標準仕様書(TS) TS X 7251:2006
OWL ウェブオントロジ言語 — 概要
OWL Web Ontology Language — Overview
この標準仕様書(TS)は,2004年2月にWorld Wide Web Consortium (W3C)から公表されたWeb Ontology Language, Overviewを翻訳し,技術的内容を変更することなく作成した標準
仕様書(TS)である。
OWLウェブオントロジ言語は,単に人に情報を提示するのではなく,情報の内容を処理する必要のあるアプリケーションが利用するために設計されている。OWLは,形式意味論をもつ付加的な語い(彙)を提供することによって,XML,RDF,及びRDFスキーマ(RDF-S)がサポートするよりも,ウェブコンテンツの計算機による解釈能力を容易に実現する。OWLには,三つの段階的に表現力が増す下位言語,すなわち,OWL Lite,OWL DL及びOWL Fullが存在する。
この標準仕様書(TS)は,OWL Liteの言語記述を規定し,OWL DL及びOWL Fullの段階的な言語記述を規定する。
この標準仕様書(TS)は,OWLでできることについて第一印象を得たいと考える読者を対象とする。ここに平易に示されるOWLの各下位言語の特徴は,OWLへの導入となる。RDF スキーマに関する知識があれば,この規定の理解に役立つが,必す(須)ではない。興味をもった読者は,この規定の後に,OWL 手引を参照することによって,OWLの機能に関してより詳細な記述及び多くの例を得ることができる。OWLの規定の形式定義については,OWL 意味論及び抽象構文を参照されたい。
1. 導入
この標準仕様書 (TS) では,OWLウェブオントロジ言語について記述する。OWLは,その内容を単に人に提示すればよいという状況とは対照的に,アプリケーションが文書に含まれる情報を処理する必要がある場合に使用されることを意図している。OWLの使用によって,語い(彙)中の用語の意味及びそれらの用語間の関係を明示的に表現することが可能となる。この用語及びそれらの相互関係の表現をオントロジと呼ぶ。XML,RDF及びRDF-Sと比較すると,OWLには意味及び意味論を表現するための機能がより多く存在し,そのため,OWLは,ウェブ上で計算機が解釈可能な内容を表現する能力において,これらの言語より優れている。OWLは,DAML+OIL ウェブオントロジ言語を改訂したものであり,DAML+OILの設計及びアプリケーションから学んだ教訓を取り入れている。
1.1 規定一覧
OWL言語は,次の標準仕様書 (TS) 及び文書群によって規定される。この群は,それぞれが異なる目的を果たし,異なる対象者の要求を満たす。この規定を閲覧するための簡単な規定一覧を次に示す。
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この標準仕様書 (TS) (OWL 概要) は,非常に簡潔な機能記述を伴った言語機能のリストを提供することによって,OWLを簡単に紹介している。
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TS X 7252 (OWL 手引) は,広範な一つの事例を提供することによって,OWL言語の使用法を例示すると同時に,これらの規定で使用される専門用語の用語集も提供する。
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TS X 7253 (OWL 機能一覧) は,OWLのすべてのモデル化基本要素について,非形式的ではあるが,体系的及び簡潔な記述を提供している。
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TS X 7254 (OWL 意味論及び抽象構文) は,OWL言語に関する最終的な形式的に表明された規定としての定義を示す。
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OWL ウェブオントロジ試験事例は,OWLの試験事例が数多く含まれる。
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OWL 利用事例及び要件は,ウェブオントロジ言語の使用例を含み,OWLの要件を整理する。
四つの標準仕様書 (TS) は,列挙された順に技術内容が高度になっていくため,この順序で読むことを勧める。残りの2つの文書によって文書群が揃うことになる。
1.2 OWLの必要性
セマンティクウェブは,ウェブの一つの将来像である。これは,情報に明示的な意味を与え,ウェブ上に公開されている情報を計算機が自動的に処理し,統合することをより容易にする。
セマンティクウェブは,XMLの能力に基づいて,カスタマイズされたタグ付け方式を定義し,データ表現のためのRDFの柔軟なアプローチをを定義する。セマンティクウェブにおいてRDFを越える最初のレベルでは,ウェブ文書で使用される用語の意味を形式的に記述することができるオントロジ言語が必要とされる。計算機によって推論が行われることが期待される場合,この言語はRDFスキーマの基本的な意味論を凌ぐものでなければならない。OWL 利用事例及び要件の文書は,より多くのオントロジの詳細情報を提供し,六つの利用事例の観点から,ウェブオントロジ言語の必要性を動機付けし,OWLの設計目標,要件及び目的を明確に記述する。
OWLは,ウェブオントロジ言語のこの必要性を満たすために設計されてきた。OWLは,増加しつつあるセマンティクウェブ関連のW3C勧告の一部とする。
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XMLは,構造化文書に表面的な構文を提供するが,これらの文書の意味に意味論的な制約を課すものではない。
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XML スキーマは,XML文書の構造を制限するための言語であり,データ型を用いてXMLの拡張も行う。
