Javaは, コンパクトでアーキテクチャ非依存なプログラム言語として開発され, Web環境におけるさまざまな計算機に適用できるプログラム言語として注目を集めて, その普及が加速されることになった。昨今,組込み機器へのJavaの応用が注目され, 従来のWeb環境等の応用分野では必要性の低かった実時間性が重要になっている。しかし従来のJava言語規定は, 実時間ソフトウェアのための機能において十分ではない。
そこでJavaの実時間拡張について, IEEEをはじめ幾つかのグループで検討が進められていた。 これらの整合を図るために, 合意を基本とした手順によってJavaの実時間拡張要件を策定する必要が生じ,1998年6月にNIST(National Institute of Standards and Technology)の後援で"Javaプラットフォームの実時間拡張のための要件定義グループ"が発足し, Javaプラットフォームの実時間機能拡張のための要件を定義した。
実時間拡張のための要件定義グループに参加した多くのメンバは, このNIST要件に基づく実時間拡張規定の策定及びその標準化のために,非営利団体のJコンソシアムを結成し, Javaプラットフォームの実時間コア拡張1)を策定中である。
JavaTM Experts Groupも, NIST要件に基づいて, Javaの実時間拡張規定2)を開発している。
国内では,ITRON仕様の実時間OSの上にJava実行環境を実装する場合のインタフェースの標準化3)が行われている。この取組みは, NIST要件に基づくものではないが, コア要件4及び派生コア要件9.3に相当するITRON仕様のOSの上のタスクとJavaアプリケーションとの間の通信方法を規定する。
通信機器, 組込み機器などを含む広い分野で, プラットフォーム独立なJava言語によるプログラムを使いたいという要求がある。それを整理して要件として定義し, 広く開示することは, 当該分野の技術開発を促進し, 相互運用性を確保するために有効である。特にこの標準情報(TR)は, 今後標準化されるJavaの実時間拡張規定及び実時間拡張プログラムのガイドラインに位置付けられ, 規定作成者及び実時間拡張プログラム開発者にとって相互運用性確保のために必要な指針を与えると共に, 応用分野に依存した要件及びプロファイルを策定するために重要である。国内の通信機器, 組込み機器などのソフトウェアにおいても, 実時間処理機能を備えたJavaプログラムの需要が見込まれており, この標準情報(TR)の適用対象は, 放送分野を含めてさらに広がることが期待される。
(財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の高速Webにおける標準化に関する調査研究委員会は, その作業グループ(WG3)の1998年度からの活動としてJavaの実時間拡張に関する調査研究を行い, 関連技術の標準情報(TR)による公表の必要性を提言した。
高速Webにおける標準化に関する調査研究委員会の作業グループ(WG3)は, 通商産業省工業技術院からの委託を受けて1999年度の活動として, NISTが公表しているJavaの実時間拡張規定作成のガイドライン"Requirements For Real-time Extensions For the Java Platform"の翻訳及び標準情報(TR)原案作成を行った。原規定の1999年9月版対応のTR原案は2000年2月に工業技術院に提出され, 2000年3月のNIST Special Publication 500-243に対応したTR原案が, 2000年5月に工業技術院に再提出された。
訳語選定に際しては,Java原語規定に関する標準情報 TR X 0005:1999 "分散オブジェクト指向のプログラム言語及びその環境"の第4章において使用している訳語との整合を配慮した。
この標準情報(TR)で採用した主な訳語を次に示し, 今後の関連規定の作成等に際しての参考とする。
原語 | 訳語 |
accrued | 積算 |
aggressive resource allocation | 積極的資源割付け |
artifact | 骨董 |
atomic | アトミック |
augment | 強化 |
availability | 使用可能性 |
bounded allocation time | 上限付き割付け時間 |
budget | 計画的割当て |
conditional acquire lock function | 条件付きロック取得関数 |
conservative resource allocation | 消極的資源割付け |
critical sections | 危険域 |
cross development tool | クロス開発ツール |
cross-disciplinary | 領域をまたがった |
deadline scope | 期限をもつ範囲 |
deployed environment | 実行環境 |
Derived Requirements | 派生要件 |
dynamic memory de-allocation | 動的なメモリの解放 |
eligibility | 適格性 |
embedded system | 組込みシステム |
fault tolerant | 耐故障性 |
finalized | 終了化した |
fixed priority | 固定優先度 |
garbage collection | ごみ集め |
guaranteed rate of memory reclamat | 保証されたメモリ回収率 |
hard real-time system | 厳密な実時間システム |
heap | ヒープ |
infrastructure | 基盤 |
integrity | 完全性 |
Java Virtual Machine | Java仮想計算機 |
lateness | 進遅性 |
lifetime | 生存期間 |
mutual exclusion | 相互排他 |
native memory location | 実機固有のメモリ位置 |
non-real-time thread | 非実時間スレッド |
non-schedulable | スケジュール対象外 |
place holder name | プレースホルダ名 |
practitioner | 開発者 |
precedence constraint satisfaction | 優先順位制約の充足 |
predicate | 論理述語 |
