文書処理技術の進歩によって, これまで印刷技術の分野だけで使われてきた多様な書体をさまざまな文書処理アプリケーションが利用して, 高品位な文書を手軽に生成することが可能になった。その結果, フォント情報処理用語が, これまでの特定分野の専門家だけでなく, 多くの技術者及びフォント利用者の目に触れる状況になってきた。
文書処理関連技術の発達は, マルチメディア/ハイパメディア文書処理の普及, 光ディスクに代表される大容量可換記憶媒体による情報の配布・流通などを可能にした。それらは, 新たなフォント関連技術を促進し,新しいフォント関連用語を生み出している。
文書処理系での処理内容が整理され,
これらフォント技術環境の変化によって, これまで必ずしも系統立って整理されていなかったフォント情報処理用語を, 情報処理の観点から体系付け, 明確な定義を与えて, フォント技術を用いる情報処理に関する正確な記述を可能にすることが急務になっている。そこで文字フォント開発・普及センターは, 次に示す調査研究活動を行い, フォント関連用語の収集, 整理及び定義・解説の付与を行ってきた。
これらの成果物は必ずしも入手し易いものではなかったため, 次の活動として, その内容を標準情報(TR)などの公的な出版物として利用者に提供することへの要求が関連業界から高まった。この標準情報(TR)の公表は, これらの要求に応えることを目的とする。
通商産業省工業技術院は, フォント情報処理用語の標準情報(TR)開発への要求に応えるため, その開発作業を文字フォント開発・普及センターに依託した。これを受けて文字フォント開発・普及センターは, “フォント関連用語の標準化に関する調査研究委員会”を設立し, 1994年度から開発を開始した。原則として“新フォント関連用語集”に基づき, さらに適用範囲を明確にして用語選定を行い, 字句・文章表現及び体裁を JIS Z 8301-1990に従い,表記法を JIS X 0001-1987に従って再編集を行い, フォント情報処理用語の原案を作成した。その作業内容を次に示す。
a) 用語選定 適用範囲に応じて“新フォント関連用語集”の用語から組版用語等を削除し, さらに用語の追加, 削除を行う。次に用語の分類を見直して, 章建てを検討する。
b) 定義の書き直し “新フォント関連用語集”の字句・文章表現及び体裁は JIS Z 8301に従っていないので, 書直し・再編集を行う。定義の与え方については, ISO 10241:1992を参照する。
c) 解説 解説を, JIS Z 8301に従って書き, 標準情報(TR)の最後に添付する。
この原案は, 1996年8月にTR X 0003:1996として公表された。その標準情報(TR)に対しては, 用語追加, 索引の付与などが利用者から求められた。そこで(財)日本規格協会 情報技術標準化センター(INSTAC)の電子出版技術調査研究委員会は, その改正作業を1999年度の課題として取り上げ, 作業グループWG4を設立して改正作業に着手した。改正原案は, 2000年2月に工業技術院に提出された。
この2000年版への主要な改正箇所を次に示す。
a) 用語の追加 最近使われるようになったフォント関連用語(ポップ書体など)の定義を追加した。“基準位置”,“並び位置”及び“並び域”については,“欧文フォントの”を前置した。
b) 索引の新設 初版の読者からの要求が多かった索引(日本語及び英語)を新設した。
c) 図の追加 文字列による説明では分かりにくい内容を, 図を追加して分かり易くした。
d) 解説の充実 解説の5.で解説項目を追加して, 理解を容易にした。
a) ISO/IEC JTC1/SC1が開発した ISO/IEC 2382-233)はフォント関連用語を含むが, JTC1の他の SC(Sub Committee)が開発したフォント関連規格の内容が必ずしも反映されてなく, それぞれの対応JISの間にも多少の不整合がある。この問題は, ISO/IEC 2382-23のDIS(Draft International Standard)投票の段階で明らかになっていたが, 規格制定時期の遅れを避けるために, 日本としてもその不整合を承知した上で賛成投票を行った。それでこの標準情報では, ISO/IEC 2382-23が定義するフォント関連用語をそのまま導入することを避けている。
b) JIS X 4161及びJIS X 4163が規定するフォント関連用語には, フォント資源の属性名が多く含まれている。フォント資源の属性名及びその定義は, 通常のフォント関連用語及びその定義と異なることが多く,この標準情報(TR)では混乱を避けるため,それらの用語の収録を行っていない。