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RDFは,オブジェクト(“資源”)及びオブジェクト間の関係のデータモデルであり,このデータモデルに単純な意味論を提供する。これらのデータモデルは,XML構文で表現することができる。
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RDF スキーマは,RDF資源の特性及びクラスを,これらの特性及びクラスの一般化階層の意味論を用いて記述するための語い(彙)を規定する。
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OWLは,特性及びクラスを記述するために,より多くの語い(彙)を追加している。特に,互いに素であることなどのクラス間の関係,“正確に1”などのメンバ数,同等性,特性のより豊富な型付け,対称性などの特性の特徴及び列挙クラスを追加している。
1.3 OWLの3種類の下位言語
OWLは,特定の実装者及び利用者が使用するために設計された,段階的に表現力が増す三つの下位言語を提供する。
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OWL Liteは,主に分類階層及び簡単な制約を必要とする利用者を支援する。例えば,OWL Liteは,メンバ数の制約をサポートする一方で,メンバ数の値は0又は1しか認めない。OWL Liteに対するツール支援は,より表現力のある他の言語サブセットよりも簡単になる。OWL Liteは,シソーラス及び他のタクソノミに対して迅速な移行手順を提供する。同様に,OWL Liteは,OWL DLほど形式的な複雑性をもたない。さらに詳細を必要とする場合は,OWL機能一覧 (TS X 7253) の8.3 (OWL Liteに関する節)を参照されたい。
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OWL DLは,計算完全性(すべての結論が計算可能であることが保証されている),及び決定可能性(すべての計算が有限時間内に終了する)を保持しつつ,最大の表現力を要求する利用者をサポートする。OWL DLにはOWL言語のすべての構成要素が含まれるが,その使用には一定の制限がある。例えば,あるクラスは複数のクラスの下位クラスであってもよいが,他のクラスのインスタンスにはなり得ない。OWL DLは,記述論理というOWLの形式的な基礎を形成する論理を研究する研究分野との対応から,このように名前付けされている。
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OWL Fullは,最大の表現力及び計算上の保証を伴わないRDFの構文の自由を要求する利用者を対象とする。例えば,OWL Fullでは,一つのクラスを個体の集まりとして扱うと同時に
,それ自体を一つの個体として扱うことができる。OWL Fullによって,オントロジは,定義済みのRDF又はOWLの語い(彙)の意味を増強することが可能となる。どのような推論ソフトウェアであっても,OWL Fullのすべての機能に対する完全な推論をサポートできるというわけではない。
これらの各下位言語は,何を正当に表現できるかという点においても,何を妥当に結論付けできるかという点においても,その一つ前のより単純な下位言語を拡張したものになっている。次の一連の関係は成立するが,その逆は成立しない。
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すべての正当なOWL Liteオントロジは,正当なOWL DLオントロジである。
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すべての正当なOWL DLオントロジは,正当なOWL Fullオントロジである。
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すべての妥当なOWL Liteの結論は,妥当なOWL DLの結論である。
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すべての妥当なOWL DLの結論は,妥当なOWL Fullの結論である。
OWLを採用するオントロジ開発者は,どの下位言語が自分の要求事項に最も合うかを考慮することが望ましい。OWL Liteを選択するかOWL DLを選択するかは,利用者が,OWL DLが提供するOWL Liteより表現力のある構成要素をどの程度必要としているかによる。OWL DLを選択するかOWL Fullを選択するかは,主に,利用者が,クラスの中のクラスを定義したり,クラスに特性を追加するなどのRDFスキーマのメタモデル化機能を
どの程度必要としているかによる。OWL Fullを使用する場合,OWL Fullの完全実装が現在は存在しないため,OWL DLと比較して,推論サポートの予測は難しい。
OWL Fullは,RDFの拡張と考えることができる。一方,OWL Lite及びOWL DLは,RDFの制限された部分の拡張と考えることができる。OWL Lite,OWL DL,OWL FullのすべてのOWL文書はRDF文書であり,すべてのRDF文書はOWL Full文書であるが,正当なOWL Lite又はOWL DL文書となるのは一部のRDF文書だけとする。このため,利用者がRDF文書をOWLに移行したい場合には,多少注意する必要がある。OWL DL又はOWL Liteの表現力が適切であるとみなされる場合は,元のRDF文書がOWL DL及びOWL Liteが強制する追加制約に
確実に従っていることに事前に注意を払う必要がある。特に,クラス名として使用されるすべてのURI (Uniform Resource Identifier, 統一資源識別子)は,owl:Classであることを明示的に表明されなければならず,すべての個体は,たとえowl:Thingだけであっても,少なくとも一つのクラスに属することを表明されなければならない。これは,特性に対しても同様とする。クラス,特性及び個体に使用されたURIは,互いに素でなければならない。これらの詳細並びにOWL及びOWL Liteに関する他の制約の詳細については,OWL 機能一覧の附属書Eの説明を参照されたい。
