3.3 フォント規格検討WG

3.3.1 背景

インタネット等を用いたWeb環境の普及によって, 国際的な文書交換が日常化し, さらに1文書中に複数の言語(またはスクリプト)を含む文書の交換が多くなっている。このような文書の交換に際しても, 従来の活版印刷等と同様の品質の可視化出力が望まれる。

ISO/IEC JTC1は, 可視化出力のためのグリフに関して, それが無限集合になることを前提として, 利用者の登録に基づくグリフ識別子のコンセプトを導入し, その登録手続きを標準化している(ISO/IEC 10036)。グリフ識別子で指定されたグリフ像を必要なタイプフェース(書体)で指定のレンダリングを施せるように, フォントリソースのデータ構造を標準化している(ISO/IEC 9541[JIS X 4151〜4153])。

このデータ構造は, ラテン系グリフだけでなく, 漢字圏のグリフ, アラビックグリフ等への配慮も払われており, それらを含む混植に必要な属性定義も行われている。しかしそれらを実際の処理系に適用して, 多言語のグリフを含むフォーマット済み文書を記述し交換するためには, 詳細な属性定義, 属性の選択範囲等の規定が不足している。

3.3.2 課題と98年度方針

3.3.2.1 目的

この調査研究においては, 平成9年度に行ったアジア諸国の文字表現調査研究等の成果を参照して, 多言語文書のフォント情報交換に必要な各種属性規定をまとめ, それを国際規格としてISO/IEC JTC1に提案する。

3.3.2.2 活動課題

(1) アジア諸国の文字表現に関するこれまでの調査研究によって収集した混植等における各種レンダリングのサンプルデータを整理し, 必要に応じて統計処理などの手法を用いて, フォント属性としての指針を求める。

(2) それをフォントリソースの体系の中に組み入れられるように, 標準的な記法を用いて規格としてドラフトする。

(3) アジア諸国のフォントエキスパートに対してその規格素案のレビューを求め, コメントをいただく。そのコメントに基づいて規格素案を修正し, ISO/IEC JTC1に提案する。

アジア諸国のフォントエキスパートによるレビューと議論の場としては, JTC1の文書関連規格のアジアへの適用性の議論の場として5年間の実績のある日中韓文書処理会議(CJK-DOCP[JTC1/WG4 informal liaison])の利用が適当と思われる。

3.3.2.3 スケジュール

  課題        H10前半        H10後半        H11前半      H11後半
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   (1)      −−−−−>    −−−−−−−−> −−−−−>
           (H9成果に基づく)    (追加データ)  |             |
                       |          |          |             |
                       V          V          V             V
   (2)      |         WD1        WD2       Comm Draft       DIS作成   
            |          |         | |  |      |     |       |         |
            V          V         | |  V      |     |       |         |
   (3)    CJK-DOCP      CJK-DOCP   |  CJK-DOCP     |    CJK-DOCP     |
          にinform      レビュー   |  再レビュー   |    コメント     |
                                   V               V       |         V
                               JTC1/WG4に       Vote   Comments    Vote
                               Proj提案

3.3.3 活動概要

3.3.3.1 委員会審議

3.3.3.1.1 委員会開催と主要議題

 06-16, 10:00-12:00, 作業計画策定
 07-22, 10:00-12:00, 追加フォント属性の検討
 08-25, 14:00-17:00, 組版関連フォント属性の検討, MLIT-3 paperドラフト
 09-25, 14:00-17:00, MLIT-3 presentation準備
 11-02, 14:00-17:00, SC34 meeting提案文書準備
 11-30, 14:00-17:00, SC34 meeting報告
 12-28, 14:00-17:00, CJK-DOCP meeting準備
 02-01, 10:00-12:00, 3rd WD/AM3ドラフト
 03-02, 14:00-17:00, 3rd WD/AM3ドラフト

