この解説は,標準情報(TR)の本体及び付属書に規定・記載した事柄,並びにこれらに関連した事柄を説明するもので,標準情報(TR)の一部ではない。
インタネットの電子メールを使って,名前,組織名,電話番号,電子メール用番地などを伝えることは日常的に行われているが,それらのデータフォーマットの標準化,すなわち,電子的な名刺情報交換の標準化は,電子商取引, 個人情報処理などの分野における情報処理システムの相互運用性の確保,利用者の利便性の向上に寄与すると考えられる。
vCardは,電子的な名刺情報のデータフォーマットの事実上の標準として認知されていて,既に多くの電子メールソフトウェア,パーソナルコンピュータ上のアドレス帳,及び携帯情報端末機器でサポートされている。vCardの最新版である版3.0は,RFC 2426 - vCard MIME Directory ProfileとしてInternet Engineering Task Force (IETF)から公表されている。
この標準情報(TR)は,IETFにより公表されたRFC 2426 - vCard MIME Directory Profileを技術的内容を変更することなく翻訳したものであって,将来JIS化ができる可能性のある技術情報等の早期公開によってJIS化の前提となる合意の形成を促進させるという目的のため,タイプUの標準情報(TR)として公表するものである。
RFC 2426では,vCardを,ディレクトリ情報のためのMIME内容型のプロファイルの一つとして定義している。したがって,RFC 2426を利用するためには,"RFC 2425 - A MIME Content-Type for Directory Information"を合わせて利用する必要がある。RFC 2425は,標準情報 TR X 0045:2001 ディレクトリ情報のためのMIME内容型として公表されている。
財団法人日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の電子出版技術調査研究委員会は,電子的な名刺情報交換の標準化によって,電子商取引, 個人情報処理などの分野における情報処理システムの相互運用性の確保,利用者の利便性の向上に寄与すると考え,その作業グループ3(WG3)の2000年度の活動の一つとして,電子的な名刺情報交換の標準化に関する調査研究を実施した。その結果,電子的な名刺情報交換のためのデータフォーマットとして広く用いられているvCardに関連する規定を標準情報(TR)として公表することは有用であることを提言した。
電子出版技術調査研究委員会の作業グループ3(WG3)は,通商産業省工業技術院(当時)からの委託を受けて, RFC 2425 - A MIME Content-Type for Directory Information及びRFC 2426 - vCard MIME Directory Profileの翻訳及び標準情報(TR)の原案作成を行い,2001年3月に提出した。
この標準情報(TR)で使用した主な訳語を次に示し,今後の関連規定の作成等に際しての参考とする。
原語 | 訳語 |
---|---|
annotation | 注釈 |
assistant | 援助者 |
audio clip | オーディオクリップ |
birth date | 誕生日 |
bulletin board | 掲示板 |
business card | 名刺 |
business category | 職種 |
car-phone | 自動車電話 |
cellular | セルラ |
Coordinated Universal Time | 協定世界時 |
date-time | 日時 |
delivery addressing type | 配達用番地型 |
descriptive name | 記述的名前 |
directory | ディレクトリ |
directory information | ディレクトリ情報 |
directory service | ディレクトリサービス |
electronic business card | 電子名刺 |
electronic mail | 電子メール |
email address | 電子メール用番地 |
explanatory type | 説明用の型 |
extended address | 拡張番地 |
family name | 姓 |
field delimiter | フィールド区切り子 |
formatted | フォーマット化された |
functional position | 職務上の地位 |
geographical | 地理的な |
given name | 名 |
global positioning | 地球上の位置決め |
globally unique telephone endpoint | 広域的に一意な電話加入者端点 |
honorific prefix | 前置の敬称 |
honorific suffix | 後置の敬称 |
identification type | 識別型 |
identify photograph | 証明写真 |
label | ラベル |
locality | 地区 |
logo | ロゴ |
nickname | ニックネーム |
occupation | 職業 |
organization | 組織 |
organization name | 組織名 |