1.4 この規定の構成
この規定は,最初に,OWL Liteの機能を記述し,その後,OWL DL及びOWL Fullで追加された機能を記述している。OWL DL及びOWL Fullは同じ機能を含むが,OWL Fullは,これらの機能の組合せ方についてOWL DLより自由とする。
2. 言語概要
この2.では,OWL Lite,OWL DL,及びOWL Fullのすべての言語機能に対する簡単な索引を提供する。
この規定では,イタリック体の用語は,OWL言語の用語とする。用語が既にRDF又はRDFスキーマに存在する場合には,rdf:又はrdfs:の接頭辞が使用される。それ以外の場合,用語はOWLによって導入されたものとする。したがって,用語rdfs:subPropertyOfは,subPropertyOfが既にrdfsの語い(彙),技術的にはrdfs名前空間に既に存在していることを示す。同様に,用語Classは,より正確にはowl:Classと記述され,OWLによって導入された用語とする。
2.1 OWL Liteの概要
OWL Lite言語の構成要素の一覧を次に示す。
RDFスキーマ機能
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同等性及び非同等性
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特性の特徴
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特性の制限
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制限されたメンバ数
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ヘッダ情報
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クラスの積集合
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版管理
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注記特性
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データ型
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2.2 OWL DL 及びOWL Fullの概要
OWL Liteの構成要素に追加又は拡張するOWL DL言語及びOWL Full言語の構成要素の一覧を次に示す。
クラス公理
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クラス表現のブール結合
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任意のメンバ数
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(スロットの)値情報
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3. OWL Liteの言語記述
この3.では,OWL Lite言語機能の非形式的な記述を提供する。これらの機能の固有構文の議論は,行わない。定義については OWL 機能一覧を参照されたい。各言語機能は,より多くの例及び使用に際しての手引を提供するために,OWL 手引の適所にHTML版ではハイパリンクされている。
OWL Liteが使用するのは,OWL言語機能の一部にすぎず,OWL DL又はOWL Fullに比べて,機能の使用に際しての制限が多い。例えば,OWL Liteでは,クラスの定義は名前付き上位クラスに関する場合に限られており,上位クラスが任意の表現であることはない。さらに,ある種のクラス制限だけが使用できる。クラス間の等価性及びクラス間の下位クラスの関係も名前付きクラス間だけで使用でき,任意のクラス表現間では使用できない。同様に,OWL Liteにおける制限は,名前付きクラスだけを使用する。OWL Liteではメンバ数の概念にも制限がある。すなわち,明示的に記述できるメンバ数は,0又は1だけとする。
3.1 OWL LiteにおけるRDF スキーマ機能
RDFスキーマに関連するOWL Lite機能を次に示す。
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Class: クラスは,個体が幾つかの特性を共有するので,互いに属するような個体のグループを定義する。例えば,Deborah (デボラ)もFrank (フランク)もクラスPerson (人)のメンバとする。subClassOfを使用して,クラスを特殊化階層の中に構成することができる。Thingと名前付けされた組込みの最も一般的なクラスが存在する。これは,すべての個体のクラスであり,すべてのOWLクラスの上位クラスとする。Nothingと名前付けされた組込みの最も特殊なクラスも存在する。これは,インスタンスをもたないクラスであり,すべてのOWLクラスの下位クラスとする。
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rdfs:subClassOf: クラスが別のクラスの下位クラスであるという言明を
一つ以上行うことによって,クラス階層を生成することができる。例えば,クラスPerson (人)は,クラスMammal (哺乳類)の下位クラスであると表明することができる。このことから,推論機構は,個体がPerson (人)である場合,それは同時にMammal (哺乳類)であると推論することができる。
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rdf:Property: 特性を使用して,個体間,又は
