標準情報 TR X 0026:2000

ポータブル文書フォーマット PDF 解説



1. 公表の趣旨及び経緯

1.1 公表の趣旨

PDF(Portable Document Format)は, フォーマット済み電子文書の文書交換様式であり, その生成環境とは独立に電子文書を交換し閲覧することを可能にする。テキスト及び図形を装置非依存で分解能非依存な方法で記述するために, PostScript可視化モデルに基づく。その便利さのために既に広く利用され, 多くの組織等において交換用文書フォーマットとして採用されている。

そこで特に次に示すPDFの現状を考慮して, PDF 1.3(http://partners.adobe.com/)の規定内容を翻訳(要約)し, 標準情報(TR)として公表する。

1.2 公表の経緯

1.1に示す要求に応えるため, (財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の電子出版技術調査研究委員会はPDFの標準情報(TR)化への検討を, 1998年度の活動として開始した。

まずアドビシステムズ(株)の関係者に, 電子出版技術調査研究委員会の作業委員会WG3のオブザーバになっていただくと共に, 規定内容を標準情報(TR)として公表することの許可を求めた。アドビシステムズは米国のAdobe Systems Inc.と連絡をとり,“原規定の著作権がAdobeに属することを確認すると共に, 標準情報(TR)の中で原規定の著作権がAdobeに属することを表記する。”ことを条件として許可することを明らかにした(1999-06-02)。

PDFに関する検討を行っているISO/TC130の国内対応組織であるTC130国内委員会/JWG2(日本印刷産業工業会)及び画像処理技術標準化調査研究委員会/高精細画像符号化/PDF関連対応WG(INSTAC)とリエゾンをとり(1999-07), それぞれ次のことを確認した。

電子出版技術調査研究委員会の作業委員会WG3は, TR原案を1999年11年に完成し, 工業技術院に提出した。

2. 審議中の主要検討課題及び懸案事項

2.1 訳語

既にアドビシステムズから出版されているPDF関連文書との訳語の不整合を避けるために, アドビシステムズに対して, 用語集又は翻訳サンプルの提出を依頼した。しかし該当する文書はないとの回答(1999-09)であったので, 通常の翻訳TRと同様に原案作成委員会での検討によって訳語を選定した。

原案作成委員会では, 関連するJIS又は標準情報(TR)との整合を考慮し, 学会誌等でのPDF関連記述2)を参照して, 訳語を選定した。特に議論となった訳語を次に示す。

原語訳語選定に際しての議論
monochromeモノクロームJIS X 4211では白黒になっているが, 白黒に限らず単一色を意味するので, モノクロームとする。
imaging作画drawing(描画)と区別すると共に, JIS X 4154(SPDL)に合わせた。

この標準情報(TR)で採用した主な訳語を次に示し, 今後の関連規定の作成等に際しての参考とする。

原語 訳語
agent エージェント
annotation 注記
article アーティクル
blank 空白
blend 混成
bookmark しおり
braces 大括弧
checkbox チェックボックス
CIDFonts CIDフォント
color separation 色分離
colorspace 色空間
comment コメント
cross-refference table クロスリファレンステーブル
destination 行き先
embed 組み込む
Embedded File streams 組込みファイルストリーム
enhanced border 拡張した縁取り
enhanced page numbering 拡張ページ番号付け
escape character エスケープ文字
event イベント
export 移出する
facility 機能
fill-in 埋め込める
graphic structure グラフィック構造
halftone screen ハーフトーンスクリーン
hand-coded by a human 手入力
highlight 字句の強調
image property 画像の特質
Implementation note 実装上の注意
import 移入する
in a stream of commands 指令の列
interactive 対話的な
invent 創案する
map 対応付ける
margine 余白
metric メトリク
monospaced 固定ピッチの
movie 動画
Name tree 名前の木
native 固有の
navigate たどる
notation 記法
Number tree 数の木
operators 演算子, 命令
overlay 覆いかぶさる
PageLabel dictionaries PageLabel辞書
paint ペイント
pattern パタン
PDF viewing application PDF閲覧アプリケーション
plain text プレーンテキスト
platform-independent 動作環境に依存しない
play 再生する
Portable Document Format ポータブル文書フォーマット
private 非公開の
property 特性
radio button ラジオボタン
registry レジストリ
samples of code サンプルコード
shorthand 簡略系
Signature field 署名フィールド
single-pass 単パス
smooth shading 滑らかな影付け
sound
space 空間,空き
symbolic fonts シンボリックフォント
system-level printer driver システムで定義されたプリンタドライバ
text annotation テキスト注記
text style 文字形式
the basic types of objects オブジェクト基本型
thumbnail sketch サムネール画像
token トークン
verbatim 文字通りに
view 閲覧する
viewer ビュア
Web Capture ウェブ情報取込み
whitespace 空白

