標準情報 TR X 0033:2002

ハイパテキストマーク付け言語 (HTML) 4.0 解説



1. 公表の趣旨及び経緯

1.1 背景

WWW(World Wide Web)は, スイスのCERN(欧州素粒子物理研究所)において, 所内の研究者間の研究成果の共有を支援することを目的として, 1990年に分散形広域ハイパテキストシステムの構築のためのプロジェクトによって設立された。このハイパテキストでは, テキスト又はテキストの集合を分割してノードという単位に分け, ノード内にアンカ(端点)を定義して, アンカ間の関係としてハイパリンクを規定している。

WWWのプロジェクトができた当初は, CERNにおいて特定マシン上のラインモードブラウザが用意されただけであったが, 1991年にはCERN以外でもWWWの利用が可能になり, Xウィンドウシステム用のブラウザが開発された。1993年になると, イリノイ大学でMOSAICが発表されて文書中の画像表示が可能になり, Windows版に加えてMAC版も発表された。1994年のNetscape Navigatorのリリースは, WWWの爆発的普及のきっかけをつくり, それがさらにインタネット利用者を増やすことになった。

CERNでのハイパテキストの構造記述及びその交換手続きは, 開発当初は研究所内の仕様にとどまっていたが, WWWの普及と共にそれらの標準化への意識が高まり, IETF(Internet Engineering Task Force)において, HTML及びHTTP(Hypertext Transfer Protocol)の作業グループが設立されて本格的な標準化作業が開始された。HTML 2.0は, IETF RFC1866[1]として公表され, その後, HTMLの標準化作業は, W3C(World Wide Web Consortium)に移された。

W3Cでの初期のHTML改版作業は, ブラウザメーカの独自の拡張を吸収してスタイル指定を含む多くの機能を盛り込む方針で行われた。しかしその後, HTMLを本来の文書論理構造記述の言語に引き戻して, スタイル指定については別の交換様式で対応するという方針が主流となり, HTML 3.2[2], HTML 4.0[3]へと改版されてきた。

1.2 趣旨及び経緯

HTML 4.0は既に多くの処理系でサポートされ, HTML 4.0によって記述された多くの文書がウェブ環境に蓄積されている。(財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の"文書処理及びフォントの標準化調査研究委員会(DDFD)"は, 1998年度の活動としてW3C勧告のHTML 4.0の調査研究を行い, その重要性を認識して, 標準情報(TR)として公表することが望ましいことを確認した。

そこで通商産業省の工業技術院は, "文書処理及びフォントの標準化調査研究委員会(DDFD)"に対してHTML 4.0のTR化作業を委託した。DDFDではその作業グループ(DDFD-WG)が, 1999年度にHTML 4.0のTR化の作業を担当し, 2000年5月に標準情報(TR)の原案を完成して工業技術院に提出している。これは, 2000年9月に, TR X 0033:2000として公表された。

公表の後, TR X 0033:2000の利用者から多くのコメントをいただき, 原案委員会はそのコメントへの対応を検討してきた。検討の結果, TR X 0033:2000に対して幾つかの修正の必要が明らかになった。W3CでもHTML 4.0に対する検討が継続され, 1999年12月には, HTML 4.01[7]が公表されている。

原案委員会は, 2001年度の作業として, TR X 0033:2000の改正原案を作成し, 利用者からのコメントの反映を行うと共に, 原規定のHTML 4.0からHTML 4.01への変更内容を附属書1として改正原案に含めた。改正原案は, 2002年5月に経済産業省に提出されている。


2. 審議中の主要検討課題

2.1 訳語

訳語選定に際しては,HTML 4.0と密接な関係のある標準情報 TR X 0032:2000 段階スタイルシート 水準2(CSS2)[4], JIS X 4156:2000 ハイパテキストマーク付け言語(HTML)[5], 及びSGML関連規格において使用している訳語との整合を配慮した。