個体からデータ値への関係を表明することができる。特性の例には,hasChild, hasRelative, hasSibling, 及びhasAgeが含まれる。最初の三つを使用すれば,クラスPerson (人)のインスタンスをクラスPerson (人)の別のインスタンスに関連付けることができる。したがって,これは,ObjectPropertyの実現値となる。最後のhasAgeを使用すれば,クラスPerson (人)のインスタンスをデータ型Integer (整数)のインスタンスに関連付けすることができる。したがって,これは,DatatypePropertyの実現値となる。owl:ObjectPropertyもowl:DatatypePropertyも,RDFのクラスrdf:Propertyの下位クラスとする。
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rdfs:subPropertyOf: 特性階層は,特性が一つ以上の他の特性の下位特性であることを
一つ以上言明することによって生成することができる。例えば,hasSiblingは,hasRelativeの下位特性であると表明することができる。このことから,推論機構は,ある個体がhasSibling特性によって別の個体に関連付けされている場合に,その個体がhasRelative特性によってももう一方の個体に関連付けされていると
推論することができる。
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rdfs:domain: 特性の領域は,特性を適用できる個体を制限する。特性が個体を別の個体に関連付け,その特性がその領域の一つとしてクラスをもつ場合,個体はそのクラスに属さなければならない。例えば,特性hasChildはMammal (哺乳類)の領域をもつと表明することができる。このことから,推論機構は,Frank (フランク)がAnna (アンナ)とhasChild (子をもつ)という特性で関連をもつ場合,Frank (フランク)はMammal (哺乳類)でなければならないと推論することができる。制限は特性において表明され,特性が特定クラスと関係する場合だけにおいて表明されるわけではないため,rdfs:domainは大域的な制限と呼ばれる点に注意。特性制限に関する詳細な情報は,3.4を参照。
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rdfs:range: 特性の値域は,特性がその値としてもつ個体を制限する。特性が個体を別の個体に関連付け,その特性がその値域としてクラスをもつ場合,関連付けられた他方の個体はその値域クラスに属さなければならない。例えば,特性hasChildが,Mammal (哺乳類)の値域をもつことを表明することができる。このことから,推論機構は,Louise (ルイ−ズ)がhasChild特性によってDeborah (デボラ)と関連付けされる場合,すなわち,Deborah (デボラ)がLouise (ルイ−ズ)の子である場合,Deborah (デボラ)はMammal (哺乳類)であると推論することができる。値域も上の領域と同様に大域的な制限とする。AllValuesFromなどの局所制限に関する詳細な情報については,3.4を参照されたい。
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Individual: 個体はクラスのインスタンスであり,特性を使用して,一つの個体を別の個体に関連付けることができる。例えば,Deborah (デボラ)と名前付けされた個体は
クラスPerson (人)のインスタンスとして記述することもでき,特性hasEmployerを使用して,個体Deborah (デボラ)を個体StanfordUniversity (スタンフォード大学)に関連付けることもできる。
3.2 OWL Liteにおける同等性及び非同等性
同等性又は非同等性に関連するOWL Liteの機能を次に示す。
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equivalentClass: 二つのクラスが等価であると表明することができる。等価なクラスは,同じインスタンスをもつ。同義のクラスを生成するために,同等性を使用することができる。例えば,Car (車)は,Automobile (自動車)とequivalentClass (等価クラス)であると表明することができる。このことから,推論機構は,Car (車)のインスタンスである個体はいずれもAutomobile (自動車)のインスタンスであり,逆もまた可能であると推論することができる。
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equivalentProperty: 二つの特性が等価であると表明することができる。等価な特性は,一つの個体を他の個体の同じ集合に関連付ける。同等性を使用して,同義の特性を生成することができる。例えば,hasLeaderは,hasHeadとequivalentProperty (等価特性)であることを表明することができる。このことから,推論機構は,Xが特性hasLeaderによってYと関連付けられる場合,Xは特性hasHeadによってもYと関連付けられ,その逆も可能であると推論することができる。推論機構は,hasLeaderがhasHeadの下位特性であり,hasHeadがhasLeaderの下位特性であることも推論することができる。
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sameAs: 二つの個体が同じであると表明することができる。これらの構成要素を使用して,同じ個体を表す異なる名前を複数生成することができる。例えば,個体Deborah (デボラ)はDeborahMcGuinness (デボラ・マクギネス)と同じ個体であると表明することができる。
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differentFrom: 個体は他の個体と異なると表明することができる。例えば,個体Frank (フランク)は,個体Deborah (デボラ)及び個体Jim (ジム)とは異なると表明することができる。このとき,個体Frank (フランク)及び個体Deborah (デボラ)がともに
