標準情報(TR)    TR X 0055:2002


インターネット利用者のための用語

解説



この解説は,本体及び附属書に示した事柄,並びにこれらに関連した事柄を説明するものであって,規定の一部ではない。


1. 制定の趣旨

1.1 背景

インターネットは,現代の情報社会に必要不可欠な社会基盤の一つとして,ますますその重要性を増している。職場でも家庭でも日常的に使用する機会も多く,その利用者は増える一方である。特に,最近のブロードバンド対応の進展につれて,大量で多種多様なマルチメディアコンテンツが流れるようになり,利用者の裾野は広がってきている。それに合わせて,各種のインターネット関連の文献,書籍,資料,画面表示なども増えており,それらで多くのインターネット用語が使われている。しかし,その用語の多くは,英語を片仮名表記したままになっているか,訳語が与えられていたとしても多様な表現になっており,学会での表記,業界での表記,新聞・雑誌での表記などの間で差異が認められることが多く,利用者の混乱は少なくない。したがって,何らかの用語の統一が望まれているが,インターネット分野の技術内容は変化が激しいために,用語規格として固定することは必ずしも適切とはいえない。

そこで,インターネット分野で基本的な用語をインターネット利用者の視点から揃えた標準情報(TR)を,訳語,読み,及び現状での使われ方を中心とした意味を与えることで,厳密性よりも実用性を重視して作成し,必要に応じて迅速に改正を行うことが望まれる。

1.2 用語の選定

インターネットは,現代社会に広く浸透しているために,その対象となる用語の選定にはかなりの困難が伴う。そこで今回の制定作業においては,最低限の基本的な用語を選び出すことに重点を置いた。具体的には,インターネット分野の重要な規定を開発しているInternet Engineering Task Force(IETF)[1]が公開する技術文書群であるRFC(Request For Comments)を対象にした。しかし,RFCは3000からの多くの技術文書群であって,そのすべてを取り上げるのは難しい。

そこで,この標準情報(TR)は,そのための第一歩として,インターネット利用者のための基本的であって重要な用語を集めたRFC1983[2]を基にして作成することにした。ただし,RFC1983は,1996年に公開されたRFCなので,その内容には多少とも現状に合わない記述も存在する。そこで,必要に応じて現状に合わせた補足を行い,現在にも適用するように心掛けた。

1.3 この標準情報(TR)の位置付け

インターネット分野の用語は,RFCが中心となることが多いので,英語が基本となる。したがって,国内での使用のためには,その英語に対応する様式で,訳語,読み及び意味を示すのが現実的と考えた。しかし,インターネット分野の進展の速さのために,訳語,読み及び意味が必ずしも確定しているとは限らないものが多い。この標準情報(TR)の一つの目的としてそれらの統一があるのだが,日本語として定着していない訳語及び読みについては,使用される可能性のあるものを列挙し,意味も規定的な定義ではなくその使われ方を中心に示すことにした。これらのことから,この標準情報(TR)は,用語定義の規定ではなく,多分に,利用者による批判的な判断も含めた任意選択の余地を残す参考情報として使用されることを目指している。

これらのことを考慮して,JIS用語データベースとの整合性は敢えて厳密に取っていないこと,RFCの翻訳を基にしたためにJIS用語規格の様式には従っていないことなどのために,タイプVのTR(規格の体裁とは異なる資料)としている。

なお,このインターネット用語集の利用者には,インターネット技術に携わる技術者だけでなく,その利用者,マニュアルの執筆者・読者,及び関連規格の作成者をも想定している。


2. 制定の経緯

本作業は,日本規格協会の2000年度の次世代ネットワークの標準化に関する調査研究委員会(NGN)の作業グループ1(WG1)における,インターネット用語集制定の活動に端を発し,同じく日本規格協会の2001年度の次世代コンテンツの標準化に関する調査研究委員会(NGC)の作業グループ1(WG1)に引き継がれて,この標準情報(TR)の制定に到っている。

2000年度のNGN/WG1においては,次の作業方針のもとに,インターネット用語集を検討した。

具体的な用語収集対象としては,JIS及びTRの候補となる標準ということから,インターネット技術の中核をなす標準化作業を行っているIETFの標準に注目した。その成果として,2000年11月21日現在で"obsolete(旧版)"とされていないRFC2992までの現行のRFCだけの中から,用語として解説があるものをすべて選び出し,見出し語で5000近くの用語を選定した。

この作業を引き継いだ2001年度のNGC/WG1では,これら用語の更なる選定,意味の記述などを行なう努力をしたが,量があまりにも多く,速やかな用語集制定が不可能と判断し,方針を変えた。すなわち,これら用語のうち,インターネット利用者に重要な用語を抽出しているRFC1983[2]に注目し,これを中心に用語集を作成し,それ以外の用語は暫定的に訳語だけを一覧として与えることにした。この標準情報(TR)は,このRFC1983を基にした作業の成果になっている。なお,残りの用語も含めた"英語及び訳語"の一覧は,やはり参考情報として,この解説に添付する。

原案は,今後の更新を容易にすることを考慮し,作業中からHTMLによって記述してWWWサーバの上で編集を繰り返した。原案は,2002年3月に経済産業省の情報技術専門委員会で審議され,継続審議を経て,同年4月に承認された。