3.3.3.1.2 今年度課題

多言語をサポートするフォント情報の規格充実を目的として, 現状のISO/IEC 9541が対応していない次の機能の標準化を行う。

3.3.3.1.3 推進方法

これらの課題を3フェーズに分けてアプローチを行う。

[フェーズ 1]
主として東アジア文字(漢字, ハングル)を対象とするフォントリソースの追加属性の検討。
[フェーズ 2]
アラビア語, デバガナリなどの他のアジア文字まで対象を広げた場合のフォントリソースの追加属性の検討。
[フェーズ 3]
フォントAPI

国際的な予備的検討は, MLITシンポジウム, 日中韓文書処理会議(CJK-DOCP)などで行い, 成果は, JTC1/SC34に提出して, ISO/IEC 9541のAmendments(Propertyのvaluesは, 9541の追加Annex)又は追加partとする。

3.3.3.2 MLIT-3

フォント規格検討WGで検討した多言語文書のフォント情報交換に必要な各種属性に対する東アジア諸国のユーザ要求(付録A.7.4参照)を確認するため, 次の文書を1st WD 9541-1/AM3として位置付け, 第3回のMLIT (International Symposium on Standardization of Multilingual Information Technology)に提出して, そこで規定されるフォントリソース属性の意味と記述方法を説明した。

1998年10月7日にハノイで開催されたMLIT-3 conferenceには, China, Laos, Malaysia, Mongolia, Myanmar, Nepal, Philippines, Srilanka, Thailand等の東アジア諸国からエキスパートが集まり, 積極的な議論が行なわれた。

各種属性に対するあらかじめ想定したユーザ要求は確認され, その国際規格化への期待が強調された。JTC1/SC34に対する今後の参加を希望したエキスパートが現れたことも, MLIT-3での本件のプレゼンテーションの成果と言えよう。

3.3.3.3 ISO/IEC JTC1/SC34

MLIT-3で確認したアジア諸国のユーザ要求に基づいて, さらにフォント規格検討WGにおいて議論したISO/IEC 9541に対する拡張を国際規格に反映させるため, 1998年11月にChicago, USで開催されたISO/IEC JTC1/SC34会議にこの課題をSC34/Japan経由で提出した。

このISO/IEC JTC1/SC34会議に関する詳細は, SC34/JapanのWebページの

http://www.y-adagio.com/public/committees/wg8_jap/discussion/1998/sc34-2/2-2/rpsc34.htm
に掲載してある。

3.3.3.3.1 審議と決定

次のresolution(SC34 N023)のとおり, NP手続きではなく, SubdivisionによるAM3 to ISO/IEC 9541のprojectの設立が決まった。JTC1へのendorseがあるが, 実際にはもう活動を開始できる状態である。(1999年1月のJTC1総会でこのプロジェクトは承認された。)

Resolution 4: SC 34 Project Subdivision
SC 34 approves the following subdivision of Project 34.27.01:

[Project Number]:
34.27.01.03
[Title]:
ISO/IEC 9541-1:1991, Amendment 3 - Information Technology - Font Information Interchange - Part 1: Architecture - Amendment 3: Multilingual extensions to font resource architecture
[Project Editor]:
Y. Komachi
[Rationale]:
Documents interchanged in the internet environment are often required to be a multilingual mixture, i.e., described using multiple languages within a paragraph, a page or a document. Those multilingual documents should be rendered and represented according to appropriate multilingual formatting requirements. The existing standard ISO/IEC 9541 and its current Amendment can support multilingual font treatments. However, the properties defined in the standards are still insufficient to fully support multilingual mixtures for multilingual formatting. SC 34 instructs its Secretariat to forward this project subdivision to JTC 1 for endorsement.