関数型であると表明された特性の値である場合,関数型の特性値の数は1以下であるため,矛盾が生じる。個体が異なると明示的に表明することは,個体がただ一つの名前をもつことを前提としないOWL,RDFなどの言語を使用する場合には重要である。例えば,追加情報がなければ,推論機構は,Frank (フランク)及びDeborah (デボラ)が別の個体を表すとは
推論しないことになる。
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AllDifferent: 一つのAllDifferent文によって,複数の個体が互いに異なると表明することができる。例えば,AllDifferent構成要素を使用して,Frank (フランク),Deborah (デボラ)及びJim (ジム)は,互いに異なると表明することができる。上述のdifferntFrom文とは異なり,これは,単にFrank (フランク)がDeborah (デボラ)とは別物であり,Frank (フランク)はJim (ジム)とは別物であるというだけではなく,Jim (ジム)及びDeborah (デボラ)が別物であることまで表明する。AllDifferent構成要素は,異なるオブジェクトの集合が存在する場合,及びモデル製作者が,それらのオブジェクトの集合内での
一意名の仮定の強化に関心がある場合には,特に有用とする。distinctMembersとともにこれを使用することによって,リストのすべてのメンバが異なり,どの対をとっても互いに素であることを表明する。
3.3 OWL Liteにおける特性の特徴
OWL Liteには特別な識別子が存在し,特性及び特性値に関連する情報を提供するために使用される。ObjectProperty とDatatypePropertyとの相違については,3.1の特性記述を参照されたい。
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inverseOf: ある特性が別の特性の逆であると表明することができる。特性P1が特性P2の逆であると表明される場合,Xが特性P2によってYと関連付けされれば,Yは特性P1によってXに関連付けされる。例えば,hasChildがhasParentの逆であり,Deborah (デボラ)がLouise (ルイ−ズ)及びhasParent (親をもつ)によって関連付けられている場合,推論機構は,Louise (ルイ−ズ)がDeborah (デボラ)及びhasChild (子をもつ)によって関連付けられると推論することができる。
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TransitiveProperty: 特性が推移的であると表明することができる。特性が推移的である場合,対(x,y)が推移的特性Pのインスタンスであり,対(y,z)がPのインスタンスであれば,対(x,z)もPのインスタンスとする。例えば,先祖が推移的であると表明され,Sara (サラ)がLouise (ルイ−ズ)の先祖(すなわち,(Sara,Louise)が特性先祖のインスタンス)であり,Louise (ルイ−ズ)がDeborah (デボラ)の先祖(すなわち,(Louise,Deborah)が特性先祖のインスタンス)であれば,推論機構は,Sara (サラ)はDeborah (デボラ)の先祖(すなわち,(Sara,Deborah)が特性先祖のインスタンス)であると推論することができる。
OWL Lite及びOWL DLには,推移的特性及びその上位特性は,maxCardinalityを1に制約することができないという
副条件が課されている。この副条件がなければ,OWL Lite及びOWL DLは,決定不能な言語となる。詳細については,OWL 意味論及び抽象構文規定の特性公理の節を参照されたい。
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SymmetricProperty: 特性は対称的であると表明することができる。特性が対称的であり,対(x,y)が対称的特性Pのインスタンスである場合,対(y,x)もPのインスタンスとする。例えば,友人は対称的特性であると表明することができる。推論機構は,Frank (フランク)がDeborah (デボラ)の友人であるという条件を与えられた場合,Deborah (デボラ)がFrank (フランク)の友人であると推論することができる。
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FunctionalProperty: 特性は関数的である,すなわち一意な値をもつと表明することができる。特性がFunctionalPropertyであれば,各個体に対して値は一つ以下しかなく,ある個体に対して値がない場合もある。この特徴は,一意の特性として,表現されてきた。FunctionalPropertyは,特性の最小のメンバ数が0であり,最大のメンバ数が1であることを表明するための省略表現とする。例えば,hasPrimaryEmployerがFunctionalPropertyであると表明することができる。このことから,推論機構は,いかなる個体にも二つ以上の主雇用者は存在しないと推論することができる。しかし,これは,すべてのPerson (人)に
少なくとも一つの主雇用者が存在しなければならないということを意味しない。
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InverseFunctionalProperty: 特性は逆関数的であると表明することができる。特性が逆関数的である場合,その特性の逆は関数的とする。したがって,その特性の逆がもつ値は,一つ以下とする。この特徴は,あいまいでない特性とも呼ばれてきた。例えば,hasUSSocialSecurityNumber (米国社会保障番号(米国住民の一意な識別子)をもつ)は,逆関数的又はあいまい性をもたないと表明することができる。この特性の逆は
