この解説は,本体及び附属書に規定・記載した事柄,並びにこれらに関連した事柄を説明するもので,標準仕様書(TS)の一部ではない。
W3C(World Wide Web Consortium)がウェブ環境で意味的な処理を実現するために提案したセマンティクウェブの体系の中で,メタデータ及びその枠組みの上位に位置付けられる機能としてウェブオントロジが示され,それを記述する言語としてOWL Web Ontology Languageが開発された。ウェブ上での使用を前提とし,分散指向に基づくこのウェブオントロジ言語の基本構成要素は,クラス,特性及び個体であり,この言語で書かれたOWL文書においては,クラス,特性及び個体に関する記述がなされる。
参考 哲学ではオントロジは存在論と訳されることが多いが,ここではオントロジと片仮名表記する。
OWLの規定は,2004年2月にW3C勧告として公表され,各国の言語に翻訳されると共に,その処理系も開発されて公開されると共に,既に幾つものOWL文書が公開されている。
IEC(国際電気標準会議)には,その将来活動の指針を検討する委員会としてPresident's Advisory Committee on Future Technology (PACT)が設けられ,2000年に報告書(PACT report)[1]を提出した。PACT reportは,IECが扱うマルチメディア機器のヒューマンインタフェースの基本概念を示し,そみでのオントロジ技術の標準化の必要性を強調している。
このようなオントロジ技術への関心の高まり及びその応用の広がりの中で,W3CのOWLは,標準化組織が公表した最初のオントロジ技術規定であって,その意義が評価されている。そこで国内でのOWLの利用を促進すると共に,オントロジ技術応用の普及を図るために,OWLに関するW3C勧告を翻訳し,標準仕様書(TS)として公表する。
ウェブ上での文書情報の交換を効率的に推進するためには,これらの情報を生成,流通,管理,再利用する環境を整備することが望まれ,関連技術の標準化が必要になる。この要求に応えるという経済産業省の意向を受けて,(財)日本規格協会(JSA)は,情報技術標準化研究センター(INSTAC)に将来型文書統合システム標準化調査研究委員会(AIDOS)を設置して,次の課題についての調査研究を2001年度から開始した。
この標準仕様書(TS)の原案は,AIDOS及びその作業グループ(AIDOS-WG1)の2004年度の活動の一つとして開発された。原案は,2005年3月に提出され,2006年1月に日本工業標準調査会標準部会の情報技術専門委員会での審議を受けて承認された。
このTSは,OWLの原勧告の規定内容の翻訳を標準仕様書の様式に従って表記し,日本工業標準調査会の承認のもとに公表するものであって,その記述においては,読者の理解を容易にするための配慮は必ずしも充分ではない。そこでAIDOSでは,TSの内容理解を支援するものとして,OWLおよびその処理系を利用するためのガイドブック[2]をも用意してTSの読者への便を図っている。
AIDOSは,2004年度でその活動を終了したため,原案提出の後の情報技術専門委員会への対応,解説の作成及びTSの公表・発行支援については,INSTACに設けられたユビキタス社会を推進する情報基盤の標準化調査研究委員会のユビキタス情報アクセス技術分科会(UBQ2)によって議論され実行された。
訳語選定に際しては,XMLを規定しているJIS X 4159[3]との整合を配慮した。翻訳において採用した主な訳語を解説表1に示し,今後の関連規定の作成等に際しての参考とする。
原語 | 訳語 |
---|---|
abstraction | 抽象化 |
anonymous restriction class | 匿名制限クラス |
arbitrary class expression | 任意のクラス式 |
assert | 表明する |
assertion | 表明 |
audience | 対象者 |
background ontology | 背景(となる)オントロジ |
basic building blocks of class axioms | クラス公理の基本構築ブロック |
basic buliding block | 基本構築ブロック |
binary relation | 二項関係 |
blank node | 空ノード |
boolean combinations of class descriptions | クラス記述のブール結合 |
canonical URI | 正規URI |
capability | できること |
capture | 把握する |
cardinality | メンバ数 |
category | 範ちゅう(疇) |
characteristics | 特徴 |
class membership | クラスへの帰属関係 |
CLASSIC description logic | CLASSIC記述論理 |
classification hierarchy | 分類階層 |
collection | 集まり,収集 |
compact | 簡潔(非数学的文脈) |
complete consistency checkers | 完全(な)一貫性検査器 |
compile | 整理する |
complete | 完備(数学的文脈) |
component ontology | 構成要素オントロジ |
comprehension | 包括 |
computational completeness | 計算完全性 |
computational property | 計算(の)特性 |
consequence | 結果 |
consistency test | 一貫性試験 |
consistent | 一貫性のある |
construct | 構成要素 |
content | 内容 |
conventional OWL declaration | 慣習的なOWL宣言 |
critical element | 重要な要素 |
cycle | 循環 |
cyclic subclasses | 循環下位クラス |
DAML ontology library | DAMLオントロジライブラリ |
data-modelling notations | データモデル化記法 |
decidability | 決定可能性 |
defining document | 定義文書 |
definitional capability | 定義能力 |
deprecation | 非推奨 |
derived ontology | 派生オントロジ |
description logic | 記述論理 |
Description Logic business segment | 記述論理が使われてきた分野 |
Description Logic reasoners | 記述論理推論機構 |
discourse | 議論 |
disjoint domains | 互いに素な領域 |
