PDF(Portable Document Format)は, フォーマット済み電子文書の文書交換様式であり, その生成環境とは独立に電子文書を交換し閲覧することを可能にする。テキスト及び図形を装置非依存で分解能非依存な方法で記述するために, PostScript可視化モデルに基づく。その便利さのために既に広く利用され, 多くの組織等において交換用文書フォーマットとして採用されている。
そこで特に次に示すPDFの現状を考慮して, PDF 1.3(http://partners.adobe.com/)の規定内容を翻訳(要約)し, 標準情報(TR)として公表する。
1.1に示す要求に応えるため, (財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の電子出版技術調査研究委員会はPDFの標準情報(TR)化への検討を, 1998年度の活動として開始した。
まずアドビシステムズ(株)の関係者に, 電子出版技術調査研究委員会の作業委員会WG3のオブザーバになっていただくと共に, 規定内容を標準情報(TR)として公表することの許可を求めた。アドビシステムズは米国のAdobe Systems Inc.と連絡をとり,“原規定の著作権がAdobeに属することを確認すると共に, 標準情報(TR)の中で原規定の著作権がAdobeに属することを表記する。”ことを条件として許可することを明らかにした(1999-06-02)。
PDFに関する検討を行っているISO/TC130の国内対応組織であるTC130国内委員会/JWG2(日本印刷産業工業会)及び画像処理技術標準化調査研究委員会/高精細画像符号化/PDF関連対応WG(INSTAC)とリエゾンをとり(1999-07), それぞれ次のことを確認した。
電子出版技術調査研究委員会の作業委員会WG3は, TR原案を1999年11年に完成し, 工業技術院に提出した。
既にアドビシステムズから出版されているPDF関連文書との訳語の不整合を避けるために, アドビシステムズに対して, 用語集又は翻訳サンプルの提出を依頼した。しかし該当する文書はないとの回答(1999-09)であったので, 通常の翻訳TRと同様に原案作成委員会での検討によって訳語を選定した。
原案作成委員会では, 関連するJIS又は標準情報(TR)との整合を考慮し, 学会誌等でのPDF関連記述2)を参照して, 訳語を選定した。特に議論となった訳語を次に示す。
原語 | 訳語 | 選定に際しての議論 |
monochrome | モノクローム | JIS X 4211では白黒になっているが, 白黒に限らず単一色を意味するので, モノクロームとする。 |
imaging | 作画 | drawing(描画)と区別すると共に, JIS X 4154(SPDL)に合わせた。 |
この標準情報(TR)で採用した主な訳語を次に示し, 今後の関連規定の作成等に際しての参考とする。
原語 | 訳語 |
agent | エージェント |
annotation | 注記 |
article | アーティクル |
blank | 空白 |
blend | 混成 |
bookmark | しおり |
braces | 大括弧 |
checkbox | チェックボックス |
CIDFonts | CIDフォント |
color separation | 色分離 |
colorspace | 色空間 |
comment | コメント |
cross-refference table | クロスリファレンステーブル |
destination | 行き先 |
embed | 組み込む |
Embedded File streams | 組込みファイルストリーム |
enhanced border | 拡張した縁取り |
enhanced page numbering | 拡張ページ番号付け |
escape character | エスケープ文字 |
event | イベント |
export | 移出する |
facility | 機能 |
fill-in | 埋め込める |
graphic structure | グラフィック構造 |
halftone screen | ハーフトーンスクリーン |
hand-coded by a human | 手入力 |
highlight | 字句の強調 |
image property | 画像の特質 |
Implementation note | 実装上の注意 |
import | 移入する |
in a stream of commands | 指令の列 |
interactive | 対話的な |
invent | 創案する |
map | 対応付ける |
margine | 余白 |
metric | メトリク |
monospaced | 固定ピッチの |
movie | 動画 |
Name tree | 名前の木 |
native | 固有の |
navigate | たどる |
notation | 記法 |
Number tree | 数の木 |
operators | 演算子, 命令 |
overlay | 覆いかぶさる |
PageLabel dictionaries | PageLabel辞書 |
paint | ペイント |
pattern | パタン |
PDF viewing application | PDF閲覧アプリケーション |
plain text | プレーンテキスト |
platform-independent | 動作環境に依存しない |
play | 再生する |
Portable Document Format | ポータブル文書フォーマット |
private | 非公開の |
property | 特性 |
radio button | ラジオボタン |
registry | レジストリ |
samples of code | サンプルコード |
shorthand | 簡略系 |
Signature field | 署名フィールド |
single-pass | 単パス |
smooth shading | 滑らかな影付け |
sound | 音 |
space | 空間,空き |
symbolic fonts | シンボリックフォント |
system-level printer driver | システムで定義されたプリンタドライバ |
text annotation | テキスト注記 |