この標準情報(TR)で採用した主な訳語を次に示し, 今後の関連規定の作成等に際しての参考とする。

解説表1 主な訳語

原語 訳語
active document 活性文書
adapted phone 多機能電話
administrator 管理者
alignment property 配置特性
annotate 注釈をつける
audio 音声
base path 基底パス
bidirectional text 双方向テキスト
block-level ブロックレベル
body section ボディ部
bookmark ブックマーク
border 枠線
boundary 境界
braille tactile feedback device 点字触覚のフィードバック装置
browse 閲覧する
canvas 描画面
cascading 段階化
cell basis セルベース
clear text 平文テキスト
close delimiter 閉じ区切り子
codebase コードベース
codepoint コードポイント
coherent linear document 一貫性のある線形文書
compact document 縮小文書
dereference 参照解除する
deselect 選択解除する
destination medium リンク先メディア
dialogue 対話
document validation 文書妥当性検査
dummy text ダミーテキスト
embedded direction changes 埋込み方向変更
embedding object 埋込みオブジェクト
enclosed text 囲みテキスト
enclosing element 囲み要素
executable code 実行可能コード
explicit directionalty 明示的方向性
external resource 外部資源
external style sheet 外部スタイルシート
fixed-pitch character grid 固定ピッチ文字格子
flush left 左揃え
focus 注目点
foot section フット部分
foreign data 外部データ
form data set フォームデータ集合
forward link 順方向リンク
frameset document フレーム集合文書
global structure 大域的構造
gradient グラディエント
head section ヘッド部
header field ヘッダフィールド
hyphenation routine ハイフン付けルーチン
image resource 画像資源
incremental rendering 増加的レンダリング
inflection 抑揚
interactibity 対話性
interoperability 相互運用性
intrinsic event attribute 組込みイベント属性
joining control 結合制御
joining letter 結合文字
language-sensitive 言語依存性
leap second うるう(閏)秒
legal value 正当な値
legend 説明
legibility 読み易さ
line style 線種
list box リストボックス
local cache 局所キャッシュ
loose DTD 不正確DTD
mailto URI メール先URI
markup-significant character マーク付けが有効な文字
mirrored character glyph 鏡像化文字グリフ
new line 改行
open delimiter 開き区切り子
phonemic 音素の
primary language 一次言語
print preview mode 印刷プレビューモード
proprietary HTML extensions 独自のHTML拡張
region-defining element 領域定義要素
registry レジストリ
relational operator 関係演算子
relative URI 相対URI
Resource Description Language 資源記述言語
retrieval 検索
reverse link 逆方向リンク
reverse video 逆方向ビデオ
right-to-left 左向き
screen flicker 画面明滅
script engine スクリプトエンジン
scripting language スクリプト言語
search-engine indexer 検索エンジンインデクサ
security protection 安全性保護
serialized representation 直列化表示
SGML construct SGML構成子
SGML token SGMLトークン
shorthand markup 速記マーク付け
smart form スマートフォーム
sound clip サウンドクリップ
source リンク元
source document 入力文書
special entities 特殊実体
speech synthesizer 音声合成器
standard marked-up text 標準マーク付けテキスト
standard pixel 標準画素
static banner 静的バナー
string matching 文字列の一致
subwindow サブウィンドウ
successful control 正常制御
tabbing navigation タブナビゲーション
tabindex タブインデクス
table border 表枠線
target media ターゲットメディア
target semantics ターゲットセマンティクス
text accompany image テキスト添付画像
text direction テキスト方向
trailing white space 末尾の空白
transaction トランザクション
transitional document type definition 過渡的な文書型定義
unmodifable text 変更不可のテキスト
video clip ビデオクリップ
visual browser 視覚的ブラウザ

2.2 章・節構成

W3Cの規定は, 必ずしもJIS又は標準情報(TR)の様式には整合していないため, 整合化の対応が必要である。しかしTRの読者が原規定を参照する際の便を考慮すると, 章・節構成はなるべく原規定のそれを保存することが望まれる。そこで, 次に示すだけの修正(章・節番号の変更なし)を施して, この標準情報(TR)を構成した。

2.3 その他の翻訳表記上の規則

原規定は, HTMLを用いて記述されている。この標準情報(TR)も原則として, 原規定のタグを保存することにしたが, 特に次の点に留意した。

2.4 W3Cからの要求

この標準情報(TR)の公表に際して, W3Cから和文及び英文による次の記載を求められている。この記述は原規定にはないため, ここに示して, W3Cの要求に応えることとする。

規定に準拠しているかどうかの基準となる版は, W3Cのサイトにある原規定とする。

この標準情報(TR)は原規定と技術的に同一であることを意図しているが, 翻訳上の誤りはあり得る。

The normative version of the specification is the English version found at the W3C site.

Although this TR is intended to be technically identical to the original, it may contain errors from the translation.