isTheSocialSecurityNumberFor (の社会保障番号である)として表現することができるが,これがもつ値は,社会保障番号というクラスの中では,どの個体についても一つしかない。したがって,ある人の社会保障番号は,どれもそのisTheSocialSecurityNumberFor特性の値だけとする。このことから,推論機構は,Person (人)の異なる二つの個体のインスタンスは,同一の米国社会保障番号をもたないと推論することができる。同様に,推論機構は,Person (人)の二つのインスタンスが同じ社会保障番号をもつ場合,それらの二つのインスタンスは同一の個体を示すと推論することができる。
3.4 OWL Liteにおける特性の制限
OWL Liteによって,クラスのインスタンスがどのように特性を使用できるかについて,制限を加えることができる。これらの型及び3.5に示すメンバ数の制限は,owl:Restrictionの文脈内で使用される。owl:onProperty要素は,制限される特性を示す。次の二つの制限は,どの値を使用できるかを制限する。一方,3.5の制限はどのくらい多くの値を使用できるかを制限する。
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allValuesFrom: 制限allValuesFromは,クラスに関する特性について表明される。すなわち,この特定のクラスに関するこの特性には,それに関連する局所的な値域の制限が存在する。したがって,クラスのインスタンスが特性によって2番目の個体(インスタンス)に関連付けされている場合,その2番目の個体は,局所的な値域の制限クラスのインスタンスであると推論することができる。例えば,クラスPerson (人)は,クラスWoman (女性)のallValuesFromをもつように制限されたhasDaugther (娘をもつ)と呼ばれる特性をもつことができる。すなわち,個体の人であるLouise (ルイ−ズ)が,特性hasDaughterによって個体Deborah (デボラ)に関連付けされる場合,このことから,推論機構は,Deborah (デボラ)がクラスWoman (女性)のインスタンスであると推論することができる。この制限によって,特性hasDaughterを,クラスCat (猫)などの他のクラスとともに使用することができ,そのクラスの特性の使用に関連付けられた適正な値に制限することができる。この場合,hasDaughterは,クラスCatと関連する際には,局所的な値域のCat (猫)に制限され,クラスPerson (人)と関連する際には,局所的な値域のPerson (人)に制限されることになる。推論機構は,allValuesFrom制約だけからは,実際にその特性について少なくとも一つ値があると
推論することはできない点に注意されたい。
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someValuesFrom: 制限someValuesFromは
,クラスに関する特性について表明される。ある特定のクラスに対して,その特性の少なくとも一つの値が特定の型に属しているという
特性についての制限を与えることができる。例えば,クラスSemanticWebPaper (セマンティクウェブ報告書)には,hasKeyword特性に関してsomeValuesFrom制限をもたせることができる。この場合,hasKeyword特性は,hasKeyword特性のある値が
クラスSemanticWebTopic (セマンティクウェブトピック)のインスタンスで
あることが望ましいことを表明する。この場合,複数のキーワードをもつという選択が可能であり,一つ以上が
クラスSemanticWebTopic (セマンティクウェブトピック)のインスタンスである限り,報告書はsomeValuesFrom制限に矛盾しないことになる。allValuesFromとは異なり,someValuesFromは特性のすべての値を
同じクラスのインスタンスであると制限することはない。myPaper (自分の報告書)が
SemanticWebPaper (セマンティクウェブ報告書)クラスのインスタンスである場合,myPaper (自分の報告書)は,hasKeyword特性によって,少なくとも一つのSemanticWebTopic (セマンティクウェブトピック)クラスの
インスタンスに関連付けされている。allValuesFrom制限の場合のように,推論機構は,hasKeywordのすべての値が
SemanticWebTopic (セマンティクウェブトピック)クラスのインスタンスであると
推論することはできない点に注意されたい。
3.5 OWL Liteにおける制限されたメンバ数
OWL Liteには,メンバ数の制限について,限定された形式が存在する。OWL及びOWL Liteのメンバ数の制限は,局所制限と呼ばれる。これは,これらの制限が特定クラスに関連した特性に関して表明されることによる。すなわち,この制限は,そのクラスのインスタンスについて,その特性のメンバ数を制約する。OWL Liteのメンバ数制限は,限定されている。それは,OWL DL及びOWL Fullのようにメンバ数に関して任意の値をとることはできず,メンバ数については0又は1の値しか言明できないことによる。
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minCardinality: メンバ数は,特定クラスに関する特性について表明される。あるクラスに関する特性についてminCardinalityが1であると表明された場合,そのクラスのすべてのインスタンスは,その特性によって,少なくとも一つの個体に関連付けされることになる。この制限は,その特性が,そのクラスのすべてのインスタンスに対して値をもつことを要求されるということを表す。例えば,クラスPerson (人)は,すべての人が子孫をもつわけではないため,hasOffspring特性に関して表明される最小のメンバ数については
何の制限もない。しかし,クラスParent (親)は,hasOffspring特性について