c) フォント情報交換に関しては JIS X 4161〜4163が ISO/IEC 9541-1〜3に一致して,互いの用語整合がとれている。しかしこの標準情報(TR)に対応する国際規格はまだない。今後必要に応じてこの標準情報(TR)の国際規格化の提案を行い,国際との整合を図る必要があろう。
d) 標準情報(TR)は, 文書処理システムの開発技術者及びマニュアル執筆者, 並びにフォントを扱う印刷・出版業界関係者を主な対象とする。
情報処理,特に文書情報処理におけるフォント情報の位置付けを明らかにするため,解説図1のモデルを考える。
文書内容文字列処理 文書スタイル指定 | ↓ └――――――→ フォーマット処理 ―→ ページ記述 ―→ レンダリング ┌─ ↑ ↑ ↑ ↑ │ ┌──|────|────────|────────|────┐ │ │管理情報 メトリク情報 形状表現情報 レンダリング情報│ │ └───────────フォント資源 ────────────┘ │ ↑ │ フォントデザイン ―→ フォント生成系 └──────────────────────────────────┘ この規格が対象とするフォント関連技術分野
文書内容文字列処理においては, 文書の意味内容だけを考慮して構造化された文字列等が生成され, 構造は要素(論理要素)及びその属性によって記述される。文書スタイル指定によって, 論理要素にフォーマティング要素が対応付けられる。この対応付けを実行してページ画像を生成する処理がフォーマット処理である。ページ画像は交換のために, 装置非依存な形式で記述されることがあり, それはレンダリング処理を施されて紙面又はディスプレイに表示される。
この一連の文書情報処理において, フォント情報はフォーマット処理以降で用いられ, フォント資源を構成する管理情報, メトリク情報, 形状表現情報及びレンダリング情報が, 解説図1に示すとおりに各処理段階で必要になる。フォント資源は, フォントデザインに基づいてフォント生成系で生成される。
この標準情報(TR)が対象とするフォント関連技術分野は, 解説図1に示す範囲とする。したがって, 組版を含むフォーマティング及び符号化文字は適用範囲外とする。しかしフォーマティング情報とフォント情報との間に明確な境界を設けることは困難であり, 両者に関係するルビなどは ISO/IEC 9541のフォント資源情報にも含まれていることを考慮して, この規格の中でも扱うことにする。
文字は,基本的な情報交換の媒体として生活の中に深く浸透している。文字に対するとらえ方,考え方は多様化している。特に漢字は長い歴史をもち,今にいたるまでさまざまに変化し,その過程で多くの解釈を生んできた。我が国固有の言語表現も,漢字を受け入れて多くの変化を生じてきている。日本で生まれた仮名は,その起源が漢字であることを想定できないほどの変ぼう(貌)を遂げている。
異体字の取扱いに関しては,現在でも多くの見解がふくそう(輻輳)しており,異体字を用語として定義付けすることは混乱を招くとの指摘があるかもしれない。しかし,このような状況にあるからこそ,体系付けて整理する必要がある。そこでこの標準情報(TR)の原案作成に関して,多くの議論が行われた字体に関する基本的な考え方を示す。
字体は, 書体の属性ともいえる筆法と不可分の関係にあり, したがって, 本来は字体の差異を書体から独立に論じることはできない。たとえば, ""と"神"との差は字体差といわれるが, この偏は, 小てん(篆)体又は隷書体では"示"であり, かい(楷)書体においては"ネ"となるのであって, 本来"ネ"偏の小てん(篆)体はあり得ない。"示"の草書体が"ネ"であり, かい(楷)書体の"ネ"は, これから派生している。
書体と筆法との関係は, 書体が筆記用具と深く関係することからも理解できる。筆記用具は, 文字を書くことの目的及び要求(筆記速度など)に大きくかかわってきた。これらの関係は漢字に限らず, それ以外の文字にも適用でき, 欧文文字についてもまったく同様であることは, カリグラフィーの技法を見ても明らかである。
要するに, 書体から完全に独立した字体は本来あり得ず, それゆえ漢字学における字体の議論では, "かい(楷)書体に限る"という前提条件を付けてよりどころを用意し, 混乱を避けている。