organizational type | 組織型 |
organizational unit | 部門 |
paging device | ページング装置 |
parcel | 郵便小包 |
person object | 人物オブジェクト |
personal communication service | 個人通信サービス |
phone-number | 電話番号 |
post office box | 私書箱 |
postal | 郵便の |
postal code | 郵便番号 |
private | 私用の |
province | 省 |
region | 地域 |
residence | 住宅 |
role | 役職 |
secretary | 秘書 |
state | 州 |
street address | 街路番地 |
structured | 構造化された |
subject | 件名 |
telecommunications addressing type | 電気通信用番地型 |
telephone number | 電話番号 |
telephony | 電話の |
time zone | 時間帯 |
title | 肩書き |
to | 宛先 |
video conferencing | テレビ会議 |
voice messaging | 音声メッセージング |
white-page | 電話帳 |
white-pages directory entry | 電話帳ディレクトリエントリ |
white-pages person object | 電話帳人物オブジェクト |
RFCの原規定は,必ずしもJIS又はTRの様式には整合していないため,変更が必要である。しかしTRの読者が原規定を参照する際の便を考慮すると,章・節構成はなるべく原規定のそれを保存することが望まれる。そこで,次に示すだけの修正を施して,TR原案とした。1.から10.の章・節構成は,原規定と同一である。
vCard電子名刺は,携帯情報端末(Personal Digital Assistance; PDA), 個人情報管理ソフトウェア(Personal Information Manager; PIM),電子メールソフトウェアなどの相互運用において,個人用データ交換(Personal Data Interchange; PDI)を可能にする電子名刺のフォーマットとして普及してきた。vCard 2.1は, versit Consortiumにより1996年に策定され,その後,IMC(Internet Mail Consortium)に管理が移管されている。この標準情報(TR)の翻訳対象となった原規定のRFC 2426で定義されているのは,vCard 3.0であるが,現状ではまだ一つ前の版であるvCard 2.1だけをサポートしているソフトウェアが多い。vCard 2.1とvCard 3.0との違いについては,この標準情報の5.に示す。RFC 2426は,2001年3月現在,Proposed Standardの状態である。
vCard電子名刺の標準化に関連する国内動向として,イージーインターネット協会PIM情報利用検討委員会が1998年に作成した"日本語版vCardデータ交換フォーマット標準化拡張案"がある。vCard 2.1にふりがなを記述する拡張仕様を提案したもので,IMCからPronunciation Attribute Extension for vCard, 1998-04-21 [1]として公開されている。ただし,vCardの規定の拡張という位置付けであり,vCard 3.0(RFC 2426)にも含まれていない。ソートの目的のために姓にふりがなを記述することが可能なSORT-STRING型がRFC 2426では導入されている。
同委員会は,"PIM情報標準Data形式利用ガイドライン Version 1.0"(1998年)[2]も公開している。これは,vCard 2.1の規定に基づき,日本語の組込み,日本特有のデータに関する処理の指針,互換性を高めるためvCardの解釈についての指針及び実装に対する配慮を記述したものである。
ディレクトリサービスの規格として,JIS X 5731 開放型システム間相互接続−ディレクトリ−があり,これと技術的に同一の国際規格としてISO/IEC 9594及びITU-T X.500シリーズ勧告がある。これらの一連の規格は,一般に"OSIディレクトリ"又は"X.500ディレクトリ"と呼ばれる。これらの規格は,開放型システム間相互接続の一つとして,大域的に一意なディレクトリ(the Directory)サービスを構築するために作成された規格群である。第6部 代表的な属性型及び第7部 代表的なオブジェクトクラスとして,vCardの人物オブジェクトと同様の属性型及びオブジェクトクラスが規定されている。
しかし,vCardは,携帯情報端末(Personal Digital Assistance; PDA), 個人情報管理ソフトウェア,又は電子メールソフトウェアなどでのアドレス帳のインポート/エクスポートなどの用途を中心に発展してきたものであって,X.500シリーズ勧告をサブセット化又はスーパセット化したものではなく,互換性はないことに注意する必要がある。
