この解説は,規格本体及び附属書に規定した事柄,並びにこれらに 関連した事柄を説明するものであって,規格の一部ではない。

制定の趣旨

電子的に作成された文書から印刷物を得るためには、これをプリンタ側で解釈可能なデータ形式に変換して転送しなければならない。 しかし従来、このデータ形式には標準といえるものが存在しなかったため、応用プログラムやオペレーティングシステムのレベルでプリンタの機種ごとにドライバプログラムを用意し、これらを用いて各プリンタの要求するデータ形式への変換を行わなければならなかった。 このような方式では、新たなプリンタが登場するごとにそのドライバを開発しなければならず、文書処理システムの開発に大きな負担を課すことになる。 また、接続される可能性のあるさまざまなプリンタに備えてシステム内に多数のドライバを保持しなければならない、フォーマティングを終了した表示/印刷用文書をシステム間で交換/再利用できないなど、さまざまな問題が派生する。

フォーマティング済みの最終形式文書を記述する標準言語を規定することによってこれらの問題を解決することを目的として、ISO/IEC JTC1/SC18/WG8は、標準ページ記述言語SPDL (Standard Page Description Language)の開発を行うプロジェクトを1987年に設立した。 このプロジェクトでは、米国Xerox社及びAdobe社から一人ずつプロジェクトエディタを選出し、Interpress (Xerox)及びPostScript (Adobe)の両者の特長を取り入れた 言語仕様の開発が行われた。 すなわち、SPDLの言語仕様のうち、その文書構造記述部分はInterpress、ページ内容記述部分はPostScriptの仕様を基にしている。 SPDLの国際規格は、1995年12月にISO/IEC 10180として出版された。

ページ記述言語の標準が必要であるという事情は国内においても同様であり、国際規格の動向に沿ってその規格化を進めることが求められていた。 この要求に応えるため、通商産業省工業技術院は,ISO/IEC 10180の翻訳によるJIS原案の作成を社団法人日本事務機械工業会に委託した。 これを受けて、日本事務機械工業会は,文書記述・フォントJIS原案作成委員会において,その作業を1991年7月から開始し、1996年12月にJIS原案を提出した。

JIS原案作成作業の経緯

ISO/IEC JTC1/SC18/WG8におけるSPDLの規格開発は、1987年8月に最初のWD (Working Draft)が完成し、その後1989年9月にDP (Draft Proposal)文書を登録、1990年1月にDP投票を通過、1991年3月にDIS (Draft International Standard)文書を登録、同年10月にDIS投票を通過と、ここまでは順調に進められた。 ところが、DIS投票時に各国から寄せられたコメントが非常に多く、内容的にも多岐にわたるものだったため、その対処に多大な時間を要したこと、その過程で規格案全体の章立てを変更するなど、テキストの大幅な書換えが行われたこと、Adobe側のエディタが交代したこと、従来ワードプロセッサを用いて規格案テキストを作成してきたため、規格書出版のためには、これをISO中央事務局が採用しているSGML形式[ISO/IEC TR 9573-11 (文献()]が規定するDTD (Document Type Definition)に従った形式)に変換する作業が必要になったこと、などから開発は最終段階で大幅に遅れ、前記のとおり、最終的な規格書(ISO/IEC 10180)の出版は1995年12月となった。

SPDL JIS原案の作成作業も、このような国際規格の作業遅れにより大きな影響を受けることになった。 文書記述・フォントJIS原案作成委員会は、当初1991年3月のDISテキストを対象として翻訳作業を開始し、いったんほぼその翻訳を完了する段階にまで到達したが、その後国際規格テキストが大幅に書き換えられ、その過程で用語も多数変更されたため、事実上もう一度翻訳をやり直すことを余儀なくされた。 なお、前記DISテキストの日本語訳は、日本事務機械工業会の技術資料(文献())として限定出版した。

前にもふれたとおり、ISO中央事務局は、規格文書(国際規格及び技術報告)のテキストをSGMLにより記述し、これを自動組版することにより規格出版作業の合理化をすすめている。 この動きに呼応し、また国内からのJIS文書の電子化による効率的出版への要求に応えるため、JIS規格についてもSGMLを用いた規格文書テキストの記述が試みられている。 既に、文書記述JIS原案作成委員会では、前記ISO/IEC TR 9573-11を翻 訳し、JIS規格文書の構造及びその処理手続きに対応した修正を加えて、 JIS標準情報TR X 0004 (文献())原案として提出している。 また、このJIS標準情報の原案は、それ自身TR X 0004が規定するDTDに 従うSGML文書として記述し、更にこのDTDから組版言語LaTeX (文献 ()に変換するシステム(文献()())を構築することにより、完全な自動組版によって提出用印刷物を作成している。

以上の成果を踏まえ、文書記述・フォントJIS原案作成委員会では、SPDLのJIS原案もJIS標準情報TR X 0004が規定するDTDに従うSGML文書として記述し、自動組版によりJIS原案の印刷物を作成した。

審議中の主要検討課題

必す(須)フォント

ISO/IEC 10180では、すべての適合SPDL処理系が備えるべき必す(須)フォントとして、12種類の欧文用フォントのグリフ集合と配置量情報を規定し、これにより通常の欧文SPDL文書が任意の処理系によって正しく可視化できることを保証している。 (この規定はこの規格の附属書Dに含まれている。) 日本語SPDL文書に関して同様な再現性を保証するためには、日本語フォントについても必す(須)フォントを規定しておく必要がある。