text style | 文字形式 |
the basic types of objects | オブジェクト基本型 |
thumbnail sketch | サムネール画像 |
token | トークン |
verbatim | 文字通りに |
view | 閲覧する |
viewer | ビュア |
Web Capture | ウェブ情報取込み |
whitespace | 空白 |
原規定は, 必ずしもJIS又は標準情報(TR)の様式には整合していないため, 整合化の対応が必要である。しかしTRの読者が原規定を参照する際の便を考慮すると, 章・節構成はなるべく原規定のそれを保存することが望まれる。そこで, 次に示すだけの修正を施して, この標準情報(TR)を構成した。
原規定 | この標準情報(TR) | 備考 |
序文 | TR固有の記述 | |
CHAPTER 1 Introduction | 1. 導入 | |
1.1 適用範囲 | 原規定における"CHAPTER 1 Introduction"の直後の記述を"1.1 適用 範囲"とする。 | |
1.1 About this book | 1.2 構成 | |
1.3 PDF規定の履歴 | 原規定における"1.2", "1.3"及び "1.4"を "1.3 PDF規定の履歴"にま とめる。 | |
1.2 Introduction to the Second Edition - PDF 1.1 | 1.3.1 PDF 1.1の概要 | |
1.3 Introduction to the Third Edition - PDF 1.2 | 1.3.2 PDF 1.2の概要 | |
1.4 Introduction to the Fourth Edition - PDF 1.3 | 1.3.3 PDF 1.3の概要 | |
1.4 記法 | 原規定における"1.5"及び "1.6"を "1.4 記法"にまとめる。 | |
1.5 Conventions used in this book | 1.4.1 この標準情報(TR)における記法 | |
1.6 A note on syntax | 1.4.2 構文に関する備考 | |
1.7 Copyleft permission to use PDF | 1.5 著作権許諾 | |
Section I Portable Document Format | 第1章 ポータブル文書フォーマット | |
CHAPTER 2 Overview | 2. 概要 | 以降は原規定と同じ構成とする。 |
Section II Optimizing PDF Files | 第2章 PDFファイルの最適化 | |
CHAPTER 10 General Techniques for Optimizing PDF Files | 10. PDFファイルの最適化のための一般的技術 | 以降は原規定と同じ構成とする。 |
解説 | TR固有の記述 |
目次の前の"まえがき"は, 情報部会での議論に基づいてこの標準情報のために記述したものであって, 原規定における目次の前の記述の翻訳ではない。
原規定は, PDFを用いて記述されている。この標準情報(TR)は, 原規定のスタイルをなるべく保存したまま翻訳をHTMLによって記述している。その際に次の点に留意した。
序文に示したとおり, この標準情報(TR)では1.及び2.については, 原規定の同項目を全文翻訳し, 3.以降については, それぞれ原規定の同項目の内容を引用するものとした。
TR公表後に, このTRの利用者から全訳が強く望まれれば, 次のTRの改正に際して対応することとしたい。
1) ISO/TC130/WG2 N752, Use of PDF for composite data - Part 1: Complete exchange (PDF/X-1)
2) 川又行雄, 電子出版の一手法・PDF, 情報処理 Vol.39 No.6, pp.525-531
この標準情報(TR)原案を作成した(財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の 電子出版技術調査研究委員会及び作業グループWG3の委員構成を, その順に次に示す。
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
(委員長) | 池田 克夫 | 京都大学 |
(幹事) | 小町 祐史 | 松下電送システム株式会社 |
(幹事) | 大久保 彰徳 | 株式会社リコー |
(幹事) | 長村 玄 | 株式会社ドキュメント・エンジニアリング研究所 |
(幹事) | 高沢 通 | 大日本スクリーン製造株式会社 |
(幹事) | 礪波 道夫 | 日本新聞協会(読売新聞社) |
(委員) | 内山 光一 | 株式会社東芝 |
小笠原 治 | 社団法人日本印刷技術協会 | |
前沢 克俊 | 大日本印刷株式会社 | |
八田 勲 | 通商産業省工業技術院標準部 | |
(工技院) | 稲橋 一行 | 通商産業省工業技術院標準部 |
(工技院) | 永井 裕司 | 通商産業省工業技術院標準部 |
(オブザーバ) | 有木 靖人 | 日本新聞協会 |
(事務局) | 大川 和司 | 財団法人日本規格協会 |
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
(主査) | 小町 祐史 | 松下電送システム株式会社 |
(幹事) | 平山 亮 | 金沢工業大学 |
(委員) | 安達 淳 | 株式会社沖データ |
今門 政記 | 日商岩井インフォコム株式会社 | |
内山 光一 | 株式会社東芝 | |
大久保 彰徳 | 株式会社リコー | |
志田 智 | 株式会社インターネット総合研究所 | |
礪波 道夫 | 日本新聞協会(読売新聞社) | |
長村 玄 | 株式会社ドキュメント・エンジニアリング研究所 | |
矢ケ崎 敏明 | キヤノン株式会社 | |
(工技院) | 永井 裕司 | 通商産業省工業技術院標準部 |
(オブザーバ) | 澤田 位 | 財団法人日本規格協会 |
(オブザーバ) | 市川 孝 | アドビシステムズ株式会社 |
(オブザーバ) | 山本 太郎 | アドビシステムズ株式会社 |
(オブザーバ) | 有木 靖人 | 日本新聞協会 |
(事務局) | 大川 和司 | 財団法人日本規格協会 |