disjointness | 互いに素であること |
distributed environment | 分散環境 |
domain | 領域 |
enclosing element | 囲み要素 |
entail | 論理的に帰結する |
entailment | 論理的帰結 |
entailment test | 論理的帰結試験 |
equality | 同等性 |
equivalence | 等価性 |
existential quantification | 存在量化 |
existential quantifier | 存在量化子 |
expressiveness | 表現力 |
extension | 拡張 |
Feature Synopsis Document | 機能概要規定 |
filler | (スロットの)値 |
formal semantics | 形式意味論 |
formalize | 形式化する |
formulation | 公式化 |
front end system | フロントエンドシステム |
functional property | 関数特性 |
functional | 関数的な |
generalization-hierarchies | 一般化階層 |
granularity | 粒度 |
housekeeping task | お決まりの作業 |
identity | 同一性 |
idiom | イディオム |
import | 取込み |
implication | 含意 |
imported definition | 取り込まれた定義 |
imported ontology | 取り込まれたオントロジ |
include-style mechanism | 取込み方式の機構 |
inclusion | 包含 |
increasingly-expressive sublanguages | 段階的に表現力が増す下位言語 |
incremental construction | 段階的構成 |
incremental nature | 段階的な性質 |
individual | 個体 |
industry-specific e-marketplace | 業界固有の電子市場 |
inferential power of OWL | OWLの推論の強力さ |
informal | 非形式的 |
informative specification | 参考の規定 |
informative status | 参考の状態 |
inheritance hierarchy | 継承階層 |
inporting ontology | 取込みオントロジ |
intensional | 概念的な |
intersection | 積集合 |
inverse-functional property axiom | 逆関数特性公理 |
knowledge representation systems | 知識表現システム |
level of adoption | 導入レベル |
lexical representation | 字句表現 |
link | 結合 |
literal | リテラル |
local restrictions | 局所制限 |
logical conjunction | 論理積 |
logical disjunction | 論理和 |
logical negation | 論理否定 |
machine | 計算機 |
machine interpretability | 計算機による解釈能力 |
maintainer | 維持者 |
message format | メッセージ書式 |
migration path | 移行手順 |
modelling primitives of OWL | OWLのモデル化基本要素 |
model-theoretic semantics | モデル論的な意味論 |
model theory | モデル論 |
narrative description | 非形式的な記述 |
navigate | 閲覧(ウェブの) |
notion | 概念 |
normative formal definition | 規定の形式定義 |
normative OWL exchange syntax | 規定のOWL交換構文 |
null action | 空動作 |
object | 目的語(RDFの) |
observation time | 観察時間 |
observed phenomenon | 観察(される)現象 |
observed value | 観察値 |
ontology-import construct | オントロジ取込み構成要素 |
ontology-versioning construct | オントロジ版管理構成要素 |
optional human readable name | オプションの人間可読な名前 |
orphan blank nodes | 孤立空ノード |
OWL built-in vocabulary | OWL組込み語彙 |
OWL language constructs | OWL言語構成要素 |
OWL Lite expressivity limitations | OWL Liteの表現力の制限 |
OWL test suite | OWL試験スイート |
pair | 対 |
part-whole relations | 部分全体関係 |
potential privacy implication | プライバシを犯す可能性 |
primitive numerical datatypes | 基本数値データ型 |
primitive time-related datatypes | 基本時間関連データ型 |
principled | 原則的な |
propagete | 伝搬する |
property axiom | 特性公理 |
qualified restrictions | 修飾した制限 |
range restriction | 値域制限 |
RDF datatyping | RDFデータ型付け |
RDF(S) model theory | RDF(S)モデル理論 |
RDF/XML exchange syntax | RDF/XML交換構文 |
reasoner | 推論機構 |
reasoning engines | 推論エンジン |
reasoning task | 推論 |
reference point | 参照点 |
region | 区画 |
requirement | 要件 |
Resource Description Framework | 資源記述の枠組み |
rules of thumb | 経験則 |
satisfaction | 充足性 |
scope | (式の)有効範囲 |
section | 節 |
security solution | セキュリティの解決 |
semantics | 意味論(をもつ) |
semantic markup language | 意味マーク付け言語 |
