標準仕様書(TS)   TS X 7252:2006

OWL ウェブオントロジ言語 − 手引

解説



この解説は,本体及び附属書に規定・記載した事柄,並びにこれらに関連した事柄を説明するもので,標準仕様書(TS)の一部ではない。


1. 公表の趣旨及び経緯

1.1 公表の趣旨

W3C(World Wide Web Consortium)がウェブ環境で意味的な処理を実現するために提案したセマンティクウェブの体系の中で,メタデータ及びその枠組みの上位に位置付けられる機能としてウェブオントロジが示され,それを記述する言語としてOWL Web Ontology Languageが開発された。ウェブ上での使用を前提とし,分散指向に基づくこのウェブオントロジ言語の基本構成要素は,クラス,特性及び個体であり,この言語で書かれたOWL文書においては,クラス,特性及び個体に関する記述がなされる。

参考 哲学ではオントロジは存在論と訳されることが多いが,ここではオントロジと片仮名表記する。

OWLの規定は,2004年2月にW3C勧告として公表され,各国の言語に翻訳されると共に,その処理系も開発されて公開されると共に,既に幾つものOWL文書が公開されている。

IEC(国際電気標準会議)には,その将来活動の指針を検討する委員会としてPresident's Advisory Committee on Future Technology (PACT)が設けられ,2000年に報告書(PACT report)[1]を提出した。PACT reportは,IECが扱うマルチメディア機器のヒューマンインタフェースの基本概念を示し,そみでのオントロジ技術の標準化の必要性を強調している。

このようなオントロジ技術への関心の高まり及びその応用の広がりの中で,W3CのOWLは,標準化組織が公表した最初のオントロジ技術規定であって,その意義が評価されている。そこで国内でのOWLの利用を促進すると共に,オントロジ技術応用の普及を図るために,OWLに関するW3C勧告を翻訳し,標準仕様書(TS)として公表する。

1.2 公表の経緯

ウェブ上での文書情報の交換を効率的に推進するためには,これらの情報を生成,流通,管理,再利用する環境を整備することが望まれ,関連技術の標準化が必要になる。この要求に応えるという経済産業省の意向を受けて,(財)日本規格協会(JSA)は,情報技術標準化研究センター(INSTAC)に将来型文書統合システム標準化調査研究委員会(AIDOS)を設置して,次の課題についての調査研究を2001年度から開始した。

この標準仕様書(TS)の原案は,AIDOS及びその作業グループ(AIDOS-WG1)の2004年度の活動の一つとして開発された。原案は,2005年3月に提出され,2006年1月に日本工業標準調査会標準部会の情報技術専門委員会での審議を受けて承認された。

このTSは,OWLの原勧告の規定内容の翻訳を標準仕様書の様式に従って表記し,日本工業標準調査会の承認のもとに公表するものであって,その記述においては,読者の理解を容易にするための配慮は必ずしも充分ではない。そこでAIDOSでは,TSの内容理解を支援するものとして,OWLおよびその処理系を利用するためのガイドブック[2]をも用意してTSの読者への便を図っている。

AIDOSは,2004年度でその活動を終了したため,原案提出の後の情報技術専門委員会への対応,解説の作成及びTSの公表・発行支援については,INSTACに設けられたユビキタス社会を推進する情報基盤の標準化調査研究委員会のユビキタス情報アクセス技術分科会(UBQ2)によって議論され実行された。


2. 審議中の主要検討課題及び懸案事項

2.1 主な訳語

訳語選定に際しては,XMLを規定しているJIS X 4159[3]との整合を配慮した。翻訳において採用した主な訳語を解説表1に示し,今後の関連規定の作成等に際しての参考とする。

