標準仕様書(TS)   TS X 7251:2006

OWL ウェブオントロジ言語 — 概要

OWL Web Ontology Language — Overview



序文

この標準仕様書(TS)は,2004年2月にWorld Wide Web Consortium (W3C)から公表されたWeb Ontology Language, Overviewを翻訳し,技術的内容を変更することなく作成した標準 仕様書(TS)である。

0. 適用範囲

OWLウェブオントロジ言語は,単に人に情報を提示するのではなく,情報の内容を処理する必要のあるアプリケーションが利用するために設計されている。OWLは,形式意味論をもつ付加的な語い(彙)を提供することによって,XML,RDF,及びRDFスキーマ(RDF-S)がサポートするよりも,ウェブコンテンツの計算機による解釈能力を容易に実現する。OWLには,三つの段階的に表現力が増す下位言語,すなわち,OWL Lite,OWL DL及びOWL Fullが存在する。

この標準仕様書(TS)は,OWL Liteの言語記述を規定し,OWL DL及びOWL Fullの段階的な言語記述を規定する。

この標準仕様書(TS)は,OWLでできることについて第一印象を得たいと考える読者を対象とする。ここに平易に示されるOWLの各下位言語の特徴は,OWLへの導入となる。RDF スキーマに関する知識があれば,この規定の理解に役立つが,必す(須)ではない。興味をもった読者は,この規定の後に,OWL 手引を参照することによって,OWLの機能に関してより詳細な記述及び多くの例を得ることができる。OWLの規定の形式定義については,OWL 意味論及び抽象構文を参照されたい。

1. 導入

この標準仕様書 (TS) では,OWLウェブオントロジ言語について記述する。OWLは,その内容を単に人に提示すればよいという状況とは対照的に,アプリケーションが文書に含まれる情報を処理する必要がある場合に使用されることを意図している。OWLの使用によって,語い(彙)中の用語の意味及びそれらの用語間の関係を明示的に表現することが可能となる。この用語及びそれらの相互関係の表現をオントロジと呼ぶ。XML,RDF及びRDF-Sと比較すると,OWLには意味及び意味論を表現するための機能がより多く存在し,そのため,OWLは,ウェブ上で計算機が解釈可能な内容を表現する能力において,これらの言語より優れている。OWLは,DAML+OIL ウェブオントロジ言語を改訂したものであり,DAML+OILの設計及びアプリケーションから学んだ教訓を取り入れている。

1.1 規定一覧

OWL言語は,次の標準仕様書 (TS) 及び文書群によって規定される。この群は,それぞれが異なる目的を果たし,異なる対象者の要求を満たす。この規定を閲覧するための簡単な規定一覧を次に示す。

四つの標準仕様書 (TS) は,列挙された順に技術内容が高度になっていくため,この順序で読むことを勧める。残りの2つの文書によって文書群が揃うことになる。

1.2 OWLの必要性

セマンティクウェブは,ウェブの一つの将来像である。これは,情報に明示的な意味を与え,ウェブ上に公開されている情報を計算機が自動的に処理し,統合することをより容易にする。 セマンティクウェブは,XMLの能力に基づいて,カスタマイズされたタグ付け方式を定義し,データ表現のためのRDFの柔軟なアプローチをを定義する。セマンティクウェブにおいてRDFを越える最初のレベルでは,ウェブ文書で使用される用語の意味を形式的に記述することができるオントロジ言語が必要とされる。計算機によって推論が行われることが期待される場合,この言語はRDFスキーマの基本的な意味論を凌ぐものでなければならない。OWL 利用事例及び要件の文書は,より多くのオントロジの詳細情報を提供し,六つの利用事例の観点から,ウェブオントロジ言語の必要性を動機付けし,OWLの設計目標要件及び目的を明確に記述する。

OWLは,ウェブオントロジ言語のこの必要性を満たすために設計されてきた。OWLは,増加しつつあるセマンティクウェブ関連のW3C勧告の一部とする。

1.3 OWLの3種類の下位言語

OWLは,特定の実装者及び利用者が使用するために設計された,段階的に表現力が増す三つの下位言語を提供する。

これらの各下位言語は,何を正当に表現できるかという点においても,何を妥当に結論付けできるかという点においても,その一つ前のより単純な下位言語を拡張したものになっている。次の一連の関係は成立するが,その逆は成立しない。

