査研究委員会 構成表

氏名 所属
(委員長) 池田 克夫 京都大学
(幹事) 鯵坂 恒夫 和歌山大学
(幹事) 小町 祐史 松下電送システム株式会社 (SC34専門委員会委員長)
安達 淳 株式会社沖データ
内山 光一 株式会社東芝
小笠原 治 社団法人日本印刷技術協会
高沢 通 大日本スクリーン株式会社
高橋 亨 株式会社日立製作所
加藤 幸司 凸版印刷株式会社
窪田 明 経済産業省機械情報産業局
木戸 達雄 経済産業省産業技術環境局
大久保 彰徳 株式会社リコー
宮本 義昭 日本ユニシス株式会社
(オブザーバ) 高橋 昌行 経済産業省産業技術環境局
(事務局) 内藤 昌幸 財団法人日本規格協会

解説表3 作業グループ1(DDFD-WG1) 構成表

氏名 所属
(主査) 小町 祐史 松下電送システム株式会社 (SC34専門委員会委員長)
(幹事) 内山 光一 株式会社東芝
(幹事) 高橋 亨 株式会社日立製作所
安達 淳 株式会社沖データ
今郷 詔 株式会社リコー
小笠原 治 社団法人日本印刷技術協会
奥井 康弘 株式会社日本ユニテック
内藤 求 株式会社シナジーインキュベート
内藤 広志 大阪工業大学
海田 茂 ネクストソリューション株式会社
萩野 剛二郎 電気通信大学
渡部 賢一 財団法人日本規格協会
(オブザーバ) 浅利 千鶴 浅利会計事務所
大久保 彰徳 株式会社リコー
高橋 昌行 経済産業省産業技術環境局
(事務局) 内藤 昌幸 財団法人日本規格協会