解説表1 主な訳語

原語訳語
abstraction抽象化
anonymous restriction class匿名制限クラス
arbitrary class expression任意のクラス式
assert表明する
assertion表明
audience対象者
background ontology背景(となる)オントロジ
basic building blocks of class axiomsクラス公理の基本構築ブロック
basic buliding block基本構築ブロック
binary relation二項関係
blank node空ノード
boolean combinations of class descriptionsクラス記述のブール結合
canonical URI正規URI
capabilityできること
capture把握する
cardinalityメンバ数
category範ちゅう(疇)
characteristics特徴
class membershipクラスへの帰属関係
CLASSIC description logicCLASSIC記述論理
classification hierarchy分類階層
collection集まり,収集
compact簡潔(非数学的文脈)
complete consistency checkers完全(な)一貫性検査器
compile整理する
complete完備(数学的文脈)
component ontology構成要素オントロジ
comprehension包括
computational completeness計算完全性
computational property計算(の)特性
consequence結果
consistency test一貫性試験
consistent一貫性のある
construct構成要素
content内容
conventional OWL declaration慣習的なOWL宣言
critical element重要な要素
cycle循環
cyclic subclasses循環下位クラス
DAML ontology libraryDAMLオントロジライブラリ
data-modelling notationsデータモデル化記法
decidability決定可能性
defining document定義文書
definitional capability定義能力
deprecation非推奨
derived ontology派生オントロジ
description logic記述論理
Description Logic business segment記述論理が使われてきた分野
Description Logic reasoners記述論理推論機構
discourse議論
disjoint domains互いに素な領域
disjointness互いに素であること
distributed environment分散環境
domain領域
enclosing element囲み要素
entail論理的に帰結する
entailment論理的帰結
entailment test論理的帰結試験
equality同等性
equivalence等価性
existential quantification存在量化
existential quantifier存在量化子
expressiveness表現力
extension拡張
Feature Synopsis Document機能概要規定
filler(スロットの)値
formal semantics形式意味論
formalize形式化する
formulation公式化
front end systemフロントエンドシステム
functional property関数特性
functional関数的な
generalization-hierarchies一般化階層
granularity粒度
housekeeping taskお決まりの作業
identity同一性
idiomイディオム
import取込み
implication含意
imported definition 取り込まれた定義
imported ontology取り込まれたオントロジ
include-style mechanism取込み方式の機構
inclusion包含
increasingly-expressive sublanguages段階的に表現力が増す下位言語
incremental construction段階的構成
incremental nature段階的な性質
individual個体
industry-specific e-marketplace業界固有の電子市場
inferential power of OWLOWLの推論の強力さ
informal非形式的
informative specification参考の規定
informative status参考の状態
inheritance hierarchy継承階層
inporting ontology取込みオントロジ
intensional概念的な
intersection積集合
inverse-functional property axiom逆関数特性公理
knowledge representation systems知識表現システム
level of adoption導入レベル
lexical representation字句表現
link結合
literalリテラル
local restrictions局所制限
logical conjunction論理積
logical disjunction論理和
logical negation論理否定
machine計算機
machine interpretability計算機による解釈能力
maintainer維持者
message formatメッセージ書式
migration path移行手順
modelling primitives of OWLOWLのモデル化基本要素
model-theoretic semanticsモデル論的な意味論
model theoryモデル論
narrative description非形式的な記述
navigate閲覧(ウェブの)
notion概念
normative formal definition規定の形式定義
normative OWL exchange syntax規定のOWL交換構文
null action空動作
object目的語(RDFの)
observation time観察時間
observed phenomenon観察(される)現象
observed value観察値
ontology-import constructオントロジ取込み構成要素
ontology-versioning constructオントロジ版管理構成要素
optional human readable nameオプションの人間可読な名前
orphan blank nodes孤立空ノード
OWL built-in vocabularyOWL組込み語彙
OWL language constructsOWL言語構成要素
OWL Lite expressivity limitationsOWL Liteの表現力の制限
OWL test suiteOWL試験スイート
pair
part-whole relations部分全体関係
potential privacy implicationプライバシを犯す可能性
primitive numerical datatypes基本数値データ型
primitive time-related datatypes基本時間関連データ型
principled原則的な
propagete伝搬する
property axiom特性公理
qualified restrictions修飾した制限
range restriction値域制限
RDF datatypingRDFデータ型付け
RDF(S) model theoryRDF(S)モデル理論
RDF/XML exchange syntaxRDF/XML交換構文
reasoner推論機構
reasoning engines推論エンジン
reasoning task推論
reference point参照点
region区画
requirement要件
Resource Description Framework資源記述の枠組み
rules of thumb経験則
satisfaction充足性
scope(式の)有効範囲
section
security solutionセキュリティの解決
semantics意味論(をもつ)
semantic markup language意味マーク付け言語
separate MIME type分離されたMIME型
set difference集合差
shorthand短縮表現
source情報源
specialization hierarchy特殊化階層
specific communities of implement特定の実装者達
standard tag標準タグ
state言明,言明する
statement
structure sharing構造共有
subclass下位クラス
subclass relations下位クラス(の)関係
subject under observation観察下の主題
sublanguage下位言語
subpart下位部分
subproperty下位特性
substantive大量の
symmetric property対称的(な)特性
symmetry対称性
synonymous classes同義(の)クラス
target ontology対象オントロジ
test case試験事例
taxonomiesタクソノミ
thesauriシソーラス
topic areaトピック領域
tracking追跡
transitive推移的な
transitive composition推移的(な)構成
transitive property推移的(な)特性
tree-like structure木構造
triple三つ組
triple representation三つ組表現
tuple
type 1型1
type sepatation型分離
typing型付け
typing information型付け情報
unambiguous propertyあいまい(曖昧)でない特性
underlying基礎的な
union和集合
union type construct和集合型の構成要素
unique names assumption一意名の仮定
universal (for-all) quantifier of Predicate述語論理の全称量化子
universal quantification全称量化
use case利用事例
user利用者
vertical integration垂直統合
well-formed整形式
World Wide Webワールドワイドウェブ
XML entityXML実体