しかし, 現在の文字環境では, 常用漢字表, 日本工業規格及び法務省の人名漢字別表さえ, 明朝体を例示書体として採用しており, かい(楷)書体で論じる字体はほとんど意味がなく, 実用的な立場からは, 当面, 明朝体に限って字体を議論せざるを得ない。この標準情報(TR)の用語定義は, これらの背景を意識しながら行っており, 漢字の学問領域における定義とは立場を異にする。
字体の議論を明朝体に限る場合の要点を示そう。従来の漢字字体論はかい(楷)書体を前提に行われていた。かい(楷)書体は,"書家の息づかいまで読み取れる"といわれるほど,筆法が明確に分かる書体である。そのため,字体の分析において重要な役割を果たし,学問的にも精ち(緻)な解釈が可能であった。しかし明朝体においては,かい(楷)書体が様式化されていて,かい(楷)書体の筆法は完全に変形され, こん(痕)跡をとどめるだけである。したがってその書体の字体の議論は,かい(楷)書体の字体の議論とは同一にはならず,明朝体のための解釈の基準が必要になる。ここではじめて,""と"神"とは字体が違うということができる。
ゴシック体はさらに様式化が進んだ書体といえるから,その字体の扱いを明朝体における字体と同列にしてはならない。丸ゴシック体はゴシック体よりもさらに様式化が進み,もはや筆法がそのこん(痕)跡をとどめない部分もある。例えば,"口(くち)"は一筆書きになって,文字を構成するエレメントは別のものに変ぼうしている。このような特性をもつ書体に対して,かい(楷)書体又は明朝体の字体論の枠組みを当てはめることは,無意味である。
仮名にも欧文文字にも字体の差は存在する。しかし,この標準情報(TR)における用語定義では,異体字を漢字に限ることにした。これは,実際の社会における異体字の扱いを考慮した次の判断に基づく。
字体が問題になるのは,固有名詞,特に人名表記,及び文芸物を中心とする出版物に用いる際の表記においてである。
仮名を名前の一部にもつ人は多いが,その表記に際して仮名の字体の問題,例えば"い"を2画で書くか1画で書くか,"さ"を2画で書くか3画で書くか,が主張されることはほとんどない。この例に代表される画数の差を仮名の字体差とすることに,疑義を唱える立場もあるかもしれないが,これらの字体の揺れは仮名においても顕著に存在する。しかし,日常生活の場ではそれはほとんど意識されず,自分の名前表記においてさえ同様である。それに対して漢字の字体,例えば"吉"の上部を"土"にするか"士"にするか,の問題は極めて重視される。これらの状況を考慮して,法務省の掲げる枠組みは漢字に限られている。
出版社,編集者又は著者は,仮名の字体にはほとんど興味を示さず,"い"を2画に統一するなどの方針をもつ出版社は皆無といってよい。"い"が1画であろうと2画であろうと,その違いは書体の差であると割り切っている。
これらの仮名の取り扱いを生ずる背景に,仮名は"かりな"であり,もともとは"仮の文字"という位置付けであったことがある。漢字は,"真名"すなわち"本来の文字"という位置付けがなされた。漢字及び仮名は,それぞれ"男手"及び"女手"でもあった。大ざっぱにいえば,正式な書状などは"男手"である漢字で書かなければならなかった。漢字を習うことができなかった女性が,和歌を詠んだり手紙を書いたりするために,万葉仮名を自由奔放に崩して使う過程で"女手"が洗練されてできた。つまり,仮名は厳密さを要求される環境では用いられなかったのである。
もちろん現在がこれと同じ文字の使用環境にあるわけではないが,意識の深層にこのような価値観が存在していることは否定できない。これを,漢字にだけ厳密さが要求される理由の一つに挙げることができる。
備考 ここでいう仮名は平仮名を指す。片仮名は,本来漢文に附随した補助的な訓点が発達したものであり,平仮名とは成り立ちを異にしている。
字体の議論を明朝体に限る場合,これに附随する問題の一つが,どの程度の差を字体差とするかの問題であり,もう一つが筆法・運筆の問題である。これらは互いに独立ではなく,関連し合っている。
かい(楷)書体の横画の筆法である"トン,スー,トン"を,明朝体の横画では"打ち込み,直線,ウロコ"で表現している。しかし最近では,打ち込みをなくした書体も多い。縦画にも打ち込みとしの墨だ(溜)まりがあるが,最近はすっきりしたデザインにするために,これも省略している例が多く見られる。これがないからといって明朝体と呼べないことはないが,それによる筆法・筆順の表現に制限を生ずる。したがって,書体の主要な属性の一つである筆法・筆順(欧文文字にも筆法・筆順は存在する)が,明朝体では必ずしもはっきり表現できないことになる。例えば,"柿"が"かき"なのか"こけら"なのかが判然としない,という問題である。それは"柿"を構成する"市"の中心の縦画が突き抜けているのか,又は"ナベブタ"と"巾"とに分かれているのかが,縦画の起筆部に打ち込みがない場合にはわからない可能性があるからである。