OWLを採用するオントロジ開発者は,どの下位言語が自分の要求事項に最も合うかを考慮することが望ましい。OWL Liteを選択するかOWL DLを選択するかは,利用者が,OWL DLが提供するOWL Liteより表現力のある構成要素をどの程度必要としているかによる。OWL DLを選択するかOWL Fullを選択するかは,主に,利用者が,クラスの中のクラスを定義したり,クラスに特性を追加するなどのRDFスキーマのメタモデル化機能を どの程度必要としているかによる。OWL Fullを使用する場合,OWL Fullの完全実装が現在は存在しないため,OWL DLと比較して,推論サポートの予測は難しい。

OWL Fullは,RDFの拡張と考えることができる。一方,OWL Lite及びOWL DLは,RDFの制限された部分の拡張と考えることができる。OWL Lite,OWL DL,OWL FullのすべてのOWL文書はRDF文書であり,すべてのRDF文書はOWL Full文書であるが,正当なOWL Lite又はOWL DL文書となるのは一部のRDF文書だけとする。このため,利用者がRDF文書をOWLに移行したい場合には,多少注意する必要がある。OWL DL又はOWL Liteの表現力が適切であるとみなされる場合は,元のRDF文書がOWL DL及びOWL Liteが強制する追加制約に 確実に従っていることに事前に注意を払う必要がある。特に,クラス名として使用されるすべてのURI (Uniform Resource Identifier, 統一資源識別子)は,owl:Classであることを明示的に表明されなければならず,すべての個体は,たとえowl:Thingだけであっても,少なくとも一つのクラスに属することを表明されなければならない。これは,特性に対しても同様とする。クラス,特性及び個体に使用されたURIは,互いに素でなければならない。これらの詳細並びにOWL及びOWL Liteに関する他の制約の詳細については,OWL 機能一覧の附属書Eの説明を参照されたい。

1.4 この規定の構成

この規定は,最初に,OWL Liteの機能を記述し,その後,OWL DL及びOWL Fullで追加された機能を記述している。OWL DL及びOWL Fullは同じ機能を含むが,OWL Fullは,これらの機能の組合せ方についてOWL DLより自由とする。

2. 言語概要

この2.では,OWL Lite,OWL DL,及びOWL Fullのすべての言語機能に対する簡単な索引を提供する。

この規定では,イタリック体の用語は,OWL言語の用語とする。用語が既にRDF又はRDFスキーマに存在する場合には,rdf:又はrdfs:の接頭辞が使用される。それ以外の場合,用語はOWLによって導入されたものとする。したがって,用語rdfs:subPropertyOfは,subPropertyOfが既にrdfsの語い(彙),技術的にはrdfs名前空間に既に存在していることを示す。同様に,用語Classは,より正確にはowl:Classと記述され,OWLによって導入された用語とする。

2.1 OWL Liteの概要

OWL Lite言語の構成要素の一覧を次に示す。

RDFスキーマ機能 同等性及び非同等性 特性の特徴
特性の制限 制限されたメンバ数 ヘッダ情報
クラスの積集合 版管理 注記特性
データ型

2.2 OWL DL 及びOWL Fullの概要

OWL Liteの構成要素に追加又は拡張するOWL DL言語及びOWL Full言語の構成要素の一覧を次に示す。

クラス公理 クラス表現のブール結合
任意のメンバ数 (スロットの)値情報

3. OWL Liteの言語記述

この3.では,OWL Lite言語機能の非形式的な記述を提供する。これらの機能の固有構文の議論は,行わない。定義については OWL 機能一覧を参照されたい。各言語機能は,より多くの例及び使用に際しての手引を提供するために,OWL 手引の適所にHTML版ではハイパリンクされている。

OWL Liteが使用するのは,OWL言語機能の一部にすぎず,OWL DL又はOWL Fullに比べて,機能の使用に際しての制限が多い。例えば,OWL Liteでは,クラスの定義は名前付き上位クラスに関する場合に限られており,上位クラスが任意の表現であることはない。さらに,ある種のクラス制限だけが使用できる。クラス間の等価性及びクラス間の下位クラスの関係も名前付きクラス間だけで使用でき,任意のクラス表現間では使用できない。同様に,OWL Liteにおける制限は,名前付きクラスだけを使用する。OWL Liteではメンバ数の概念にも制限がある。すなわち,明示的に記述できるメンバ数は,0又は1だけとする。

3.1 OWL LiteにおけるRDF スキーマ機能

RDFスキーマに関連するOWL Lite機能を次に示す。

3.2 OWL Liteにおける同等性及び非同等性

同等性又は非同等性に関連するOWL Liteの機能を次に示す。

3.3 OWL Liteにおける特性の特徴

OWL Liteには特別な識別子が存在し,特性及び特性値に関連する情報を提供するために使用される。ObjectProperty とDatatypePropertyとの相違については,3.1の特性記述を参照されたい。

