標準情報 TR X 0013:1998

規格文書情報交換のためのスタイル指定 解説



1. 公表の趣旨及び経緯

ISO中央事務局は,規格出版作業の合理化のために, ISOで開発した国際規格及び技術報告をSGML(標準一般化マーク付け言語, Standard Generalized Markup Language)を使って電子化する方針を決めた。 その実行に向けて,ISO/IEC JTC1/SC18/WG8(現在のJTC1/SC34)は プロジェクトを設立して,ISOの出版仕様に基づくDTD(文書型定義, Document Type Definition)の開発を開始し,そのDTDを1992年9月に ISO/IEC TR 9573-11として出版した。

その活動と並行して,ISOのSTACOは,情報技術によってあらゆる規格文書(国際規格, 国内規格,地域規格,社内規格など)の文書を出版・流通・配布するプランを立案し (文献 1)),規格文書記述用DTDとしてTR 9573-11を勧告した(文献 2))。

それに先立ち,IMPACT Eurostand(欧州規格,文献 3))及び DIN(ドイツ規格,文献 4),5))がそれぞれTR 9573-11を承認して, それぞれの規格文書の電子化を開始している。

このような国際動向への呼応が必要であると共に,国内からもJIS文書の 電子化による効率的出版への要求があり,そのためのDTDが求められていた。 そこでTR 9573-11が翻訳され,標準情報 TR X 0004として 1997年7月に公表された。

これによって論理構造の記述が可能になり,国際及び国内の規格文書情報を 交換するための必要条件は満たされたが,規格文書に伴うフォーマット情報に ついてはこれらの規定では不十分であった。フォーマット情報が意味をもつ規格も 少なくはなく,それを保存して交換するための規定が望まれていた。

SGML文書のフォーマット指定を交換可能にするための規格 ISO/IEC 10179(Document Style Semantics and Specification Language, DSSSL)が1996年4月に出版され,その翻訳による JIS X 4153(文書スタイル意味指定言語)の原案がある程度完成するに至って, それを規格文書に適用してフォーマット情報を保存した規格文書を交換するための 調査研究が,(財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の マルチメディア/ハイパメディア調査研究委員会によって1996年度に開始された。 この調査研究は,同センターの,高速Web環境における標準化に関する調査研究委員会 に引き継がれ,その1998年度の成果がこの標準情報(TR)に集約されて 工業技術院に提出された。

2. DSSSL指定及びその処理の概要

DSSSLはSGML文書の処理を指示する言語であって,現在のところ,SGML文書の変換, 及びSGML文書の印刷並びに画面表示の2種類の処理をその適用範囲としている。 SGML文書の変換を行う処理を変換処理,SGML文書の印刷及び画面表示を行う処理を フォーマット処理と呼び,それぞれ変換指定,スタイル指定によって制御する。 この変換指定及びスタイル指定を総称して,DSSSL指定と呼ぶ。

2.1 DSSSL指定の構造

DSSSL指定は, それ自体がSGML文書となる。このSGML文書においては,DSSSL指定のための体系形式に従って構成したDTDを利用する。

体系形式とは,DTDを構成する際の規則であって, 要素の共通識別子(要素型名),内容モデルなどに自由度をもたせながら, 処理系に対してその要素のもつ意味を伝えるためのメタ記述の規定である。 体系形式は,属性と必須な要素の集合とによって定義する。

DSSSL指定は, 次の部分からなる。

a) DSSSLのオプション機能の宣言,単位の宣言などの各種宣言。
b) SGML文書の変換の指定(変換指定と呼ぶ。)。
c) SGML文書の印刷及び画面表示に関するスタイルの指定(スタイル指定と呼ぶ。)。
d) 外部実体として存在するa)〜c)への参照。

これらは, 一つの実体(ファイル)でもよいし,複数の実体に分かれていてもよい。 特に,変換指定及びスタイル指定は,目的とする処理を制御するものだけを記述する。

2.2 変換指定の構成要素

変換指定は, 次の四つを構成要素にもつ。

a) プログラミング言語Schemeを基礎として,基本的なデータ処理のために用いる 式言語。
b) 文書構造の中から処理対象となる構造を特定するために用いる 標準文書照会言語(SDQL)。
c) グローブ構成の指示を行う変換式。
d) これらのa)〜c)を利用して入力と出力の対応を記述する関連指定。

これらの下位言語は,かっこの内部に手続き名,引数を並べるlisp系言語の記法を 利用している。それぞれの言語において利用可能な手続き群が規定されており, 関連指定の特定の場所に記述する。