最小のメンバ数1をもつことになる。Louise (ルイ−ズ)がPerson (人)である場合,彼女のhasOffspring特性の最小メンバ数について,推論機構は何の結論も導き出すことはできない。いったん,Louise (ルイ−ズ)がParent (親)のインスタンスであることが発見されれば,推論機構は,Louise (ルイ−ズ)がhasOffspring特性によって少なくとも一つの個体に関連付けされていると推論することができる。この情報だけからは,推論機構は,クラスParent (親)の個体インスタンスに対する子孫の最大数については
何も推論することはできない。OWL Liteで使用できる最小メンバ数は,0又は1に限られている。特性に0の最小メンバ数が割り当てられた場合,もっと固有の情報がなければ,その特性がクラスに関して任意であることを表明するにすぎない。例えば,特性hasOffspringは,クラスPerson (人)の最小メンバ数を0とすることができる。一方,クラスParent (親)については,最小メンバ数が1であるという,もっと固有な情報の存在を表明している。
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maxCardinality: メンバ数は,特定のクラスに関する特性について表明される。あるクラスに関して
maxCardinalityが1であることを表明した場合,そのクラスのどのインスタンスも,その特性によって,一つ以下の個体に関連付けされることになる。maxCardinalityが1であるという制限を
関数の特性又は一意の特性と呼ぶことができる。例えば,クラスUnitedStateCitizens (アメリカ国民)に関する特性hasRegisteredVotingStateは,国民の投票権が一つの州に限られているため,最大メンバ数を1とすることができる。このことから,推論機構は,クラスUSCitizens (アメリカ国民)の個体インスタンスは,hasRegisteredVotingState特性を通じて,二つ以上の異なる個体に関連付けされていないと推論することができる。最大メンバ数を1とするという制限だけでは,推論機構は,最小メンバ数が1であると推論することはできない。特定の特性に対する値が存在しない特定のクラスがあることを表明することは有用とする。例えば,クラスUnmarriedPerson (未婚者)のインスタンスは,特性hasSpouseによって,どの個体にも関連付けられることは望ましくない。この状況は,クラスUnmarriedPerson (未婚者)のhasSpouse特性に
最大メンバ数0を割り当てることによって,表現される。
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cardinality: あるクラスの特性が,minCardinality0及びmaxCardinality0の両方をもつか,minCardinality1及びmaxCardinality1の両方をもつと表明するのが有用である場合は,cardinalityは簡便形として提供される。例えば,クラスPerson (人)は,特性hasBirthMotherに対して厳密に値を一つだけもっている。このことから,推論機構は,クラスMother (母親)の二つの異なる個体インスタンスが,同一人物に関するhasBirthMother特性の値ではないと推論することができる。
参考 これらのメンバ数の制限形式の代替となる名前付けが議論された。この規定(TS X 7251:2005) は,フロントエンドシステムにそのような名前をすべて含むことになっている。この項目についての詳細は,入手可能なウェブオントロジの公開メールアーカイブで入手できる。最も関連するメッセージはhttp://lists.w3.org/Archives/Public/www-webont-wg/2002Oct/0063.htmlである。
3.6 OWL Liteにおけるクラスの積集合
OWL Liteには,積集合の構成要素が含まれるが,その使用は制限されている。
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intersectionOf: OWL Liteでは,名前付きクラス及び制限の積集合を使用することができる。例えば,クラスEmployedPerson (被雇用者)は,Person (人)及びEmployedThings (被雇用物)のintersectionOf (積集合)として記述することができる。EmployedThings (被雇用物)は,hasEmployer特性の最小メンバ数が1であるものとして定義できる。このことから,推論機構は,特定のEmployedPerson (被雇用者)はいずれも,少なくとも一人の雇用主をもつということを推論することができる。
3.7 OWL データ型
OWLは,データ値に対してRDFの機構を使用する。OWL手引(TS X 7252)の3.2.2を参照されたい。XMLスキーマのデータ型から大部分を採り入れた組込みのOWLデータ型について,より詳細な記述を入手することができる。
3.8 OWL Liteにおけるヘッダ情報
OWL Liteは,オントロジの包含及び関係並びにオントロジへの付加情報という概念をサポートする。詳細については,OWL 機能一覧(TS X 7253)を,例については,OWL 手引(TS X 7252)を参照されたい。
3.9 OWL Liteにおける注記特性
OWL Liteでは,クラス,特性,個体及びオントロジヘッダについて
注記を使用することができる。これらの注記の使用には,一定の制限がある。詳細については,OWL 機能一覧(TS X 7253)の7.1を参照されたい。
3.10 OWL Liteにおける版管理
RDFには,版管理情報の記述について,小規模な語い(彙)が既に存在する。OWLは,この語い(彙)を大きく拡張する。詳細については,OWL 機能一覧(TS X 7253)を参照されたい。
4. OWL DL及びOWL Fullの段階的な言語記述