明朝体には,かい(楷)書体にはない厳密さが存在する。それは,かい(楷)書体が本来"筆写の書体"であるのに対して,明朝体は"印刷用の書体"であることによる。筆写の書体は,その形態に大きな揺れを許容せざるを得ない。しかし活字の書体は,一点一画の形又は配置に関する揺れは,原理的には筆写の書体とは比較にならないほど少なくすることが可能であり,その結果,要求も高まる。そこから,"出る・出ない", "付く・付かない", "直・曲", "傾斜の度合い"などがクローズアップされることになる。
これらの違いも,本来は字体差に違いない。しかし,あまりにも小さな差異である。そこで,平成元年度から3年度まで行われた財団法人日本規格協会の文字フォント開発・普及センターにおける"異体字に関する調査研究委員会"の活動では,書体が変わっても明確に差異として認識できるレベルの差を字体差と呼び,書体が変われば全くといってよいほど無視できるレベルの差,又はデザインの差を字形差と呼ぶこととし,字義-X,字体-Y,字形-Zという3軸モデルを提案した。字体,字形に関するこの定義の普及の程度は別として,このモデルが少なくとも明朝体を中心に字体を考える上で非常に適していることは事実である。
このモデルの考え方は,ISO/IEC 10646のCJK(中国,日本及び韓国)統合漢字の統合規則にも取り入れられている。
異体字を字体の異なる文字と見た場合, 文字Aに対して文字Bは字体が異なるか否かという判断が必要である。この判断には確立した定義は存在しないが, 字体差の判定基準として次の2項がしばしば用いられる。
新字体と旧字体との関係においては, 必ずしもこの条件を満たさなくとも, 字体が異なるとみなす。
字体差はすべての文字体系に存在すると推定される。それは, 筆写という行為を通じて文字が伝達されてきた以上,必ず表記の揺れが存在するからである。揺れは偶発的にも,又は意図的にも行われる。この揺れが認知されたときに異体字になる。したがって,4.3.3に記したとおりアルファベットにも仮名にも字体差が存在する。
仮名においては,1990(明治33)年に小学校施行規則によって字体統一され,日常生活の場では異体字を意識する必要はない。アルファベットにおいては,この揺れ以外に,文字デザインの多様化が多くの異体字を生んでいる。たとえばAmpersandなどは,このようにして非常に多くの字体もつくられている。しかし,これらが日本において大きな問題になることはほとんどない。
したがって,異体字関連の用語のほとんどは漢字に限定されており,ここでは異体字を漢字に限定する用語として位置付ける。
字体の取り扱いに関して多くの見解が提案されて混乱を起こしている状況を考えると,ここに示した扱いに対して,必ずしも肯定的な受けとめられ方ばかりではないであろう。確かにここでの扱いは,学問的な厳密さを伴った表現において十分ではない。しかし,フォントに関する工業標準においては明朝体に基づく字体を採用することが有効な指針を与え得るものと考える。
現在, 日本で広く使用されている文字の大きさの単位にはポイント及び級があり, 新聞用では, U及び倍という単位が使用されている。この他に, 活版印刷のれい(黎)明期から使用されてきた号があるが, 今ではポイントに切り替わり, ほとんど使用されていない。ここでは, ポイント, 級, U, 倍, 及び号を解説する。
ポイント制の国際規格はなく, ディドー式及びアメリカ式が, 各国でまちまちに使用されている。ディドー式ポイント制は, 1784年にフランスのディドーによって完成され, ヨーロッパ諸国で用いられている。それでは, フランスの常用尺1フートの12分の1を6ポイントとする。1 inchは 72ポイントとなり, 1ポイントは 0.3759 mmとなる。
英米で使用されているアメリカ式ポイント制は, 1886年に全米活字鋳造業者が, 当時アメリカで用いられていたパイカ活字の1/12, すなわち 0.013837 inchを1ポイントとすることに決定したもので, これをメートル法に換算して 0.3514 mmを1ポイントとした。日本もこのアメリカ式ポイント制を採用し, 1962年に1ポイント=0.3514 mmとJISで決めている。詳細は, JIS Z 8305-1962(1995年確認, 活字の基準寸法)を参照。