2.2 章・節構成

原規定は, 必ずしもJIS又は標準情報(TR)の様式には整合していないため, 整合化の対応が必要である。しかしTRの読者が原規定を参照する際の便を考慮すると, 章・節構成はなるべく原規定のそれを保存することが望まれる。そこで, 次に示すだけの修正を施して, この標準情報(TR)を構成した。

原規定 この標準情報(TR) 備考
  序文 TR固有の記述
CHAPTER 1 Introduction 1. 導入  
  1.1 適用範囲 原規定における"CHAPTER 1 Introduction"の直後の記述を"1.1 適用 範囲"とする。
1.1 About this book 1.2 構成  
  1.3 PDF規定の履歴 原規定における"1.2", "1.3"及び "1.4"を "1.3 PDF規定の履歴"にま とめる。
1.2 Introduction to the Second Edition - PDF 1.1 1.3.1 PDF 1.1の概要  
1.3 Introduction to the Third Edition - PDF 1.2 1.3.2 PDF 1.2の概要  
1.4 Introduction to the Fourth Edition - PDF 1.3 1.3.3 PDF 1.3の概要  
  1.4 記法 原規定における"1.5"及び "1.6"を "1.4 記法"にまとめる。
1.5 Conventions used in this book 1.4.1 この標準情報(TR)における記法  
1.6 A note on syntax 1.4.2 構文に関する備考  
1.7 Copyleft permission to use PDF 1.5 著作権許諾  
     
Section I Portable Document Format 第1章 ポータブル文書フォーマット  
CHAPTER 2 Overview 2. 概要 以降は原規定と同じ構成とする。
     
Section II Optimizing PDF Files 第2章 PDFファイルの最適化  
CHAPTER 10 General Techniques for Optimizing PDF Files 10. PDFファイルの最適化のための一般的技術 以降は原規定と同じ構成とする。
     
  解説 TR固有の記述

目次の前の"まえがき"は, 情報部会での議論に基づいてこの標準情報のために記述したものであって, 原規定における目次の前の記述の翻訳ではない。

2.3 その他の翻訳表記上の規則

原規定は, PDFを用いて記述されている。この標準情報(TR)は, 原規定のスタイルをなるべく保存したまま翻訳をHTMLによって記述している。その際に次の点に留意した。

3. 懸案事項

序文に示したとおり, この標準情報(TR)では1.及び2.については, 原規定の同項目を全文翻訳し, 3.以降については, それぞれ原規定の同項目の内容を引用するものとした。

TR公表後に, このTRの利用者から全訳が強く望まれれば, 次のTRの改正に際して対応することとしたい。

4. 参考文献

1) ISO/TC130/WG2 N752, Use of PDF for composite data - Part 1: Complete exchange (PDF/X-1)
2) 川又行雄, 電子出版の一手法・PDF, 情報処理 Vol.39 No.6, pp.525-531

5. 原案作成委員会

この標準情報(TR)原案を作成した(財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の 電子出版技術調査研究委員会及び作業グループWG3の委員構成を, その順に次に示す。

電子出版技術調査研究委員会
氏名所属
(委員長)池田 克夫京都大学
(幹事)小町 祐史松下電送システム株式会社
(幹事)大久保 彰徳株式会社リコー
(幹事)長村 玄株式会社ドキュメント・エンジニアリング研究所
(幹事)高沢 通大日本スクリーン製造株式会社
(幹事)礪波 道夫日本新聞協会(読売新聞社)
(委員)内山 光一株式会社東芝
小笠原 治社団法人日本印刷技術協会
前沢 克俊大日本印刷株式会社
八田 勲通商産業省工業技術院標準部
(工技院)稲橋 一行通商産業省工業技術院標準部
(工技院)永井 裕司通商産業省工業技術院標準部
(オブザーバ)有木 靖人日本新聞協会
(事務局)大川 和司財団法人日本規格協会

作業グループ WG3
氏名所属
(主査)小町 祐史松下電送システム株式会社
(幹事)平山 亮金沢工業大学
(委員)安達 淳株式会社沖データ
今門 政記日商岩井インフォコム株式会社
内山 光一株式会社東芝
大久保 彰徳株式会社リコー
志田 智株式会社インターネット総合研究所
礪波 道夫日本新聞協会(読売新聞社)
長村 玄株式会社ドキュメント・エンジニアリング研究所
矢ケ崎 敏明キヤノン株式会社
(工技院)永井 裕司通商産業省工業技術院標準部
(オブザーバ)澤田 位財団法人日本規格協会
(オブザーバ)市川 孝アドビシステムズ株式会社
(オブザーバ)山本 太郎アドビシステムズ株式会社
(オブザーバ)有木 靖人日本新聞協会
(事務局)大川 和司財団法人日本規格協会