画像電子学会
The Institute of Image Electronics Engineers of Japan
  年次大会予稿
Proceedings of the Meida Computing Conference

IEC TC 100におけるAALの標準化動向
Standardization activity on AAL(Active Assisted Living) in IEC TC 100

− 2015年以降の活動概要
− Discussions in 2015 and 2016

小町 祐史
Yushi KOMACHI

国士舘大学 総合知的財産法学研究科    Graduate School, Interdisciplinary Intellectual Property Laws, Kokushikan University

E-mail: komachi@y-adagio.com

1. はじめに

アクセシビリティを含んでさらに広い範囲をカバーするAAL(active assisted living.国内では,AALに関しては,2013年頃から"自立生活支援"という訳語が使われ始めたが,行政が進める"自立生活支援の事業"が扱う自立生活支援とはスコープを異にするため,画像電子学会 視覚・聴覚支援システム研究会では"積極生活支援"という訳語を用いている.)は,ヨーロッパにおいて2011年から検討が開始され[1],その国際標準化がIEC(国際電気標準会議)に提案された.

このAALの国際標準化要求に対して,マルチメディア関連技術の標準化を担当するIEC TC 100では,まずTC 100/AGS(advisory group on strategy)においてSS(study session) 2 AALが組織され[2],複数のプロジェクトが活動を開始した[1].その後2014年6月には,AALを扱うTA 16 (active assisted living, accessibility and user interfaces)が設立された[3]

このTC 100の活動と並行して,IECのSMB(standardization management board, 標準管理評議会)においても,SMBの直下に設けられたSG(strategic group) 5が,IECとしてのAALの取組みについて議論を行い,その後,実際に規格を作成するSyC(systems committee) AAL[4]が設立されて,IEC中央事務局をsecretariatとする活動が行われている.

画像電子学会においては,視覚・聴覚支援システム研究会の活動がこれらのAALの活動と関係が深いため,IEC TC 100でのAALの活動は,その初期の段階から,筆者らによって研究会資料等[1][2][3][5][6]によって紹介されてきた.本稿では,主として第3回および第4回のTC 100/TA 16会議の活動の概要をお知らせして,今後の課題を検討する.

なお,2016年5月に開催された第4回TA 16会議を含むIEC会議の日程が本稿の提出期限に極めて近かったため,ここでは簡単な概要だけを示して,講演時に内容を追加して報告する.

2. 第3回TA 16(ミンスク)会議での議論

2015年10月に,ベラルーシのミンスクでIECの一連の会議が開催された(図1参照).10月9日には,TC 100/TA 16会議が市内のVictoria Hotelで開催され,表1に示すメンバが参加した.

表1 第3回TA 16会議の参加者

氏名所属,position等
Kate GrantTAM
Ulrike HaltrichTS
Tadashi EzakiTC 100 Secretary
Yushi KomachiAGS Chair
Xiaoying ZhaoCN
oshihisa NaruiJP
Masatake SakumaTC 100 Assistant Secretary
Jon FairhurstUS
Zhang HongCN
Anming WeiCN
Matei CocimarovIEC CO
Tomoo NishigakiJP (remote participation)

          

図1 ミンスクの放送局のインタビューを受ける筆者

主な審議内容を次に示す.

2.1 IEC 62944 Digital TV Accessibility

IEC 62944[6]については,2015年7月にCDが配布され(100/2537/CD),9月4日を期限としてコメントが求められた.日本からは13点のコメントを提出した.

ISからTSに変更するコメントに関しては,必須項目を削除することにより,ISのまま進めることにした.その他のコメントはほぼ受け入れられ,CDVに反映されることになった.

2.2 Maintenance of IEC 62731 Text To Speech

IEC 62731[6]に関して9月28日を期限としてコメントが求められていたので,clause 6.2で定義される必須要件が分りにくく,Text To Speechの品質も明確でないことを,日本から指摘した.

3. 第4回TA 16(ウィーン)会議での議論

2016年5月23日にウィーンのOVE(Osterreichischer Verband fur Elektrotechnik)で開催されたTA 16会議(図2参照)には,表2に示すメンバが参加した.