この標準情報(TR)の原案の作成の際,規定の妥当性,特に国内での利用に問題が生じないかが検討された。その結果,現在定義されているRFC 2426で電子名刺が利用可能であるが,配達先番地の地区(locality)及び地域(region)の部分には日本国内では何を入れるのかといった,国内での利用細則を決めて使うことにより,より相互運用性が高まるであろうことが指摘された。その際の検討された項目の中で特に重要と思われる事項を次に示し,利用者の参考とする。
電子名刺(electronic business cards)には,人物オブジェクトに関する情報が記載され,一般の紙の(業務用)名刺に印刷される情報とほぼ同様の情報を含む,というのが一般的な電子名刺の説明といえる。vCardで定義される電子名刺には次の用途が考えられる。
これらは,氏名,所属及び連絡先の情報のフォーマットであるという点では同じであるが,用途によって必要な機能が異なる場合がある。例えば,誕生日などの半ば個人的な情報が必要かどうかは,電子名刺の用途に依存する。規定の妥当性検討の際には,電子名刺の用途として,これらのうち,特にa)を重視した。すなわち,商談又は業務上の打ち合わせで直接に面談する場合に紙の名刺を交換するが,それが電子メール又はテレビ会議になったときにも電子的に名刺交換を行えることが,電子名刺の第一義的用途と考えたからである。したがって,紙の名刺に通常印刷される情報を交換するのに必要十分な規定となっているかどうかを主な検討項目とした。
ADR型は,構造化された配達用番地の構成要素を指定するために用いられる。構造化された型の値は,順番に,私書箱,拡張番地,街路番地,地区(例えば,市),地域(例えば,州又は省),郵便番号及び国名に対応する。このとき,相互運用性を向上させるため,拡張番地(extended address),街路番地(street address),地区(locality),地域(region)に日本では何を入れるかの利用細則を定めた方がよい。利用細則の一例を次に示す。
紙の名刺では,読み方が特殊である場合を除き,通常,ふりがなは印刷しない。しかし,正確な読みを知るため,及び50音順のソートを行うためには, ふりがなが必要である。FN型及びN型の各国言語に固有なソートに使われる姓又は名のテキストを指定するために,vCard 3.0よりSORT-STRING型が導入された。ソートのための文字列と読みを示すためのふりがなとは,厳密に言えば異なる性質のものであろうが,姓及び名のふりがなを単一のテキスト値としてSORT-STRINGで記述すれば,姓名の50音順によるソートのため及び姓名の正確な読みを知るためにもそれは利用可能である。例えば,次の利用細則を定めることが考えられる。
SORT-STRINGでは,姓・名の他には,ふりがなをつけることはできない。組織名その他にもふりがなをつけられるようにするには,日本語版vCardデータ交換フォーマット標準化拡張案[1]を実装するなどの規定の拡張が必要である。ただし,RFC 2426範囲外の規定なので,利用には注意を要する。
[1] ACCESS Co., Ltd., Pronunciation Attribute Extension for vCard, http://www.imc.org/pdi/vcard-pronunciation .html, 1998.
[2] イージーインターネット協会 PIM情報利用検討委員会,PIM情報標準Data形式利用ガイドライン,Version 1.0, 1998.
この標準情報(TR)の原案を作成した財団法人日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の電子出版技術調査研究委員会,及び作業グループ(WG3)の構成表を,次に示す。
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
(委員長) | 池田克夫 | 京都大学 |
(幹事) | 小町祐史 | 松下電送システム株式会社 |
大久保彰徳 | 株式会社リコー | |
長村玄 | 株式会社ドキュメント・エンジニアリング研究所 | |
高沢通 | 大日本スクリーン製造株式会社 | |
(委員) | 内山光一 | 株式会社東芝 |
小笠原治 | 社団法人日本印刷技術協会 | |
礪波道夫 | 社団法人日本新聞協会(読売新聞社) | |
八田勲 | 経済産業省産業技術環境局 | |
(オブザーバ) | 有木靖人 | 社団法人日本新聞協会 |
稲橋一行 | 経済産業省産業技術環境局 | |
永井裕司 | 経済産業省産業技術環境局 | |
(事務局) | 内藤昌幸 | 財団法人日本規格協会 |
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
(主査) | 小町祐史 | 松下電送システム株式会社 |
(幹事) | 平山亮 | 金沢工業大学 |
(委員) | 今門政記 | インフォコム株式会社 |
内山光一 | 株式会社東芝 | |
海田茂 | ネクストソリューション株式会社 | |
志田智 | 株式会社インターネット総合研究所 | |
矢ケ崎敏明 | キヤノン株式会社 | |
大久保彰徳 | 株式会社リコー | |
安達淳 | 株式会社沖データ | |
(オブザーバ) | 澤田位 | 財団法人日本規格協会 |
市川孝 | アドビシステムズ株式会社 | |
山本太郎 | アドビシステムズ株式会社 | |
有木靖人 | 社団法人日本新聞協会 | |
永井裕司 | 経済産業省産業技術環境局 | |
(事務局) | 内藤 昌幸 | 財団法人日本規格協会 |