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2. ユーザ要求

2.では、APPF参加各国が議会情報を提供する際のユーザ要求について述べる。

2.1ユーザ要求の概略

APPF参加各国がインターネット上で立法府の情報(主として、法律その他の公文書など議会内で取り扱われる文書)を公開するためには、次の活動が技術的に可能でなければならない。

2.2 ユーザ要求の詳細

2.2では、2.1で述べたユーザ要求の詳細を示す。

2.2.1 多言語WWW環境の創出

各国議会は、まず第一に立法府の情報公開から始める必要がある。議会による情報発信の手段としては、アメリカの議会サイトThomas(http://thomas.loc.gov/home/thomas2.html)が広く知られている。議会情報発信は、インターネットを通じて行われることが最も効果的である。しかし、現在の汎用コンピュータ・システムの機能では、APPF各国で使用されている多種多様な言語を処理できないのが現状である。例えば、スペイン語仕様のコンピュータ環境では日本語文書は判読不明な画面で表示され、中国語仕様のコンピュータ環境ではタイ語文書が全くの解読不能となっている。各国立法府の公開情報を国際的ユーザが受信可能なものにするためには、多言語情報環境の創出が必要不可欠である。

2.2.2 発信形式の共通化

各国立法府は、議会情報の発信に際し、各自の責任においてそれぞれの情報アクセスに関する政策を反映するような方法をとることになろう。しかし、実行段階における技術的な問題においては、別々の手法を採ることは避ける必要がある。なぜなら、別々の技術を用いては、正確な情報の相互交換が困難になるためである。APPF各国の立法府において、多言語発信システムは標準化されなければならない。同時に、議会情報の形式を共通化しなければならない。形式を機械が可読なものに統一することより、議事録の検索、法案のステータス確認などのデータベース機能が充実し、相互利用が可能となる。

2.2.3 フィードバック・チャネルの確保

一般的に、情報提供は情報の受け手からのフィードバックと発信サイクルの創出が重要となる。これは議会情報の発信についても同様のことが云える。議会情報の発信システムにおいても、フィードバック・チャネルの確保が必要である。しかしまた、ここでもコンピュータの単言語機能が障害となる。電子メールやウェブ形式のようなフィードバック・メカニズムにも多言語処理機能が必要なのである。コンピュータ上では、ある言語の文字集合を表示する機能と、入力する機能とは別ものである。このことは留意すべき点である。すなわち、多言語による入力機能は、表示機能とは別途に開発される必要がある。

2.2.4 既存データとの親和性の確保

これまでも、既に各国立法府はインターネット上での議会情報発信の努力を行ってきている。したがって、APPF各国の立法府が共有する多言語環境は、既存データと親和性を確保する必要がある。既存データとは、既にインターネット上で発信された過去の情報であり、HTML形式で作成された文書や出版物などである。立法府が情報化の推進母体となることは大いに歓迎すべきであるが、その場合でも、既存データと親和性のない全く新しい方法が採用されるべきでない。

2.2.5 サポート体制の確立

立法府が情報化を行なうにあたっては、各国の進展に差異が生じると予想される。情報処理の標準化が完全には進んでいない国も存在する。それらの国では、符号化文字集合の制定、オペレーティングシステムのローカル化、高度アプリケーションの開発が必要である。情報通信で優位に立つ国がこれらの国をサポートできるような、連携体制を整備する必要がある。

2.3 必要とされる具体的な機能

2.1で記述した多言語WWW環境に関するユーザ要求を満たすため、コンピュータは次の具体的機能を備えなければならない。
  1. 多言語文字の表示機能
  2. 多言語文字の表示の際にブラウザが使用するフォント・リソース
  3. 外字や他言語の文字の表示機能
  4. 多言語文字の入力機能
  5. 整形済み文書を発信するためのシステム
  6. 議会情報を交換するための共通形式
  7. これらの多言語ソフトウェアをオンラインまたはオフラインで配布する機能
このリストは、完全な多言語環境を実現するためのフルセットの機能リストである。実際の実装においては、このリストの一部から始め、段階的に完全なものに発展させることが可能である。

a.は、多言語の文字表示についての機能である。何よりもまず、WWWのフロントエンド・アプリケーションであるウェブブラウザが、多言語文字を表示する機能を備えていなければならない。

b. は、多言語化を行なうために必要なフォント・リソースは、無料で配布される必要を示している。ブラウザの他言語機能は、他言語文書の画面表示に十分ではない。ブラウザは、文書中の文字形をフォント・リソースの中から探し出し、画面上に再形成する。ラテンやキリル(あるいはタイ語の)アルファベットは、インターネット上で入手可能な多様なフォントを持つ。一方、中国語、日本語、韓国語の文字などのフォント・リソースの入手は、依然有料である。その最大の理由は、中国語、日本語、韓国語の文字は多数のフォントを持つため、フォント作成は労働集約的で高コストになるためである。APPFの情報発信に際しては、全ての言語の公的文書または国家文書をカバーできるような、少なくとも、ひと組のフォント・リソースが必要である。そしてそのリソースはライセンス化され、無料で配布されるべきである。その結果ユーザは、コンピュータが処理可能な範囲で、いついかなる言語も使用することが可能となるであろう。

c.は、文字表外の文字や販売会社が独自で作成した文字を表示するコンピュータ機能である。これは、文字標準によってサポートされていない文字を暫定的に処理する手法である。中国、日本、韓国で使用されている中国語の文字は、開かれた集合を形成している。つまり、近隣のスピーチコミュニティで使用される全ての文字を含む、有限の文字集合が定義不可能なのである。したがって、この問題を解決するためにこの機能が必要となる。

d.は、他言語のフィードバックチャネルの確保に必要な機能である。コンピュータ上では、ある言語の表示と入力は別個の機能である。この二つの機能はある程度同一のソフトウェア技術を共有しているが、入力機能はそれとは別途開発される必要がある。

e.は、整形済み文書(プリントアウトイメージに相当する)を、ポータブル形式に変換し、配布するシステムを示している。このシステムがあれば、たとえ最低レベルの多言語機能が提供されない環境においても、オリジナル言語で発信された文書をプリントアウトイメージで読むことが出来る。

f.は、XMLを使った議会情報交換の提案である。XMLはHTMLに代替する技術であり、現在インターネット上での情報の配布および改訂に使用されている標準技術である。議会情報発信のための新しい形式として、XMLは有効である。また、XMLの能力を最大限利用するために文書作成ツールや文書型定義(DTD)が必要である。

g.は、a.からf.までの機能を含めたソフトウェア・パッケージを、全てのアジア太平洋地域に配布するための機能である。ここで提案されている多言語ウェブ環境は、ユーザ数が多ければ多いほど高い効果を示し、影響力も増大する。したがって、ソフトウェア・パッケージは、オンライン上で円滑に提供される必要がある。また、ネットワークの普及や発展の速度は国によって異なるため、オフラインでの配布経路の確保も同時に重要である。


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