3. 懸案事項

HTML 4.0からHTML 4.01への変更内容は, HTML 4.01のAnnex A Changesを翻訳し, 附属書1としてTR X 0033:2002に添付している。

HTML 4.01のAnnex Aの一部には, TR X 0033:2002の附属書Aと同じ記述があり, 重複を避けるために附属書1ではそれを削除してある。

原規定のAnnex Aには, 本文中にはない深い節番号が記述されているが, ハイパリンクは正しい箇所を指示している。そこで, 附属書1では指示箇所の節番号を訂正している。

英語の表現に関するもの(anをaにするなど), 及び翻訳に際して既に対応済みであるものに関しては, 附属書1ではTR X 0033:2002の記述には変更がない旨を"参考"で示した。

附属書1の追加に伴い, 前版のまえがき, 目次などを修正している。


4. 参照関係

この規定は, JIS X 4156 から参照されている。これは, 原規定がISO/IEC 15445[6]から参照されていることに対応する。この関係を, 次に図示する。


解説図1 参照関係
[国際] ISO/IEC 15445
HyperText Markup Language (HTML)
 ------> 
  参照
W3C REC-html40
HyperText Matrkup Language (HTML) 4.0 Spec.
     ↑     ↑
    一致    一致
     ↓     ↓
[国内] JIS X 4156
ハイパテキストマーク付け言語 (HTML)
 ------> 
  参照
TR X 0033
ハイパテキストマーク付け言語 (HTML) 4.0


5. 参考文献

[1] IETF RFC1866, HyperText Markup Language HTML 2.0, http://www.ietf.org/rfc/rfc1866.txt?number=1866, 1995-11

[2] W3C REC-html32, HyperText Markup Language HTML 3.2, http://www.w3.org/TR/REC-html32.html, 1997-01-14

[3] W3C REC-html40, HyperText Markup Language HTML 4.0, http://www.w3.org/TR/1998/REC-html40-19980424, 1998-04-24

[4] TR X 0032:2000 段階スタイルシート 水準2(CSS2), 2000-09-01

[5] JIS X 4156:2000 ハイパテキストマーク付け言語(HTML), 2000-10-20

[6] ISO/IEC 15445:2000, Information technology - Document description and processing languages - HyperText Markup Language (HTML), http://purl.org/NET/ISO+IEC.15445/15445.html, 2000-05-15

[7] W3C REC-html401, HTML 4.01 Specification, http://www.w3.org/TR/1999/REC-html401-19991224, 1999-12-24


6. 原案作成委員会

原案作成委員会である(財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の"文書処理及びフォントの標準化調査研究委員会"(DDFD)は, 学識経験者, メーカ及び利用者で構成され, その委員会の中に実際の翻訳作業を行う作業グループ1(DDFD-WG1)が設置されている。それらの構成員を次に示す。

解説表2 文書処理及びフォントの標準化調査研究委員会 構成表

氏名 所属
(委員長) 池田 克夫 大阪工業大学
(幹事) 鯵坂 恒夫 和歌山大学
(幹事) 小町 祐史 松下電送システム株式会社 (SC34専門委員会委員長)
安達 淳 株式会社沖データ
内山 光一 株式会社東芝
小笠原 治 社団法人日本印刷技術協会
高沢 通 大日本スクリーン株式会社
高橋 亨 株式会社日立製作所
岩田 悟志 経済産業省商務情報政策局
木戸 達雄 経済産業省産業技術環境局
大久保 彰徳 株式会社リコー
宮本 義昭 日本ユニシス株式会社
(オブザーバ) 高橋 昌行 経済産業省産業技術環境局
(事務局) 内藤 昌幸 財団法人日本規格協会

解説表3 作業グループ1(DDFD-WG1) 構成表

氏名 所属
(主査) 小町 祐史 松下電送システム株式会社 (SC34専門委員会委員長)
(幹事) 内山 光一 株式会社東芝
(幹事) 高橋 亨 株式会社日立製作所
安達 淳 株式会社沖データ
今郷 詔 株式会社リコー
小笠原 治 社団法人日本印刷技術協会
奥井 康弘 株式会社日本ユニテック
内藤 求 株式会社シナジーインキュベート
内藤 広志 大阪工業大学
海田 茂 ネクストソリューション株式会社
渡部 賢一 財団法人日本規格協会
(オブザーバ) 浅利 千鶴 浅利会計事務所
大久保 彰徳 株式会社リコー
高橋 昌行 経済産業省産業技術環境局
(事務局) 内藤 昌幸 財団法人日本規格協会