3. 審議中に問題となった事項

3.1 用語の選定及び訳語

インターネット技術の用語に関しては,その技術が未だ発展しているために,用語の選定基準に一定の合意があるわけではなく,選定した用語に対しても確定した日本語がなく英語のまま片仮名表記されることも多いのが現状である。この標準情報(TR)は,それを改善するための試みではあるが,確定しているとは限らない日本語を明示しTRとして発行することに疑問を呈する意見があった。そこで,この標準情報(TR)は,参考情報であるタイプVとして発行することを示すだけでなく,何らの規定はせずあくまでも参考情報であることを,"1. 適用範囲"に明記し,利用者に注意を促すこととした。

訳語は,具体的に規定本体に示されているが,次に特に議論になったものを示す。

3.2 意味の補足

この標準情報(TR)の基になったのは,1996年にIETFから公開されたRFC1983[2]である。したがって,その意味内容には2002年3月現在では適切でない箇所も幾つかあった。それらに対しては,RFC1983の翻訳部分は変更しないこととし,適宜,"参考"又は"注"を付けて対応している。主なものを次に示す。

3.3 RFC1983[2]以外の用語

解説の2.でも示したように,この標準情報(TR)の作成作業の最初は,IETFで公開されているRFCにおけるインターネット用語の整理をすることにあった。しかし,5000ほどの用語が集まり,その整理には到っていない。しかも,RFCは,毎週のように新たに公開されているので,集めた用語の維持管理も困難である。そのために,原案作成委員会は,その必要性は認識しているが,それらの用語を集めた完成度の高い用語集の作成は現実的に不可能に近いと判断し,RFC1983に限定した用語を取り扱うことにした。

しかし,収拾した用語の暫定的な取捨選択をし,訳語を与えるまでの作業は行っている。残念ながら,その完成度を上げることはできなかったが,暫定的な訳語一覧表の作成までには到っている。

原案作成委員会で審議した結果,暫定的とはいえ,参考になる点も多いこと,広く意見を求めることも重要と判断し,この標準情報(TR)の解説の一部として添付することにした。解説の6.を参照して欲しい。

3.4 章・節構成

RFC1983[2]は,一つのテキストファイルで構成されている。標準情報(TR)化に際しては,まえがき,目次,本体及び附属書の先頭においてページ境界を付ける必要があるため,それぞれを独立したファイルとして再構成した。さらに,利用者の便宜を図るために,RFC1983にはない索引を附属書Dとして追加した。なお,附属書の後にこの解説を配置している。

本体に関しては,解説の3.1及び3.2でも説明したことを中心に次の補足を追加している。

3.5 その他の翻訳表記上の規則

解説の1.3で示したとおり,英語の用語を節のタイトルとし,その節に,訳語,読み及び意味を与える様式とした。JIS用語規格の様式とは異なっていることに注意すること。


4. 参考文献

[1] Internet Enginnering Task Force,http://www.ietf.org/を参照すること。

[2] RFC1983, Internet Users' Glossary, G. Malkin, August 1996.


5. 原案作成委員会

原案作成委員会である(財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の"次世代コンテンツ調査研究委員会"は,中立者,生産者及び使用消費者で構成され,その委員会の中に設置されたWG1が作成作業を行った。それらの構成員を次に示す。



解説表1 次世代コンテンツの標準化に関する調査研究委員会 構成表

氏名 勤務先
委員長 池田 克夫 大阪工業大学
幹事 平山 亮 金沢工業大学
幹事 村田 真 日本アイ・ビー・エム株式会社
幹事 小町 祐史 松下電送システム株式会社
委員 内山 光一 株式会社東芝
委員 木戸 達雄 経済産業省産業技術環境局標準課
委員 久保田 靖夫 大日本印刷株式会社
委員 黒川 利明 株式会社CSK
委員 斎藤 伸雄 凸版印刷株式会社
委員 二本松 勝 株式会社日立製作所
委員 藤原 洋 株式会社インターネット総合研究所
委員 松本 充司 早稲田大学
委員 柳町 昭夫 株式会社NHKアイテック
経済省 高橋 昌行 経済産業省産業技術環境局標準課
事務局 山中 正幸 財団法人日本規格協会



解説表2 次世代コンテンツの標準化に関する調査研究委員会 WG1 構成表

氏名 勤務先
主査 平山 亮 金沢工業大学
幹事 上村 圭介 国際大学グローバルコミニュケーションセンター
委員 青木 勝典 日本放送協会
委員 浅田 卓哉 東京大学情報基盤センター
委員 池田 克夫 大阪工業大学
委員 鵜飼 文敏 日本ヒューレット・パッカード株式会社
委員 内山 光一 株式会社東芝
委員 大野 邦夫 ドコモ・システムズ株式会社
委員 海田 茂 ネクストソリューション株式会社
委員 黒川 利明 株式会社CSK
委員 小町 祐史 松下電送システム株式会社
委員 斎藤 伸雄 凸版印刷株式会社
委員 志田 智 株式会社インターネット総合研究所
委員 星野 寛 財団法人京都高度技術研究所
委員 松本 充司 早稲田大学
委員 柳町 昭夫 株式会社NHKアイテック
OBS 奥井 康弘 株式会社日本ユニテック
経済省 高橋 昌行 経済産業省産業技術環境局標準課
事務局 山中 正幸 財団法人日本規格協会


6. RFC用語の訳語

解説の3.3で述べたRFC用語の訳語一覧を,解説表3に示す。

解説表3 RFC用語の訳語一覧