ポイントには, この他にDTPポイントと通称されるものがる。DTPポイントは, アメリカ式ポイント制が決定される以前から提案されていた1パイカを 1/6 inchとすることで, inch単位との整合性を高めようとする考え方に基づく。この初期の提案は, アメリカ式ポイント制が決定されたために受け容れらなかったが, 現在のDTP(Desktop Publishing)に取り入れられることとなった。DTPポイントの導入は, 初期のレーザプリンタエンジン用のコントローラが dots/inchで動作していたので, inchに基づく単位を使用することが計算処理時間及びメモリ効率を向上させることに有利であったことに基づく。パソコンのモニタが inch単位で作られ, その画素の最小単位が 1/72inchの場合には, 1画素=1ポイントであるので, 1ポイント=1/72 inch=0.3528 mm とすることで誤差が解消され, それが感覚と実際との一致を可能にする。これによって, 画面上の単位と紙面上の単位とを同じにすることができ, WYSIWYG が実現可能となった。DTPポイントでは, 1 inch=25.4 mm, 1ポイント=25.4 mm÷72=0.352777 となる。これを丸めて, 1ポイント=0.3528 mm とし, DTP用のパソコンでの初期設定値としている。
シセロ及びパイカは, 文字の大きさそのものを表わし, シセロは 12ディドーポイント, パイカは 12アメリカンポイントに相当する活字のサイズを示する。行長などの組幅を表す単位として, シセロはドイツ, フランスなどのヨーロッパで, パイカは英米で使用されている。
級とも書き, もともとは写真植字における文字の大きさの単位を表わす。メートル法に基づき, 1級=0.25mm と定められている。手動写植機の場合は, 通常 7級から100級まで24本のレンズが組み込まれている。電算写植又はDTPでは, さらに細かく広い範囲で文字の大きさの設定ができる。写真植字ではこの他に, 歯 及びH という単位を用いる。これらは長さの単位であって, 行間又は行長を表わすときに, 歯を使用する。この1歯は, 1級に相当し, 1級=1歯=0.25mm となる。
Uは, 新聞に使用されている文字の大きさの単位で, 1U=0.011 inch。昭和26年に日本新聞協会の申し合わせで, 15段制15字詰の実施が共通規定として広く実施され, 新聞の本文用の基本活字を, 高さ 0.088 inch(2.236 mm)×幅 0.110 inch(2.794 mm)の偏平体とし, これを U単位で表わして 8U×10U と表示した。
各活字の号数制をやめ, 8U つまり 0.088 inchを 1倍とし, 倍数の単位とした。昭和34年には, メートル法施行によって, 0.011 inchをメートルに換算して 0.2794 mmとし, 丸めて 0.28 mmを基準寸法とするA案, そのまま 0.2794 mmとする B案のどちらを採用してもよいとした。新聞用文字には基本活字の他に, 88正方(0.088×0.088), 110正方(0.110×0.110), 1倍半正方(0.132×0.132), 2倍, 3倍, 4倍, 5倍, 6倍, 7倍, 8倍, 10倍などの大きさがある。
号は, 上海の美華書館で使用されていた活字の大きさの単位で, 明治初期に, 日本の活版印刷術の始祖といわれる本木昌造が, 活字の電胎法, 鋳造法の技術とともに日本に取り入れたと言われている。文字の大きい方から, 初号, 1号, 2号と呼び, 8号までの9種類があるが, 現在ではポイント制に移行しほとんど使用されていない。次に号数制を図式化して示す。横方向, 左から右は2分の1の関係にあるが, 縦方向の関連性はない(括弧内は近似値のポイント数。)。
一号(27.5) | → | 四号(13.75) | ||||
初号(42.0) | → | 二号(21.0) | → | 五号(10.5) | → | 七号(5.25) |
三号(16.0) | → | 六号(8.0) | → | 八号(4.0) |
従来の書体分類は,書体制作者又は書体供給者が自ら決定する場合,及びデザインの書籍などで専門家が分類する場合が主であった。その分類基準は, 用途によるもの(本文用書体,見出し用書体等)及びデザインによるもの(明朝体,ゴシック体等)が多く,それらの分類に基づいて書体が実務において選択されてきた。たとえば,改まったあいさつの書状であればかい(楷)書体が使われ,一般の書籍の本文であれば明朝体が用いられる。