3.3.3.3.2 決定までの経緯

3.3.3.3.3 今後の対応

AM3 to 9541-1のPDAMテキストを次回の会議(1999-04, in Spain)までに用意する。その前に, CJK DOCP(1999-01, Taipei)において東アジアのフォントエキスパートとの議論を行う。

3.3.3.4 CJK-DOCP

ISO/IEC JTC1/SC34で承認されたプロジェクトで扱うISO/IEC 9541-1 AM3の素案をフォント規格検討WGで検討してきた。この内容に対してさらに日本以外の国(特に東アジア諸国)のエキスパートによってレビューを受けるため, 1999年1月に台北で開催された第12回日中韓文書処理会議(CJK-DOCP)にその素案を提出し, 議論の場をもった。

この日中韓文書処理会議に関する詳細は, CJK-DOCPのWebページの

http://www.y-adagio.com/public/committees/cjk_docp/mtg_12/mtg12_dc.htm
に掲載してある。

3.3.3.4.1 第12回 CJK DOCP会議参加報告

日時:
1999/1/21〜22

場所:
Academia Sinica (台北)

参加者:
台湾−1(他オブザーバ2), アメリカ−6, オーストラリア−1, ドイツ−1, ロシア−1, 日本-2(小町主査, 奥井)

審議内容:

日本からの9541-1 PDAM3(Interlinear Objectに関する提案)をはじめとして, 日本, 中国, Thaiの言語処理/組版規則, スタイル指定に関する発表が行われ, 活発な議論が展開された。

まず, 1998年10月のハノイでのMLIT-3シンポジウムで発表した内容を説明し,ISO/IEC JTC1/SC34のシカゴ会議でもその必要性が認められ, SC34のSubdivisionとして9541-1 PDAM3の審議が承認されたことを報告した。ここまでの検討では, 日本語文書に見られるルビ, 送り仮名, 返り点, 圏点ごとに個別のプロパティを定義している。

これをさらに一般化した形で日本以外のアジア圏の国々の文書にも適用させるために"Proposal of generic interlinear object model (行間オブジェクト共通モデルの提案)"を作成した。今回のCJK DOCP会議で奥井がこの内容について説明した。

これに対し, アメリカやドイツの研究者から次のようなコメントが出た。

1,2 に対しては, これらのプロパティがフォーマット後の値として持つものであることを説明。3 については, 1文字の場合は, その位置に関らず現在のプロパティによってInterlinear objectとして処理が可能であることを説明した。ただし, 返り点で1個所に複数の文字が置かれることがあるかどうかについては要調査とした。

9541-1 PDAM3について今後の課題:

次回:
1999/7/15〜16 モスクワ(ロシア)


3.3.4 成果

CJK-DOCPでは各国のエキスパートからコメントが提出され, これらを反映したISO/IEC 9541-1/AM3の3rd WDを作成することになった。 その内容は日本の要求にも合致するものである。

3.3.5 今後の課題

3rd WD 9541-1/AM3(またはその改訂版)を1999年4月のISO/IEC JTC1/SC34会議に提出して, PDAMテキストとして受理してもらい, PDAM手続きを開始することの承認をとる。 その投票結果を反映してDAM3テキストを作成し, 次の手続きに入る。 技術的な詳細検討は, さらに日中韓文書処理会議およびMLITシンポジウムで議論する。

これらの手続きを行なうために委員を派遣する予定のある国際会議の開催予定を表3.3.1に示す。

表3.3.1 委員派遣予定の国際会議
期間会議名
1999-04JTC1/SC34
1999-0713th CJK-DOCP
1999-11MLIT-4
1999-12JTC1/SC34
20000-114th CJK-DOCP

フォント属性と密接な関係にある文書のスタイル指定およびフォーマティングについても, 多言語文書に対する国際的検討は未だ充分ではない。今後の多言語文書情報交換の重要課題として念頭におく必要がある。


付録7. フォント規格検討WG 資料集

A.7.1 SC34 meeting 1998-11 提出資料

A.7.2 CJK-DOCP 提出資料

A.7.3 9541-1/AM3 原案

A.7.4 その他