2.2 訳語の表記

訳語の直後に括弧内に原語を示す“訳語(原語)”の表記は,原語がリテラルとして符号化表現の中に現る場合に,訳語との対応を示すために用いている。

原語の直後に括弧内に訳語を示す“原語(訳語)”の表記は,符号化表現の中のリテラルが,規定の文中に原語の意味を保持して現れていることを示すために用いている。

2.3 章・節などの構成

W3Cの規定は,必ずしも標準仕様書(TS)の様式には整合していないため,整合化の対応が必要である。しかしTSの読者が原規定を参照する際の便を考慮すると,章・節構成はなるべく原規定のそれを保存することが望まれる。そこで,次に示すだけの修正(章・節番号の変更なし)を施して,このTSを構成した。

2.4 W3Cからの要求

この標準仕様書(TS)の公表に際して,W3Cから和文及び英文による次の記載を求められている。この記述は原規定にはないため,ここに示して,W3Cの要求に応えることとする。

規定に準拠しているかどうかの基準となる版は,W3Cのサイトにある原規定とする。

この標準仕様書(TS)は原規定と技術的に同一であることを意図しているが,翻訳上の誤りはあり得る。

The normative version of the specification is the English version found at the W3C site.

Although this TR is intended to be technically identical to the original, it may contain errors from the translation.


3. 参考文献

[1] IEC/TC100/AGS/63, Final report of the project on Human interfaces in Multimedia network Era, 2000-10-31

[2] AIDOS編著,オントロジ技術入門 - ウェブオントロジとOWL,東京電機大学出版局,2005-09-20

[3] JIS X 4159:2005,拡張可能なマーク付け言語 (XML) 1.0,2005-03-20


4. 原案作成委員会の構成表

この標準仕様書(TS)の原案を作成した財団法人日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の将来型文書統合システム標準化調査研究委員会(AIDOS)及びその作業グループ(AIDOS-WG1)の委員構成を,それぞれ解説表2及び解説表3に示す。

解説表2 将来型文書統合システム標準化調査研究委員会(AIDOS)
氏名所属
委員長小町 祐史パナソニックコミュニケーションズ株式会社
委員大野 邦夫株式会社ジャストシステム
宮澤 彰国立情報学研究所
安達 文夫国立歴史民俗博物館
飯島 正慶応義塾大学
黒田 信二郎株式会社紀伊国屋書店
内山 光一東芝ソリューション株式会社
河込 和宏株式会社東芝
菊田 昌弘株式会社シナジー・インキュベート
出葉 義治ソニー株式会社
長村 玄ネクストソリューション株式会社
山田 篤財団法人京都高度技術研究所
オブザーバ堀坂 和秀経済産業省 産業技術環境局
事務局内藤 昌幸財団法人日本規格協会
宮古 牧子財団法人日本規格協会

解説表3 将来型文書統合システム標準化調査研究委員会 作業グループ(AIDOS-WG1)
氏名所属
主査小町 祐史パナソニックコミュニケーションズ株式会社
委員飯島 正慶応義塾大学
内山 光一東芝ソリューション株式会社
大野 邦夫株式会社ジャストシステム
須栗 裕樹株式会社コミュニケーションテクノロジーズ
内藤 求株式会社シナジー・インキュベート
平山 亮金沢工業大学
宮澤 彰国立情報学研究所
山田 篤財団法人京都高度技術研究所
事務局内藤 昌幸財団法人日本規格協会
宮古 牧子財団法人日本規格協会