表2 第4回TA 16会議の参加者

氏名所属,position等
Kate GrantTAM
Ulrike HaltrichTS
Tadashi EzakiTC 100 Secretary
Shuji HirakawaJP
Yushi KomachiAGS Chair
Masatake SakumaTC 100 Assistant Secretary
Junichi YoshioJP
Yoshihasa NaruiJP
Pekka TalmolaFI
Jon FairhurstUS
Kwang-soon ChoiKR
So-Hyun GilKR
Jae-Youg LeeKR
Zhao XiaoyingCN
Zhang SubingCN
Tomoo NishigakiJP (remote participation)
Taketoshi YamaneJP (remote participation)

          

図2 第4回TA 16会議の会場

主な審議内容は次の4項目である.

3.1 IEC 62944 Digital TV Accessibility

2016年3月にCDVが配布され(100/2640/CDV),6月17日を期限とするCDV投票が行われていることを確認した.

3.2 Maintenance of IEC 62731 Text To Speech

前回の審議結果を受けて,IEC 62731に対して次のメンテナンスを行うことが,2015年10月16日に通知(100/2585/DC)[12]されていることを確認した.

この通知(100/2585/DC)では,2015年12月18日までにコメントと提案がメンバに対して求められ,それに応えて日本から提出されたコメント(100/2652/RR)[13]がレビューされ,対処が審議・承認された.

3.3 Use cases related to AAL and accessibility

AGS/SS 8(Wearable systems and equipment)[14]のStage 0 project "use cases of wearable systems"でのuse case議論が参照された.

3.4 NP: assistive listening functionality

日本がMeasurement method for assistive listening functionality に関するNPをTC 100に提出(メンバ国にはまだ配布されていない.)したことを確認した.ただしこれは日本がAGSのSS 8(ウェアラブルなシステムおよび機器)に提案してきた課題[14]であり,TA 16に提案したものではない.

このNPのScopeとPurpose and justificationを次に示す.

Scope:
This International Standard specifies the measurement method for assistive listening functionality of audio and video equipment and systems.
Purpose and justification:
The home use, portable or wearable equipment or systems that have audio source as media player, audio signal input or microphone, and audio output function as earphones or loudspeakers, this equipment or systems is also used by aged user or user who has some difficulties in hearing. The equipment or systems should provide well quality of audio and music experience for these users too. There is some equipment for satisfying this requirement but there is no standard to justify this ability of the equipment. To evaluate this ability, measurement method should be specified.

4. 関連活動

   

図3 議長席から見たAGS会議の会場
   

4.1 2016年5月AGS(ウィーン)会議の議論

(1) Hbb4All

2015年4月のTA 16(ミラノ)会議で議論[6]されたHbb4All(字幕,音声解説,手話通訳を用いたテレビのアクセシビリティ)については,2016年5月のAGS会議(図3参照)でその後の活動が紹介された[7].前回の内容と比較して,字幕,音声解説,手話通訳に関する技術的な課題が整理され,既に利用されている規格と今後必要となる規格とが示された.2016年5月のAGS会議では,TA 1とTA 16とに対して,この規定の国際標準化の可能性を検討することを勧告した[8]

(2) GARI

昨年10月のTA 16会議で紹介されたGARI(global accessibility reporting initiative)に関して,2016年5月のAGSにおいてMMF(Mobile Manufactureres Forum)/GARIの担当者のS. Lobnigから直接プレゼンを受けた[11].GARIは,vision, hearing, speech, dexterity, cognitionの能力に関して支援を必要とする者が,電話,タブレット端末,アプリケーション等における支援機能を利用し易いように,関連情報の提供を行うプロジェクトであり,既に各国で利用されている.

2016年5月のAGS会議では,TA 16に対して,TC 100の関連プロジェクトを調べてGARIとリエゾンを結ぶ可能性を調査することを勧告した[8]

4.2 フォントのアクセシビリティ

文献[6]に課題提案したフォントのアクセシビリティについては,2015年7月に日本からJTC 1/SC 34に対してNPを提出した[9].10月を期限とするNP投票の結果[10],フォントとアクセシビリティとに関するエキスパートの人選が難しく,参加国数不足によりプロジェクトを成立できなかった.

5. 今後の課題

IEC TC 100/TA 16はスコープを拡張することによって,ウェアラブル機器等をも取り込もうとしている.しかしAALはこの拡張以前からスコープが広すぎることが懸念され,国内ではいくつもの業界が関係することになって,国内対応を取りにくい状況にある.この問題に対応することが,今後の大きな課題である.

フォントのアクセシビリティについては,フォントとアクセシビリティとに関するエキスパートを集め易いと思われるIEC TC 100のTA 10での議論の可能性を検討する予定である.

文献