しかしさらに細かく見ると,同じ明朝体でも日本で用いられるものと中国で用いられるものとは, そのデザインにおいて細部が異なり,全体として,それぞれ日本的又は中国的な雰囲気が出る。そこで場合によっては, 明朝体という一つの括りを細分する必要もある。視覚的なデザイン性及び時代性の両方を表現している江戸文字については,実際に江戸時代に制作されたもの,伝統的な江戸文字の流儀を継承して今日制作されたもの,今日のデザイナがオリジナリティを加えた現代版の江戸文字等があり,同じ"江戸文字"という分類に入れてよい場合とそうでない場合とがある。
今日多くの新しい書体デザインが制作されるようになったために,ウロコがあるかないかなどの単純な視覚的デザイン性だけに注目した分類では充分ではない。この標準情報(TR)ではこれらの状況を認識した上で, 書体デザイン分類の考察には踏み込まず,今日広く用いられる書体又は書体の系統の名称, 及び意味の記載にとどめてある。
今日では多くの書体が多様な特徴をもち, 系統的なデザインの意識が高まり, 情報処理技術の普及によって,書体分類に対する新たな要求が生じている。それは,ネットワークの普及によって文書データ又は印刷データが情報として交換されることに基づく書体の代替の要求である。
印刷物の配布又はファクシミリによる文書交換とは異なり, 文字符号に基づく文書交換では,文字符号を送信し,受信側はその文字符号を特定の書体で表現することによって可視情報とする。その結果, 送信側が明朝体で作成した文書データを受信側はゴシック体で読むということが起こり得る。例えば簡単な電子メールでは,その文字列情報だけが重要で,文字配置又はデザイン処理に対して送信側も受信側も配慮しない。この場合には問題とならないが,商業印刷物の交換の場合には,全体的なデザインの忠実な再現は非常に重要であり,その中で用いられている書体が出力環境によって変化してしまうということは,許容できないことが多い。
文書交換に際して版面の保存が求められる場合には,文書データと共に書体データをも交換するか, 又は受信側で送信側のデザイン趣旨に極力近づけるための書体の代替を行う必要がある。書体の代替においては,書体Aを置換対象として書体aがよいのか書体Bがよいのかという判断が,書体の制作者又は使用者の環境によって違いが出ることは好ましくない。それを回避する手段のひとつとして統一的な分類を決め,各書体データにその分類情報をもたせて,アプリケーション又はオペレーティングシステムにそれらを認識できる機能を与えることによって, 多くの利用者が満足する書体の代替が可能となる。
書体分類の必要性と同様に, 書体のウェイトの多様性についても標準的な分類及び指定方法が情報交換において望まれる。従来より書体のウェイトの指定は任意性が高く,ボールドと指定してもその書体のライトよりは太い,ということを意味する以上に詳細な定義はなく,書体Aのボールドと書体Bのライトとを比べたとき, 必ずしもA書体のほうが太いことは保証されない。ウェイト分類の段階についても統一は行われていない。
ISO/IEC 9541-1はウェイトを9段階に分類し, それぞれに対応する英語表記を与えている。平成書体では, JIS X 4161に準拠してウェイト3から9までを用いている。これらの規定内容と既に業界で使われているウェイト分類との対応が, 明確にされることは情報交換にとっては重要である。ウェイト分類の各段階の対応関係を次に示す。
ISO/IEC 9541-1 (JIS X 4161)のWEIGHT属性値 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
ISO/IEC 9541-1の表記 | Ultra light | Extra light | Light | Semi light | Medium | Semi bold | Bold | Extra bold | Ultra bold |
通常の日本語表記 | 極細 | 特細 | 細 | 中細 | 中 | 中太 | 太 | 特太 | 極太 |
a) この標準情報(TR)は国際様式規格ではないが, 関連する国際規格があり, そこから定義, 対応英語を多く引用している。そこで引用規格の項を設けて, 引用した国際規格の番号及び名前を明記した。
b) これまでの用語集はあまり解説を附属していない。しかしこの標準情報(TR)には, 標準情報(TR)として規定する必要はないが, 標準情報(TR)の記述内容を理解するために重要と思われる項目がかなり多いので,それらをまとめて解説とした。