2.3 変換処理の概要

変換処理は,SGML文書を入力として次に示す処理段階に従って処理を行い,SGML文書を出力する。

a) SGML文書を解析し,グローブと呼ぶ内部構造に変換する。
b) 一定の順序でグローブを巡回し,グローブの各ノードに対応する規則に従って 処理を行う。
c) 処理規則を一定の順序に並べ,それぞれの規則に適合するノードを処理する。
d) 規則に従って生成された出力グローブが出力DTDに適合することを検証し, SGML文書として出力する。

ここで,b), c)は,処理系の設計方針に従ってどちらかを選択できる。 文書の規模を考慮しなければ,b)の方が容易に処理系を設計できるだろう。 文書の規模が大きい場合,又は文書がデータベースに格納されている場合には,c)の方が適切であろう。

変換処理を利用して,異なる文書型をもつSGML文書への変換が可能になる。 例えば,SGML文書をHTML文書,XML文書などに変換できる。 また,スタイル指定と組み合わせて利用する場合には, 索引,目次の作成などを行う前処理として利用できる。

2.4 スタイル指定の構成要素

スタイル指定は次の三つを構成要素にもつ。

a) プログラミング言語Schemeを基礎として,基本的なデータ処理のために用いる 式言語。
b) 流し込みオブジェクト木の生成を指示する構築指定。
c) これらのa), b)を利用して流し込みオブジェクト木の構成を指示する 照会構築指定。また,これには,文書構造の中から処理対象となる構造を特定する ために用いる標準文書照会言語(SDQL)を簡略化した記法も含まれている。

これらの下位言語は,かっこの内部に手続き名,引数を並べるlisp系言語の記法を 利用している。それぞれの言語において利用可能な手続き群が規定されており, 照会構築指定の特定の場所に記述する。

2.5 フォーマット処理(スタイル指定の処理)

フォーマット処理では出力結果は規定されていない。 その出力の元となる流し込みオブジェクト木の構成処理を行う。 その結果を処理系固有の方式に従って出力する。

フォーマット処理は次に示す処理段階に従う。

a) SGML文書を解析し, グローブと呼ぶ内部構造に変換する。
b) 一定の順序でグローブを巡回し,グローブの各ノードに対応する規則に従って 処理を行う。
c) 処理規則を一定の順序に並べ,それぞれの規則に適合するノードを処理する。
d) 規則に従って生成された流し込みオブジェクトを一つの木構造にまとめ, 処理系固有の変換を行った結果を出力する。

ここで,b), c)は,処理系の設計方針に従ってどちらかを選択できる。 文書の規模を考慮しなければ,b)の方が容易に処理系を設計できるだろう。 文書の規模が大きい場合,又は文書がデータベースに格納されている場合には,c)の方が適切であろう。

フォーマット処理の出力は実装に固有の出力形式であって, さらに後段の処理を必要とする組版言語でもよいし, 直接, プリンタ又はディスプレイに出力可能な ページ記述言語又はビットマップイメージでもよい。

DSSSLで記述するスタイル指定はこのように柔軟な出力に対応するため, 絶対的なページ再現性を保証してはいない。 これが,利用者にとって,ページ記述言語との一番大きな違いであろう。 しかし,フォントを始めとする利用可能な資源及びアルゴリズムをあらかじめ 決定しないことによって,さまざまな媒体への出力,多様な実装を可能としている。

3. 審議中の主要検討課題及び懸案事項

3.1 DSSSL指定の処理(Jadeの利用)

この標準情報(TR)を規定するにあたっては, DSSSL指定とその処理結果である文書表現との対応を確認するため, DSSSL指定の処理系が必要であった。 このため Jade(文献 6))を用いた。 Jadeは,DSSSLの規定に中心的役割を果たしたイギリスのJames Clark が作成した処理系であって,通常の利用については権利上の制限がない。

3.2 Jadeの利用による制約

Jadeは, 現状でDSSSL指定のすべてを処理できるわけではない。 JIS規格文書用DTDが仮定している機能のうち,Jadeで処理できず,またDSSSLが規定する 他の機能によっても代替不可能な次の機能は,この標準情報(TR)の規定に含められていない。

a) 脚注のフォーマッティング機能
b) 表の複雑なフォーマッティング機能
c) 段組みのフォーマッティング機能

これは,規格で規定された機能範囲の DSSSL指定だけを利用してスタイルを記述し, 後工程において手作業などで変更を加えないという方針によるものである。

3.3 文書表現のオンライン指向

前述(3.2)の制約があるのは,Jadeがどちらかといえばオンライン指向であるためである。 Jadeに限らずオンライン指向は今後の文書処理一般の傾向と考えられるので, JISの出版においても,従来の活版による組版にこだわらないスタイルについて 検討を進めるべきである。 印刷組版として最も複雑なものが要求される部分の一つに表紙があるが, これは副文書として別途扱うような方策も考えられる。