separate MIME type | 分離されたMIME型 |
set difference | 集合差 |
shorthand | 短縮表現 |
source | 情報源 |
specialization hierarchy | 特殊化階層 |
specific communities of implement | 特定の実装者達 |
standard tag | 標準タグ |
state | 言明,言明する |
statement | 文 |
structure sharing | 構造共有 |
subclass | 下位クラス |
subclass relations | 下位クラス(の)関係 |
subject under observation | 観察下の主題 |
sublanguage | 下位言語 |
subpart | 下位部分 |
subproperty | 下位特性 |
substantive | 大量の |
symmetric property | 対称的(な)特性 |
symmetry | 対称性 |
synonymous classes | 同義(の)クラス |
target ontology | 対象オントロジ |
test case | 試験事例 |
taxonomies | タクソノミ |
thesauri | シソーラス |
topic area | トピック領域 |
tracking | 追跡 |
transitive | 推移的な |
transitive composition | 推移的(な)構成 |
transitive property | 推移的(な)特性 |
tree-like structure | 木構造 |
triple | 三つ組 |
triple representation | 三つ組表現 |
tuple | 組 |
type 1 | 型1 |
type sepatation | 型分離 |
typing | 型付け |
typing information | 型付け情報 |
unambiguous property | あいまい(曖昧)でない特性 |
underlying | 基礎的な |
union | 和集合 |
union type construct | 和集合型の構成要素 |
unique names assumption | 一意名の仮定 |
universal (for-all) quantifier of Predicate | 述語論理の全称量化子 |
universal quantification | 全称量化 |
use case | 利用事例 |
user | 利用者 |
vertical integration | 垂直統合 |
well-formed | 整形式 |
World Wide Web | ワールドワイドウェブ |
XML entity | XML実体 |
訳語の直後に括弧内に原語を示す“訳語(原語)”の表記は,原語がリテラルとして符号化表現の中に現る場合に,訳語との対応を示すために用いている。
原語の直後に括弧内に訳語を示す“原語(訳語)”の表記は,符号化表現の中のリテラルが,規定の文中に原語の意味を保持して現れていることを示すために用いている。
W3Cの規定は,必ずしも標準仕様書(TS)の様式には整合していないため,整合化の対応が必要である。しかしTSの読者が原規定を参照する際の便を考慮すると,章・節構成はなるべく原規定のそれを保存することが望まれる。そこで,次に示すだけの修正(章・節番号の変更なし)を施して,このTSを構成した。
この標準仕様書(TS)の公表に際して,W3Cから和文及び英文による次の記載を求められている。この記述は原規定にはないため,ここに示して,W3Cの要求に応えることとする。
規定に準拠しているかどうかの基準となる版は,W3Cのサイトにある原規定とする。
この標準仕様書(TS)は原規定と技術的に同一であることを意図しているが,翻訳上の誤りはあり得る。
The normative version of the specification is the English version found at the W3C site.
Although this TR is intended to be technically identical to the original, it may contain errors from the translation.
[1] IEC/TC100/AGS/63, Final report of the project on Human interfaces in Multimedia network Era, 2000-10-31
[2] AIDOS編著,オントロジ技術入門 - ウェブオントロジとOWL,東京電機大学出版局,2005-09-20
[3] JIS X 4159:2005,拡張可能なマーク付け言語 (XML) 1.0,2005-03-20
この標準仕様書(TS)の原案を作成した財団法人日本規格協会 情報技術標準化研究センター(INSTAC)の将来型文書統合システム標準化調査研究委員会(AIDOS)及びその作業グループ(AIDOS-WG1)の委員構成を,それぞれ解説表2及び解説表3に示す。
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
委員長 | 小町 祐史 | パナソニックコミュニケーションズ株式会社 |
委員 | 大野 邦夫 | 株式会社ジャストシステム |
宮澤 彰 | 国立情報学研究所 | |
安達 文夫 | 国立歴史民俗博物館 | |
飯島 正 | 慶応義塾大学 | |
黒田 信二郎 | 株式会社紀伊国屋書店 | |
内山 光一 | 東芝ソリューション株式会社 | |
河込 和宏 | 株式会社東芝 | |
菊田 昌弘 | 株式会社シナジー・インキュベート | |
出葉 義治 | ソニー株式会社 | |
長村 玄 | ネクストソリューション株式会社 | |
山田 篤 | 財団法人京都高度技術研究所 | |
オブザーバ | 堀坂 和秀 | 経済産業省 産業技術環境局 |
事務局 | 内藤 昌幸 | 財団法人日本規格協会 |
宮古 牧子 | 財団法人日本規格協会 |
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
主査 | 小町 祐史 | パナソニックコミュニケーションズ株式会社 |
委員 | 飯島 正 | 慶応義塾大学 |
内山 光一 | 東芝ソリューション株式会社 | |
大野 邦夫 | 株式会社ジャストシステム | |
須栗 裕樹 | 株式会社コミュニケーションテクノロジーズ | |
内藤 求 | 株式会社シナジー・インキュベート | |
平山 亮 | 金沢工業大学 | |
宮澤 彰 | 国立情報学研究所 | |
山田 篤 | 財団法人京都高度技術研究所 | |
事務局 | 内藤 昌幸 | 財団法人日本規格協会 |
宮古 牧子 | 財団法人日本規格協会 |