predictability | 予測可能性 |
preempt | 中断させる |
preemption latency | 中断遅延時間 |
priority inheritance | 優先度継承 |
priority inversion avoidance policy | 優先順位の逆転回避方策 |
reachable | 到達可能な |
reclamation | 回収 |
resource conflict resolution | 資源競合解消 |
resource footprint | 資源使用量 |
semaphore | セマフォ |
sub-optimal | 準最適 |
symbolic resolution | 記号解決 |
tardiness | 遅滞性 |
thread | スレッド |
timeliness | 適時性 |
utility | 有用度 |
versioning | 版管理 |
NISTの原規定は, 必ずしもJIS又はTRの様式には整合していないため, 変更が必要である。しかしTRの読者が原規定を参照する際の便を考慮すると, 章・節構成はなるべく原規定のそれを保存することが望まれる。そこで, 次に示すだけの修正(章・節番号の変更なし)を施して, TR原案とした。
原規定は, PDFファイルとして公開されている。この標準情報(TR)は, 原規定のスタイルをなるべく保存したまま翻訳をHTMLによって記述している。その際に次の点に留意した。
この標準情報(TR)は, 1999年9月にNIST(National Institute of Standards and Technology)から公表された Requirements for Real-time Extensions for the JavaTM Platform を全文翻訳し, 2000年3月に公表されたNIST Special Publication 500-243への整合を施した。
この原規定が改版された場合には, 原案作成委員会において審議した上で, 必要に応じてこの標準情報を改正することとしたい。
1.3.1.1.3の備考の遅進性の定義には, 明らかな誤りが認められる。この標準情報(TR)にはこれを訂正したものを掲載し, NISTに対してその旨の報告を行った。1.3.1.1.4の"厳密でない期限"にも適切でない記述があり, これについてもこの標準情報(TR)には訂正したものを掲載し, NISTに改正を要求してある。
1.3.1.2.2において, 原規定のpdf版<http://www.nist.gov/itl/div897/ctg/real-time/rt-doc/sp500-243.pdf>では(Cv=8)となっている記述が, 原規定のMS-Word版<http://www.nist.gov/itl/div897/ctg/real-time/rt-doc/sp500-243.doc>では(Cv=∞)となっているが, この標準情報(TR)では(Cv=∞)とした。なお, E. Douglas JensenのWeb<http://www.real-time.org/no_frames/rt-lexicon.htm> では, Cv=infinity になっている。
1) J Consortium Specification No.T1-00-01, Real-Time Core Extensions for the JavaTM Platform, http://www.j-consortium.org/rtjwg/s1.pdf, 2000-02-03.
2) The Real Time for Java Experts Group, The Real-Time Specification for JavaTM, http://www.rtj.org/public/rtj.pdf, 2000-02-08.
3) Java Technology on ITRON-specification OS 技術委員会, JTRON2.0仕様, Ver.2.00.00, http://www.itron.gr.jp/SPEC/jtron2-j.html, 1998-09-25.
この標準情報(TR)の原案を作成した(財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の高速Webにおける標準化に関する調査研究委員会, 及び作業グループ(WG3)の委員構成を次に示す。
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
(委員長) | 池田 克夫 | 京都大学 |
(幹事) | 鯵坂 恒夫 | 和歌山大学 |
(幹事) | 小町 祐史 | 松下電送システム株式会社 |
(幹事) | 平山 亮 | ヒューレット・パッカード日本研究所 |
内山 光一 | 株式会社東芝 | |
久保田 靖夫 | 大日本印刷株式会社 | |
黒川 利明 | 株式会社CSK | |
斎藤 伸雄 | 凸版印刷株式会社 | |
澤田 位 | 財団法人日本規格協会 | |
八田 勲 | 通商産業省工業技術院標準部 | |
二本松 勝 | 株式会社日立製作所 | |
氏兼 裕之 | 通商産業省機械情報産業局 | |
古瀬 幸広 | 立教大学 | |
松本 充司 | 早稲田大学 | |
柳町 昭夫 | 株式会社NHKアイテック | |
(事務局) | 山中 正幸 | 財団法人日本規格協会 |
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
(主査) | 小町 祐史 | 松下電送システム株式会社 |
(幹事) | 内山 光一 | 株式会社東芝 |
奥井 康弘 | 株式会社日本ユニテック | |
上村 圭介 | 国際大学グローバルコミュニケーションセンター | |
北野 敬介 | 日本サン・マイクロシステムズ株式会社 | |
黒川 利明 | 株式会社CSK | |
栗林 博 | オムロン株式会社 | |
郡山 龍 | 株式会社アプリックス | |
澤田 位 | 財団法人日本規格協会 | |
湯沢 広吉 | 通商産業省機械情報産業局 | |
内藤 広志 | 大阪工業大学 | |
乃木 篤 | 株式会社CSK | |
田川 淳 | 通商産業省工業技術院標準部 | |
オブザーバ | 浅利 千鶴 | 浅利会計事務所 |
オブザーバ | 山東 滋 | 株式会社日立製作所 |
オブザーバ | 稲垣 博人 | 日本電信電話株式会社 |
オブザーバ | 荻原 崇弘 | 通商産業省機械情報産業局 |
(事務局) | 山中 正幸 | 財団法人日本規格協会 |