4. 参考文献

1) ISO/STACO Seminar Proceeding, Faster and Better, 1991-06.
2) Resolutions of Ad-Hoc WG ISO/STACO, 1992-01.
3) IMPACT Eurostand-SGML-1155 D/3-b22, Content of the DTD for eurostd, 1993-04.
4) DIN V 33 900, Rechnergestuetzte Dokumentbearbeitung von Normen, teil 1: SGML-Syntax und gemeinsamer Teil der Dokumenttypfestlegung (DTD) fuer Normen, 1992-10.
5) DIN V 33 900, Rechnergestuetzte Dokumentbearbeitung von Normen, teil 2: Spezifischer Teil der Dokumenttypfestlegung (DTD) fuer DIN-Normen, 1992-10.
6) http://www.jclark.com/jade/

5. 原案作成委員会

この標準情報(TR)原案を作成した (財)日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の マルチメディア/ハイパメディア調査研究委員会, 同電子出版流通技術課題検討分科会(WG3), 及び同センターの,高速Web環境における標準化に関する調査研究委員会, 同高速Web文書体系分科会(WG2)の委員構成を次に示す。

マルチメディア/ハイパメディア調査研究委員会
氏名所属
(委員長)池田 克夫京都大学
(幹事)鯵坂 恒夫和歌山大学
(幹事)小町 祐史松下電送株式会社
(幹事)藤村 是明電子技術総合研究所
内山 光一株式会社東芝
久保田 靖夫大日本印刷株式会社
黒川 利明日本アイ・ビー・エム株式会社
神野 俊昭株式会社日立製作所
斎藤 伸雄凸版印刷株式会社
澤田 位財団法人日本規格協会
滝川 啓NTTソフトウェア株式会社
田畑 孝一図書館情報大学
橋爪 邦隆通商産業省工業技術院標準部
長谷川 敬太日本電信電話株式会社
平山 亮ヒューレット・パッカード日本研究所
振角 秀行通商産業省機械情報産業局
古瀬 幸広国際大学グローバルコミュニケーションセンター
柳町 昭夫日本放送協会放送技術研究所
オブザーバ掘 純一郎日経BP社
(事務局)山中 正幸財団法人日本規格協会

電子出版流通技術課題検討分科会(WG3)
氏名所属
(主査)鯵坂 恒夫和歌山大学
安達 淳株式会社沖データ
池田 克夫京都大学
久保田 靖夫大日本印刷株式会社
小町 祐史松下電送株式会社
斎藤 伸雄凸版印刷株式会社
澤田 位財団法人日本規格協会
月岡 修一セントラル情報処理システムズ
星野 寛財団法人京都高度技術研究所
堀越 裕太郎通商産業省工業技術院標準部
(事務局)山中 正幸財団法人日本規格協会

高速Web環境における標準化に関する調査研究委員会
氏名所属
(委員長)池田 克夫京都大学
(幹事)鯵坂 恒夫和歌山大学
(幹事)小町 祐史松下電送システム株式会社
(幹事)平山 亮ヒューレット・パッカード日本研究所
内山 光一株式会社東芝
久保田 靖夫大日本印刷株式会社
黒川 利明日本アイ・ビー・エム株式会社
斎藤 伸雄凸版印刷株式会社
澤田 位財団法人日本規格協会
二本松 勝株式会社日立製作所
橋爪 邦隆通商産業省工業技術院標準部
長谷川 敬太日本電信電話株式会社
氏兼 裕之通商産業省機械情報産業局
古瀬 幸広立教大学
松本 充司早稲田大学
柳町 昭夫株式会社NHKアイテック
(事務局)山中 正幸財団法人日本規格協会

高速Web文書体系分科会(WG2)
氏名所属
(主査)鯵坂 恒夫和歌山大学
安達 淳株式会社沖データ
池田 克夫京都大学
久保田 靖夫大日本印刷株式会社
小町 祐史松下電送システム株式会社
斎藤 伸雄凸版印刷株式会社
澤田 位財団法人日本規格協会
月岡 修一セントラル情報処理システムズ
星野 寛財団法人京都高度技術研究所
中島 知行通商産業省工業技術院標準部
(事務局)山中 正幸財団法人日本規格協会