しかし、日本語フォントとして、どのような書体についてどれだけの文字集合が必要になるかは応用目的によって異り、また各グリフの配置量情報は書体デザインに依存するため、SPDLのJIS規格においてこれを一律に規定してしまうのは不適切であると判断され、SPDLの日本語必す(須)フォントについては別途実装規約として規定することになった。 この日本語必す(須)フォントについては、日本事務機械工業会のPDL開発検討小委員会において検討が進められている(文献())。

用語の選択

SPDLは、数多くの印刷・製本関連用語を含んでいる。 しかし、これらの用語の中には国内で確立された訳語がないものも存在する。 例えば、SPDLでは媒体の紙質を示す用語の一つとして、"MEDIUM TOOTH"という言葉を使っている。 本来この"TOOTH"は、画用紙、障子紙など平滑に漉かれていない紙の総称であるが、 国内ではこれに相当する統一された用語がなく、製紙業界では各社ばらばらに、 その範疇に属する紙の商品名などで代用しているのが現状である。 古い用語としては"粗目(あらめ)"というのがあるが、ほとんど使われていない。 このような、標準的な業界用語のない特殊な用語については、無理に訳語を創作することは避け、原語をそのまま用いる方針をとった。 例えば上記の"MEDIUM TOOTH"は、"媒体TOOTH"とした。

懸案事項

このJIS原案作成作業中に明らかになった原規格の誤りは、 JIS原案ではすべて修正するとともに、 エラーレポート(文献())をISO/IEC JTC1/SC18/WG8 に提出した。 これに基づき、ISO/IEC JTC1/SC18/WG8において技術訂正を開発することにより、 この規格と国際規格との整合がとられることが望まれる。

参考文献
  1. ISO/IEC TR 9573-11, Information processing — SGML support facilities — Techniques for using SGML — Part 11: Application at ISO Central Secretariat for International Standards and Technical Reports, 1992-09.
  2. JBMS (F) 09, ISO/IEC DIS 10180 (Standard Page Description Language / SPDL), 日本事務機械工業会, 1993-05.
  3. JIS標準情報TR X 0004, SGML利用技術 — 日 本工業規格、国際規格及び技術報告の文書情報交換のための規格事務局 応用, 1997-XX.
  4. Leslie Lamport, LaTeX: A Document Preparation System, Addison-Wesley, 1986.
  5. 高橋亨 他, SGML文書変換言語の開発とその適用事例, CALS Japan'96予稿集, 1996-10.
  6. 高橋亨, JIS化作業の電子化, 日本事務機械工業会 文書関連JIS規格説明会予稿集, 1997-03.
  7. 1995年度PDL開発検討小委員会報告書, 日本事務機械工 業会, 1995-03.
  8. WG8/N1840, Error Report for ISO/IEC 10180:1995 (SPDL), 1996-05.

原案作成委員会

原案作成委員会である日本事務機械工業会の文書記述・フォントJIS 原案作成委員会は,学識経験者,メーカ及び利用者で構成され,その委 員会の中に他の文書関連JIS 開発との整合をとるプロジェクトリーダ会 議と,実際の翻訳作業を行うSPDLプロジェクトとが設置されている。そ れらの構成員を次に示す。 日本事務機械工業会 文書記述・フォントJIS原案作成委員会 池田 克夫京都大学 小町 祐史SC18/WG8国内委員会(松下電送株式会社) 三宅 信弘通商産業省機械情報産業局 竹田原 省二通商産業省工業技術院標準部 兼谷 明男通商産業省工業技術院標準部 渡辺 清財団法人日本規格協会 篠崎 徳量愛知女子短期大学 小笠原 治社団法人日本印刷技術協会 宮内 久男株式会社岩波 田中 洋一凸版印刷株式会社 空閑 明共同印刷株式会社 高沢 通大日本スクリーン株式会社 石井 裕大日本印刷株式会社 吉野 順NTTデータ株式会社 宮本 義昭日本ユニシス株式会社 武居 則幸セイコーエプソン株式会社 伊藤 晃日本情報科学株式会社 藤田 克彦株式会社リコー 柳沢 一大日本電気株式会社 高橋 亨株式会社日立製作所 安達 淳沖データ株式会社 佐々木 好洋社団法人日本事務機械工業会 プロジェクトリーダ会議 小町 祐史SC18/WG8国内委員会(松下電送株式会社) 小笠原 治社団法人日本印刷技術協会 小田 宏行通商産業省工業技術院標準部 高橋 亨株式会社日立製作所 安達 淳沖データ株式会社 田中 洋一凸版印刷株式会社 今郷 詔株式会社リコー 筧 捷彦早稲田大学 佐々木 好洋社団法人 日本事務機械工業会 SPDLプロジェクト 高橋 亨株式会社日立製作所 藤田 克彦株式会社リコー 宮本 義昭日本ユニシス印刷株式会社 垣内 隆志松下電器産業株式会社 吉野 順NTTデータ通信 株式会社 櫛田 隆富士通株式会社 市川 孝アドビシステムズ株式会社 佐々木 好洋社団法人 日本事務機械工業会