3.4 OWL Liteにおける特性の制限

OWL Liteによって,クラスのインスタンスがどのように特性を使用できるかについて,制限を加えることができる。これらの型及び3.5に示すメンバ数の制限は,owl:Restrictionの文脈内で使用される。owl:onProperty要素は,制限される特性を示す。次の二つの制限は,どの値を使用できるかを制限する。一方,3.5の制限はどのくらい多くの値を使用できるかを制限する。

3.5 OWL Liteにおける制限されたメンバ数

OWL Liteには,メンバ数の制限について,限定された形式が存在する。OWL及びOWL Liteのメンバ数の制限は,局所制限と呼ばれる。これは,これらの制限が特定クラスに関連した特性に関して表明されることによる。すなわち,この制限は,そのクラスのインスタンスについて,その特性のメンバ数を制約する。OWL Liteのメンバ数制限は,限定されている。それは,OWL DL及びOWL Fullのようにメンバ数に関して任意の値をとることはできず,メンバ数については0又は1の値しか言明できないことによる。

参考 これらのメンバ数の制限形式の代替となる名前付けが議論された。この規定(TS X 7251:2005) は,フロントエンドシステムにそのような名前をすべて含むことになっている。この項目についての詳細は,入手可能なウェブオントロジの公開メールアーカイブで入手できる。最も関連するメッセージはhttp://lists.w3.org/Archives/Public/www-webont-wg/2002Oct/0063.htmlである。

3.6 OWL Liteにおけるクラスの積集合

OWL Liteには,積集合の構成要素が含まれるが,その使用は制限されている。

3.7 OWL データ型

OWLは,データ値に対してRDFの機構を使用する。OWL手引(TS X 7252)の3.2.2を参照されたい。XMLスキーマのデータ型から大部分を採り入れた組込みのOWLデータ型について,より詳細な記述を入手することができる。

3.8 OWL Liteにおけるヘッダ情報

OWL Liteは,オントロジの包含及び関係並びにオントロジへの付加情報という概念をサポートする。詳細については,OWL 機能一覧(TS X 7253)を,例については,OWL 手引(TS X 7252)を参照されたい。

3.9 OWL Liteにおける注記特性

OWL Liteでは,クラス,特性,個体及びオントロジヘッダについて 注記を使用することができる。これらの注記の使用には,一定の制限がある。詳細については,OWL 機能一覧(TS X 7253)の7.1を参照されたい。

3.10 OWL Liteにおける版管理

RDFには,版管理情報の記述について,小規模な語い(彙)が既に存在する。OWLは,この語い(彙)を大きく拡張する。詳細については,OWL 機能一覧(TS X 7253)を参照されたい。

4. OWL DL及びOWL Fullの段階的な言語記述

OWL DLは,幾つかの制限を受けるが,OWL DL及びOWL Fullは,同じ語い(彙)を使用する。概ね,OWL DLは,型分離を要求する。クラスが個体又は特性でもあることはなく,特性が個体又はクラスでもあることはない。これは,制限をOWL自体の言語要素,すなわちOWL FULLで利用可能なものに適用できないことを意味する。さらに,OWL DLは,特性がObjectProperties又はDatatypePropertiesのいずれかであることを要求する。DatatypePropertiesは クラスのインスタンスとRDFリテラル及びXMLスキーマのデータ型との間の関係であり,ObjectPropertiesは二つのクラスのインスタンス間の関係とする。OWL 意味論及び抽象構文(TS X 7254)は,相違及び制限を規定する。次に,OWL Liteの構成を拡張するOWL DL及びOWL Fullの語い(彙)を記述する。

5. まとめ

この規定は,ウェブオントロジ言語の必要性及びW3C言語との関係におけるOWLの適合性について,簡単な導入を提供することによって,ウェブオントロジ言語の概要を記述している。さらに,三つのOWL下位言語,すなわち,OWL Lite,OWL DL及びOWL Fullについても,各言語に関する機能概要とともに簡単に記述している。この規定は,機能概要規定の更新版であり,簡単な例とともに構成要素についても簡単に説明している。詳細については,OWL 機能一覧(TS X 7253),OWL 手引(TS X 7252),及びOWL 意味論及び抽象構文(TS X 7254)を参照されたい。原規定の以前の版( 2003年12月15日2003年9月5日2003年8月18日2003年7月30日2003年5月1日2003年3月20日2003年1月2日2002年7月29日2002年7月8日2002年6月23日2002年5月26日及び2002年5月15日)は,OWL Liteの進化の継時的過程及びその過程において議論された課題を提供している。