c) 表記法については原則として JIS X 0001-1987に従って, 用語の表記, 読みの表記及び定義の表記の規則を定め, それにのっとって用語定義の作業を行った。しかし用語定義を完了した段階でこの規則を見直した結果, この規則の幾つかの項目が適用される例は実際にはなかった。それでそれらの項目は3.の対応する節から除外したが, 今後この標準情報(TR)を改正・修正する際に必要になる可能性がある。そこで次に,本体の3.から除外した表記法の項目内容を記録しておく。
3.3 用語の表記
c) 用語の一部が丸括弧"( )"で囲まれている場合は, その部分を省略してもよい。括弧内を省略した用語と省略しない用語とのいずれを優先使用するかは, その欄の備考の記述による。備考がない場合には, 優先順位はない。
d) 類似の定義をもち, しかもその記述がほとんど同一である二つ以上の用語は, 角括弧"[ ]"を用いて一つにまとめて規定する。この場合, 用語の"[ ]"に対して, 定義の"[ ]"内記述が対応する。
e) 文法上の用法又は短縮形などを, 用語に引き続く丸括弧"( )"内に示す。
f) 商標登録され, 広く関連業界に普及している用語で, しかもその所有者の承認のある用語は, その旨を備考に記載する。特許, 意匠などがある場合も, 備考に示す。
3.5 定義の表記
b) 角括弧の使い方については, 3.3 d)のとおりとする。
c) 一つの用語が分類によって異なる定義を必要とする場合には, 分類ごとにそれぞれの定義を規定し, その欄の備考で他の分類の定義との関係を示す。
[1] 日本規格協会,フォント関連用語集,1990-03
[2] 日本規格協会,新フォント関連用語集,1993-03
[3] ISO/IEC 2382-23, Information technology - Vocabulary - Part 23 Text processing, 1994-03
[4] 言語, Vol.10, No.11, 大修館書店, 1981
[5] 日本語論, Vol.2, No.10, 山本書房, 1994
[6] 清代名家, 篆隷大字典, 台湾大通書局
[7] 藤枝晃, 文字の文化史, 岩波書店, 1971
[8] David Harris, The Art of Calligraphy, Dorling Kindersley, 1995
[9] 杉本つとむ, 異体字研究資料集成, 雄山閣, 1972
[10] 菅原義三, 国字の字典, 東京堂出版, 1990
[11] 河野六郎, 文字論, 三省堂, 1994
この標準情報(TR)原案を作成した(財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の 電子出版技術調査研究委員会及び作業グループWG4の委員構成を, その順に次に示す。
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
(委員長) | 池田 克夫 | 京都大学 |
(幹事) | 小町 祐史 | 松下電送システム株式会社 |
(幹事) | 大久保 彰徳 | 株式会社リコー |
(幹事) | 長村 玄 | 株式会社ドキュメント・エンジニアリング研究所 |
(幹事) | 高沢 通 | 大日本スクリーン製造株式会社 |
(幹事) | 礪波 道夫 | 日本新聞協会(読売新聞社) |
(委員) | 内山 光一 | 株式会社東芝 |
小笠原 治 | 社団法人日本印刷技術協会 | |
前沢 克俊 | 大日本印刷株式会社 | |
八田 勲 | 通商産業省工業技術院標準部 | |
(工技院) | 稲橋 一行 | 通商産業省工業技術院標準部 |
(工技院) | 永井 裕司 | 通商産業省工業技術院標準部 |
(オブザーバ) | 有木 靖人 | 日本新聞協会 |
(事務局) | 大川 和司 | 財団法人日本規格協会 |
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
(主査) | 小町 祐史 | 松下電送システム株式会社 |
(幹事) | 長村 玄 | 株式会社ドキュメント・エンジニアリング研究所 |
(委員) | 佐藤 弘一 | 日本電気オフィスシステム株式会社 |
関 志信 | キヤノン株式会社 | |
高司 誠喜 | 凸版印刷株式会社 | |
高橋 仁一 | 大日本印刷株式会社 | |
竹内 時男 | 社団法人日本印刷産業機械工業会 | |
野中 進 | 株式会社モリサワ | |
(工技院) | 永井 裕司 | 通商産業省工業技術院標準部 |
(事務局) | 大川 和司 | 財団法人日本規格協会 |