OWL DLは,幾つかの制限を受けるが,OWL DL及びOWL Fullは,同じ語い(彙)を使用する。概ね,OWL DLは,型分離を要求する。クラスが個体又は特性でもあることはなく,特性が個体又はクラスでもあることはない。これは,制限をOWL自体の言語要素,すなわちOWL FULLで利用可能なものに適用できないことを意味する。さらに,OWL DLは,特性がObjectProperties又はDatatypePropertiesのいずれかであることを要求する。DatatypePropertiesは
クラスのインスタンスとRDFリテラル及びXMLスキーマのデータ型との間の関係であり,ObjectPropertiesは二つのクラスのインスタンス間の関係とする。OWL 意味論及び抽象構文(TS X 7254)は,相違及び制限を規定する。次に,OWL Liteの構成を拡張するOWL DL及びOWL Fullの語い(彙)を記述する。
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oneOf: (列挙クラス): そのクラスを形成する個体を列挙することによって,クラスを記述することができる。クラスのメンバは,正確に,列挙された個体の集合にほかならない。例えば,daysOfTheWeek (曜日)のクラスは,個体である日曜日,月曜日,火曜日,水曜日,木曜日,金曜日,土曜日を
単に列挙することによって,記述される。このことから,推論機構は,daysOfTheWeek (曜日)をそのallValuesFrom制限としてもつすべての特性の
最大メンバ数(この場合は7)を推論することができる。
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hasValue: (特性値): 特性に,ある個体を値としてもつことを要求することができる。これは特性値とも呼ばれる。例えば,dutchCitizens (オランダ国民)のクラスのインスタンスは,その国籍の値として,theNetherlands (オランダ)をもつ人々として特徴付けられる。この場合,国籍の値であるtheNetherlands (オランダ)は,Nationalities (国籍)クラスのインスタンスとする。
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disjointWith: クラスは,互いに素であると表明することができる。例えば,Man (男性)とWoman (女性)とが互いに素なクラスであると表明することができる。このdisjointWith文から,推論機構は,個体が両方のインスタンスであると表明された場合には
矛盾であると推論することができ,同様に,推論機構は,AがMan (男性)のインスタンスである場合は,AはWoman (女性)のインスタンスではないと推論することができる。
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unionOf, complementOf, intersectionOf (ブール結合): OWL DL及びOWL Fullでは,クラス及び制限の任意のブール結合を使用することができる。すなわち,unionOf, complementOf及びintersectionOfが,これに該当する。例えば,unionOfを使用すると,あるクラスがUSCitizens (アメリカ国民)又はDutchCitizens (オランダ国民)のいずれかであるものを含むことを表明することができる。complementOfを使用すると,
子供がSeniorCitizens (高齢者)ではないことを表明することができる。すなわち,クラスChildren (子供)は,SeniorCitizens (高齢者)の補集合の下位クラスとする。欧州連合の市民は,メンバであるすべての加盟国の市民の和集合であると記述することができる。
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minCardinality, maxCardinality,
cardinality (完全なメンバ数):
OWL Liteでは,メンバ数が少なくても,多くても,ちょうどでも,1又は0に制限されているが,完全なOWLでは,任意の非負整数に対してメンバ数の言明ができる。例えば,DINKs (“二倍収入で子供なし”)のクラスは,特性hasIncomeのメンバ数を最小メンバ数2に制限するが,一方,特性hasChildはメンバ数を0に制限しなければならない。
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complex classes: 多くの構成要素において,OWL Liteは,構文を単一のクラス名に制限する。例えば,これは,subClassOf文又はequivalentClass文で見受けられる。OWL Fullは,この制限を拡張し,任意の複雑なクラスの記述,列挙クラスの構成,特性制限及びブール結合を可能にする。同様に,OWL Fullでは,クラスをインスタンスとして使用することができるが,OWL DL及びOWL Liteではできない。この詳細については,OWL 手引(TS X 7252)の3.1.3を参照されたい。
この規定は,ウェブオントロジ言語の必要性及びW3C言語との関係におけるOWLの適合性について,簡単な導入を提供することによって,ウェブオントロジ言語の概要を記述している。さらに,三つのOWL下位言語,すなわち,OWL Lite,OWL DL及びOWL Fullについても,各言語に関する機能概要とともに簡単に記述している。この規定は,機能概要規定の更新版であり,簡単な例とともに構成要素についても簡単に説明している。詳細については,OWL 機能一覧(TS X 7253),OWL 手引(TS X 7252),及びOWL 意味論及び抽象構文(TS X 7254)を参照されたい。原規定の以前の版(
2003年12月15日,2003年9月5日,2003年8月18日,2003年7月30日,2003年5月1日,2003年3月20日,2003年1月2日,2002年7月29日,2002年7月8日,2002年6月23日,2002年5月26日及び2002年5月15日)は,OWL Liteの進化の継時的過程及びその過程において議論された課題を提供している。